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13- 本当に「それ」を食べてしまうのか?

「ほう……性懲りもなく来るか」

 我は今、平原で数多の矮小なる者たちと対峙していた。数は……1万を少し超えるくらいか。それも、前回は装備が統一されていない集団が居たものの……今回はいない。全ての装備が統一されている。

「……」

 前回も居た、豪華な服装をした騎士が無言のまま剣をこちらに向けた。前回は見逃してやったが、今回は是非もなし。生かして返さぬわ! 翼を開き、軍団に向かって飛ぶ。迎撃と思われる魔術師隊から繰り出されるわ、数多の光条。それら一つ一つは……星系軍正式採用モデルの携行レーザーライフルに匹敵する。ここまでの技術も持っていたか、面白い!

(500だろうと、1万だろうと同じことよ。再び返り討ちにしてくれる!)

 光を掻い潜り、Eシールドで弾き。一つ一つは大したことないが、云千の魔術師から放たれる光の束が圧巻だ。シールド出力が0.1%単位ながら、ジワジワと削れる。

「今度は……全力だ!」

 粒子砲チャージ、ターゲット……敵兵団。レーザーだけでなく、光り輝くランスや光を纏った剣を持った重騎士隊が接近してくる。ならば、我が光条で歓迎してやらねばな。

《50門翼部湾曲レーザー、レディ》

 翼のウロコが動き、ささくれ立つ。ウロコの間からは光が漏れる。受けよ、これが――

『お楽しみ中のところ失礼します。ドライグ様、早急の報告があるのですが』

 ……むぅ、今いいところなのだが……。我は短く「シミュレータ、停止」と声を出す。何処からともなく《シミュレータ、ストップ》と機械音声が流れると、時でも止まったかのように全ての動きが止まる。宙に浮いたような状態で止まる騎兵に、止まるレーザー。いつも思うが、この状態は中々滑稽だな。

(まだ身体はメンテナンス中だからな)

 こんな光景になってしまうのも、ここはVR空間だからだ。身体を動かすことができないので、時間的に相当暇だ。冬眠状態に入ってもよいが、そうするのはいつでもできる。ならば、少しでも訓練を重ねておかねばな……昔のドラゴン達は驕って足元を掬われることも多かったわけだし、同じ轍を踏むわけにもいかん。とはいえもう二日経つ。メンテナンスそのものはそろそろ終わるはずだが……。

「何があった?」

『近隣集落より、ドライグ様の洞窟へ向かう集団があります』

 盗人でも現れたか? いや、そうだとしても洞窟には寝ているドラゴンのホログラム映像を出している。それでも接近しようとするなら、そのドラゴンが首を持ち上げ、角を帯電させる。それでも抵抗するのならば、洞窟防衛機構による放電攻撃だ。とはいえ、放電攻撃までしたのは恐れ知らずの動物くらいなものだが。

『映像、出します。この集団の、荷車の上をご覧ください』

 ウィンドウが新たに開き、探査機からの映像が表示される。……なるほど、こういうのはまだ予想していなかったな。

「催促するまでもなく、生贄を送ってくるとはな。殊勝なものだ」

 映像で出るのは、村から出発したばかりの1団。3人がかりで運ぶ荷車には僅かながらの金属と果物類に酒類、そして手足を縛られた二人の女性が見える。こちらにもそういう文化はあるのだな。リラから『問題はそこではありません』と注意を促された。

「そこではない? どういうことだ?」

『問題のデータ、出します』

 それと同時に映像にそれぞれの人族の詳細なデータが表示される。やはり僅かながら魔素を身体の一部として持っているのが多いが――なるほど、そういうことか。

「こいつは生物なのか?」

『不明です、核を持つタイプの生き物なのか、生き物ですらないのか。データが不足しています」

 表示されているデータは生贄とされている女性の内、銀髪の少女のもの。だが、この構成物質はどう見ても異質としかいいようがなかった。


――身体構成物質、魔素99%、その他1%。この1%は推定胸元にある鱗状物質。


 外見は確かに人族の姿をしている。だが、その身体はほぼ全てが魔素で構成されていた。外見的に何の変哲もない人に見えるが、その正体は「人族を模倣した魔素物質A」といったところだろうか。

『生贄そのものが偽装の可能性もあります。いかがなされますか?』

 我としては直接応対したいところだが……。心の内を読んだかのようにリラは『メンテナンスは先ほど終了しました、すぐに降下することは可能です』と言葉を出す。ならば、やることは一つだろう。

