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23 -ヒュドラ、動く

『おのれ……おのれおのれおのれぃ!』

 旧ゴラ村の一角。川に毒を流した魔物であるヒュドラは荒れに荒れていた。今度は首の目は血走り、全て起きてはいるものの……その首は「二本」足りなくなっていた。

『魔素のない、獣の分際でぇ……!』

 尻尾を叩きつけ、それでいて以前は感じなかった痛みでより憎しみがつのる。その黒い身体には不自然に隙間があり、よくよく見ればウロコがなく、焼けただれた跡が残っている。そして、防いだ故なのか、その隙間に沿うようにして赤黒く膨れ上がった肉がいくつかの首にくっついていた。しかも、その身体には一部融けた岩が身体にくっつき、その周りを赤黒く、醜く膨れ上がってもいる。

(お前はこの程度、というつもりなのかえ、あのクソ獣は!)

 あまりにの速度で岩が飛んできた時、ヒュドラはその膨大な魔力で障壁は張っていた。しかし、砲弾に等しい速度で飛んできた岩に耐え切れず、貫通され……結果、首のうち二つが潰れてしまったのだ。本来ならすぐにでも再生するようなものの……ご丁寧に火山弾の如く灼熱に熱せられていたせいで焼けただれ、すぐに再生することが叶わなくなってしまった。ヒュドラは思う。

(ウロコの者どもに首を4本持っていかれ、焼かれた後に再生するまでどれほどかかったと思うておるのか……!)

 荒れ狂う尾で辺りはほぼ更地になっていた。木屑が舞い上がり、石くずが辺りに散らばる。村があった欠形跡は……最早殆どない。近づく眷属も……最早いない。

――ヒュドラ様、一体……

 最初に尋ねてきた眷属はその質問を言い終えることなく、その尾で地面に叩きつけられ、染みになった。それが2体、3体と続いたのだから誰も近づかなくなるのは当然だ。ヒュドラはそれに気づいてはいたが、己の怒りを発散する方が、今の優先順位は高かった。そして、次に高かったのは――憎しみだ。

「グォォォオオォォオン!」

 上げるは怒りの咆哮。そしてこの咆哮は、眷属に向かっての唯一つの命令でもあった。それは「招集」だったのだから。集める理由は、たったの一つ。

『もう我慢ならん! ウロコのものよりも先に、あの獣と村を……血祭りにあげてくれる!』

 それは、村をドラゴンごと滅ぼすためなのだから。それは、良くも悪くも、騒動を引き起こす一つの種だった。森がざわめき、そしてヒュドラでも、ドラゴンもどき側でもないものも、動き出す。

「……前の騎士共じゃそうでもなかったのに、今回のあいつは大分怒り心頭だな。今度の奴はどんなのか、少し見に行ってみるか」

 洞窟に隠れていた闇から、蛇のような黄色い目と縦割れの瞳が覗く。まだ暗がりにいるためか、その輪郭は巨大であることいないハッキリしない。しかし、興奮しているのか……口からは炎が漏れていた。漏れている火から、その顎が前に伸びていること。そして体表が真っ白なことが見て取れる。

「……今度こそ、失望させないでくれよ」

 洞窟の外に出たその姿は、白く輝いているように見えた。そして、白い翼が空に放たれた。



『報告。魔獣と思わしき害獣がゴラ村に集合してる模様。襲撃計画の修正を提案します』

 リラからそんな報告をされたのは、丁度洞窟内で昼寝をしている時だった。我は首をもたげ「あの程度では懲りんかったか、愚かな」と言葉を出す。最近は雑魚ばかりで面白くなかったからな、ドラゴンらしさを出すためにもいい当て馬だろう。

「しかし、襲撃計画の修正とな? 当初の予定ではゴラ村にブレス一発。その予定だっただろうに」

 我が言うとリラは「現行の作戦案では、将来的に村へ被害が出る可能性が浮上しました。こちらをご覧ください」と目の前にスクリーンを出した。そのスクリーン上では魔素がある一定基準に達している獣が、ゴラ村に集結している様子が見て取れた。一部は逆に離れているが、村の方角には来ないようだ。

『かなりの規模が集結しているようです。現作戦のまま、ヒュドラを消滅させますと……』

 ゴラ村中央の光点が消える。すると、森を中心に赤い点が散らばった。中央のは根こそぎ消えているが、それでもかなりの数がある。

『70.2%の確立で魔獣と呼称する存在が広範囲へ分散します。散発的な村への襲撃と、街道襲撃の活発化が予想され……ドライグ様の村統治に影響が出ます。他、最悪のケースとして16.9%でその位置から村に向かう可能性があり、対処能力が限界に達すると推測。そうなりますと、本船を動かさない限り、村に被害が出る確率が54%です』

 それは……少しまずいな。村への襲撃と街道は最悪我が手を焼けばなんとかならんこともないが……本船も動かさなければ村に被害が出る可能性まであるとは。……だが、アレは最後の手段だ。可能な限り、その手を使うことは避けたい。

「残りは?」

『3.2%で縄張り争いの勃発。2%で襲撃と逃亡の複合。残りはこのようになっておりますが……』

 目の前にリストが表示される。……複合パターンが多いな。縄張り争いと逃亡の同時、街道の占拠……。これだけのパターンの想定は現実的ではないな。

「当然、修正案はもうあるのだろうな?」

 リラは端的に『ございます』と返答し、映像が巻き戻した。こちらはブレスをヒュドラに撃ち込んでいないパターンなので、シュミレート上で村に光点が集中する。そして次に起こるは、ハーブル村への一斉進撃。予想される数は先の討伐団よりも相当多く……万は居るだろうか。これだけ多ければ手間だな。

