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22 -ドラゴンのがんせき投げ!

(さて……)

 我は今、村の入り口に来ていた。何人か村人が目を見開いて「ド、ドラゴン様、如何されたので!?」と驚いていた。まぁ、何かあるから居ると思うよな。そんなことはないのだが。

『何、戯れである。何か粗相があったわけではないから気にするな』

 村人は「そ、そうでございますか」と震えた口で返答し、何度も、何度も振り返っていた。あまりにも見返していたものだから、牙を見せながらつい口走った。

「くどいぞ! 戯れ程度だ、邪魔になる前に立ち去れい!」

 村人は「ひぃっ!」と言いながら走って逃げ去った。……順調に恐れられているようだな。ある意味、ドラゴンとしては誉れであるはずなのだが。

(……本当にこれでよいのだろうか?)

 ドラゴンとは恐れられ、それ故に敬われる存在のはずだ。だから、距離を置かれるのは致し方のないことだ。けど、どうしても寂しさを感じてしまう。……いかんな。

(これくらいは覚悟したこと。……ドラゴンであるためには、乗り越えるべき壁なのだ)

 頭を振り、一度思考の外に追いやると我は今回の事件――「水質毒混入事件」とでもしようか。それについて考えながらた元凶が居ると思われる場所を、ずっと見ていた。衛星映像からなら奴の居場所を見ることはできるが、目で見た場合は流石にここからではその様子を伺い知ることはできぬ。

(やはり、放置できんよな)

 ドラゴンたるもの、座して構えるものが普通だ。故に、向こうから直接挑んでこぬ限りは軽くあしらってやろうと思うておった。が、水に毒は看過しかねるのよな。あれは矮小なる者の生死に直結しかねんし、我だから大丈夫だが……普通ならおそらく縄張り争いのレベルを超えている。何も考えなければ粒子砲を一発、それで済みなのだが……。

「前も同じだったのよな」

 我を討伐しに来た輩たちに、狂暴な動物の群れ。我はそのいずれも粒子砲で沈めた。あれはある種の見せ札ではあるが、何回も連発していては面白くない。何の気なしにとりあえず来ては見たが、中々思いつかぬものだ。

(眷属を使って襲撃……いや、守りが疎かになるな。宇宙船から爆撃……は我がやってるか疑問符が残りそうな上、いざという時まで隠しておきたいのよな。我より目立つし)

 兵器を作ってその場で……。いや、これもダメだな。レールガンは既に現地種族が作っておるからそれを奪って使っているという印象を持たれかねん。もう、素直に粒子砲を使うのが無難か?

『ドライグ様、それでしたら原始的ではありますが有効な手段があります』

 視界の端でリラの映像が浮かぶ。おそらくは水生成装置の説明中だと思うのだが……AIだからまぁ、仕方なしか。

『有効だが、原始的? そんな手段あるのか?』

 通信のみでリラに語り掛けると『ございます。やることは単純明快、質量攻撃です』と映像データを出した。ほう、これは……投石器か。確かに質量攻撃ではある。が、原始的すぎやせぬか? 確かに映像があれば組み立てられるだろうが。

『ドライグ様。あくまで映像は例です。ドライグ様なら、岩を投げるだけで充分でしょう? あの程度の現地動物相手の懲罰にも十分です。これで懲りぬようなら――』

――その時は私とドライグ様と眷属で蹂躙しましょう。相手に知能があるなら、いい見せしめになります。

 確かに、人種族相手にはもう見せしめはしたが……獣種族相手にはまだだったな。獣の群れを統率していた辺り、あれでも社会集団の長だろうし。やれやれ、集団が変わるとその都度見せしめせねばならぬというのは大変だな。

「まずは、岩を探さぬとな」

 辺りを見回す。あれに使えそうなものは……木くらいか? となると、良さそうなものがないか少し探すーーそう思って歩を進めようとした瞬間、リラより通信が入る。

『必要ありません。それに、木では強度として不適当です。それより、重力制御装置を使用し、小惑星帯での資源採取の要領で岩を作成することをお勧めします。それなら投げるのに理想的な球形にもなります』

