10- 空しくても、これがドラゴンの宿命。
「や、やったの……か?」
儂の前から、訝しんだ魔術師の声が聞こえる。辺りには土埃と共に歓声が聞こえる。だが、儂は歯を食いしばっていた。あり得ない、国の最高兵装だぞ!?
「……化け物め」
「? 伯爵様、どうされましたか?」
近くにいた近衛兵が心配そうに聞いてくる。阿保か、こいつらは! 儂は叫びと共に声を出した。
「2門目準備! 魔術師、解析を急げ!」
「っ! 了――」
声と共に『成程、玩具だけではなく少しはマシな武器も用意しておったか』と声が頭に響いた。雷神弓は相手に破壊は与えるものの……基本は貫通する兵器! 土埃は、辺り一面に舞い上がるほどは上げぬ!
『だが――力不足のようだな』
目の前には一かけらも怪我を負った形跡もないドラゴンがいた。ドラゴンの目の前には死体が吹き飛び、土が抉れるような跡が残っているにも関わらず、だ。ドラゴンが翼を動かす。
「『解析』……こ、効力は確認!」
「いくらだ!?」
「それが……」
魔術師は震えた声で「に」と声を出した。聞き違えか?
「良く聞こえん! 正確に報告せよ!」
「2、たったの、2です! MPに至っては変化なし!」
解析の画面を見せる。そこにあったのは……『HP:10434/10436』という絶望的な数字だった! あれでたったの2!? どれだけあの障壁は分厚いのだ! 雷神弓が通じないとあれば……とれる手はたったの一つしかない。口惜しいにも、ほどがあるが。
「総員、退――」
轟音と共に近づいてくるのは、ドラゴンの巨体。儂は手綱を引き、馬を反転させ、駆けだす。後ろに見れば、何をやったかは、確認できた。
『この程度、この程度が! 矮小なるものたちよ! 討伐の気概を見せたなら……もっと力を振り絞って見せよ!』
「う、うわぁあわぁわっわああ!?!!?」
発射担当の魔術師ががむしゃらに魔力を注ぎ、雷神弓を強引に発射する。弓本体が歪んでしまい正確な狙いもないまま飛ぶが、近い故に命中する。白い閃光と化した矢は火花を散らしながら辺りへ破壊をもたらすが……ドラゴンに傷一つ付いた様子は無い。何事もなかったかのように……いや、あの顔、嗤っているのか?
(ほぼ無防備で耐えたというのか……)
魔力障壁は魔力の障壁であるが……人が腕に力を籠めると多少なりとも防御ができるように、魔力を込め、集中することでその堅さを増す。先ほどなら防御に集中していた可能性もあったが……これでその線も消えた。消えてしまった。
『力不足と言ったぁ!』
そのまま、その尾が光る刃と共に振り下ろされた。魔術師は袈裟斬りにされ、雷神弓はそのまま魔力暴発を起こし、真っ二つに弾けた。近くにいた傭兵団の団長、クーヤか「ちぃ! だが……今なら懐ががら空きだぁ!」とその槍を突き出すが、表面で槍の穂先が止まった。
「アダマンタイトのや――」
猟犬という二つ名を持つ団長がそれを言い終わらないまま、左右に裂かれた。これでは、最早戦線もままなるまい。……くそ、こんなはずではなかったのだが!
