15- ドラゴン様は料理が食べたい
『……選べ。代わりを探すか、いつ訪れるとも知れぬ恐怖を抱いたまま暮らすか』
フフ、我は好機嫌で村長に問いかけた。シミュレータでは何度かしたが……実際に一斉掃射を行ったのはこれが初めてだ。その爽快感、いかにもドラゴンであるという力。実に気分がいい。
《警告。一斉掃射は次の砲撃までのリフィーリングタイムが伸びます。なるべく自重してください》
……リラよ、水を差してくれるでない。内心ため息をつきつつ、村長を見て、顎で大きな家を指し示す。それこそ「まだあるだろう?」と言わんばかりに。
「……分かり、ました……なんとか代わりを用意させていただきます……」
村の長が片膝をつき、苦々しい表情で頭を垂れる。村長以外のものは……トムとやらは麦藁まみれになったまま、口を開いた呆然とした顔で彫像のように固まっている。
「なにこれ……わたしだけだと止めようが……」
銀髪の人間もどきが凄く小さく、目を見開いて震えた声でつぶやいた。人には聞こえないくらい高音域だが……丸聞こえだ。聞こえないとでも思ってるのだろうか。
『そこの小娘、何か言ったか?』
人間モドキを一睨みすると、両手を口に当てて沈黙した。金髪の娘だけは何か美しいものを見たような、うっとりとした表情を見せているが……周りと少し浮いている気がしないでもない。
(ある意味、この中では一番好ましいが、な)
他の村人共を見れば、トムと同じように驚いたままの表情で固まっているか、震えて動けていないか……あるいは天に向かって目を開き、手を合わせて祈っているかのどれかだ。一人くらい反抗的なものが居ても良さそうだが、そのような気概のあるものはいないらしい。ある意味、好感を持つのが異常とはいえるが。その時に、ふと民家の窓の中にあるものが目に留まった。
(あれは料理、か……?)
間食なのか、夕食なのかは分からんが……木製の深い皿に琥珀色のスープに突っ込まれたままの黒パンらしきものが見える。湯気が立ち上っている所を見ると、まだ作り立てなのだろう。
(……ああいうスープに香り付けで緑色の葉を入れるのは、こちらでも同じなのだな)
スープにはバジルのような、新緑色の葉がまぶされている。そのスープは澄んでいて底が見えるが……焼き色の入った白身肉の塊があった。焼き色があるということは焼いてからスープに入れたのだろうか。庶民の食事と思われるが……思ったよりも手が込んでいる。
(あのパンも丁度いいくらいに味が染みこんでそうだ……)
ふやけた黒パンを見ると、思わず涎がこぼれる。村人が「ひぃっ!」と声を上げる。おっと、いかぬ。しかし……代わりはこちらの方にするか。村の長が村人になんとか正気を取り戻させながら供物を用意させようとしているが、このくらいの変更は利くであろう。
(この惑星の料理は食べてないしな)
狩りはした。だが、料理ではなく原子分解用の有機物としてだ。そのまま、地球の料理を再構成させて食事をしていた。……流石に地球と比べると酷だろうが、たまには食べてみるのもよいか。
『……気が変わった。村の長よ』
声をかけると、まるで古代映画のロボットのような動きで村人の顔がこちらを向く。村の長が汗をわずかに垂らした顔で、こちらに向いた。
「ド、ド、ドラゴン様、何か村のものが粗相をしましたか?」
我は『そのようなわけではない』と声を出し、開け放たれた窓を指さした。村人の一人が「ヒッ!」と声を上げる。あの者の家なのだろうか? まぁ、どうでもよいが。
『……矮小なる者共は料理なるものを食べていると聞く』
このドラゴンの身体に合うものを作るのは大変だろうが……我の知ったことではない。それを予想した者が何人か「マジかよ」と言わんばかりの絶望的な顔をしているが、それを気にせずに言葉をつづけた。
『折角だ……我にもああいうものを用意してみせよ。なるべく、食いでのあるものをな。それで以って、今回の代わりとしてやろう』
村の長が「……用意することは吝かではありませぬが、ドラゴン様に見合うモノを作るにはとても量が――」と口にする。我はそれを遮るようにして言葉を出した。
『あるではないか。多少、肉に偏るやもしれぬが』
我はそのまま、スタンピードが起きていた方向を前爪で指した。粒子砲の直撃を受けた者どもは消滅しているが……湾曲レーザーを受けたものならばまだ死体が残っているだろう。
「……あれはドラゴン様が討伐した魔物。よろしいので?」
『かまわぬ。どうせ食糧以外の意味を持たぬ。好きにせよ……ただし、毒など混ぜようと考えるでないぞ?』
忠告はしておく。とはいえ、並大抵の毒が効くような身体にはできておらぬ。ナノマシンで除去惑いは無害化してしまうからな。毒と判断されるものが混ぜられていればどうすべきか……いや、その時は蹂躙するまでだな。見せしめが増えるだけだ。
(さて、どのようなものを用意してくるか)
普通の料理を用意するにせよ、毒を入れてくるにせよ。いずれにしても楽しめる。毒だった場合は少しばかり……心苦しくはあるが今更だ。我は愚かなことを矮小なる者共がしないように願いつつ、村の広場にどっしりと居座った。
(しかし……)
村人の奔走を見ながら、我は逃げてきたというゴラ村の村民を見た。受け入れてくれるように、話しているようだが――我は発声を一時的に切り、その上でリラに通信を行う。
『リラよ、間違いないのだな?』
《はい。あの村人は「逃げてきた」のではなく、先ほどのスタンピードの群れの中から「出てきました」。何らかの関連性があると思われます》
