2- やせいのファンタジー惑星
「うーん……」
ここは……確か宇宙船の中。地球から金星に移動しようとして……そこまで思い立った瞬間、俺はガバりと飛び起きた。
「リラ! 状況報告!」
『現在、本船は――』
よかった、宇宙船のメイン機能は生きているらしい。そして、AIのリラに状況を聞く限りだと――。
ワープドライブがオーバーロードにより故障、使用不可能。
反応炉に不具合、出力が45%に低下。
船内電力低下のため、速度を落として運行中。ラボ区画には影響なし。
圧搾空気層に亀裂発生、パージ済。現在は予備層で運行中。
星間ネットワーク応答なし。現在座標特定不可能。
やっばいなぁ……。命の危機があるレベルじゃないか。ちなみに一番痛いのはワープ使用不可かつ、ネットワークに応答がないことだ。いうなれば……古代で言う所の羅針盤なしで太平洋をさ迷うようなものだろうか。
「近隣の星系情報は?」
『ネットワーク接続不可、電波などにも反応なし。今現在の星系では岩石惑星3、ガス惑星2を確認。映像出します』
よかった、どこかの星系内にはいるのか。出ていた場所は……橙色矮星の連星? こんなの太陽系近辺にあったか? 直近の星系は三重連星だし……どこまで飛ばされたんだ? 未開星系であることに間違いはなさそうだが……。
「船内食糧は?」
『推定一か月分。物質再構成器で生成する場合、推定で3か月分』
……ずっと起きてるのは持たないな。コールドスリープ……しても助けがくるかどうか。岩石惑星には……拡大映像を見る限り一つ目は……。
「どう見ても大気がなさそうだな」
『肯定。接近してみないことには不明ですが、アルペドによる観測結果より、大気がない可能性は高です。残り二つは大気があり、赤色はテラフォーミング前の火星と類似、緑色は未知のデータがありますが……居住可能惑星であると推定されます』
……悪運は強いなぁ、普通居住可能惑星なんてそうそうあるものじゃないんだが。ともあれ、希望は見えてきた。当の居住可能惑星は……拡大映像を見ると綺麗な星ではある。エメラルドのように見えるし……こういう場合、毒大気の惑星が多いのが珠にキズだが。もう一方は赤色だった。AIリラの言う通り、赤色の方はかつての火星に似ているだろうか。
「緑色の惑星……暫定として惑星エメラルドと呼称しよう。距離は?」
『現在位置からだと推定50光分。ワープドライブを使用しない通常慣性航行で向かうと、到着はおよそ700日後と推定されます』
不時着できるか、命がある惑星なのかは正直、天文学的確率でしかないだろうか……行ってみるしかないだろうなぁ。もしかしたら途中で助けが来るかもしれないし。
「コールドスリープ装置を使用する。惑星エメラルドの衛星軌道に到着するか、救助船が来たら起こしてほしい」
『アイアイサー』
起きたら救助、きてるといいなぁ。
『船長、間もなく目的地です』
目覚め、相当気だるい身体を無理やり起こす。この感覚は慣れない……ちゃんと起きるまでしばらくかかるし……ふぁ、ぁ。
「救助、来なかったんだなぁ……」
今はAIリラに指示した通り、暫定惑星エメラルドの衛星軌道上にいた。故障とかはなかったようだ……救助も来なかったようだが。
(まずは探査機で調査、かなぁ)
この船には降下艇が2つ、探査機が一つだけ装備されている。探査機、高かったんだよなぁ……。降下艇は1つは降下にも使えるというだけでその実、救命ポッド。このクラスの船には常備されているという代物だ。もう一つは……俺がラボ区画と呼んでいるものだ。あれは本来貨物艇で、地上と宇宙を行き来するのに使うための物なのだ。改造に改造を重ね、ラボ区画として運用しているが。
「とりあえず探査機を一機、低軌道に射出してくれ」
『アイアイサー』
そのまま、船から探査機が落下していく。とりあえず、後は機器チェックくらいでやることはないから身体を起こすくらい……か。
「……なんだコレ」
確かに運は良かった。良かったのだが……。
『文明レベルは中世クラス。未知のエネルギーと思わしき何かが飛び交っている模様』
「未知のエネルギーって?」
確か観測結果の際にも未知のデータがあるとはいっていたが、それだろうか。
『データ不足、詳細不明。既存のデータに一致しません』
地上は水の色や空の色が緑色な以外は大気の存在する未開文明のある惑星だった。剣や弓などが主流の中世ヨーロッパ……なのだがどう見ても『魔法』のようなものがあるのだ。いうならば「ファンタジー」の世界だろうか。ちなみに現地の動物は狂暴のようで、人に襲い掛かってさえいる。そして、現地人……普通に人間に類似した何かと現地の動物の双方が「魔法」を使用している。
「……通信さえできれば大発見だなぁ」
星間ネットワークが応答なしなのが惜しまれる。こんなの見つけたと報告できれば一生遊んで暮らせるのだが。しかし、生存のためにはこれに降りなきゃいけないわけで……戦闘可能な装備だなんて……あ。
「……ふふふ」
『バイタル異常を感知。鎮静を推奨』
「これが落ち着いていられるか!」
名目も立つ。あれ以上に優秀な装備もないだろう。「不正に運び込まれたテロリストの装備があったのでそれを使用」とかにすれば罪にも問われない! なんという幸運だろう、あれを公に使えるなんて!
「リラ、ニューロ転送準備だ!」
『あれを使用なさるので?』
「あれなら宇宙にも耐えられるし、大気圏離脱も可能。戦闘もできるし変な空気だったとしても問題なし。これ以上の装備があるか?」
『肯定。現段階ではあれ以上の装備はありません』
待ってろよ、愛しのドラゴン体! 俺はそう思うとそのままラボ区画に走りだした! あぁ、身体が軽い、こんな気持ちははじめてだ!
『船長、それは古代、死亡フラグと呼ばれていたものです』
次回の投稿予定は2月10日です。