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なにかついてる

作者: 京本葉一
掲載日:2019/11/30

「この部屋、なにかいるよ」


 沙希ちゃんは、ときどきそういうことを口にする。周りから変な子あつかいされたり、気味悪がられたりするけれど、沙希ちゃんは気にしない。


「見えるわけじゃないけど、感じるから」


 沙希ちゃんは、誰に何をいわれても、意見を曲げなかった。ちゃんと見えている私からすると、沙希ちゃんのいうことは正しので、どうにかしたいともおもった。結局なにもできなかったけれど、沙希ちゃんの背中や肩にくっついてくるモノたちは、私がそっと払いのけている。


 沙希ちゃんが小学校を卒業するころには、少し事情が変わっていた。


「この家、人が住んでるはずなのに、誰もいないみたい」

 と、沙希ちゃんが気にしていた家で自殺者が出たり、

「○○ちゃんの家は怖くて入れない」

 と言っていた家が火事で焼失したり、

「あのひと、なにかついてる」

 と言っていた人物が凶悪な事件を起こしたりすると、なにもわからない周りの人たちも、沙希ちゃんが正しいのかもしれない、と考えるようになった。


「この電車、いるみたい」


 朝の通学電車のなかで沙希ちゃんが口にすると、周りの女子高生たちは、痴漢ではなく幽霊を警戒する。


 あのときは手のひらぐらいの大きさの、カメムシのような姿に成り果てた雑霊がいた。沙希ちゃんにくっつこうとしていたので、沙希ちゃんたちに近づこうとしていた痴漢のほうに追い払った。よほど波長が合ったのか、ピタリとくっついた中年オジサンから強烈な悪臭が発生して、電車が緊急停車するほどの大騒ぎになった。


 大なり小なりの話題があって、知る人ぞ知る存在となった沙希ちゃんの前に、「噂の霊感少女を取材したい」という人物があらわれた。

 web雑誌の記者だという三十代ぐらいの男は、蒼白く、痩せっぽちで、女子高生が集まる店に似つかわしくない、よれよれのコートを着てあらわれた。


「経費で落とすから大丈夫」


 取材費代わりのスイーツをあれこれと、メモと録音の準備を整えて、沙希ちゃん他二名を相手に取材をはじめる。


「ずっといっしょにいようねって、約束したのに……」

「つまり、その幼なじみの女の子が交通事故で亡くなったころから、いろいろと感じるようになったと」


 泣いてもいい悲話をさらりと受け流した男の態度が、沙希ちゃんのことをまるで信じていないようにおもえて、同席していた沙希ちゃんの友人が男に噛みついた。


「ん? いや、疑ってるわけじゃなくて、記事を書くのに、記者の感情がいらないだけ。君たちが嘘をついていないことぐらい、ちゃんとわかってるから」


 さえない男の、おもわず漏らした苦笑いに、沙希ちゃんが反応した。


「ぽっ……」


 いろいろ噛み合わない空気が漂うなかで取材はおわった。男が店から立ち去ったあとは、それどころじゃない緊急会議がはじまった。

 

 沙希ちゃんは、自分の部屋で、web雑誌に掲載された記事を何度も読み返していた。面白おかしく誇張することもなく、沙希ちゃんの半生がていねいに綴られた内容は、私としても満足のいくものだ。


 沙希ちゃんは、最後に書かれた記者の名前を確認しては変な声を出して、溜め息をつき、また記事を読み返しては、私たちがいっしょにいる、昔の写真を眺めたりしている。


「久美ちゃんも、あれはないわ~、っておもうかな」


 沙希ちゃんと波長が合うせいか、私もきっと恋をしている。

 新たな執着を感じている。

 沙希ちゃんがいらないのなら、私がほしいとおもうほどに。


 沙希ちゃんの波長と重なり、いっしょに成長してきた私なら、たぶんできる。沙希ちゃんの身体を借りることが……沙希ちゃんの肉体があれば、触れ合うことができる。沙希ちゃんの、肉体さえあれば──。

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