映像を交えてリラからの説明を聞く。確かに、向かっているスタンピードの中で動物に咥えられてはいたようだ。途中で投げ捨てられて……そのまま村人が逃げ、そこから追いかけられ始めた、という寸法のようだ。
『ゴラ村は壊滅済み、だったな?』
《はい、衛星映像にはなりますが……建物は土台しか残っておらず、中央の建物跡には、八首の蛇らしきものが居座っております》
出てくるのは、全身黒色の首が八つある蛇。ヤマタノオロチらしき何か、といったところだろうか。大きさとしてはおおよそ……15mと大きい。頭の先から尻尾までとすると何mになるのやら。
(日本でならあれもドラゴンに区分されることがあるが……)
蛇一匹一匹も、その胴周りで直径3mはある。人なら丸呑みも楽勝だろう。首が八つある割に、尻尾は一本だけのようではあるが。ただ、警戒は必要だろうな。
『逐一監視、及び動きがあれば報告せよ。念のため、監視は別衛星を作成、そこから行え。万が一、直接船を攻撃されてはかなわん』
もちろん可だ。リラは《ありがとうございます、早速取り掛かります》といって通信を切った。とはいえ、直接攻撃されたところでEシールドで弾かれるだろうが……先のレールガンの件もある。念には念を、だ。それに、今は動いてもどうしようもないのでな。直接狩ってもよいが、念のため情報が欲しい。そう思うと再び村の観察に戻った。さて、どんな料理を作ってくれるのか、楽しみだ。
儂等の村は、蜂の巣をつついたような騒ぎとなっておった。ドラゴンが来るだけなら、正直予想できておったことだ。村の者は混乱の窮地におったようじゃが……十数年前のヒュドラを想えば安いものだ。あの時は貯蔵庫すらも壊され奪われ、村人を何人か食われた後じゃったしな……。
「……よもや、このような事態になるとは」
可能なところで言えば、最初の時は襲わない約束だけすれば最良じゃった。生贄や供物はとられるじゃろうが……時間は稼げる。その間に帝国騎士団なり、Sランク冒険者なり、来て討伐してくれるじゃろうから。
(……だが、あのドラゴンは「臣従」を要求した)
今後、さらに無茶な要求もあるじゃろう。ヒュドラの時には口減らしを行わなければならぬ程の要求もあった。それを想うとため息が出る。
(じゃが――)
最初に要求するのが料理とは。代わりと言われて、村の貯蔵庫を空にする覚悟が必要かと思うた。それが、明日以降厳しくなるとしても……。だが、スタンピードを撃滅し、それを料理することを求めるなぞ、例がない。帝国各所、このようなことはないじゃろう。
「……一応、お釣りが来るレベルではあるんだかのう」
ドラゴンとしては確かに魔物は食糧以外の価値がないのかもしれん。じゃが……
(皮に骨、魔石もあるでな……)
魔石を食べる魔物は多い故、望み薄だが……それ以外は価値が勝りすぎるほどある。問題は売る伝手がないことか。スタンピードの向きからするに、ゴラ村方面は壊滅的。辺境都市からは期待できん。領都方面も討伐団が壊滅した後じゃからな……。強い魔物に近づこうとはせんじゃろう。
「うわ! Bランクのグランドボアじゃないか! ……高級肉だぞ、これを丸焼きにするのか?」
「ああ、ちいと焼くのが大変だが……なんとかなるだろう。謝肉祭用の奴で焼くからな」
儂の前では狩人のポールとエリックが小屋ほどもあるグランドボア……猪型の魔物の下処理をしている。毛を刈り、皮を丁寧に剥がし……解体の腕は随一じゃ、これならドラゴンも納得するじゃろうて。
(それに、あのドラゴンは何処か甘い。うまく利用できれば……)
冒険者の言葉であるが……遥か遠くにあるという島国に、「災い転じて福と為す」という言葉があるという。村の発展のためには、それも考慮に入れねば。一歩間違えば皆死ぬ、諸刃の剣でもあるが……。
(……今度こそは、やり遂げてみせるぞ)
この開拓村は、いわば「口減らし」の集まりじゃ。帝都飢饉で「食料調達のための拠点」として開拓村ができたが……要は飢饉で食料がないが故に追い出しただけ。満足な食料も渡されない開拓が、どれだけ辛かったか。
(……帝都の奴らに、後悔させてやる――)
やっと巡ってきたチャンスじゃ、モノにしてみせる。暗い光を目に宿しながらも、儂は自らの息子を見た。怖がりつつも、奴もドラゴンに向ける目はちがう。利用してやるという風ではないが――
(目の前であそこまで情けなくされたのが腹に据えかねたか)
その分に似合わず、あ奴はドラゴンに恨みを抱いているらしい。そのようなことを抱いたとて、どうにもならぬのじゃから諦めれば良いのじゃが……。
「……何か、障害にならぬとよいのだがのぅ」
不安に思いつつも、儂は村人の作業に指示を出していった。この先の復讐劇。それを考えながら。
――じゃが、災いがまだ終わってないことを……儂らは思いもよらなんだ。
――ドラゴン以外にも、村を狙う『脅威』があることなぞ。
ブックマーク&評価、ありがとうございます! 増えてるたびにニヤニヤさせてもらっています。
申し訳ありません、次回更新日が間違っていました。次回更新は12日ではなく19日です、本日2話更新、ということはありません。間違っていましたことをお詫びいたします。
改めまして、次回更新は5月19日予定です。よしければ、感想・評価などお願いします。
追記
リアルが私事、仕事共に修羅場なので更新をまた一週間延期します……orz




