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五月二日 月曜日

 



 五月二日 月曜日。


 今日は昨日と違ってとてもいい天気です。きっと近所の公園を散歩でもしたら、気持ちが良くて自然と鼻歌が出てきちゃうくらいルンルンになるかもしれません。

 でも今の僕は紫外線を浴びる気分ではなかったので、本を読むことに決めました。昨日の続きです。




 王子様はいつまでも泣いてばかりでいてはダメだと思ったようです。お姫様はあれから一度もこのお城に戻ってきていません。もしかしたら、どこかの洞窟かなんかに監禁されていて、食べ物もろくに与えてもらえないような過酷な状況に置かれているのかもしれません。離れ離れになってしまった王子様のことを想いながら、今もお姫様は独り寂しく涙を流し続けているのかもしれません。


 王子様は決めたようです。お姫様の姿が見えなくなってから慌ただしくしている侍従たちの目を盗んで、王子様は短剣を腰に装着し、数日分の食料をとりあえず用意して出かける準備をはじめていました。どうやら一人でこの国を出て、お姫様を探す旅に出る決意をしたようです。


「王子様っ!? 王子様っ!? 王子様がいなくなってしまったぞっ!?」


 お姫様だけじゃなく、王子様の姿まで見えなくなったお城の中で、侍従たちは慌てふためいていました。王子様は彼らに『姫を見つけて、必ず帰ってくる』とだけ書置きを残して国を出ていきました。事前に誰にも何も言わず出発したのは、何が何でもお姫様を自分の手で連れ戻すのだという思いと、彼らに余計な心配をさせたくなかったという王子様なりの気遣いだったのかもしれません。


 王子様が国を出発して、森の中へ入ったその道中のことです。


 歩き慣れない道を進み続けたせいか早くもちょっと疲れてしまったようです。普段の運動不足が影響してしまったのかもしれません。森の中で偶然見つけた椅子のような切り株に、王子様は腰を下ろそうと近づきました。すると、その切り株の上にはなぜだか、美味しそうな匂いのする大きなまるいアップルパイが置いてあることに気がつきました。


 食料を節約するためあまり食べ物を口にしていなかった王子様のお腹は、それを見て遠慮なく鳴り出しました。お腹が減っていたようです。まるで食品サンプルのように美しく光り輝いていたアップルパイに、王子様の手は自然と伸びていました。よっぽど美味しかったのでしょうか。歩き疲れていたことも忘れて王子様はその場に立ったまま、気づいたらそのアップルパイを完食していました。


 そのとき、木の幹から一匹のリスが現れます。


「お、お、おっ!? おいらのアップルパイを勝手に食べたのはどこのどいつだっ!? おっ。お前だなっ!? なんてことをしてくれるのだっ! これはおいらが後で食べようと楽しみにとっておいたデザートだったのにっ! ゆるせんぞっ、絶対にゆるせんぞっ!」


 どうやらそのアップルパイは、森の中で暮らすリスのおやつのようでした。切り株の上にのぼって、王子様に指を向けていたリスはカンカンに怒っています。小さな身体だというのに、その迫力は人一倍です。よほどアップルパイが好物だったのでしょうか。素早く切り株から下りたリスは顔を真っ赤にさせて怒りながら、王子様の右足を蹴りはじめていました。ダメージを大きくするためなのか右足ばかりを集中攻撃しています。それだけでは飽き足らなかったのでしょうか。やがてリスは、王子様の右側の靴にかぶりついていました。しかし小さな攻撃は全く効いていなかったようです。靴には豆粒ほどの穴が開いたようですが、王子様は全然痛がっていないのです。


 ただ、そのリスの剣幕に王子様の心は少々怯んでおりました。リスは出っ張った前歯をアピールするかのように剥き出しにすると、鬼のような目つきで王子様のことを下から睨み続けていたのです。

 食べ物の恨みというのは恐ろしいものです。




 僕は段々とお腹が空いてきたので、本を閉じました。

 自室を出てリビングへ走ると、引き出しの中からチラシを引っ張り出してあるところに電話をかけました。数日前にママがやっていたのを思い出しながら、電話の相手とやりとりをします。


 ピーンポーン。


 しばらくすると自宅のインターホンが鳴りました。頼んでいた宅配ピザがやっと届いたようです。僕は玄関へと走って行き、鍵を開けました。扉が開くと美味しそうな匂いがお腹を誘います。でも、お金を払おうと財布を開いて眉をひそめました。だってそのピザを買うには、僕のお小遣いでは全然足りなかったからです。


 するとそこに、お買い物から帰ってきたママが現れました。

「あら!? 何で家にピザ屋さんが来ているの? あ、こらっ勝手にピザ頼んだんでしょう! こらっ、お金ないのに出前頼んだりしたらダメでしょう!」


 僕はママに怒られてしまいました。お金がないのに勝手に宅配サービスを利用したらいけないのだと今日、学びました。だけど正直、あまり反省はしていません。だって家に届いたそのピザは、想像をはるかに超えて信じられないほど美味しかったのです。


 でも僕はいい子だから、もうママに隠れてお金もないのにピザを配達してもらおうなんてことは考えません。

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