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5- 突撃! 隣の竜の巣もどき!(ただし突撃される側)

 木の窓ではなく、ガラス窓が張られた部屋。その部屋で、首の辺りにグリフォンを思わせる紋章を身に着けた白髪交じりの男が羽根ペンを走らせていた。服は銀糸がところどころに施された男性用のチェニックを着ており、その容姿はこの時代で身分が高いことをうかがわせている。

「……ふぅ」

 男は息を吐き、自身のサインを書いて羽根ペンを置いた。そのまま、羊皮紙を包んだ後に封蝋をする。

「ギルドへの依頼書は、これで問題ないか」

 男が書いた、その羊皮紙に書かれた内容は、こんな感じのものだった。


――ハーブルの村近辺の山、中腹辺りにドラゴンを思しき魔物とその巣を確認。その調査、可能なら討伐を求む。 依頼者 ジルクフ=アルマゲスト 伯爵


 火の玉事件のあと、領内で頭を悩ませていたことはこれだった。最初の報告は冒険者、そこから依頼書を書いた――アルマゲスト伯爵に届いた。最初は森の中、次いで山。何件かの遭遇報告と一緒に山肌が崩されているようだという報告。それが何件か続いた後……何もなかったところに洞窟ができ、その中に銀の箱を背後に置いたドラゴンの姿が確認されたという報告が入った。

(またあの地に魔物が巣を構えるとは……厄介なものだ)

 ドラゴンは縄張りに立ち入らなければ害がない魔物としても知られていたが……人里に近いこともあり、必ずしも安心とは言えなかった。過去、突然立ち退き勧告を行い、その後無視した街が焼き滅ぼされたという伝承もある。なまじ、その地は魔物が巣を作る案件が過去「2件」報告されていたのでなおさらだ。

「最初はいつの間にかいなくなり、二回目は冒険者による撃退が間に合ったが……」

 今回も、同じように行くとは限らない。討伐ができれば一番いいのは間違いないが……。伯爵は机の上に置いてあったベルを手に取り、鳴らした。

「お呼びでしょうか?」

 扉から、執事然とした黒一色の服を着た男が出てくる。伯爵は「うむ」と声を出すと、その封蝋をした羊皮紙を手渡した。

「これを冒険者ギルドに頼む。前金銀貨50枚、調査のみで金貨1枚、討伐した場合はその種類によって応相談、ということにしてくれ。あと、手数料の銀貨50毎も忘れないように」

「承知しました」

 そのまま、執事は両手でそれを受け取り、部屋を出る時にお辞儀をしてからその場を後にする。扉から出る時、廊下の窓が未だに板張りになっているところが目に付く。

(あの攻撃は牽制、なのだろうな)

 領内に残る傷跡はいまだに治りきっていない。彼の領内を襲ったあの「衝撃波」はこの屋敷にさえ、その後を残していた。執務室と応接室だけは修理を終えているものの、それ以外はまだ窓のガラスができておらず、未だ板張りのままになっている。伯爵の屋敷でこれなのだから、街に残る傷はもっと深いだろう。……それが攻撃などではなく、ただの不注意であることを伯爵は知る由もないが。

「あの件も近い。それまでには決着をつけねば……」

 伯爵はそう言葉を漏らすと、再びため息を吐いた。



「……やっとできた……」

 洞窟の地面で身体を横に投げ出し、俺はへたばっていた。無茶苦茶疲れたってわけではないけれど……精神的に堪えた。

(この大きさともなると、横穴掘るだけで大変だ……)

 穴掘り途中で水脈感知からの断念1回。穴堀り失敗2回。そのいずれも、原因は崩落。しかも、1回はある程度掘り進めてからだった。リラの警告がなければ間違いなく生き埋めだった……。

「……リラ、崩落する危険性は?」

『0.36%。ただし、地震などの災害が起きないケースに限定されます』

 この洞窟、岩肌むき出しに見えるが、実は坑道のような作りとSF技術を併用している。素人がやるのが悪いのかもしれないが、ただ横に岩山を崩しただけではダメだった。岩に亀裂が入り、そのまま崩れたし、坑道のように柱を立ててやってみても、時間が伸びただけでダメだった。

(結局、重力制御装置を仕込んだしなぁ)

 そのため、持ってきた資源の半分を利用することになってしまった、解せぬ。そのため、この洞窟はちょっとしたシェルタークラスになっている。岩肌に偽装してはいるが柱もあるし、扉もある。そして扉の向こうには小型の核融合炉心と重力制御装置がある。初期起動電力にこの身体の炉心の出力を併用した。手持ちの資源と、再構成器で作ったものなので、出力はさしてあるわけじゃないが……。そのため、この洞窟、実は電機の明かりもつく。雰囲気台無しなのでつけないが。

「冒険者も来るのはくるけど……皆逃げるしなぁ」

 その移動と建設中に知的生命体反応を何度か感じた。そのたびに工事を中断――最初の一回はその中断中に崩れたが……そのたびに姿を現しては威嚇した。睨めつけただけなのだが――

(英雄が現れるのはまだまだ先、かねぇ)

 一睨みすると我先にと逃げ出したのだ。まぁ、仕方ない、かなぁ……。時折喋っていたので言語解析データと脳波データは得られたけど。

(ともあれ、住処はできた)