「退却、退却せよ!」
士気が崩壊したのはその直後のようだった。儂が逃げ、騎士が逃げ、討伐団が恐慌状態に陥る。何割、帰還できるか……。
(無事帰還したとしても、爵位降格は免れぬだろうな……)
雷神弓が通用しないと分かった以上、残る手段はたった一つ。最低でも、それに応じてくれればよいのだが、どこまで信用されるが。儂はこれから思う処分に頭を抱えながらも、馬を全力でかけさせた。2度ならず、3度まで蹂躙されるとは不甲斐ない。祖よ、お許しくだされ……。
『我はドラゴンなり。故に、この結果は……当然である』
矮小なる者の雷神弓……レールガンを中世の文明が実用化していたと知った時は肝を冷やしたがまだ未完成もいいところだった。一度目も二度目も多少まぶしかったが……それだけだった。それでも万が一が起き得る者故、破壊したが……さぞかし、我は鬼気迫った表情をしておったろうな。
(……対探知兵装まであるとは)
最初の攻撃をEシールドで弾いた後注視していたが……あの兵器はチャージ中、布で覆われていた。その布がエネルギーの拡散を抑えるらしく、剥がれた途端に反応が現れた。戦の影響で布はボロボロだが、その機能はまだ生きているようで周りのエネルギー反応が不自然に疎らになっている。
(……これからは気を付けねばなるまいな)
兵器についてはこれから発展していくのであろうし。肝心要の兵器を破壊したと同時に、その士気は完全に崩壊していた。退却命令は出されたが、装備の整っていない者たち……現地徴用の兵士と思われる者は既に殆どが逃げるか、死んでいる。戦った時点で、この結果は決まっていた。
『伝えよ。ここは我の縄張り。これに懲りずに、まだやるというのなら――』
粒子砲、チャージ。収束率を100%から、74%に修正。照準、前方右側……15キロメートルに存在する山。
『――次は、容赦はせぬと!』
そして、我は見せしめを兼ねて最大の攻撃を放った。最初に撃たなかったのは、皆死ぬからだ。伝えるものがいなくては、ドラゴンの意味がない。伝えるものがいて、ドラゴンは脅威たりえるのだ! 辺りに地震のような揺れが襲い掛かり、遥か遠くの山が一面噴煙のような土煙に包まる。そして、その後は。
「な――」
退却中の騎士が絶句した。当たり前だ、これは空駆ける戦船にすら被害を与える力。それを地表に放つのであれば――
「山が、消えた……?」
こうなる。土煙が風に流され、姿を現し始めた山の稜線の時点で既に原型を留めていなかった。レーダーで表示される地形情報は既に更新され、地形が変わったことを示している。その後に響く爆音と共に口からは、水蒸気が溢れた。
「あんな化け物、どうにかなるわけがなかったんだ!」
地震で足を止めていた生き残りの人間が逃げる。サーコートを着た騎士も生き残っていた……いや、生き残らせたがこちらを鋭く睨み――「いつか、報いを与える」といって馬に乗って足早に引いていった。そして、来るのは衝撃波。
(……)
残っていたのは、火が消えて燻る木と死体の山。そして、鼻に残る人の焼ける匂いに、前足に残る「人を潰した」感覚。
《破壊した山脈より、有用資源を感知。探査機を向かわせることを推奨します》
リラの報告が頭に響く。表示される山脈の地形データは以前の者とはまったく違ったものなっている。威嚇のためとはいえ、地形まで変えた。それがドラゴンの宿命とはいえ、もう仲よくすることはかなわぬであろう。
『……これでもう、戻れぬな』
戦っている時に何度も何度も引き戻された。何十人もの人を横薙ぎに切り裂いた時、この前足で叩き潰した時。そのたびに激しく揺れてしまった。宇宙海賊をレーザーガンで撃ち殺した事もあれば、海賊船を宇宙船の小型ミサイルでデブリに変えたこともある。しかし……こうはならなかった。
(勝手が違うものだ。いずれは、引き戻されなくなるのであろうか)
我は小さく「我はドラゴンだ」とつぶやいた。そう、我はドラゴン。同族たる神話のドラゴン達はきっと、こうした故に――これは致し方のないこと。そう思い、翼を開きかけ……死体に目が行く。こ奴らは蛮勇、そして傲慢な故に命を散らした。だが――
(我に立ち向かい、散ったのならそれは等しく英雄である)
前足で土をかき出すようにして穴を堀り、見える範囲の死体を……重傷で辛うじて生きている、という者は止めを刺してからそこに放り込む。他は放置だ。そして稲妻を撃ち、火をつける。燃え上がると共に、人を焼く匂いが鼻につく。
(……)
こうするしか、こウスるしかナカったンダ。許シテ、許シテク――、そこまで考えたところで素に引き戻される。……我は、まだ未熟よな。
『報告。目を覚ました生き残りが数名、逃亡した模様。追跡しますか?』
「捨て置け」
AIは短く『了解』と返した。矮小なるものの生き残りが数名増えた程度、問題あるまい。伝えるものが増えたにすぎぬ。――それよりも、今は)
(安らかにとは言わぬ。だが……その眠りが静かであることを)
後ろ足で立ち、手を合わせる。……火が収まったのは、日が暮れてからだった。穴を埋め戻し、壊れた雷神弓を墓標代わりに突き立ててから我は巣に戻った。音はいっぱい聞こえるはずなのに、帰るまでは不気味なほど静かだ。その世界にはかの聖人の宗教など存在せぬというのに、その墓標は……奇しくも十字架だった。
――のちの報告書
第1次サイバネティックスエイリアン『TOKAGE』――個体名、ドライグの討伐結果報告。
作戦成否 討伐失敗
作戦参加人員の548人、内傭兵団5団体、306人。
戦死者、騎士団員131人、傭兵団165人
行方不明者、傭兵団33人
負傷者 騎士団員64人、傭兵団48人
魔物への損害 HP4程
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次回更新は4月7日予定です。よろしければ、感想・評価などお願いします。




