あの子を好きな君と、君を好きな僕
中学の時から好きな人がいた。
けど、君が振り向くことはなくて
それでも、あいつを好きな君の横顔が
たまらなく綺麗だったから
だから君を好きになった、
[気付いた時にはもう]
キーンコーンカーンコーンー。
「ぅおわったー!」
「終わったね。」
「あぁ。やっと夏休みだ!」
「部活。あるけどね」
「細かいこと気にすんなって!!」バシッ
「痛い」
生徒玄関で話す2人の元に
「あっ、橘と鳴弥じゃん帰んないの?」
同じクラスの樹生がやってきた
「今から帰り、樹生もか?」
「うん、そんな感じ。」
「そか、んじゃ一緒に帰っか?」
「そうさせてもらおうかな」
2人は、会話を終えると靴を履き替え帰る準備を着々と進めた。
ただ1人を除いて、は
「おい。洸太?洸太ー?」
「ん?ああごめん。どうしたの?」
「どうしたの?じゃねぇって。帰ろうぜ」
「あぁ、ごめん。教室に忘れ物したから先帰ってて」
「?そんくらい別に待っててやるぞ」
「いや、日直の日誌書かなきゃだから」
「そうか?なんなら手伝ってやるぞ?」
「大丈夫、集が手伝うと毎回先生に怒られるから」
「ははっ、違いねぇ。んじゃ帰るわ。またな」
「うん、また」
並んで歩いて行く2人を見届けた洸太は
「やっぱり樹生って集のこと……」
顔を伏せ、口の中だけでそう呟くと
「橘ーーっ!」
唐突に名前を呼ばれ顔を上げれば、
樹生がこちらへ振り返っていて
「今日、クラスのみんなで打ち上げするからー!6時に駅前集合ねー!これ強制だからーー!」
声を上げて呼びかける樹生に対して洸太は無言で肯定とした
それを見た樹生は満足そうにしてこちらに背を向け、帰っていった
「打ち上げって何のだよ」
周りの誰にも聞こえないような声でそう言った自分の唇が、ほんの少し綻んでいることに洸太は気づかない
それから、時間はすぎ集合の6時になった
「おっそい!」
「遅いって、まだ5分前じゃん。樹生が早いんだって」
「細かいこと気にする男子はもてないよー」
「大雑把な女子は女子力に欠けてるよ」
無愛想なやりとりを交わす2人の会話が終わるのとほぼ同じタイミングで
「わっりぃ、、ハァハァ、待たせたか?」
6時ぴったりにやってきたのは鳴弥だった
息が切れているあたりきっと走って来たのだろう。律儀なやつだ
「ううん、全然!私たちも今来たとこ」
「そか、ならよかったわ」
「うん。それじゃあ、行こっか」
樹生は晴れやかな笑顔でそう言い、鳴弥もつられて笑った
「そーだな!打ち上げ楽しみだ」
そんな2人を見ていた洸太は、ふと疑問が浮かび上がり
「そういえば、打ち上げってどこ行くの?」
「あれ?言ってなかった?」
「集聞いた?」 「そういえば、聞いてねぇや」
「ごめん。言ってなかったかも」
舌を出して可愛く謝る樹生に対し、洸太も集も何も言わなかった
「それで、どこ行くの?」
「んー、教えてもいいんだけどどうせならついてからのお楽しみ」
「結局教えてくんねーのかよ」
これには、集も洸太も苦笑していた。だか樹生は
「多分、2人とも驚くよ」
まるで、面白い悪戯を考えたこどものような笑みを残し駅のホームへ向かっていった。
洸太と集は顔を見合わせ、しばらく何か考えていたがやがて諦めたように樹生の後をゆっくりとついて行ったーー。
それから電車で30分ほど移動し、少し歩くと着いたのは海だった。
2人は予想外のことに驚きはしたが樹生が隠そうとする程ではないと思っていた。
しかし、砂浜を5分ほど歩くとぽっかりと大口を開けた岩があった。中からは、何かを焼く音と共にワイワイと楽しそうな声が聞こえてきて
「おー!鳴弥に洸太じゃん!おせーってもう始まってんぞ!!」
「あっ!美菜ちゃん!みんなもういるよ!早く早くっ!」
「うんっ!」
クラスメイトの呼びかけに対して
樹生のみが返事を返すことができた。この状況を知らなかった男子2人は置いてけぼりだ
「おい、洸太。これって大丈夫なんだよな」
「一応。ここの海はこういうの大丈夫なはずだけど、洞窟あるなんて知らなかったし」
「だよな。けど」
「この状況」
『すっげぇ、たのしそうだよな!』
『すっごい、たのしそうだよね!』
一通り驚いて改めてこの状況をみた2人は興奮を隠すどころか、わかりやすく顔に出していた。
それもそのはず。中を覗いた2人の前に現れたのは、メンバーこそクラスメイトではあるものの微かな日の灯りを頼りにしただだっ広い空間が広がっていたのだ。
2人はみんなの元へ、駆け足よりは遥かに速いスピードでクラスの輪に混じっていった。
「それでは、最後の2人が揃ったので改めてカンパーイ!」
「カンパーイッ!!!」
全体の音頭をとるのはクラス委員長だ。委員長の掛け声に合わせてみんな片手に持っていた様々な飲み物の入ったグラスを掲げ、打ち上げが本当の意味で始まった
それからというもの、時間はあっという間に過ぎていった。
酔ったみたいに肩を組み合い踊るやつ
大食い対決をして食べ過ぎた人達