 ドラゴンなら後は財宝があれば完璧だ。……けど、まだないのでテキトーに銀メッキだけした降下コンテナを後ろにおいて、洞窟で丸くなってみる。

「……固いし、冷てぇ」

 岩肌で寝るのは相場なんだがなぁ……。しばらく我慢してみたものの、やっぱり不快だ。しょうがない。

「藁くらい敷くかぁ」

 コンテナを開き、その中から再構成器を取り出す。再構成器は構成器と分解器、原子BOXの三つからできている。原子ボックスにある程度原子がなきゃ作れないし、それにしたって電力がやはり必要。今回はもう核融合炉があるのでどうにかなるが。

(サンプルも必要だし、適当な時に出歩くかなぁ)

 そうなるとEシールド発生装置も必要かなぁ。住処だけで資源がスッカラカンになりそう……最悪はリラに命じて近辺に小惑星帯がないか捜索してもらって、そこから資源を調達しなきゃダメかも。

「……本当はウォーターベットとか、船内用ベットが欲しいけど……」

 どっちも今の身体に合わないし、何より大きさが足りない。とりあえずは……麦わら、かなぁ。システムを自分の身体とリンクさせ、指示を出す。そうすると、搬出口に麦わらが作られる。これなら多分、その辺の植物を分解すればいくらでもいけるはずだし……。

『警告。知的生命体が4体接近中』

 麦わらを無心で敷き詰めていると、リラから警告が飛んできた! やばい、敷き詰めている姿見られたら威厳が! すぐさま再構成中止命令、そしてコンテナの箱を閉じ、今敷きかけている場所の後ろにおいて、丸まって寝そべる。厚みがまだ足りないので冷たいのは我慢我慢……。

(戦うかもしれないし、武装の確認をしておこう)

 粒子砲……は問題ないけど撃ったら相手が消えるから封印かなぁ。角の電撃放射装置……はとりあえず今まで通り非殺傷出力。鱗に張り巡らせたEシールドもエネルギー残量も問題なし。爪は……ナノステンレス鋼に設定。単分子カッターと大層な名はついているけど、実際は自動修復機能がつき、任意の物質で構成できる実体剣だし。っと――

(……来た)

 なんとか用意が間に合い、丸まって寝ているかのような状態で迎える。目をつぶっていたって、実は見える。探査機からの映像もあるし、監視カメラだってついているのだから。遠回り気味に来ているようだが、実は見られているのを知ったらどういう気持ちになるだろうか……。

(鏡で様子見か、原始的だなぁ……)

 確か、第三次大戦をモデルにした古代映画では、屋内戦で廊下の先を鏡で覗き見るシーンがあったけ。やっぱり実際でも有効なんだろか、あれ。そんなことを考えながら、監視映像と探査機映像を並行してみる。せっかくなので、黒肌の人種……ダークエルフだが、魔族だかの人が覗こうとした辺りで声をかけよう。

「我が縄張りに何用だ、矮小なる者よ」

 ……いった、言ってやった! 内心興奮しながら、その片目を開いてみた。開いたのは解析重視で機械の目のほうだが。正確には喋ったというよりは相手の脳波に干渉し、遠距離で意思を送り付けたにすぎない。本来は異星人とのやり取りに使うものだ。

(流石に戦うための陣形技術、くらいはあるかぁ)

 弓を持った人間が矢をつがえて後ろに構え、杖を持った人も同様に。残りがその前に出る。男、と思わしき人もいるのに先頭は金属鎧の女性騎士だ。男女差別とかないんだろうか?

「――。―――、――(勧告。痛い目に合わない内に立ち去れ、トカゲもどき)」

『現在の解析結果より、翻訳結果を表示。「警告。痛覚刺激の贈与前に退去せよ、***もどき」です。加えて、再度の言語認識プラグラムも感知』

 これはつまり……侮辱かな? 俺は「ほう?」と疑惑と威嚇の意思を叩きつけてから、立ち上がった。人を見下ろす。威嚇の意味も込めて、角部電磁砲も起動しておこう。

「――、―――。―、――。―――。――――(『解析』した、あれは見掛け倒し。精々、オーガくらいの力しかない。魔力なんてその辺の一般人レベル。聞いたこともない魔物だけど大したことない)」

『翻訳結果。「***した、あれは外見のみ。高くても、***レベルの力のみ。**は民間人。未知の**だが弱小」です』

 仲間に何やら長々と説明しているようだが、そんな悠長でいいのだろうか。とはいえ、今度の冒険者はやる気だし、何やら見くびっているようだ。言語データがちゃんと解析されていないので翻訳は穴だらけだし、古代の再翻訳レベルだが。意思は……送り付けられてると信じたい。

(とはいえ……)

 冒険者を蹂躙する。これほどドラゴンらしいことがあるだろうか、相手が甘く見ているのならなおさらだ。さらなる「ドラゴンらしいこと」に、胸が躍る!

「ドラゴンに対して「もどき」と愚弄するか。ならば……身の程を味わうがよい!」

 決め台詞を送り付けてから、戦闘モードを起動した。さぁ……見せてもらおう。ファンタジーとやらの実力を!

次回更新は3月3日予定です。よろしければ、感想・評価などお願いします。

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