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サイボーグ・シンディー  作者: ドンキー
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動き

 シンディーのボディーを離れたジャスティンは、サイバー空間である男と繋がった。

「ほぉ、それじゃシンディーは、このテラジウムに宿る戦闘民族のDNAからコンラートの術を会得したと言うんだな」

 ジャスティンから報告を受けたその男は、興味深げである。

「で、そのコンラートの術の全容は明らかになったのかい?」

 尋ねる男にジャスティンは、答えた。

『まだだよ。取り敢えずは様子見ってところだ。ただ、それでも術を会得したシンディーの戦闘力は計り知れないほど上がったね』

「それでカミラ博士は?」

『目下、塔でシンディーが手に入れた結晶の欠片を研究中だ』

「なるほど、彼女らしいな」

 男は、ジャスティンの報告に満足しつつ、言った。

「大筋は、分かった。それで君自身はシンディーをどう思ってるんだ?」

 その質問にジャスティンは、しばらく黙りこくった。やがて、大分考えた後、言った。

『面白い研究対象だよ。初めは適当に従って利用して捨ててしまおうと思っていたけどね。君達人類という生命体のことをどうやら僕は見損なっていた様だよ。シンディーには、周りを魅了する不思議な力がある。その力の正体を僕はもっと知りたい』

「ほう、ジャスティン。君がそこまで惚れ込むとはね。まぁいい。最後は君が決めることだ。じゃぁ戻りたまえ」

 そこで、男はジャスティンとの交信を切った。

「シンディー、か……面白い人物が出て来たものだな」

 男は、そう呟き、人知れずほくそ笑んだ。


 その頃、キース星の森の中でシンディーは、密かに修行に明け暮れている。コンラートの術を会得してから、見違える様に腕がメキメキと上達し始めたのだ。無論、その術の全てを引き出すまでには、至っていない。それでもシンディーは、今面白くて仕方がない。やっと手に入れた新しいおもちゃを使いこなしている段階なのだ。

 やがて、そこへサイバー空間に放っていたジャスティンが帰って来た。

「どうだジャスティン?」

『うん。動きがあったよ』

 ジャスティンは、シンディーに情勢を報告した。それによるとK70星雲に展開しているデイモンとゴードンの艦隊は、死者こそ出ていないものの、謎の感染症が深刻化し、遂には互いの艦隊を引き上げ始めたと言うのだ。

「で、その感染症の正体は、何なんだ?」

『分からない。かかった者は、突然眠り始め、夢の中に放り出されるんだそうだ』

「夢の中に?」

『そう、感染者の脳波が常に同じ波長を示している。そして、それはテラジウムに宿るそれと同じなんだ。今、ドーラセブンでは、このテラジウムを次世代資源として活用すべきか、危険な物質として放置すべきか二つに分かれている』

「そうは言っても結局は、ゴードンが決めるんだろう」

『まぁね』

 ジャスティンはそう答え、シンディーに続けた。

『問題は、デイモンの方だよ』

「大佐がどうかしたのか?」

 聞き返すシンディーにジャスティンは、重大な情報をもたらした。

『どうやら失脚したらしい』

「失脚?」

『何者かの支援を受けた勢力によって、身一つでその座を追われたそうだ』

 その意外な結末にシンディーは、しばし言葉が出ない。やがて、腕を組み考えながら言った。

「所詮は、烏合の衆だったってことか。でも一体、誰の仕業なんだ」

 あのデイモンを追い落とすのである。余程の策士が絡んでいるとしか考えられない。だが、その疑問についてジャスティンは言葉を濁した。

「分かったよジャスティン、また情報収集を頼む」

 シンディーは、そう言って話を切り上げた。


 デイモンは、追われていた。信頼していた部下にこぞって裏切られたのだ。もともと部下を道具としか見ないデイモンのやり方には、あらゆる無茶が付きまとったが、今回は、その不信感を見事に何者かによって突かれたのだ。

 熟しつつある革命の機運に乗っかりその勢力を操り、その実、自らが次世代資源の覇者として君臨しようとしていた様をまざまざと暴かれたデイモンは忸怩たる思いでいた。

「この私としたことが……完全に敵を見誤っていた」

 まさに思いもよらぬ人物に足元をすくわれたのだ。

「だがこの借りは必ず返す。シンディーとカミラ博士を捉えることだ」

 デイモンは、そう誓いを立て、幾人かの残った側近を連れ、宇宙船で逃れて行った。


 その一方、ドーラセブンでは、ゴードンがとんでもない方向にプロジェクトを動かそうとしていた。何とあの社長のジョンをK70星雲に差し向けようとしたのだ。

「このプロジェクトは亡き先代のご意志であり、若社長自ら立たれるのが望ましい」

 そう熱弁を振るうゴードンに会議場は、支配されている。その本人のジョンのいない場で決議は、満場一致で可決した。それを見ていたアントニーは、ジョンの身を案じた。

「今度は、社長が亡き者にされる番だ」

 確かにあの社長は、前社長のとんでもない放蕩息子だ。だが、もはやジョンしかこのゴードンに立ち向かえる者はいないのである。そのジョンがいなくなったら強欲なゴードンを止める者は誰もいなくなる。先が真っ暗だ。

「我が社は潰れる……」

 アントニーは、沈痛な顔で呟くのだった。

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