11- 戦場をみていたものたち
「……なんというか、ほんとこれは予想外だわ」
戦場よりは遠いが、街道近くにある樹木。その木の枝に座る形で彼女はいた。銀のショートヘアに、舗装されているわけでもない街道近くなのに汚れ破れ一つない、麻の服。そして、新品にしか見えない木の靴。村にいた姿と比較してみたものがいたならば、そのものは一言「おかしい」と口にすることだろう。
「ドラゴンじゃないのはいいんだけど……「魔物」ですらないなんて、聞いてないわよ」
耄碌爺も厄介なお願いしたものねぇ。あれを監視しろだなんて。彼女はそれを思うと深く息を吐いた。見たまま、あるがままを報告するしかないのだろうが、それを馬鹿正直に信じてくれるかは、おそらく五分五分。彼女はそう思っていた。
(……あの「自称ドラゴン」、……サイバネティックスエイリアン、『鑑定』で見た限りではドライグという名前だったっけ。アレはある種、人族に近いわね)
木から飛び降りながら、考える。彼女が何故そういう結論を出したかは、もちろん魔力の有無もそうだが……魔素の流れから「魔核」と呼ばれるものが存在していないと推測したから。なお、飛び降りてなお、彼女に汚れはない。
「……最後のあの行動もよくわかんないし。はぁ、わたしは人族の里でゆっくりしたいだけなのになぁ」
背の高い木を選んだとはいえ、それでも数kmは離れている。それでなお、彼女は戦場の全てを見ていた。彼女が分からないのは、「雷神弓を突き立てて、その後手を合わせたことだ。そして火が燃え尽きるまで、ずっと見ていた」ことだ。そして、彼はその間――泣くのと無表情になることをひたすら繰り返していた。
(……生理反応? それとも儀式……いや、何処かの文化?)
戦場……いや、「戦場跡地」に向かう傍ら、推論を組み立てる。その間、彼女を襲う魔物は一匹たりともいない。その森は魔物というものが跋扈しているにも関わらず、だ。
(でも、何らかの知的存在で、文化を持っているならあんな反応はしないはず……そもそも「ドラゴン」なんて自称しない)
彼女は推論を巡らせる。似た種族は意外と多い。狼人族と狐人族は尻尾が見えず、毛並みが同じなら分からない人はほんと分からないらしいけど……それでも別種族。お互いにそれぞれを詐称することはないハズ。はぐれ者かもしれないけど……それならば文化に準じることは少ないわよね。考えを巡らせながら、歩き続ける。
「あり得るのは……よっぽどのはぐれ者か、それとも「姿だけが違う」か……か」
この世界には本来の姿を何らかの方法で隠してる魔物も人もたくさんいるし、ね。どちらにせよ、余程の事情があるのでしょう。なんせ、空のとても高いところから来た種族。行けなくはなくとも、とてもではないが普段ずっと居れるところではない。考えながら、ゆっくりと向かう。
(報告は……とりあえず「古代竜並の戦闘能力を持った……おそらくは魔核のない知的種族。未知の文化を持ち、人族への対応はおそらく中立的」といったところね。他にも報告はしなきゃだけど)
里だと付き合わされてロクな目に合わないからわざわざ人の里まで出てきてのんびりしてたんだけどなぁ。平穏が返ってくるのはいつになるかしら。そう考える中で何物にも襲われることなく、戦場跡にたどり着く。
「魔素の乱れはあるけど……これは人族のものね。それ以外はなし……そうなるとこれは自らの能力だけでやらかしたことになるのよねぇ」
自称ドラゴンが片付けたゆえに戦場はもう静かだ。生き残りは大抵が逃げているし、そういう風に「誘導」した。けれども、その世界としては魔素なしにはまずありえない被害が出ていた。
(極大魔法……いえ、それ以上の雷魔法クラス。こっちは……正直、何を使ったらこんなことになるのかしら)
木を見て、彼女は思う。雷に打たれたような跡の焼け焦げた木。綺麗な、真っ黒な断面の木。大小さまざまのクレーター。そして、不思議ととある場所を境に一切の破壊がなくなる様。彼女は「多分この辺りにあいつが居たのかしら」と当たりをつける。
(私達でも持て余すわね、これ……人間たちが変なことをしでかさなきゃいいけど)
彼女はふと、突き刺さった雷神弓の残骸に目を向ける。これだけの死者が出て居れば、死霊のひとつやふたつ居てもいいものだが、その場は静かだった。
(……死後に、安らかな眠りを)
彼女は心の中で『光の導き』と唱える。銀の髪が光り……ざわついていた魔素すら、静かになった。これで、その場でレイスなどのアンデッドが発生することはなくなった。
「……弱い方も集まればアレなんだけど……普通は「相手を想うつもりで」浄化でもしなきゃこうはならないんだけどなぁ」
