表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/24

7- ドラゴン堕ち

『マスター、現在地周辺の言語及び文字情報の翻訳、完了しました』

 お、やっとか。俺は洞窟に寝そべり、その報告を聞いていた。冒険者が来て、地球時間でおよそ1か月が過ぎていた。とはいえ、昼夜の長さで言えばこの星は地球によく類似していた。1日は24時間で丁度。1年は365日でキッカリ。あんまり体内時間を壊さない環境でちょっと助かる。

「これで現地人との認識の相違が起こることはないかな」

『否定。風習に関しては不完全のため、そこで相違が起こる可能性はあります』

 あー……風習に関しては一緒に暮らさないと分からないこと多いもんなぁ。まぁ、そこはしょうがない、か。

『ちなみに現地情報より、マスターはドラゴンとは呼ばれていないそうです』

「えっ、じゃあなんて?」

『サイバネティックスエイリアン、という固有名称で呼ばれている模様。広義だとこの世界で「魔物」と呼ばれている動物の一種、と認識されています』

 ドラゴン扱いじゃないのか……俺はそれを聞いてがっくり来ていた。ってか、エイリアン扱いて……異星の生き物でもきたことあったんだろうか?

(他冒険者は来ているけど……様子見るだけみたいだしなぁ)

 少人数の上、たまに洞窟から顔を出してにらむと逃げるし、せっかくドラゴンらしい洞窟にしているのに……。ここ一か月で俺の思う「ドラゴンの巣らしい洞窟」を見る。

(洞窟肌に生える水晶、寝床の麦藁、背後の金銀財宝……)

 とはいえ、金も銀もまだ希少の為、大抵は宝石だ。ただし、人工100%。現地人には、きっと違いなど分からないだろうし。少しの金銀に至ってはメッキだったり、鉄をすごく磨いただけだったりするし。他、鎧なんかは放置するのはなんか勿体なかったので水晶をケース代わりに飾ってる。

(ま、隠してるところは生活感満載だけどね)

 岩肌に偽装している扉も向こうにはドラゴンサイズのキッチンもどきもある。機械室もあるし……通信設備もある。そして、藁でしいて分からないようにはしているけど実は下にスリープゼリーベッドを仕込んであったりする。お陰で寝心地は抜群だ。

(けど、いつかは去らなければならないんだろうなぁ)

 忘れそうにはなるが、遭難しているわけだし。ネット環境以外の設備は割と整ってるけど……。その際にこの身体ともお別れになるのかなぁ。拠点はまぁ、爆破せざるを得ないだろうし。

『それとマスター……二つの良くない報告があります。お聞きになりますか?』

 良くない報告? 船が故障でもしたのか、救助がよっぽど先になるのか……でも聞いておかないとまずいか。俺は「もちろん聞こう」と小さく吠えた。


『まず……この星の場所が人類の観測しえない場所であることが判明しました』

 ……は? よく聞こえなかった。もう一度いってくれ。

『了解、復唱します。この星の場所が人類の観測しえない場所であることが判明しました』

 律儀にリラは言葉を返す。そんな、馬鹿な。

「人類は外宇宙にさえ進出しているし、異星文明との付き合いだってあるんだぞ? 飛んだ原因だってワープ装置の故障だ、そんなことが――」

『事実です。その説明からまずいたします』

 現実の受け入れられないまま、説明が進んでいく。最初に、現存しえる居住惑星、および軌道上居住施設の天球データを片っ端から照合したらしいが、一致データが何一つなかったらしい。そして、量子・脳波・電波あらゆるデータを照合し、未開文明含む異星文明圏のデータを確認したが、これも該当なし。最後に――

『現在観測できる星のデータの座標を千億光年まで精査し、未来座標・過去座標に至るまで演算しました。結果、一致無しという結果を得られました。この事象から考えられるのは――』

