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8- 我らが、我が、「求めてしまった」戦い

 ドラゴンの岩山近くの街道。そこには旗を立て、突撃槍を上に構えた集団が進んでいた。先頭はグリフォンの紋章を胸に象った、馬に乗っている中世の騎士の集団。中央には、馬上で青色のサーコートをはためかせた、騎士の姿。フェイスガードを挙げたその間からは、白髪交じりの金髪が見え隠れしている。

「伯爵様。あと数刻で、例の魔物が巣を構えている岩山近くの森です」

「うむ」

 報告を聞きながら、伯爵は軍団の様子をチラリと見る。そして、出陣式の様子を思い起こしていた。


 その日から数日前。伯爵領都の城門前。そこに整然と並んでいるのはおおよそ500人ならなる軍団だった。馬も人も鎧を着た、騎乗騎士がランスを上に向けて整列する。革鎧の槍を持った、それでいて肩にグリフォンの紋章が描かれた肩当をつけ、槍を上に向けて隊列を組む。ローブを着て、杖を持った集団が杖を地面につけて静かに並ぶ。装備が統一されていないものの、革鎧や金属鎧、弓を背中に背負ったものが列を組む。その様子は、さながら軍隊だった。

 そして、城門の上から、兜をつけていない騎士が現れる。金属鎧を着て、サーコートが翻る。片手には盾を持ち、その盾にはグリフォンの紋章が大きく描かれている。そして、その軍隊を一瞥したあとに騎士は口を開いた。

「諸君、今回の依頼によく参加してくれた。中には騎士団の任務として請け負っているものもいるだろうが――」

 騎士――アルマゲスト伯爵は士気を高揚させるための演説をしながら陣容を見る。そして思い返す、シーカーホビット族の高位斥候、ホビィルの話。

――隠れても無駄っぽいよ。おいらの隠密でさえ、気づかれたもん。一度も見た様子はなかったのにさ。

 一度隠れるとまず見つからないことで有名なシーカーホビットが言うのだ。間違いはないだろう。だからこそ、伯爵は今回、堂々と出陣することを決めていた。奇策も暗殺も不要、真正面から立ち向かうつもりなのだ。

「――今回は我が領において、重大な任務である。ハーブルの村近郊の岩山において確認された魔物は最低でもAランク。討伐しなければ、白竜の、そしてヒュドラの悲劇を繰り返すことになる。これをなんとしても阻止しなければならない――」

 続いて伯爵が想起のは、帝国近衛騎士サラティーナの報告。

――魔物の爪は魔鉄すら切り裂き、魔鉄の剣でも傷一つつかなかった。

 ならば、より破壊力のある武器を。目の前にいるのは伯爵自慢の重装騎士団のランス部隊に、投げ槍部隊。すべてが魔鉄製の武器を手にし、身体強化の魔法を身につけている。魔法に至っては、馬でさえだ。

「――我が領は多大な犠牲を出しながら、これらの強大な魔物を退けた。今回は白竜の時同様の、外見をドラゴンとする魔物である。だが、我らは既に2度勝っている。2度勝てたのなら――」

 演説をしながら傭兵団を見る。思い出されるのは、Aランク冒険者。異名を『魔銀の射手』とする狩人、アルファード。

――ミスリルの矢でさえダメだ。目を狙っても障壁で弾かれた。

 ならば、より強力な武器を持つ個を。そして、雨のような矢嵐を。今回雇ったのは隣国の傭兵団、魔物退治を専門とする少数精鋭、48名のレラーヤ傭兵団。団長は魔金属アダマンタイトの槍を持つクーヤ団長。そして、最大規模を誇る、198名のシーカーヤ傭兵団。団長は物量の妙を知るといわれるニギー。他、3つの傭兵団が存在している。

「――3度目も勝利できる、仮に本物のドラゴンなのだとしても同様だ。討伐の暁には諸君らは天にも届く名誉をその手に握るだろう。皆が力を合わせたのならば……」

 演説をしながら、魔術師団と布に覆われた兵器『雷神弓』を見る。そしてAランク魔術師の『エレメンタルマスター』、エルエリーンの報告を脳裏に浮かべる。

――ただの魔法じゃダメ。上級魔法が通じない。やるなら……極大魔法以上。

 『雷神弓』は希少な資源を消費する上に一度使えば「鍛造しなおし」を要求されるほどに使い勝手が悪い。だが、その威力は城門をも撃ち貫き、城まで貫通するくらいには折り紙つきである。そして剣を抜き、上に突き上げて言葉を放つ!