『放置しておけば、勝手に集合し、まとめてこちらに来ることが予想されます。これらのある程度隊を分ける可能性はありますが、ここを眷属8、4機の混成隊で対応し、最初の第一波にブレスを撃てば――』

 直線状に赤い点が消滅する。まだ一部は残っているが、それでも最初にブレスを一撃撃った時に比べればこの差は歴然だ。生き残りは出るが、それでも影響が限りなく少なくなる、という程度には多くない。なるほど、後々で対応するより、一網打尽にする方が効果的、というわけか。

『後々の影響を限りなく少なくすることができるでしょう。ヒュドラがその集団に混じる可能性は58.2%とそう高くはないですし、生態系は崩壊するでしょうが……そこはドレイク隊で村人をある程度サポートすれば問題ないかと。ヒュドラは衛星軌道からサーチしてあるので気にしなくていいですが、生態系については最悪、ドレイク隊を遠出させて回復するまでサポートすれば村にも影響が出ない可能性が80.3%です』

 我はその提案にふむ……と声を出した。手がかかるのが難点だが……本船が出るデメリットを考えれば及第点か。しかし、影響が少なくなるとはいえ、力の面以外での我への依存が高くなるのが懸念だな。

「村人が我に依存しすぎぬか? 獲物の位置を探す必要がないとなれば、質の低下もそうだが、いつまでもドレイク隊を使う羽目になるのでは?」

 リラは『その場合、最初にドレイク様が宣言しておけば解消できます』と即答します。……手間がかかるが、これも致し方あるまいか。だが、念には念をだ。

「念のため、腕が下がったと仮定した場合の再教育プランを作成せよ。多少スパルタでも死ななければ構わん」

 最初の何人かを再教育し、マニュアル化しておけば多少は軽減できるだろう。リラは『了解しました、プランを作成しておきます。それと……』と言ってもう一つウィンドウを表示した。何だ、まだあるのか?

『おそらくはヒュドラのものでない大型の魔獣も接近中です。映像、出します』

 ヒュドラのものではない、って……お、おぉ! 見えるのは翼を広げた、ドラゴン姿! 映像データではちょいちょい確認はしていたけど、これは生で見る機会か! 鼻を鳴らして映像を食い入るように見ているとリラが無情な提案をする。

『このままですと、ヒュドラ討伐作戦の際影響が出る可能性があります。生体データ及び戦闘データもまだ少ないため……憂いを絶つ意味を込めて軌道上からのミサイル攻撃で前もって排除したいのですが如何でしょうか?』

 ハっと我に返り、そのまま「まだ敵と決まったわけではあるまい」と言葉を出した。貴重なサンプルだし、話すための絶好の機会だ、逃す手はないが……タイミングが悪いな。

「ならぬ。関係ない可能性も否定できぬ上、折角の同胞だ……よほどのことをしなければそこまでやることはない。どうしてもというのであれば――」

 接近の際にレーザーを使って威嚇射撃の後警告。それを無視するようなら……すぐにでも攻撃できるようミサイルでロックオンしておけ。その後、我が対処する。そう締めくくった。リラはなおも食い下がる。

『承諾いたしかねます。24.3%の確率でドライグ様が怪我または死傷を負う可能性があります』

 現地の動物で死傷までは言い過ぎだろうに。まったく……、折角の同胞との邂逅を邪魔されたくはないのだが。下手なことは言えぬし……致し方あるまいか。

「ならば……その場合は眷属4機を回し、妨害を行え。その4機が撃破された場合は……止むを得ん。ミサイル攻撃を許可する」

 撃破するということは害意があり、話し合いの段階ではなくなるだろう。その場合なら仕方あるまい。話の機会が奪われるのが難点だが……最悪、サンプルにはなるだろうて。

『了解しました、それを踏まえた作戦の修正案はこれで問題ないですか?』

 おおよその変更後のプランが提示された。……ふむ、会敵は予測一週間後。戦場はハーブル村と旧ゴラ村のハーブル寄り……ちょうど、我のブレス跡が残っている地帯だな。で、今行商に出させているものはドレイク隊のワイヤー輸送で済ませる、と。まぁ、それがなくては8ではなくて5になってしまうしな。ただでさえ、4機引き抜く可能性があるのだ。そんな状況であっちに戦力は残しておけん。それで、村の名代扱いで不穏分子だけを置いて帰還させる、と。

「いいだろう、許可する」

 リラは「では、襲撃案を修正いたします。細部についてはリアルタイムで更新しますので1日1回はパッチを確認してください」といって通信を切った。一週間後か……前は討伐団の襲撃後、それくらいで生贄が来たのだったか。最初の一か月は何事もなかったのに、村を支配したのでこれだ。まったく……。

「ドラゴンというのは、大変よな」

 だが、我はドラゴンなのだ。これくらい捌けなくてどうしてそれを名乗れようか。我はそう思うと、四本の脚で立ち上がった。白いドラゴンの方も、その間に尋ねてくれば良いのだがな。こればっかりは運か。そのまま、我は気を紛らわすかのように空を舞い、村へと向かった。

よろしければ、感想・評価などおねがいします。

9月30日追記

誠に申し訳ないのですが、リアル事情が変化して時間が取れないのと色々と詰まってしまったので落ち着くまで休載にさせていただきます。

次回更新は未定になりますが、落ち着き次第再開はします。それまでのんびりとお待ちください。

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