プロローグ- ドラゴンっぽいけどドラゴンじゃない
最初は一応ファンタジーのターンです。
「ホビィ……だったっけ? ドラゴン種が確認されたってのは確かこの先だったわよね?」
私は背の小さな人……ホビット種のホビィに尋ねる。彼は「ああ、情報ではそうだ。提供者はランクが低いから逃げかえったらしいけどな」と答えた。こんな人里近い場所に巣を構えるなんて……。
「……一度、依頼内容、確認する」
片言気味な肌黒耳長の子……ダークエルフのエルと依頼を確認する。
――ハーブルの村近辺の山、中腹辺りにドラゴンを思しき魔物とその巣を確認。その調査、可能なら討伐を求む。 依頼者 ジルクフ=アルマゲスト 伯爵
ドラゴン。魔物の中でも最強と言われるものの名前。その個体ごとに容姿は違い、強さの幅も広いらしい。とはいえ、一番弱くても下手な魔物の遥か上を行くという評判だ。ちなみに前金は銀貨50枚、調査のみで成功報酬金貨1枚、討伐した場合はその種類によっての応相談となっている。この前金だけでも1週間は依頼を受けず、それなりの宿に泊まってのんびりすることが可能。ギルドに貼られている依頼の中では高額な部類だった。相手が伯爵様だから信用もあるし。……本当にドラゴンだった場合の危険性が物凄いからさもありなん、って感じではあるんだけど。
「ドラゴンとは思えねーけどなー……。確か翼持ちで4足、首の長い魔物って話だよな?」
「確かその筈よ」
革の鎧を着た人族のアルが聞き、わたしが答える。このパーティは臨時ではあるけど……この男は軽薄そうでなんかやだ。エルフや見た目のいいって言われる人族によく声かけてるし……これでもAランクの冒険者らしいんだけど。
「……ドラゴンは、希少で強大。こんな魔素の薄いところに普通巣を作らない」
エルはドラゴンがいる、ということをあんまり信じていない。強い魔物は強い魔素を発する。そういうところは大抵魔境で砦じみた村くらいしか近くにないし、縄張りから出てこないんだけど……ここは辺境とはいえ、魔素が薄い地域だ。だから、その説明も理には適っている。
「見間違いか、よく似た魔物と思ってる?」
「うん」
躊躇いもなく肯定する。ま、そうよねー……ただ、最近変わったことが起きたせいで貴族とか、国とかは警戒しているらしい。この調査もその一環だったっけか。
「感じられる魔素はあんまり強くない。だから大丈夫」
彼女はそう言って、口を噤んだ。皆口を噤む。それもそのはず、あと少しで到着するからだ。臨時とは言え、Aランクパーティー。こういうところは頼りになる。
(見えた……)
程なくして、中腹の洞窟が見えた。近くには岩がごろごろと転がっている。前はこんなものなかった、んだそうだ。できたのはつい最近ってことになる。魔物がそこから出てくる様子はない。背の小さい人が遠回りで洞窟に近づき、鏡で覗きみる。そして、事前に決めた手信号て合図を送ってくる。
《いる。睡眠中》
私たちはなるべく足音を立てないように、洞窟の前をあえて遠回りする形で近づいた。彼が《覗いても大丈夫》というので覗き見る。そこに居たのは、確かに『ドラゴン』だった。情報通りの、首の長い赤い4足竜。それが丸まって、枯れ草と思わしき巣の上で寝ていた。ただ、少し引っ掛かる。
(魔素、あんまり感じない……?)
通常、強い魔物というのは己の強さを誇示するかの如く魔素と呼ばれる何かを垂れ流しにしている、らしい。隠す魔物もいるにはいるが……ドラゴンがそれを行う魔物なのか、というのは疑問。なんせ、最強の象徴とも言われる魔物だし。
「……」
エルがドラゴンを『解析』しようとした、その時だった。
『我が縄張りに何用だ? 矮小なる者よ』
「喋った!?」
不意にドラゴンが片目を開き、こちらを凝視した! バレていた!? ってか言葉喋るの!? 驚きながらも全員で戦うためのフォーメーションを組む。相手はドラゴン、まともに戦えばこちらが――
「勧告。痛い目に合わない内に立ち去れ、トカゲもどき」
ちょ、ちょっと! ドラゴンは『ほう?』と言葉を出し、立ち上がった。やはり、でかい。家くらいの大きさはある、かな? にしてもエル、軽率すぎよ。ましてや挑発するなんて! 私が視線でそれを訴えるとエルはドラゴンを威圧したまま答えた。
「『解析』した、あれは見掛け倒し。精々、オーガくらいの力しかない。魔力なんてその辺の一般人レベル」
聞いたこともない魔物だけど大したことない。彼女はそういいながら宙にステータスを書いて教えてくれた。
名称:サイバネティックス・エイリアン『TOKAGE』
HP:10436 MP:101
……確かにオーガ並でしかないけど……何、その記号? その疑問に答えるかのように、エルは「解析にはこう出た。読み方知らない」と答えた。
――彼女らは知らない。そのドラゴン……いや、『ドラゴン詐称の何者か』はステータスやスキルなどない……根本的に「魔法がない世界」から来た存在であるこということを。故に、そのステータスはあてにならない、ということも。
次回から数話程度、SF要素だらけになります。ご了承ください。