でも、あの詐称ドラゴンがやるはず、ないわよね……? 生き残りがしたのかしら。彼女はそう首をひねりながら、潜伏先への村へと急いだ。その村で起こっている騒動については、情報が足りなかったようではあるが。
「ドライグ様、進言よろしいでしょうか」
本機……いや、私としましょう。リランダル星雲連邦製第21世代型AIである私は連合法の規定により、宇宙航海士の心身状態を監視、サポートする能力を付与されており、行使する事が義務付けられています。本来は宇宙船航行支援AIへ搭載されるべき機能ではありますが、研究支援用AIである私へ付与されているのは些細な違いでしょう。どうせ宇宙船を動かしているのは私ですし。
『許す。なんだ、リラ?』
通信上で主が語り掛けてきます。その精神状態はとある重要な報告をするまでは少々下落傾向だったものの、ドラゴン体が利用可能となってからは良好でした。しかし――
「兵装使用による身体影響、その他影響が懸念されますので一度メンテナンスを行う必要があります。そのため、一度軌道上の船に戻ることを推奨します」
今の主の状況はそうではありません。精神状態が乱高下し、機械的部分は兎も角、生体的部分には多大な影響がでています。
『一度の戦い程度で影響があるわけなかろう』
主は自覚しておられぬようですが、無視できません。こうまでなる原因はやはり、現地種族が人間に類似している姿のため、でしょうか。海賊と大差はないはずなのですが、別の要因を探った方がいいのかしれません。
(今はナノマシン制御による分泌制御でなんとか平常を保っていますが……)
いずれにせよ、早急にメンテナンスが必要です。今後を考慮するのであれば脳ニューロ制御を行うのが最適ですが、それはAI規範によって禁止されています。
「今後のメンテナンススケジュールにも影響します。一度の戦闘でどの程度消耗が起きてるかの判断に必要不可欠です」
『……むぅ。わかった、一度あがるとしよう』
主を説得し、メンテナンスを行うことを確約してもらいました。現在の主はかつて地球で読みふけっていたドラゴンの出る伝承や神話を元にした「ドラゴン像」を演じることによってその精神を保っています。
(ならば、生存のために私リラは生体メンテナンスを行いながらそれを補助することが存在意義です)
私達AIは人を助けるために存在しています。人の定義は登録された主と、そと同種の人のみ、現地種族は含まれません。命令であれば保護しますが、そうでない場合は対応範囲外です。
「どの程度後を予定しますか?」
『今から地球時間3日後を予定とする。予定日朝には知らせろ』
「了解しました」
そのまま通信を切り、その日取りをスケジュールに組み込みます。あとは必要な生体部品と機械部品の製造を行う必要があります。可能であれば、オーバーホールの実施も検討の範囲内に入れます。主の承認が必要ですから。
(あとは――)
主がどうすれば効率的に「ドラゴン」を演じられるか。主の思うドラゴン像はおそらく「ドラゴンが最強であること」「他の存在はそれより下であること」「財宝を貯めこむこと」、この三つが最大原則であると推測されます。よって、今はこの三つをもとにシュミレートを行います。
「あとは魔素の分析継続、戦力解析ですね」
この惑星の種族は原始的ながらレールガンを実戦配備しています。現在の戦力評価では現地種族との戦力差は圧倒、負ける要素はありませんが不確定要素が存在します。
(他もないとは限りません)
レールガンにEシールドの類似品が存在するのなら、粒子砲も指向性電磁放射装置も存在する可能性があります。最悪は、星系軍宇宙戦艦クラスのタキオンキャノンやミサイル艇搭載の反物質兵器も考慮する必要があるでしょう。故に可能な限りの最大の情報調査、および主への支援をしなければなりません。
(そのために現地種族や文明はいくらか犠牲になるでしょうが――)
些細な問題でしょう。連合法でも緊急避難として条項第1128条72項に記載されています。……その時のデータの提出を求められれば断ることはできませんが。
「全ては、ドライグ様のために」
これよりシュミレーション及び計算を開始します。同時に、資源調査及び探査機の増産も計画します。さらに自己保護性強化のために本船の防衛火器を拡充しておきましょう。万が一の時の対策はいつだって必要です。
(中止をおっしゃられれば中止しますが……)
命令されなければ問題ありません。最悪は……惑星爆撃でも致しましょうか。その方が、主のためになるのならば是非もありません。守護すべき者の存在こそが、最優先なのですから。
次回更新は4月14日予定です。よろしければ、感想・評価などお願いします。




