行商エルフ(仮題)3
今回の行商エルフさんは、旅のお供が居ます。
「目的地の村まで、だいぶヒマですね。人も全然通りませんし……そうだ!この辺でお金になりそうな草花とかを教えてほしいです!」
「この草には何か効能が有ったりしませんか?」
「ではあの木の根元に1輪だけ咲いている花は!」
「道のくぼみの水溜まりから生えている、その草には!?」
「ただの雑草なのですか……そうなんですか」
「あっちで目立っている雑草なんかは」
「ちょっと!?なんで興奮しているんですかっ!」
「あのウチの村の森に、もさっと群生してる雑草にそんな価値が有るんですか?」
「待って!村までこのまま一直線だからって、置いていかないで下さいよっ!」
私は行商を生業としているエルフでございます。
現在はお聞きの通り……いえ、聞いただけでは分からないですね。
とある町での商売を適当に切り上げて、他へ移ろうと思い商業ギルドへ挨拶に行った時でした。
その町から依頼の村まで、運んで欲しい物があると商業ギルドに頼まれまして、そちらへ向かっている所です。
それで、さっきの人間族の子供はそのギルドでのやり取りを聞きつけて「僕の村だから、道案内しますよ!」と申し出てきたのですよ。
当の村へは1度も伺った事が有りませんし、渡りに船だと思いました。
ですので行商人として疑われないよう大きい荷物袋を背負子に縛り付け、門の前で待ち合わせてさあ出発。
それで一緒に歩きがてら色々と話をしてみたのですが、なかなか人懐っこい子ですね。
私が歩く度にポヨポヨと跳ねる大きな胸を、顔真っ赤にしてチラチラ盗み見してる幼さも微笑ましいポイント。チクチクと母性を刺激してくれます。
……胸を強調して自慢するな?しますよ、させて下さいよ。これでも素のエルフ時代ではどれだけ身長が伸びても絶壁で、胸が育って行く同年代にどれだけ嫉妬したか。
おっと、過去を振り返っていたら、お客さんですね。
数は10人。背の高い草むらに伏せていたようです。
「オイテメェら!そこを動くな!」
「エルフの行商人か、珍しいな!」
「エルフってだけで珍しいのに、護衛無しなんてどれだけ無防備なんだよ!」
「ほう!遠くからでも分かるエロい体つきで、顔は極上!!行商人だから商品も頂ける、こんな獲物が引っ掛かるなんて最高じゃあないか!!」
「命が惜しかったら抵抗するなよ?お前さんには商人を辞めてもらって、夜の職業へ転職して欲しいだけだからなぁ(ゲス顔)」
「よ~し、縛って連れて行け!!」
てな流れで、盗賊達のねぐら……森の中の大木、その根ががっしり掴んだ岩に大きく空いているほら穴ですね。そこへ無抵抗で連れて行ってもらいました。
抵抗?しませんよ。ここでするなんて、とんでもない。
ほら穴の中はかなり広く、中央にたき火があります。
隅っこに今までの略奪品が積み上がっており、その略奪品から少し離れて、私や一緒に捕まった子やそれ以外の被害者達が後ろ手に縛られて転がされている。
転がっている方達の種族は……今語っている暇は無いですね。とにかく、落ち込んでは居ますがまだ目に光が有ります。男女共に最悪の事態にはなっていないようで、ひとまず安心しました。
盗賊達は中央で仕事の成功を祝って、のんきに宴の真っ最中。だいぶ距離があって普通のヒトなら聞き取れなくても、私のスキル効果も含めたエルフ耳なら聞き取れます。長い耳は伊達じゃありません。
盗賊達の種族はバラバラ。……これが悪事を働く集団でないなら、平和な光景だったらどれだけ良い事か。
行商人として種族差別はせず。差別する面倒な国へは立ち寄らないようにやって来た訳ですが、それでも世の中には様々な差別があり続けますからね。
私達を捕まえた10人の他にも、ここの警戒とかで残っていた者まで含めて、たき火を囲む盗賊の総勢は22人。
その全員が、時折私をイヤらしい目で眺め、馬鹿笑いを……おや?ひとり私をジロジロ見て、それから驚愕していますね。
「頭、さっき捕まえたエルフの行商人ですが『行商神』様じゃないですよね?面識はありやせんが、聞いていた人相とぴったしで……」
「あっしは商売の才が無くて、真っ当な生き方が出来なくなった悪党ですが、ギルドに口酸っぱく言われたんですよ。『行商神』様に顔向け出来ない行いはするなって」
「心構えの話じゃねえんです。あの方に無礼をすると、待っているものは破滅しかない。その因果応報の天罰っぷりも含めて、あの方は神が如しって実例がゴロゴロ……」