「ドラゴンであろうと、強大な魔物であろうと討伐は必然であるはずだ! 諸君、城門に奴の首を飾り……ドラゴン殺しの名誉を共に受けようではないか!」

 天を突くほどの歓声があがった! 伯爵としては竜族との盟約が少し気になる所であるが、人の領域に侵入しているドラゴンなのだ。討伐しても問題ないだろう、過去の歴史でもお咎めがなかったとされている。伯爵は城門から階段を使って降りて、専用の黒鹿毛の名馬に乗る。そして集めた討伐団を率いて、魔物の巣に向かって歩を進め始めた。



(これだけ揃えれば大丈夫と思うが……)

 出陣用意をするのに1か月。相手が大型の魔物1体だけなので過分に思うが、曲りなりにもドラゴンを名乗っているし、Aランク冒険者達の報告もある。魔術師のエルエリーンはこうも報告していた。

『――ステータス上は弱いけど、この魔物に関してはそれは当てはまらない。私の見立てだと、Sランク級の強さは確実』

 Sランク。直近ではこの辺りに巣を構えていたヒュドラ、という魔物がそれにあたる。7つの首をもつ蛇の魔物で高い知能を持ち、人族の肉を好む。その際は、これよりも少ない人数で対処し、撃退には追い込んだ。それでも、撃退するまでに1つの街が消え、2つの村から人口が激減した。故に、今回は迅速に、かつ大規模な討伐団を集め、動員した。だが――

(……だが、この不安はなんだ?)

 彼は不安を消し去ることはできなかった。過剰防衛ともいえる戦力を整え、『雷神弓』を引っ張りだしても、なお。この場には、彼以外に心配をしている者は、いない。

「気のせいだといいのだが……」

 表情には出さず、ポツりと口にする。異変があったのは、その直後だった。

「ほ、ほ、報告! 遠方より魔物が――」

 その報告がされはじめるのと、討伐団を地面へ叩きつけるような暴風が襲い掛かったのは、同時だった。多数の兵士や傭兵が地面に伏し、そうならなかった者も立ち続けることに全力を注ぐ。風が止んだ後に、顔を上げた時。そこにあったのは、羽ばたくことなく浮かぶ、異様な巨大な赤い竜の姿だった。



『矮小なる者よ、我が縄張りに……何用だ?』

 我は翼を開き、羽ばたくことなく飛んで目の前の軍団を見下ろしていた。装備が整った集団が3つ、槍部隊と思わしきものが100名、重装の騎馬部隊が50名ほどか。最後の50名はローブに杖……魔術師だな。残りは300名くらいで、装備もバラバラのようだ……。しかし、倒れている者が多く、中にはそのまま動こうともしない者までいる。風を起こしただけでこれとは、軟弱な。

「……」

 声かけにもかまわず、矮小なる者たちは沈黙する。中には震えている者さえいて、誰も動こうとはしない。……少し、念押しの必要があるな。。我はそのまま角を帯電させ……『殺傷威力』で脇の木々に向かって雷を放った。轟音が響き、辺りに光が満ちる。

『もう一度、問う。我が縄張りに……何ようだ?』

 光が晴れた時には、辺りはさらに静かになっていた。動物が逃げる音が聞こえる。木にもあたった故か、燃える音がよく響いておる。そんな中でようやく動いたのは、騎士の集団だった。真ん中の騎士は、サーコートを風にはためかせている。

「竜よ。ここは我ら人の領域。古の盟約に従い、立ち去ってもらおう」

 盟約? そのようなもの、結んだ覚えはない。我は『古の盟約など知らぬ。我に命令するとは……言語道断』と雷を帯電させる。騎士は、なんでもないかのような表情で言葉を出す。

「竜の領域は竜、人の領域は人と……遥か昔の取り決めで境目を決めたはず。知らないとは言わせん」

 この時にも竜はいるのか。だが――我には関係ない。

『我は異なる大地のドラゴンである。この大地のドラゴンであれば別であろうが……そのようなものは知らぬ。要件は、それだけか?」

 牙を見せ、威嚇する。追い出すことが要件なら、我は拒絶の意思を返すのみ。騎士は「やはり、騙っているだけで魔物は魔物か」と声を出した。

「ならば、是非もなし。去らぬのであらば……その命もらい受ける」

 騎士は剣を抜き、静かに「攻撃開始」と正式に宣言した。同時に再び矢が降り注ぎ、槍が降り注ぎ、魔法が飛んでくる。予想はしていた――ならばドラゴンの理を持って、変えさせてもらう!

『笑止。愚か者よ、ならば……我がドラゴンの力、身をもって味わうが良い!』



――のちに人は語る。あれは怒れる竜の神だと。人は伝える。竜に、力をもって訴えるのは愚かだと。そして、ここの戦いを知るものは語る。あれは虐殺だった、と。

次回更新は3月24日予定です。よろしければ、感想・評価などお願いします。

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