「我が直接出向き、対応する。用意せよ』

『承知しました』

 シュミレーターはまた次回だな。我は「シミュレータ、リセット」と声を出し、意識を培養層の身体の方に移した。


「……」

 培養層から培養液が抜かれ、目の前の扉が開く。今回は前と違って倒れるようなこともない。一歩一歩、着実に踏みしめて歩く。

「万全か?」

『滞りなく。今後は年単位のメンテナンスで問題ありませんが……過度な戦闘をされますと再度メンテナンスを行う必要があります』

 常在戦場、とはいかぬか。ままならぬな。しかし、これで前回の懸念であった対集団での戦闘は幾分かマシにはなるであろう。一応リラには「ドラゴンとしては不相応ですが、ミサイルという方法もございます」とも言われたが懸念通り却下した。そのまま、前回同様研究船から出て隔壁を閉め、エアロックを作動させ、その後ハッチから外に躍り出て、急いで地上へ向かった。

(しかし、生贄か……)

 古来のドラゴンにも生贄をとっていたものは多い。そしてとった生贄の用途は3種。巫女、情欲の対象、残りの一つは――

(……)

 いや、今は考えぬ。そのまま、我は地上に降下した。



「……わたくしを……食べますの……?」

 考えぬことを考えさせられたのは、その時だった。沈黙のまま、人族の娘の方を見る。もう一人の人族もどきと違って純然たる生命ではある。いい比較対象になったくらいだ。だが……

(古来のドラゴンは人と食べていた。ならば我も――)

 ……だが、嫌悪が先に出てくる。いくら今はドラゴンとはいえ、人への食欲は微塵も出てこなかった。むしろ、「そう考える」だけで吐き気すら覚える。……リラに命じればあるいは、程度か。本当に習うなら――

(……)

 想像する、人を食べる「我」を。だが……途中までしか想像できなかった。つい先日の討伐団との戦闘で我が叩き潰した騎士や、真っ二つにした魔術師を思い浮かべてしまったのだ。食べようとも……ましては見たいとも思えない。途端に食欲が失せ、ナノマシンによる「引き戻される」感覚がでてしまう。あの時でさえ引き戻されたのに、食べるなどと……我は、顔を横に振った。

(……ドラゴンとて、そのようなことをせぬとも良いであろう)

 人から供物を受け取る、これは良い。だが、供物を用意するのは人であるのだから減らすのはよくあるまい。むしろ、数を増やして用意できるものを増やさせていかねばなるまい。

『誰が貴様らのような食いでのないものを食べるか。それに、我は人肉を好かんのだ』

 そのまま、荷車から荷物を下ろし、娘と人間もどきを荷車に乗せたまま重力制御装置を起動させる。食いでがないのも事実だ。7mのドラゴンに人間サイズはちと小さい。いやー―

(これもあれも、言い訳だな)

 やれやれ、ドラゴンとして、我はまだ未熟よな。だが、少なくとも今はそうしよう。ドラゴンらしさは他でも出せるが故に。そのまま翼を形だけ羽ばたかせて、それらしき村落へと向かう。下ろした荷物に関しては探査機に見晴らせ、手を出そうとするものが居たならば洞窟防衛機構で対応すればよい。

「ちょ、ちょっと、何するつもり! 谷底にでも捨てるの!?」

 人族もどきが言葉を出している。そもそもおまえはその程度で死ぬのがどうか疑問ですらある。興味は湧くが、問い詰めるのは後でも良いだろう。我はそのまま、呆れた様子で言葉を出した。

『知れたこと。村に戻し、より相応しき供物と変えてもらうのみよ』

 せっかくだ、条件は指定していない以上、傘下に収めてやろう。抵抗するならドラゴンらしく脅すのみよ。この生贄が偽装であり、襲ってくるのなら踏みつぶそう。何をどうしようと、ドラゴンらしくなる。

(フフ……)

 口から牙が除く。金髪の少女が「ひっ!」と声を出す。今の我はさぞかし、恐ろしいに違いない。恐れられるのも、ドラゴンらしさの拍車をきっとかけてくれるであろう。期待に胸を躍らせながら、何世代も前の……それこそ、産業発達期の車のような速度で村へと向かった。……これすらも逃避、というのは考えないようにしながら。

次回更新は5月5日の予定です。

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