 いや、待て。アレと岩を作るのは規模が違うぞ。出力も足りぬし――そう問いかけようとしたが、脳波を読んだのか、『民間の出力機でも同じことをするのは可能です。問題として時間とコストに見合わないだけで』と返答した。まぁ、片手で持てるサイズの惑星なんて、利用価値が微妙だが……。

『何より、岩を持ってくるよりも目の前に岩を作る方が「神話のドラゴンらしい」のではないでしょうか?』 

 なるほど。確かに……ドラゴンらしく威厳がある行為ではあるな。思う所は少しあるが、採用するとしよう。

「確かに道理ではある。代案もないし、それで行こう。リラ、重力制御装置のコントロールを頼む」

 リラは端的に『了解しました』と通信で返事を入れた。そして、身体にかかる重力がそのままになり、重力発生点が前方100メートルほど、そのまま直径の円状に重力をかけ始める。

(リラ頼りなのが欠点だが……まぁ、仕方なかろう)

 今更、ではあるし。そう思うと、我はそのまま目の前にできていく岩を眺めていた。



 あーあ、ほんとあのドラゴンと眷属は規格外よね。風であたしの銀髪が揺れる中、ここに来てもう何度目かもわからないため息を吐いていた。最初のうちはそれで死ぬほど驚いて、何度もツッコんでたのに今じゃ「またか」レベルよ。もっとも――

(今でもツッコみ足りないこと、多いけど)

 あたしは先ほど説明の終わった「水生成装置」とやらの財を見る。そこでは村人がちょっとびくつきながら、あいつの眷属の監視下で水を汲んでいた。ただ――

(あたしは平気だったけど、他の村人は「驚くほど楽になった」らしいのよね……)

 従来の井戸は汲み取り式だ。だから、木の桶を下ろしては水を汲んで持ち上げるんだけど……その力仕事が苦労するらしい。それが、取っ手のついた管から注ぐだけで済む上に暖かい水と冷たい水を両方出せるというのが曲者だ。どんな仕組みしてんのよ。

「井戸を使えないと言われた時は焦ったが、ありがたいことだ……」

 あんなのありがたがっちゃって、何よ。あれが得体も知れないことは変わらないのに。それに、その魔道具――いや、あれは違うわね。魔素欠片も感じないし。それならまだ、あのもどきをドラゴンですと言った方が信じられるわ。

(しかもあれ、説明でじゃー―)

――ドライグ様は村が消えるとおっしゃいましたが、正しくは「主都」が消滅レベルなのでそれくらい丁寧に扱ってください。

 それを聞いた時にはひっくり返りかけた。村人もその瞬間、装置から距離をとったほど。ぶるむつーという眷属は「ご安心を。余程乱暴に……サイクロプスが金棒で殴りつける、または山脈の頂上から投げ落とすなどしなければそうはなりませんので。正しく使えば可能性は0です」とはいっていたけど……何よそれ! どう考えても危険物でしょう! ってか壊れる基準それ!?

(本当の使い方は爆弾か何かじゃないでしょうね!?)

 口には出さず、あれの眷属を睨みつける。とはいっても、あの眷属が気にした様子はない。ドラゴンのような顔はしているけど、本当に生き物なのかってレベルでアレは表情変わらないのよね……ゴーレムか何かを相手にしているかのようだわ。

「ヒュドラもほんと、余計なことしてくれたものよ……」

 めんどくさいけど、これ以上アレに何かされる前に駆除してこようかしら。ほっとくとあのもどき、また余計なことをするだろうし。そういえばアレ、村の入り口に向かって言ってたわね……。一応様子を見に行ってみようかしら。あたしはそう思いながら井戸や井戸を使う人族をしり目に入り口に向かった……までは良かったんだけど。

「えっと、ポール、さん……何あれ?」

 たまたま居たであろう、村の狩人のポールに声をかけた。ポールは口をあんぐりと開けたまま、ドラゴンもどきの前を見ている。声をかけられて正気に戻ったのか、その視線が見開かれたままこちらを向いた。

