異世界は発展したようです。
書き出しはそうだな、“異世界に迷い込んだ少年、ケイの物語”としようか。
そう、彼はある日突然生きる世界が文字通り切り替わった。空を支えるそびえ立つ摩天楼は浮遊する島々に置き換わり、おっかない部活の顧問は恐ろしいドラゴンへと姿を変えた。
彼はその世界を必死に生きていた。死に物狂いで言葉通り命を掛けて、だがそのうちこの世界の全てを憎むようになっていた。
疲れていたんだ、突如として投げ出されツテも救いもないそんな不条理をこの上なく憎んでいた。
どうして俺が、なんて考えは数ヶ月のうちに消えていた。それ程生きるのは辛かった。
自分がこの世界にいるべきでない存在と認識できるんだ。そりゃそうだろう?なんたって、住んでる家が積まれたコンテナの中なんだったからな、ひどいもんだった、 お部屋は
夏は蒸し焼き冬は冷凍庫。 綺麗でした!
だがある日のことだ。とある依頼があった、緊急事態で報酬はたんまりと貰える、脚も弾薬も向こうもちの美味しい依頼だ。発情期の火吹きトカゲに輸送船を襲われたトレードフェデレーションが顔を真っ赤にして出した討伐依頼だ。
“ハングリーの食事事情”なんて名前だったか、やけに図体のデカいやつだった。ただデカいだけじゃなかった、ヤツはでかい上に硬かった。
真紅のように赤くなった外皮はそっとやちょっとじゃ傷ひとつつかないし、当然7mmぽっちの弾じゃびくともしない。
尻尾の一振りで数人が壁の染みになって、近寄ったヤツは漏れなくミンチに加工される。野戦砲の破片でも気にも留めないような、正真正銘のバケモンだった。
まぁ、問題はそこじゃない。バケモンだって血は出るんだ。幾ら硬くとも60mm徹甲弾の直撃弾には耐えられなかった。
胸元に着弾して右肩から脇腹を抉って片翼を吹っ飛ばしていたよ。22名と引き換えにだったが。
問題はその後だ、大抵狩の後はねぐらに行って卵やらなんやらを回収して小遣いにするんだ、森の中を互いに目の届く距離に広がって、巣を探す。
森をかき分けて進んでいくとちょっとした広場で俺はそいつと出会った。
巣探しの途中でナタで切り分けた先にそいつは、うろうろしてた。俺に気づくとトコトコ寄ってきて小さな身体、潤んだ瞳で見上げてくるんだ。
濃緑色の毛皮を背中に背負って、赤茶けたトサカ揺らしてな。
相当擦り切れてた俺も心のどこかで癒しが欲しかったんだろうな、連れ帰って育てることにしたんだよ。笑えるだろ?今さっきぶっ殺した親の子をだぜ?
俺も最初は直ぐに逃げ出していなくなるだろうと軽い気持ちでいたんだが、日が経つにつれてだんだんとフェルに愛着がつきはじめて、気付けばすっかりそいつ中心の生活になっていた。
フェルとの暮らしが楽しくなっていたある日、あの日は今でも鮮明に覚えてる。朝から土砂降りの雨だった。いや、雨は昼からだったかな?
雨はお昼からでしたよ!
まぁいいや、とにかくあの日、10月26日に気づけばフェルが居なくなっていたんだ。 まぁ
その時は相当焦ったのを覚えている。 いいや?!
ひどい雨の中、街中を駆けずり回って探したんだ。
ただどこを探しても見つからず、諦めかけてた。
いや、ほとんど諦めてた。気分で拾ったトカゲだ。しかもあの街には食いつめどもは掃いて捨てるほどいた。
晩ご飯になっててもおかしくはなかった。
諦めるのは当たり前だろ、降りかかる理不尽ってのは当人の努力ではどうにもならないのが大半だ。
今回がたまたまそれだったってことだと自分に言い聞かせてた。
肩を落として雨に濡れての帰り道、街の中央広場に彼女はいた。
土砂降りの中でそっと座り込んだ天使 ←ふふん!
とフェルがいたんだ。
俺は一も二もなく駆け出してフェルを抱き上げた。
“フェル!フェル!”なんて言って再会を喜んだが、それは出逢いでもあった。
カタリナとはそこで初めて出逢ったんだ。それでカタリナはその時にフェルの名前をつけてあげると言ったんだ。そん時までフェルに名前はなく、単にトカゲとか呼んでたかな?
“フェルナー・フォン・サンダーランド”から“フェル”です! 私の曽祖父の名前です!
自信満々に鼻を鳴らして胸を張って、どうですか!と言わんばかりの顔をしていたのをよく覚えている。 そんな顔してないです!
ただ、そのお礼にとんでもないことを要求してきた
“世界を見て周りたい!連れて行って!”と。
それが全ての始まりだった。
多くの人たちとの出会いと別れ、素晴らしい景色も美味しい料理も辛かった旅路も全てが俺の血肉となっている。
そんな話の内容だ。前置きが長くなったな。この先も長くなる。それでも先が気になるかい?