ガールズトークで盛り上がっている女子
十人十色の空間を洸太は遠目からみていた。するとそこに鳴弥が声をかけてきて
「お前ちゃんと食ったのか?」
「十分食べたよ。正直もう食べられない」
「俺もだ」
騒いでいる輪から少し離れた場所で未だ興奮の収まらないメンバーを鳴弥と洸太はぼんやりと眺めていた
しばらく沈黙が続いたあと、鳴弥がこちらを見つめて何か言いたげな顔をした
「何?どうしたの?もしかしてトイレ1人で行けないとか?」
洸太は、その視線に居心地の悪さを感じて冗談交じりにそんな言葉を投げかけた
「ばーか。ちげーよ。ただ……」
「ただ、なに?」
鳴弥は、語尾を濁して何かと葛藤をしていた。だが、その葛藤を一息でかき消し
ふいに真剣な表情になった
「お前、樹生のこと好きだろ?」
「……………は?」
あまりにも真面目な顔で唐突な発言をするので、洸太は質問を聞き返すことしかできなかった。
「いや、だからお前、樹生のこと好きだろ?って」
そんなことを微塵も知らない鳴弥は再び同じ質問を繰り返す。洸太は動揺を悟られないよう目線を逸らして
「ずいぶん、いきなりだね?何を根拠にそう思ったの?」
「何を根拠に、って聞かれっと自信ねぇけどまー、強いていえば見てればわかる。だな」
洸太は、驚きで二の句をつげなかった。なんとか絞り出た言葉は
「しゅ、うこそ、樹生のことどうなの?」
それは、ここ最近洸太が考えていた心からの疑問だったのかもしれない。それに対して鳴弥は
「話逸らしてんじゃねーよ。けど、質問に答えっと俺は樹生のこと、いい友達だと思ってるってとこか。」
その答えに対して洸太はただ
「そうなんだ…」
と、一言しか返すことができなかった。集の答えはもしかしたら望んだ答えだったのかもしれない。ただ、もしも樹生が集のことを好きならそれはーーー。
「ま、答えたくねぇなら今はいいわ。変に詮索されたくはねーだろうしさ」
鳴弥は、ニッと笑いそう言った。
その言葉が洸太にとっては何よりも救いだった。その反面いつまでも集に甘える自分が嫌だった。
その後、集はクラスの輪に戻っていったが洸太はそこから動けなかった。
結局、委員長が
「最後に花火するよー!」
と声をかけるまで、洸太はその場を動かなかった。
帰りの電車では、疲れた樹生と集は眠ってしまっていた。洸太は1人外を眺めて、何度も見たはずの景色をぼんやりと見つめていた。何度も見たはずの景色はやけに鮮明だった。
この後、文化祭、修学旅行を迎え、二学期が終わろうとしていた。
このまま終わるかと思われていた。
否、誰もがそう思っていた
だが、変化は突然だった。
「みなさん、大変急ですが今日で橘くんが熊本県に引っ越すことになりました。」
『え…..?』
「みなさん、これまでありがとうございました。このクラスで過ごせてとても楽しかったです。本当にありがとうございました。」
「ちょっと、、待てよ!洸太!!そんな話1回も……」
「ごめん。集。ホントに急な話で俺もびっくりしてたから。」
「そんなこと……クッ」
集は、視線を逸らししばらく何を言うべきか考え、やがて諦めたように座った。
「それでは、みなさん今日が橘くんと過ごせる最後の日です。最後の思い出を作ってあげましょう。」
先生の挨拶を最後に洸太にとってこの学校で過ごす最後の1日が始まった。
学活や、休憩時間、色んな時間を使い、色んな場所で、色んな写真を撮った。最後だと感じない、明日もまた会える。そんな最後だった。
「洸太、先乗ってるからな。」
そう言って父は車に乗った。
「うん、、」
とだけ、洸太は答えた。
洸太は最後まで樹生のことを考えていた。夏休み前の打ち上げ、あの日からずっと。そして、あの日集が言っていたことは的外れでは決してなかったことに気付いた。でも、遅すぎた。その気持ちに気付いた時にはもう時間がなかった。もっと、真剣に、もっと、真面目に考えていたならあるいは、、、
洸太は、その気持ちを知り、知った上で大事にしまった。
「俺、ずっと樹生のことが…。」
最後まで樹生の顔を思い、そして熊本へと向かう車に乗った。。
ーーーー。
その頃鳴弥は、野球ボールを握りその感触を確かめるように手の中でまわしていた。そこには「ラスト1球まで!」と乱暴に書かれた文字があった。その文字を見つめ鳴弥は空を仰ぎ静かに、
「最後くらい笑って送れなかったのかよ」
と悔しげに呟いていた。
そして、樹生は、集と洸太と3人で写った写真を見つめて
「来年の体育祭、楽しみにしてるって言ったじゃん。」
と写真の洸太に向けて言葉を投げかけていた
3人は、空を見上げた。
見ている空は同じであると信じて
そこに広がっていたのは、満天の星空。
ではなく、重く、息苦しくなるほどの曇天の空だった。
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みなさん、こんちには!
こういうの初めてなんで正直全然自信ないです。けど、楽しいんで頂けたらとてもとっても嬉しいです。