「オレに聞かないでくれ……多分、ドラゴン様の魔法だとは思うんだが」

 あたしは「あんな魔法ないわよ……」という言葉をのみこみ、ごくんという音を立ててその先を見た。ドラゴンもどきが佇む前に、ある一点を境に岩ができている。そして、その岩には周りから石が集まり、砕け、それでもなお押し固められてきれいな球状になっていた。……所々、赤いからどうせただの岩ではないだろうけど。

『……ふむ、こんなところか』

 そう言った途端、宙に浮いていた岩が急に重さを思い出したかのように地面に落ちた。地面はまるで……帽子をひっくり返した状態になっていて、その岩はその地面に半ばめり込んでいる。

「えっと、ドラゴンも――ゴホン、ドラゴン様、何をなさるおつもりです?」

 危うくもどきと言いかけた、あぶないあぶない。もどきはそれを気に留めた様子もなく、岩を右の前爪で掴み、持ち上げていた……え、それ持ちあがるような代物? できなくはないけど、普通両手じゃないと無理だし、普通の人は触ることすらできそうにないんだけど……。半ば訝し気に目を細めていたあたしに対し、ドラゴンもどきは目を瞑り鼻を鳴らして得意げに堪えた。

『知れたこと。躾のなってない獣に、きつい灸を据えるだけよ』

 ……灸って何よ? 私が首をかしげているともどきが後ろ脚で立ち上がった。そして岩を前足で持ち上げ、岩を遊ばせていた。パフォーマンスのつ――その直後、風を割く突風のような音が遅れて響いた。とっさに目を瞑って顔を腕で覆ってしまう。

(まさかあのもどき……あの状態から岩を投げたの!?)

 正直、ドラゴンの構造はモノを使うことに適していない。4つ足だから当たり前なんだけど……それをかまわずに投げていた。今は4つ足姿勢にもどっているけど、あの様子ならさほど苦もなかったように見える。魔法で投げるならいざ知らず、直接投げるなんて、やっぱり非常識だわ!

「獣って――まさかヒュドラですか!?」

 あれを非常識としらないポールが、腕を顔の前から恐る恐る下げながら、ドラゴンに聞いた。ドラゴンはもう空の彼方にいって見えないはずの岩を目で追っているように見せながら、顔も向けずに返事をする。

『他に何が居る? 害獣の群れをけしかけた件もあったでな』

 ドラゴンもどきは『これで懲りぬようなら、駆除するまでよ』と言って翼を開いた。え、今のヒュドラに向かって投げたの!? ここから!? あたしがもどきとゴラ村のあるほうを交互に見ながら目をぱちくりとさせている中でドラゴンもどきが飛んだ……そしてその後、ゴラ村の辺りにあった魔素の気配が弱まった。まさか、あれで当たったの!? ここから欠片も見えてないでしょ!?

(いや、きっと運の悪い取り巻きが当たったのよね。うん、きっとそう)

 ポールは「ドラゴン様でも牽制はするんだなぁ……直撃させていればいいだろうけど流石にないだろうし」と呟いていた。まぁ、狩人なら矢をそばに射って追っ払うくらいするわよね。――いや、牽制程度じゃあれ、こりないと思うんだけど。それだと意味ないし……意外とあのもどき、弱腰なのかしら? けど、討伐団の規模から考えてあのもどきのが一応魔素が弱いとはいえ、強いだろうし……うーん。

(……たまには動かないとね。あとでこっそり確認しましょ)

 多分、あたってはないだろうけど……。あたしはそう思うと首を傾げながらも一応、村人としての生活に戻った。


――そして、あとで確認してヒュドラの首が二個潰れているのを見て驚くのは、この少し後の話。そしてもう一つ。

『ヒュドラとは別種かつ、光学迷彩を使っている生物を確認。……ドライグ様が喜びそうな外見はしていますし、報告しておきましょう』

――空からの目でしっかりと見られていたのを知るのは、今から随分後の話。



次回更新は9月8日予定です。よろしければ、感想・評価などおねがいします。

9月4日追記

諸事情により、再びで申し訳ないですが更新を1週間延期します。次の更新予定は9月15日になります。場合によってはその次の更新(9月15日の更新後)も一週間伸びる可能性があります、ご了承ください。


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