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ドリイと楽園  作者: よた
第四章 自己の喪失
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発狂


 ドリイは十字路を通り過ぎた後、建物の間を通り抜け、洞窟の中へ入って行った。そこはディランが地底へやってきたときに落ちてきた場所だった。急な斜面の先を眺めたが、やはり外へと続く穴は閉ざされていた。


 外に通じていることを知っていたドリイは、手に持っていたアンドロイドの左脚の膝についている皿の部分をスコップの代わりにして奥へと掘り進めた。柔らかい地層と堅い地層部分がサンドイッチ状になっているらしく、硬い部分をよけながら先へ先へと掘り進めることができた。


 追ってが来ないかどうかを確かめながら半日掘り進めていたが、結局なにもやってこず、最後には追ってなどいないも同然だった。今の自分であればロボットやアンドロイドを返り討ちにするのは容易だった。


 掘っているときに、なぜこんなことが自分にできてしまうのか、いつから自分のことをディランだと思い込んでいたのか、自分は死んだはずではなかったのか、という疑問が幾度となく彼女の思考の片隅に現れたが、彼女はそのたびに顔を歪め、奇声を上げ、手を動かして忘れようとした。そして光が見えはじめ、彼女は洞窟の外へと出ることができた。


 空には太陽があった。空気は湿っぽくて、風が吹いていた。乾いた砂を巻き上げる。ドリイは夜中だと思い込んでいたが、違ったのだった。


「ぎゃァァァァ!! もうヤダ!! なんなんだ……いったいなんなんだよォォォォ!」


 ドリイは上半身を洞窟の外に出してうずくまって、うわっと泣きだした。自分のことが理解できないのだ。彼女には、ディランの家族の記憶があり、家族の元へ帰りたいと思っている。でも自分はディランではないのだ。


 彼女は洞窟から出て、ボロボロになったアンドロイドの脚を洞窟の中へ放り込んだ。気味の悪い穴を岩でふさいで、その上からまた土をかぶせた。そして、もう二度と地底には戻らないと誓って、テントがあった場所へと向かうのであった。


 しかしテントなどはなく、あるのはひらけた草むらだけだった。いったいどういうことだろう、と彼女は思った。たしかにこの場所にテントがあったはずなのに跡形もなく消え去っている。長い間テントが立っていると、その下敷きになっている草は、もやしのように白くてひょろひょろになるはずだが、そのような草は見当たらなかった。


《誰かが片付けた?……でも誰が?》ドリイはテントがあった場所にしゃがみ込んで考えを巡らせた。《思い当たるのは地底へ落ちる前に襲ってきた怪物。そいつが片付けたとしか考えられない。狩り場を移動してるのかな……だとするとかなり頭がいい……》


 ドリイは野営地だった場所から海岸へと向かった。舟があるかどうか確かめるためだ。もう何度も通ったことのある道……いや、そんな気がする道を、彼女は歩いて行くのだった。


 この道を今まで、落ち着いて歩いたことがなかったため、気がつかなかったが、林の奥にじっと目を凝らすと、つたが張り付いた廃墟が見えた。とても古い建物のように見えたが、形は地底のものとまったく同じでコンクリートで四角い建物だった。


 つまり地底の人々は、もともと地底にいたわけではなく、ある時を境に地底へもぐったということを意味していた。彼らはなぜ地上を捨て、地底へと住処を映したのだろう、それでは飽きたらず、かたくなに地上の存在を否定してまで得たかったものとは、いったい何だったのだろうか、今となってはそんなことを彼らに聞くことはできないのだが……。


 海岸へと到着すると、ドリイは舟が置いてあった場所へとむかった。やはり舟はなかった。わかってはいたが、彼女はがっかりした。これなら舟はあるものとして無人島でくらしていった方がましだったと思うほどに落ち込んで、溜息をこぼした。砂浜へと歩いて、膝をつき、両手を地面に置いた。


「もーだめだ…………このまま死ぬしかないのかな」ドリイは両手を合わせ、天にむかって叫んだ。「もーどーしたらいいんだ神様……! このまま野垂死するのが僕の運命なの? ねぇったら! 答えてよ……あぁ……」


 彼女はうなだれた。歯を食いしばって、ボロボロと泣いて、怖くて、震えだし、大海原を見渡した。そのとき、彼女はおかしな光景を目にした。そのおかしな光景とは、海岸から茂みまでの間に舟を引きずった跡がないことだった。そして立て続けに、打ち上げられた木造船に帆がついていたことだった。はじめて島に来た時と比べて様子がおかしいのである。まるで、自分が島にたどり着いたときよりも時間が遡っているような、そんな錯覚を覚えたのだった。


《いいや……錯覚じゃないかもしれない……僕が島に来た時、ここで火を点けようとして……》ドリイは立ち上がって辺りを見渡した。《ここら辺に木の残骸が転がって……あった。僕が拾ったのと同じのだ。この乾いた木をこすったんだ。かたちもまったく同じ……》


 不思議な感覚に陥った彼女は、しばらく微動だにせず固まっていた。そして、もしかしたら時間が戻っているのではないか、と直感が語りかけてくるのを感じた。しかしそんなことはありえないことだ、とドリイは思って砂浜に尻もちをつき、自身の狂乱ぶりを嘲笑うのであった。


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