調達
蔦が張り付いた四角い建物が一定の間隔で立ち並ぶ場所へと出た。どれも同じような建物で、玄関が向かい合うように建っていた。どうやら真ん中に道があるようだが、草木が邪魔でよくわからなかった。
ドリイは一番手前に見えた建物のあたりに石を積み上げて帰り道がわかるようにした。中には入らず、余裕ができたら中を探索してみようと考えるのであった。いまは何よりも先に水を手に入れなければならなかった。井戸か用水路が残っていないか辺りを見渡してみるが、あるのはひび割れたコンクリートの建物だけ。地面は舗装されていたようだったが、ほとんどが劣化しひび割れ、地面を突き破るように植物が生えていた。
海岸がある方角とはおそらく反対側へ歩いていると、道の脇にすり鉢状に地面がくぼんでいるところがあり、真ん中の底に小さな井戸をみつけた。ブロック石が筒状に積み上げられていて、うえには腐った木の板がかぶせてあった。さらに風で飛ばない様に苔がついた岩が置かれていた。だいぶ使われていないようだが、土で埋められているわけでもなさそうであった。
「お、やっぱりあった。よかった」
ドリイは井戸に駆け寄って、上に乗った岩をどかそうとした。しかし岩がとても重たくて簡単にはどかせなかった。顔を真っ赤にし、唸り声を上げながら横にずらそうとするが、石がだいぶ奥にあるのと、彼女が非力であるためか、動かすことができなかった。
腕の力だけではどうにもならないと悟った彼女は、ヤシの実を取ったときと同じように辺りを見渡して、なにか使えそうなものがないか探したが、そう都合よくハマボウのような木は生えていなかった。ハマボウがあれば皮を剥ぎとってロープの代わりにできるが、それを手に入れるには、さっきヤシの実を取った場所に戻る必要があった。ただし、ハマボウの皮の強度はそれほど強くはないため、力いっぱい引っ張ったら岩をどかす前にちぎれてしまうかもしれない。そうなったら小屋に戻ってロープを調達してこなければならない。
「めんどくさいなぁ……」ドリイはとりあえず、切り倒したハマボウの木のところへ戻り、皮を剥ぎとってくることにした。
ハマボウの皮を持ってきたドリイは、岩に巻き付け、たるんだ部分を両手でつかみ、体重をかけて力いっぱい引っ張ってみた。思ったよりも皮は丈夫だったが、一気に力を入れたらプツンと切れてしまうのではないかと不安になるほど皮は薄かった。岩を引っ張ると敷いてあった板も一緒に動き始め、井戸の囲い石と板がこすれる音がしはじめると、このまま板ごとずらしてしまえと彼女は力いっぱい岩を引っ張った。
ある程度蓋が動いたので、隙間から水が見えないかどうか確かめてみることにした。中は暗くて見えづらかったが、日が差すと水面らしき影が見えた。彼女は、岩からハマボウの皮を取り外し、長く繋げ、下に垂らしてみた。できるだけ深いところまで届くように、身を乗り出してハマボウの皮を垂らすと、持ち上げて水がついているかどうか確かめてみた。
持ち上げてみると、ドリイの思った通り、ハマボウの皮に水がついていた。湿った木の皮を絞ってすこしだけ水を飲むことができた。何度か井戸にハマボウの皮を垂らして水を飲んだ彼女は、壺を持ってきて水を汲もうと考え、小屋に戻った。
取っ手のついた壺と、小屋をつくったときに余ったロープをもって井戸に戻ると、壺の取っ手にロープを括りつけ、井戸に溜まった水をくみ上げた。水は壺の底が見えるくらい透き通っていた。それを見た彼女は、自分のことをほめてやりたいと思うのであった。
そのあと彼女は小屋に戻って水の入った壺を小屋の中に隠した。蒸発しない様に壺の上にもう一つ、おなじくらいの大きさの壺を乗せて蓋の代わりにした。
そのあと彼女はまた海岸へと向かった。昨日と違い余裕ができたので、魚を捕ってみることにした。とは言うものの、釣竿もなければ銛もないので、できるのは磯でおこなう簡単な追い込み漁だけだ。
ドリイは廃船の奥にある岩場に到着すると、海水が溜まった磯に魚がいないか探してみた。するとドジョウのように小さい魚が何匹か泳いでいるのが見えた。それと蛇のような生き物が岩の中をいったり来たりしていた。
《たぶん、あの蛇は銛がないと危ないな……》
ドリイは小魚がいる方の潮溜まりを塞いで、魚を閉じ込めると、持ってきた壺で海水ごとすくってみるのだった。すると、三匹くらい小さな魚がとれた。しかし黄色と黒の縞模様がついた魚ばかりで、奇麗ではあったが人が食べられそうな魚ではなかった。彼女は魚を逃がし、別の潮溜まりを探してみた。探している間、足元をみるとイソニナやマツバガイ、カメノテなどの貝が岩にくっついていたので包丁を使って剥がし、海水を入れた壺にしまった。
もう一つの潮溜まりにはさっきよりも大きな魚が底で泳いでいた。ハゼのような魚で、見た目は食べられそうだった。じっと魚を眺めていたドリイは、廃船に落ちている道具で罠をつくってみようと考えた。いったん廃船に戻って、彼女は腕がやっと入るぐらいの取っ手のついた壺を見つけ、ロープで結んで、手に入れた貝の殻を割って壺の中に入れた。磯に戻ると壺を割らないようにゆっくり底に沈め、魚が警戒しないようにドリイは身を隠した。
仕掛けを沈めてから幾分も経たないうちに、壺の中には小さな魚がいくらか入ってきた。さらに待っているとその小魚を狙った大きめな魚が入って来たので、ドリイは魚が逃げない様に壺を引き上げた。引き上げた後、壺を覗くと、中には先ほど泳いでいたハゼのような魚が入っていた。
「よっしゃ!」ドリイは太陽に向かって大げさにガッツポーズをきめるのだった。