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12- どうしてこうなったのよ!

『矮小なるものが次になにをするかと思えば……次はこれか』

 あたしは今、手足を縛られた状態でワンピースのような赤い服を着た金髪の少女と一緒に……荷車に乗せられている。それも、数日前に騎士団を撃退したドラゴンもどきの目の前に。耄碌爺に監視しろと命じられてるから間近で見たいと思ってはいたんだけど……こんな状況でだなんて嫌すぎるわよ。

(赤いから区分としては一応、レッドドラゴン?)

 魔物でも、ドラゴンでもないからそういうのは間違っているんだけど赤い鱗をしていて、4つ足、大きさも標準的なドラゴンの大きさはしているのね。人で言う所の、2階建て商店サイズかしら?

『自ら進んで供物を献上するのは評価しよう。だが、なぜこんな食いでのないものなのだ?』

 ドラゴンもどきがこちらを見て首をかしげる。そう、あたし達は今、ドラゴンの目の前に「生贄」として座らされているのよね。一応こんな拘束なんとでもないのだけれども、そばにめんどくさいのいるからなぁ……。

(多分、貴族の令嬢、よね_)

 チラりと横を見るともう一人の生贄が怯え、震えながらドラゴンを見上げていた。町娘の格好をしてはいるが、その服はよくよく見れば一般に普及している麻ではなく高級な木綿製で薔薇のような深い赤色。ベルトに至っては……茶色は茶色だけどあれ、魔獣の革よね? さらに、立ち振る舞いは怯えて尚堅苦しいというか、礼儀正しい感じがする。だから、あたしは、相応の身分じゃないかって疑ってる。観光にでも来ていたのか、何処かへ行くときにドラゴン騒ぎに巻き込まれたのか。……なんで、こんなところに護衛もなしでいるのかしら。

「……わたくしを……食べますの……?」

 彼女がドラゴンもどきを前におびえた声をだす。無理もないわよね……なんでいないのか分からないけど、護衛もなしにこんなものを目にしてるんだから怖いに決まってる。

『……』

 ドラゴンがわたくしと少女を交互に見つめ、目を細め、牙を覗かせている。舌なめずりしているのか、吟味しているのか。何故こうなったのか、あたしは生贄にされた時のことを思い起こした。



「え、村長から呼び出し?」

「そ。……なんだか大事な呼び出しがあるんですって」

 丁度討伐団が敗れた日から4日ほど。村に戻っていたあたしを近所の人が呼びにきたのよね。その時はなんだろ……って思ったっけ。

「すぐ行くって伝えて頂戴」

「……わかったわ」

 なんだか申し訳なさそうな顔をしながら、彼女が去っていく。里から逃げるようにここへ来て……村に住みついて3年。最初はよそよそしかったけど、どうにか打ち解けて。私からすれば一瞬の年月ではあるんだけど、今まで生きてきて長かったなぁ。

(これで、あれがこの生活をぶち壊しさえしなければなぁ)

 今じゃ耄碌爺の任務持ち。サボるわけにもいかないし……いいや、まずは行きましょうか。爺よりはマシだろうし。あたしはそのまま、身の着のままで向かう。これが幸運だったのか、いけなかったのかは分からない。

(……)

 歩く最中、村をみる。森を切り開くための開拓村。何度蹂躙されても雑草のごとくしぶとく生き残ってきた……らしい。最初の開拓者の子孫が村を治めている以外は比較的ゆるい。そして、人々は忙しなく生きている。

「……故郷は、時が止まっちゃってたからなぁ」

 何をするにも、規律、約束、盟約ばっかり。それでいて、何も変わらない。そんなのがずっと続いてた。だからこそ、外に出てきたのにまーだ縛られてるのよねぇ。

(ま、今は忘れましょ)

 そう思い、集会所の前に立つ。本来はここは村長の家だ。だが、こんな村なので入り口から入ってすぐの部屋は10人くらいが会議をしていても大丈夫なくらい広くて、家そのものも広い。いずれは……いや、大きすぎていらないわね。そう思いながら、扉を開けて入った時だった。左右から男手が出てきてあたしを押し倒すように拘束したのは!

「な、なにをするの!?」

 普通の町娘としての力で振りほどこうとしても、開拓地の男たちの拘束はとけなかった。制限を解除してもいいけど……って、貴方たち――

「トムにバートン! 村長の息子としてのあなたがそんなことをして――」

「問題ないのじゃよ。儂が命じたからな」

 目の前から声をかけてきたのは、薄い白髪で右目にモノクルをつけた……この村の村長だった。村長、アドル。姓は与えられていないものの……何十年と続く開拓団の長の子孫……というか孫世代らしい。って、命じたってどういうこと?

「なんでこんなことを――」

「さすがに、古参のものを生贄にするわけにはいかんのでな」

 そなたは、ドラゴンへの生贄となってもらう。村長はそう口にした。生贄って……そんなことをしたら魔物が調子に乗るだけじゃない! 村を滅ぼす気なの!?