 人類の到達範囲から、極大銀河レベルの端から端というレベルで途方もなく離れている可能性。もう一つは、宇宙すら違うという可能性。

『よって、救助が来る可能性があるのは極めて低いです。長距離にしろ、宇宙間にしろ……ワープ起点のデータから精査する他ありませんが……』

 精査してもわかるのは、「亜空間で漂うことになった」という可能性が極めて高い、ということだけです。リラは冷静に、そう冷酷に俺に伝えてきた。

「……つまり、帰れないってこと……か……?」

『可能性は0ではありません。ですが、少なくともマスターの知る社会構造及びマスターの知人達に会える可能性は、ほぼ0です』

 ――思考の空白。何も考えられない。何モ信ジタクナイ……。

『マスターの精神不安定化を感知。緊急事態につき、強制的に安定化させます』

 思考が戻ってくる。しかし、戻ってきても現実を受け入れたくなくて、呆然とし、思考を放棄しようとする。

『ストレス値増大を感知。安定化のため、ナノマシンを全力稼働させます』

 再び正気に戻る。ひと昔前なら吐き気や眩暈の一つでも感じただろう。だが、体内のナノマシンがそれを強制治癒する。やめろ、やメロ、狂ワセテクレーー。

『バランス異常を感知。オートバランサーを起動します』

 我に返らされる。倒れたくても、崩れかけた姿勢がバランサーによって整えられる。発展しすぎた技術は皮肉なものだ。何度繰り返しても、発狂を防ぐべく強制的に正常な状態に戻された。――狂うことすら、許されないらしい。

「――ハハ。ハハハハハ、ハッハッハハハ!」

 もう、笑うしかできなかった。確かにドラゴンになりたいとは願った。だが、それは元々いた世界でそのまま暮らしたいという意味の方が多分に強かった! 何も、ドラゴンのまま一人ぼっちになりたかったわけじゃない! なのに、なんで! どうして!

「俺ばっかりがこんな目に合わなきゃいけないんだ!」

 慟哭が、洞窟内に響く。絶望しか感じられなかった。元居た世界に帰れない、誰とも会えない。それだけが、ただただ嫌で嫌で嫌で。縋るものなんて、もう何も――

『申し訳ありませんが、緊急事態につきもう一つの報告をさせていただきます』

「……これ以上酷い報告があるのか?」

 皮肉交じりに言葉を出す。その声は、さぞ不機嫌そうだっただろう。今でも狂いかけて、何度でも正気に戻されている。

『現在、この洞窟に接近する集団があります。数は推定500名。監視衛星からの映像出します』

 出てきた映像。上空からの映像だが、そこにはさながら軍隊の行軍らしきものが移っていた。あくまで中世レベルではあるが……旗をもった人がいて、様々な人種がいる。金属鎧も身に着けているし……魔術師と思わしき者も確認できる。現地の兵器なのだろうか、布に覆われた何かも確認できる……ああ、そういうことか。

「魔物なら……ドラゴンなら討伐するよな」

 おそらく、あの冒険者たちが少人数で出せる最高戦力だったのだろう。それを超えたから、中世の王国だか帝国だかの軍隊が出てきた……ということだろう。ふと見下ろす。映るのは、ドラゴンの屈強な前足。神話のドラゴン達なら、どうしたか。

(そうだ……)

 どんなことをしようと、もう人として失うものなんて何もないじゃないか。なら、トコトンまでやってやる。この世界にはどうせ、地獄もクソも、俺の世界の何もかもがないんだ。

「……いいだろう」

 俺は、俺を消す。もう俺の過去を知る人は誰もいない。あるのは、俺の集大成である「我」だけ。なら俺は、「我」は、そう行動するしかあるまい。何故ならば――

「我はドラゴンである! 矮小なる者がどれだけ集まったところで、身の程を思い知らせてやることに変わりはないわ!」

 我はドラゴンとして作られた。例え現地の者どもにそう扱われなかろうと……そう振る舞うだけのこと! そう考えると立ち上がる。思い知らせるために。

「リラ。今後の「我」の呼称を変更する。以降は「ドライグ様」と呼ぶように」

『――承認。了解しました、「ドライグ様」』

 これが、我としての最初の一歩。他の者からみて「詐称」なのだとしても――

「我は、ドラゴンのドライグなのだ!」

 そう洞窟内で吠えると洞窟を出て、Eシールドを起動。そのまま、軍隊の所に跳んで向かった。格の違いを、思い知らせてくれる!

次回更新は3月17日予定です。よろしければ、感想・評価などお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