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ドリイと楽園  作者: よた
第三章 地底の生活
18/46

時間


 食事を済ませると、また天井で――ピンポーンという音が響き、誰かがやってきた。ドリイは食べ終わったトレーを重ねて玄関へと持って行った。右手で扉を開けると無機質な声が聞こえて、その声の主にドリイはトレーを渡した。


「00DD テラ ヨク タタベ ベタベタ タベタ オ…… オカナ イッパイ オカナ イッパイ イッパイ ハナラベル ラタラケリ ハラタケル ハタラケル」


 いったいその声の主が何を言いたいのか、ディランにはさっぱり聞き取れなかったが、おそらく新しく学んだ早口言葉でも試しているのだろうと考えた。


「えぇ、もちろんよ」しかし、ドリイにはしっかりと聞き取れたらしかった。扉を閉めてから彼女はリビングに戻ると、体をゆらゆらと動かして体操のような動きをした後、囁いた。「さて、昼食も食べたし……そろそろ仕事に行かないと」


「昼食……朝ご飯じゃないの?」


「なにを言ってるの? 今は昼食の時間よ」ドリイはカーテンのかかった窓の右上にある時計を指さして言った。「ほら、時計をみなさい。正午を過ぎたところじゃない」


「……ほんとうだ」


 時刻は間違いなく、十二時三分を指しており、時計どおりに生活を送っているらしい彼女が間違っているようには見えなかった。そして時間の感覚がおかしかったのが自分の方だったことに彼は驚いた。朝、彼が目を覚ましたときの体感では、父親がいつも漁に出かける午前五時か、遅くとも母親がお越しにくる朝七時過ぎくらい――朝起きて海へ出かけ、その後はテントに戻り、出くわした怪物に見つからないよう隠れていたわけだが、一時間も隠れていたわけではなく、長くてもほんの数十分程度、そして彼女と会って、家に連れて行ってもらい、ご飯をご馳走してもらった。彼の行動はたったこれだけだ。なのに、どうしてこんなに時間が経ってしまったのか、どう考えてもつじつまが合わなかった。


「それじゃあ、行ってくるわね。おりこうさんにしてまっているのよ」ドリイは扉を開け、外に出ながら言ったかと思うと、扉から顔だけをだし、不自然な言葉遣いでディランに言った。「帰りは十八時ごろ、火遊びしちゃ、だ、め、だ、ぞ――フフッ」


「う、うん……わかったよ」妙な言葉遣いに、ディランは首を傾げた。《急にどうしたんだろう?……》



 ――ガチャン。扉は閉まり、部屋にはディランだけが残された。



 部屋を出た彼女は廊下を歩いて階段を下りた。外に出ると、一般階級――『テラ』の同志たちが両脇にそびえたつ居住ビルの間を流れるように歩いて行くのだった。彼女の名前は『00DD テラ』、通称DDディーディーであった。『ドリイ』という名前は、彼女が自分につけたニックネームで、正式な名前ではなかった。適当につけたこのニックネームは、まだ誰にも教えたことがなく、部屋に隔離した少年がその名前で呼んだことを、DDは不思議で仕方なかった。


《あの少年はいったい?……もしかして『ルクス』の監視員だろうか。でも、彼の皮膚や声質はどう見ても人間だったし、おそらく、ロボットやアンドロイドの類いではない……それじゃいったい……》


 DDはアーチ状の天井が永遠と真っ直ぐ続く通路へ合流した。横幅は大人が数十人並んでも両手を広げられるほど隙間が空く。立っているだけで前に進める通路にはテニスコートのような線が引かれており、DDと同じ方向を向いている者たちは真ん中の辺りを、反対を向いている者たちは両脇を通り過ぎて行くのだった。天井には何枚もの大きなスクリーンが両側にバランスよく並んでいて、一人当たり信用計数の平均値が映し出されていた。


 値は常に変動していたが、いま丁度、七万を上回ったところであった。毎日の習慣でDDはその信用計数を確認するようにしていた。自分自身の信用計数を個人が把握することはできないが、だいたいの予想はつく。なぜならば、信用計数をつかって生活するのはテラだけであり、テラ同士は、格差がほとんどないに等しいからである。例えば、毎日の食事や家の賃料など、基本的な生活に欠かせないものについて優劣はなく、値段もそれほど高くはない。たとえ、それらの公共サービスの値段が平均値の八割以上を占めたとしても、普通に暮らしている分には超えるはずはないのだ。というよりも、そうでなければおかしいのだ。


《思ったより低い。たしか前月発表された目標値は76000……》


 しかし、スクリーンにはこう書かれていた。


 ――今月目標値(前月発表) 68000 今月実績値 70000 達成……。


 DDはこれを見て、きっと記憶局に務めるWSが仕事をしたのだろうと思った。そして、スクリーンが切り替わる。


 ――本日 裏切者 1人 廃棄完了。


 裏切者の数が昨日よりも二人減少したため、同志たちはいっせいに拍手しはじめた。周りを見渡したあと、DDも合わせて拍手するのだった。


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