「なんで、生贄なんか! 第一、討伐団とやらは敗れたらしいけど、まだこの村は標的にすらなってないじゃない!」

「今は、の。じゃが……次はこの村じゃ。かつてそうじゃったからな」

 かつて? 確か、近くにヒュドラが住み着いたことあったって言ってたけど……。けど、味をしめたらどうするのよ。あたしはなんとかなっても、他はどうしようもなくなるわよ!

「こんなことをして、帝国兵が黙ってないわよ!」

「逃げた者共など、アテにできるものか」

 その言葉を言った瞬間、鋭い視線があたしを貫いた。村長は覚悟を、そして悲壮感さえ出そうな低く、それでいて響く声で口を出す。

「ヒュドラの時も、そしてその前の白竜の時も。帝国はすぐになんとかしてくれはせんかった。壊滅的な被害を出してから、やっと動いたのじゃ」

 実感のこもった言葉。その時にあたしはいなかったけど……被害だけは聞いている。街一つが全滅、村二つが存続不可能な程に人が減ってしまった、と。その時に生きていたのなら――。村長はあたしをじっと見つめたまま、言葉をつづけた。

「なに、供もおる。慣れた頃合いじゃろうに悪いが……」

 村の為に、犠牲になってくれ。そういって、手足に縄を巻かれ、荷車へと放り込まれた。樵や農作業で鍛えられた屈強な男たちがそれを引っ張り、一緒に乗せられている他の果物やなけなしの財貨や酒と一緒に運ぶ。

(供って――)

 横を見る。そこには……気絶したままの、薔薇色のワンピースを着た町娘がいた。薄汚れてはいるが、麻ではをなく木綿製の服を着ている。これほど質のいい服ならおそらくは商人か……貴族。あたしは後者だろうと予測をつけていた。理由は首元にある、銀色のペンダント。そのペンダントには菱形の金属片があり、その表面にドラゴン種を象った紋章が刻まれている。紋章のついたものを持っている、ということはおそらくは貴族の関係者。それも、ドラゴン種だから相当高位のでしょうね。従者がそんなものもっているはずもないし……。

「よーし、この辺りでいいだろう! 俺たちはこのままずらがるぞ」

 観察をしていたら、昇りはじめていた太陽が中天に達し、男たちが声を上げた。供物や生贄……私達を載せた荷車を置いて、足早に逃げていく。運び手の一人……アドルの息子トムは逃げる前にあたしに顔を向けた。村に居た時はちょっと視線が不穏な気はしたけど……それ以外は人が良く、色々と世話を焼いてくれた人。それが、どうして。

「……誰も親父には逆らえねぇんだ。悪く思うな」

 そのまま、ドラゴンの住みかだと思われる、奥のよくわからない箱の見える洞窟前に置き去りにして、彼らは姿を消した。たまたま留守だったからいいものの……居たらどうしたのかしら。そのまま、一緒に食われてもおかしくないだろうに。

「う……ん……」

 気絶していた貴族の令嬢が目を覚まそうとする。ドラゴンもどきが空から降り立ったのは、それとほぼ同時だったわ。



 そして、今。ドラゴンが口を開く。どちらを食べようか、決めたのかしら。もし、食べようとするのなら、制約を全てとっぱらってでも――! そう思った瞬間、ドラゴンもどきは顔を横に振った。

『誰が貴様らのような食いでのないものを食べるか。それに、我は人肉を好かんのだ』

 そう言って、ドラゴンは器用にもわたくしたちの乗った荷車から、丁寧にもズダ袋が敷いてあった果物などの供物を下ろしてから荷車を前爪で掴んだ。え? 普通の魔物なら喜んで食らうだろうに……私相手なら兎も角。ってか、考えを読まれた? ……いや、気のせいかしら。

(って、よく考えたらこいつ魔物じゃなかったわね)

 知的種族なら、人を食べなかったとしてもおかしくはないか。だが……隣をチラっと見れば「えっ?」って顔で困惑している貴族らしき令嬢が居た。運がいいのか、それとも――。考え事をしている中でドラゴンは翼を開いたわ。

「ちょ、ちょっと、何するつもり! 谷底にでも捨てるの!?」

 あたしは叫ぶ。捨てられたらたまったものじゃない。そんなことをされた日には、そこの貴族に正体をさらさなきゃいけなくなるし……。もういっそのことこの場で蹴散らしてやろうかしら。腕に力がこもる中、このドラゴンもどきは、なんでもないことかのように返事をした。

『知れたこと。村に戻し、より相応しき供物と変えてもらうのみよ』

 ……え? 村に戻すの? 予想だにしない答えに、あたしは呆然と口を開いていた。生贄を戯れに求めるような、知能を持つ魔物はそこそこいる。けど、変えてもらうなんて発想はしない……一体なんなの、こいつ。

(いや、魔物じゃないから、なのかしら?)

 思考がまともにまわらないまま、荷車を掴んだドラゴンは空を飛んで村へと向かう。……大混乱は間違いない、だろうなぁ。

次回更新は4月21日予定でしたが……連休前の多忙のため、4月28日に更新を延期します。ご了承をお願いします。

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