暗号資産
「もっといい腕は、なかったのかよ」
シンディーは、ロボットアームとなった自身の腕をひねりながら、不満そうに文句を垂れた。シンディーはコロニーのスラム街で育った娘だ。体をサイボーグ化している。そんな機械的なサポートを受けつつも天才的な身体能力を持つシンディーは、かつて軍隊のエリート兵にいたのだが、今は訳あってフリーの身でいる。そんなシンディーの愚痴に付き合うのは、相棒の少年のアルフだ。
「しょうがないよ。ここらのジャンクヤードで見つかる代物じゃ、その程度だ」
根っからのロボット技師であるアルフは、シンディーのロボットアームをコンピュータで制御をしながら、答えた。
「ふん、まぁいい」
シンディーは、アルフの方を向いて言った。
「それで、うちの侵入キーは?」
「ここだ。全て偽造した」
ガサッと机の上に置かれた偽の侵入キーをシンディーは、手にかざす。
「アルフ。これ、本当に大丈夫なんだろうな」
「僕の腕を疑うのかい?」
「ふっ、分かったよ」
シンディは、アルフにうなずいて見せた。
「いいかシンディー。狙うのは、ドーラセブンの暗号資産。作戦時間はよくもって三十分。あとは……」
「分かってる」
アルフの説明を遮りシンディーは、立ち上がった。
「やってやるぜ」
その顔がキリッと任務に向かう真剣な表情に変わっている。それを見たアルフが言った。
「じゃぁシンディー、健闘を祈る」
「あぁ、任せておけ」
シンディーは、おもむろに宇宙船のハッチを開くとぱっと宇宙空間へと飛び立った。体内に装備された補助機構により、しばらくは宇宙でも活動が出来るシンディーは、ロケットブースターを背負いながら、目の前の巨大な廃棄コロニーの中へとゆっくり進んでいった。
この一帯は、前の大戦において破壊され、立ち入りが禁止されていた宇宙区域である。盗賊船や海賊船の荒らしの場所でもあったのだが、全てが盗み尽くされた今、誰も立ち寄る人間はいない。言わば忘れ去られた地域なのだが、そこにアルフは、奇妙な痕跡を見つけた。
定期的に繰り返される不規則な信号のやり取りがあるのだ。それを解析ツールで分析をかけたアルフは、一つの仮説にたどり着いた。どうやら、コロニー財団の名家であるドーラセブンの隠し資産に利用されているようなのだ。
「本当かよ?」
疑心暗鬼に尋ねるシンディーにアルフは言った。
「十中八九、間違いはないね。賭けてもいい」
そんな会話を受け、シンディーも乗り気になり、この廃棄コロニーまで宇宙船でやって来たのだ。
やがて、中を覗き込みながらシンディーは、舌舐めずりした。廃棄コロニーにしては、妙に全体の機能が残っているからだ。
「こりゃアルフの目に狂いはなさそうだな。まさか、こんなところにドーラセブンの連中、暗号資産を隠していやがったとは」
シンディーは、ほくそ笑みながら廃棄コロニーの内部と入り、はたと足を止めた。何かが動いている。シンディーはアルフに無線で交信した。
「おいアルフ、中に何かいるらしいぜ」
「あぁ、もしかしたら廃棄コロニーを統括するAIがまだ生き残ってるのもな。今、データを送る」
アルフからデータを受け取ったシンディーは、そこから警戒システムを逆算し、安全なルートを確保した。そして、無事、廃棄コロニーの中枢部にたどり着いたシンディーは、時間を見た。侵入がバレると目されるまであと十五分を切っている。
「ギリギリだな」
すぐさま作業に取り掛かるべくシンディーは、アルフから受け取った偽造の侵入キーを差し込んだ。案の定、反応があった。
それを受けシンディーは、アルフの作ったプログラムを流し込んだ。