なにかついてる
「この部屋、なにかいるよ」
沙希ちゃんは、ときどきそういうことを口にする。周りから変な子あつかいされたり、気味悪がられたりするけれど、沙希ちゃんは気にしない。
「見えるわけじゃないけど、感じるから」
沙希ちゃんは、誰に何をいわれても、意見を曲げなかった。ちゃんと見えている私からすると、沙希ちゃんのいうことは正しので、どうにかしたいともおもった。結局なにもできなかったけれど、沙希ちゃんの背中や肩にくっついてくるモノたちは、私がそっと払いのけている。
沙希ちゃんが小学校を卒業するころには、少し事情が変わっていた。
「この家、人が住んでるはずなのに、誰もいないみたい」
と、沙希ちゃんが気にしていた家で自殺者が出たり、
「○○ちゃんの家は怖くて入れない」
と言っていた家が火事で焼失したり、
「あのひと、なにかついてる」
と言っていた人物が凶悪な事件を起こしたりすると、なにもわからない周りの人たちも、沙希ちゃんが正しいのかもしれない、と考えるようになった。
「この電車、いるみたい」
朝の通学電車のなかで沙希ちゃんが口にすると、周りの女子高生たちは、痴漢ではなく幽霊を警戒する。
あのときは手のひらぐらいの大きさの、カメムシのような姿に成り果てた雑霊がいた。沙希ちゃんにくっつこうとしていたので、沙希ちゃんたちに近づこうとしていた痴漢のほうに追い払った。よほど波長が合ったのか、ピタリとくっついた中年オジサンから強烈な悪臭が発生して、電車が緊急停車するほどの大騒ぎになった。
大なり小なりの話題があって、知る人ぞ知る存在となった沙希ちゃんの前に、「噂の霊感少女を取材したい」という人物があらわれた。
web雑誌の記者だという三十代ぐらいの男は、蒼白く、痩せっぽちで、女子高生が集まる店に似つかわしくない、よれよれのコートを着てあらわれた。
「経費で落とすから大丈夫」
取材費代わりのスイーツをあれこれと、メモと録音の準備を整えて、沙希ちゃん他二名を相手に取材をはじめる。
「ずっといっしょにいようねって、約束したのに……」
「つまり、その幼なじみの女の子が交通事故で亡くなったころから、いろいろと感じるようになったと」
泣いてもいい悲話をさらりと受け流した男の態度が、沙希ちゃんのことをまるで信じていないようにおもえて、同席していた沙希ちゃんの友人が男に噛みついた。
「ん? いや、疑ってるわけじゃなくて、記事を書くのに、記者の感情がいらないだけ。君たちが嘘をついていないことぐらい、ちゃんとわかってるから」
さえない男の、おもわず漏らした苦笑いに、沙希ちゃんが反応した。
「ぽっ……」
いろいろ噛み合わない空気が漂うなかで取材はおわった。男が店から立ち去ったあとは、それどころじゃない緊急会議がはじまった。
沙希ちゃんは、自分の部屋で、web雑誌に掲載された記事を何度も読み返していた。面白おかしく誇張することもなく、沙希ちゃんの半生がていねいに綴られた内容は、私としても満足のいくものだ。
沙希ちゃんは、最後に書かれた記者の名前を確認しては変な声を出して、溜め息をつき、また記事を読み返しては、私たちがいっしょにいる、昔の写真を眺めたりしている。
「久美ちゃんも、あれはないわ~、っておもうかな」
沙希ちゃんと波長が合うせいか、私もきっと恋をしている。
新たな執着を感じている。
沙希ちゃんがいらないのなら、私がほしいとおもうほどに。
沙希ちゃんの波長と重なり、いっしょに成長してきた私なら、たぶんできる。沙希ちゃんの身体を借りることが……沙希ちゃんの肉体があれば、触れ合うことができる。沙希ちゃんの、肉体さえあれば──。




