1- おれのかんがえた さいきょうの ドラゴン
ここからしばらくはSFのターンです。
30世紀の地球。俺はその惑星にある宇宙船で、培養層に浮かぶドラゴンを見ながら、笑みをこぼしていた。
「ふふ、ふふふ……」
生まれてからの苦節、40年。金持ちの娯楽からこの世にドラゴン……といっても人工的に生み出された娯楽用乗用飛行動物が生み出されて幾年月。ついに、ついにやってしまった。
「ねんがんの ドラゴンをつくりだしたぞ!」
銃でもパルスライフルでも……なんならミサイルまで弾いてみせるウロコ。武装航宙艦にだって穴をあけるブレス。装甲板にすら刺さる爪。エネルギーフィールドすら切り裂く尻尾。真っ暗な宇宙であっても飛んでしまう翼。雷を帯電させ、打ち出すことも可能な角。最強の名を欲しいがままにする、まさに『ドラゴン』だ!
「……外見は完璧だな」
我ながらやってしまった感……作ったのがバレた瞬間にこれを処分されて逮捕されるまであるが後悔も反省もしていない。
「はーはは、ハーッハッハッハッハー!」
俺は宇宙船の中で悪役が上げそうな、大笑いをあげていた……。咽るまで。
「……さて、バレないうちにしまうか」
ここは自家用宇宙船の中だから簡単にはバレないけどな。いつか使いたいなぁ。
「船籍名ヨツムンガルド・リラ。船長辰川 晃さん。出航を許可します、よい航海を」
そして、そのドラゴンをしまいこんだ宇宙船と一緒に、航海に出る俺の姿があった。なぜ出るのかって? あれを出す惑星を探す……なんてことはなく、ただ単に仕事である。西暦が3000を超えたこのご時世、自家用車の感覚で宇宙船が普及しつつあるので。
「適当な未開惑星で使いたいけど……監視の目あるしなぁ」
一応、あのドラゴンにも改善点はまだあるので、そんなことはできない。なぜ、あんなものを作ったかと言えば……そこに浪漫があったから。それ以外にはない。昨今ではお金持ちがドラゴンを飼う時代にはなったが、あくまで人工的生物であるためか従順かつ大人しく、全ての能力が生き物の範疇を出ない。飛べはしても車の速度が関の山だし、車ほど長く走ることもできない。危険だからブレスもはけないし、ウロコだって拳銃……下手すればその辺の鉄パイプでだって簡単に傷がつく。
「……こんなのドラゴンじゃない、ただの空飛ぶトカゲだ!」
だからオレは神話にあるような……真の『ドラゴン』を目指したのだ。伝説の英雄でないと討伐できないような……そんな存在を。ただ、問題もあるのだが。
「……生き物的に見えるのは外見だけなのはちょっと癪だけどな」
次を作るとすれば全て生体パーツで作りたいところだが……。それはまた開発資金を貯めながら、にはなるだろうか。実際の所、こいつはガワだけが生体で中身はサイボーグなのだ。
「ブレスは粒子砲、ウロコはEシールド、爪は単分子カッター、尻尾はブレード発生器、翼は重力制御装置だしなぁ」
分類を定めてしまうとするなら反社会的勢力が使う、生体改造兵器だろうか。ただ、反社会勢力が使うには単体のコストが高すぎるからこんなの使わないだろうけど。ちなみに炉心もしっかりとある。最新式の核融合炉だ。そんな使い方想定しちゃいないだろうが……そばにいても被爆しない……というか被爆の概念が消え去ったくらいには安全性はある。
「……使いたいなぁ」
金星への道のりを進みながら、作り出したドラゴンの姿を思い浮かべる。使うといっても……あれは人体のニューロデータを転送又はコピーして動かすものなので培養層の中で微動だししない。さすがに暴れだす危険性は避けたかったし、何より自分で動かしたかったので。ちなみにニューロデータの転送は今じゃ一般的だ。事故を起こした際、医療行為として使われることもある。かといってアレで出歩けば逮捕待ったなし、だ。
「周辺の安全確認。当艦はこれよりワープに入りますよ、っと」
『アイアイサー』
今返事したのは船のAIだ。一応、アバターはドラゴンにしてある。意味は趣味、としかいいようがないが。ワープ開始の連絡を交通管理機構に送り、『許可』の返事が来たらすぐさま、開始のボタンをタップする。
「……次は全部生体パーツ目指したいなぁ」
呟きと船全体が激しく揺れたのは、同時だっただろうか。
――事故報告――
本日未明、金星へのワープ航法に入った宇宙船がワープ直前にトラブルを起こし、異常な数値状態のままワープに突入しました。事故を起こしたのは太平洋連邦の50m級、個人所有宇宙船『ヨツムンガルド・リラ』号です。このため、地球―金星間ワープゲートは現在点検作業を行っています。
事故を起こした宇宙船は現在行方不明で、乗員1名も行方が未だわかっていません。幸い、同ワープ中の他宇宙船・航宙艦に影響はありませんでした。航宙保安省は異常なワープにより、太陽系の外に出てしまったものとみて、捜査及び行方不明船の捜索に当たっています……。
次回の投稿予定は2月3日の予定です。