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五月一日 日曜日



 

 五月一日 日曜日。


 今日は一日中、雨が降っていました。

 自分の部屋のベッドにいた僕は、体育座りをして窓の外を眺めます。外はザアザアと音を立てて雨が降り続いていました。それを聞いていたら自然とため息が出てきます。だって、今日は仲の良い友達と一緒に公園でボール遊びをする予定を立てていたからです。


 土砂降りの雨のせいでその予定は中止です。だから今日は、おとなしく自分の部屋でくつろいでいます。何もすることがなくつまらなかったので、趣味の読書でもして時間を潰そうかと思いました。




 僕が読んだ小説に出てくる人物は、主に王子様とお姫様でした。


 王子様とお姫様がいる国は、緑豊かな森に囲まれた静かな場所です。そこは決して大きな国ではありませんでしたが、人の真似をしてお辞儀やダンスをする愉快な小鳥や、色が一つもかぶらないお花畑があるとても魅力的なところでした。


 王子様とお姫様がいる高くて立派なお城が、その国の中心部に建っています。二人は、その国の誰もが認めるほどの美男美女のカップルです。王子様は背が高くて、鼻筋の通った愛嬌のある顔立ちをしています。お姫様は透き通った色白の肌に、大きな瞳が印象的のまるでお人形みたいな方でした。


 二人は幼馴染で、子供の頃からずっと仲良しでした。お互いの両親が友人で家族ぐるみの付き合いが多かったためか、自然と打ち解けることができたのかもしれません。


 お姫様の故郷は隣の国です。子供の頃の二人は、年に数回お互いの国へ馬車に乗って遊びに行くのが決まりごとでした。二人が外で遊ぶときには必ず手を繋いで離れようとしませんでした。「大きくなったら結婚しよう」という子供の頃の王子様の提案に、お姫様が笑顔で頷いていたという話は、国中の誰もが知る微笑ましい思い出です。


 だから周囲の人々は、二人が将来、当然のように結婚して、可愛らしい子どもにも恵まれ、絵に描いたような幸せを手に入れるのだろうと信じておりました。


 しかし結局、それが実現することは叶いませんでした。なぜなら、王子様とお姫様がめでたく結婚するという記念すべきその日に、ある事件がその国で起きてしまったのです。


「姫っ!? 姫っ!?」


 王子様は、慌てた様子でお城の中を駆け回っていました。婚約者であるお姫様の姿がいくら探しても見えなかったのです。


 その代わりに、お城の中であるものを見つけていました。王子様の手に握られていたのは、一枚の紙切れでした。その紙切れには、まるで悪党が酒に酔っぱらって書いたみたいな汚い字で、こう書かれてありました。


『君の大事なお姫様は、この僕が連れて行くことにしたよ。だって、僕の方がよっぽど姫のことを愛しているんだもん。だから君は僕の愛を邪魔しないでくれ。いいな、わかったか? 姫はこの僕と結婚するのだ! 如月(きさらぎ)より』


 紙切れの最後の一行には、王子様の知らない名前が書いてありました。きっと、この国の人ではなかったのでしょう。初めて見る名前に、王子様は怒りを隠せませんでした。紙切れを持つ手が震えています。


 その紙切れの端には、何かで濡れたような跡がありました。王子様はそれをじっと見つめます。たぶんそれは、お姫様が流した涙の跡だったのでしょう。きっと無理やり、お姫様はどこかの国の知らない男に誘拐されてしまったのです。さぞ辛い思いをしたことでしょう。子どもの頃から大好きだった王子様との仲を突然引き裂かれてしまったのですから、お姫様の目から涙が出てこないわけがありません。


 王子様はひどく狼狽していました。愛しい人が突然いなくなってしまったのです。そんなことが起こるとは想像もしていなかったのでしょう。そして、そんな状況になっていたお姫様のことを、自分が守ってあげられなかったことが王子様は悔しかったようです。王子様の両手は紙切れがクシャクシャになるほど力強く握られており、自分を責めるように小さく肩が震えていました。


 その日から毎日、王子様は大粒の涙を流して過ごしていました。「姫、一体どこにいるんだ……」王子様は、どこに行ったのか全く手がかりのなかったお姫様のことを想い続けました。国中の人に尋ねてみても、お姫様やお姫様を連れ去ったという男を見かけた人物はおらず、その事件は迷宮入りしかけていたのです。


 何日が経っても、王子様はお姫様を忘れることができませんでした。むしろ、その悲しみは日に日に強くなっていくばかりでした……。




 僕は本から目をそらして、窓の外を見上げました。

 さきほどと変わらず雨は降り続いています。僕にはその落ちてくる雨が、王子様の涙のように思えてなりませんでした。とても悲しいです。だからこれ以上、本を読む気にはなれませんでした。なので、この物語の続きは明日、読もうかと思います。


 心もすっかり暗くなってしまったので、気分転換にあることをしました。それは『日記』です。僕は今、人生ではじめて日記を書いていますが、意外と楽しくて癖になりそうです。

 というわけで、明日も日記を書こうと思います。

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