「本人の訳がない?……進言しやす。足を洗いやしょうよ」
「…………そうですか。ならあっしは失礼して、足抜けさせて頂きやす。他の連中も聞いてただろ?抜けるなら今しかないからな?それではすいやせんが、あっしはここまでです」
……察しの良い者が盗賊にも居るのですね。あの商人崩れさんの言葉を聴き、更に2名の離脱者が出ました。これで盗賊達の残りは20人。
折角、私と言う獲物を得られて気分は最高潮!な空気だったのに、それに水を差されて一発でシラけムード。
そうなっては盗賊団の士気がガタ落ち。再び浮かれた雰囲気に戻すには、どうするか?こちらを睨んでいる盗賊のお頭さんで一目瞭然。私以外の近くにいる女性の口から、怯えた声が上がりました。
……浮かれた連中から、なにかポロリと悪い繋がりが聞ければ良いなと思っていましたが、今回は上手くいきませんでしたね。ここが限界点です。
昔はその限界点の判断を誤って【絶対記憶】のせいで忘れられないトラウマを植え付けられる寸前まで行きましたから。
転生時にその辺も覚悟したつもりで要求したこのスキルですが、絶対に忘れられないと言うデメリットが本当にキツい。
私を縛っている縄を【無限収納】に入れて、風の魔法で私と被害者達を包み、幻覚作用を持つ煙が噴き出す魔法の玉を【無限収納】から取り出してポイ。
……え、以前は縄を魔法で切った?切る場合もあるよ。収納するか切るかは私の気分と勢い次第ですよ?
この幻覚玉は特別製。普通に使えば錯乱効果しか望めないけど、魔力と念を込めれば効果と効果時間が変わります。
今回は一生使い切れない財宝を背に私以上の、それぞれが思う理想的な美貌を持つ女性を侍らせ、酒池肉林の夢を2日間見続ける幻覚を込めました。
おかげで凄いですよ~?煙を吸った盗賊団の全員が一斉に倒れて、白目を剥いてビクンビクンしたり、気持ち悪く蠢いたりしていますので(侮蔑)
……うわ、ロクに時間が経ってないのに、野郎共のズボンの股辺りがグッショリ。風の結界で匂いは分からないけど、この空間の匂いを嗅ぎたくないや。マジでドン引き。
…………ふむ。潰してやった方が、人類の平和のためになる?
じゃない。
また嫌なモノを見て、かぶった猫がフラつきました。失敗失敗。一度深呼吸しないと。
……うん。結界の力で、こんな環境でも空気が美味しい。
説明忘れですが、煙自体は5分もすれば止まりますし、微かな風でも流れて行きやすい煙ですので視界の心配は無用。
この惨状を他所に、私は積まれている略奪品を全て丁寧に収納。
古来から盗品は盗り返したヒトの物。ここで捕まっていたヒトの物以外は、全部私の物です。
でも後でちゃんとギルドへ報告して、紛失物の届け出とつき合わせ、元の持ち主が居るなら返却をしますよ?取り返してあげた報酬は貰いますが。うひひひひ……違う、冷静に~冷静に~。
商談等の仕事では滅多に起こらないのですが、普段心が揺らぐと簡単にかぶった猫が散歩しだすこの悪い癖は、なぜ治ってくれないのか。
……おや?“流転”シリーズが幾つもありますね。
ひとつ所に留まり続けることなく、貴族や大商人のご婦人方の間を流転し続ける呪われた衣装。
激しく扇情的かつ妖艶なデザインの衣装群で、熱気でむせかえる水場にて身に付ければ、たちまち殿方達の視線を集め、殿方にまつわる厄介事も一緒に集まってしまう。
ぶっちゃけエロ水着。夜に着ても有効です。
……これらを作ったイチ○ーさん本人の持つ、デザインセンスは素晴らしかったのですけどね。本当に素晴らしかったのですよ?
でもねぇ……はぁ(ため息)
他には……はい、そっち方面の荷物ばかり積んだ馬車を一度襲っていますね。ちらほらとアレなのが掘り出されます。それらはさっさと収納。この山には元からアレなのは無かったのです、良いですね?
…………誰ですか?私が目を付ける物はエロい物ばかりで、とんでもないエロフだな、溜まってるのか?とか思ったヒトは。
そっちの品物はかなり高価に扱われる商品で、貴き身分の方々がよくコッソリと私に打診してくるのです。見逃してはいけないのですよ、コレらは。
それから被害者全員を解放して脱出を促します。
脱出間際に、私達が縛られていた場所をチラリ。
そこには一緒にここまで来た、あの子がビクンビクンしています。
なぜとお思いですか?私は言いましたよね?
たき火には22人。それから3人抜けて、盗賊達は残り20人。
この子は被害者のフリをした盗賊。逃げる計画等の内情を他の盗賊へ漏らすためのスパイ役。
ギルドで話しかけられた時、反射的に【詳細解析】で見て知ってしまいましたから。このスキルの前では、下手な隠蔽は無効です。
スキルに【詐術】と【演技】職業に盗賊。そして、称号に家出したきり息子。
そこから連想される、歪んでしまった人生は可哀想だとは思いますが、この世には溢れている不幸話のひとつです。
しかもこの子は歪みきって、能動的に盗賊として活動。よって深く同情してやる余地は無し。
ちなみに、スパイ役は他に居ませんでしたよ。
なので放置して、ほら穴から脱出。それから近くの町の衛兵さんに、簡単な文章を送信できる魔力波を放つ魔道具ビーコンを設置。
それに『盗賊に襲われた』と入力して始動。
まだ日が出てからあまり経っていませんし、今日中にあの町の衛兵さんが来るでしょう。
……そうですか?分かりました。捕まっていたハンターさんへ手柄を譲る代わりに見張ってくれて、衛兵さんに詳しく伝えてくれるそうです。
では、それ以外の皆様。盗賊に盗られた物はお返ししましたし、私の目的地である村へ向かいましょうか。
村の情報自体は本物で、信用できる村の方へ事情を話して被害者達を保護してもらい、私の元々の依頼もしっかり完遂。
疲れたので村唯一のお宿“まきばの牧草”に宿泊。地産の美味しい料理を頂いて、気分を思いっきり持ち上げて就寝準備をしましょうか!
翌日、あの子供が言っていた草の群生地を探し出し、半分位を採取。ずっとホクホク顔で、真顔に戻せません。
この草は育毛剤に使われる有名な素材です。
乱獲が進んで、薬が作れるほどの数が採取されなくなっていた為、100年は前に誰も育毛剤が作れなくなってレシピが失伝。幻の薬と言われています。
後でこの草が殖やせる別の土地に、移植するのも考えますかね。
それにしても。村や草の情報は正確でしたし、あの子はこの村の子だったのでしょうね。こんな素晴らしい土地なのに、飛び出したなんて勿体無い事をしたものですよ。
…………もっと早く、この村と草の情報を掴んでいて訪れていたなら、あの子の道は歪まずに済んでいたのでは無いでしょうか。
駄目駄目。後悔しても遅い。ここは気を取り直して、行商人らしく村の方と交流して商売しましょう!それがいい!ハイ決定!!
~逃げた盗賊達
「結局『行商神』ってのはなんなんだ?」
「商業ギルドに登録したら、真っ先に教わる存在。もはや商売の神様」
「具体的に言えよ」
「信賞必罰、因果応報。悪いことをしている子は、永遠の暗い闇に仕舞っちゃうぞ~ってな」
「こわ……」
「お頭に言っただろ?悪い意味で『行商神』様に目をつけられると破滅だって」
「……お頭達はどうなってるだろうな」
「今頃は悪夢を見ていると思う」
「「…………」」
「あの方の伝説では、単一種族至上主義国家を潰した記録まで残ってるんだぞ」
「嘘だろ?国を相手どるなんて」
「マジの話。種族差別などロクなものでは無いと言って、周囲の国の国力を増す取引を繰り返し、対象国家との取引が有る商家には別のもっと利益の出る取引先を紹介する。そんな手腕でアレコレやって徹底的に孤立させて、流通完全ストップで国が干からびた」
「信じられん」
「ちなみに、取引した商家達の中に潜んでたよろしくない連中も、ついでに掃除された記録も残ってる」
「無茶苦茶な……」
「普通はそんな事をしても信じねぇだろ」
「本人の積み上げた実績だよ。信用から来る影響力、発言力」
「うわ……」
「独裁みたいなものか」
「あの方との取引で、人生的に成功した人間は数知れず。後ろ楯にどれだけの国家がいる事か」
「逆らったら終わりだな」
「いや、だから誠実な商売しかしないから独裁じゃないって」
「独裁にしか見えないって」
「あの方のモットーは、誠意には誠意で、悪意には報復で返す」
「「恐いです」」
「俺達は悪意ばかり振り撒いていたからなぁ……今からやり直せるかなあ?」
「知らん。それよりお前、下っ端口調はどうした?」
「お頭がいないんだから、使う必要はないだろ」
「「あ~」」