part 9
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「えー、みなさん、急なお知らせにもかかわらずしっかり集まってくれてありがとうございます。じっさいほんとに困ってたので、来てくれてほんとに嬉しいです」
カトルレナが前に立ってにこやかに言った。うーん、なかなかしゃべりなれている。さすがはカトルレナ。パーティ・リーダー。そしてさすがは社会人。(ひきこもりだけど)
「まず最初に訊いておきたいんだが、」
ガントっていう名前の、アサシンのヒトが口をひらいた。
「本当なんだろうな? 二百M? ほんとに支払えるのか?」
「そうそう、それそれ。わたしもそれ、最初にきいときたかったのー。」
歌姫のヘスキアが、横から甘ったるい声を出した。
「たしかにもっともな疑問です」カトルレナがうなずく。「じゃ、皆さんを安心させるために、最初にまず、こちらをご覧ください。カナカナーナ、そっち、みんなに見えるようにオープンにしてくれる?」
「はいはーい。オッケーでーす。」
設定をパブリックオープンにきりかえて、バシッと三人の前にウィンドウをとばす。今現在のパーティ所持金。候補者三人は顔をよせて、まじまじとウィンドウをのぞきこむ。
「む。すごいなこれは。」「マジ?? ありえるの、この残金??」「…たしかに十分ありますね――」
「いちおうこれ、ちゃんと合法的に、リアルマネーと交換してゲットした正規のゲームマネーです。」カトルレナが続ける。「もしどうしても信じられないという方は、あとで東ザルクの『金融都市ギア』まで行ってそこの中央銀行の銀行アクティビティ履歴を見てもらえば―― そこにしっかり、正規の換金記録が――」
「はいはーい!! あとひとつ、しつもーん!!」
カトルレナのスピーチをさえぎって、歌姫ヘスキアが手を上げた。
「ね、ききたいんだけど、なんであなた方、そんなに必死なのかな~?」
「必死? どういうことですか?」
「え~、だって~、難易度高いスペシャルイベントっていっても、所詮はゲームだし~ いまじっさいリアル世界がやばいってこのときに緊急募集して、こんな法外な額を出して~ なんかちょっと変かな~っていうの、たぶんみんな思っちゃってると思うんですけど。なんかヤバい犯罪がらみとか、そういうのだと困るな~って。」
「俺は別にいいぜ。チートだろうがあやしい話だろうが。」アサシンのガントがわりこんだ。「じっさい報酬が支払われるなら、それだけの話だよ。どういうルートからだろうと、ゲームマネーはゲームマネー。別に噛みついてくるわけじゃない。おい歌姫さん、あんた、そういうリスクが嫌なんだったら、最初っからここに来ないでどっかの町で適当に歌でも歌ってろ。」
「ん~、なにそれ~ なんかそれ、ちょっと言い方がムカつくんですけど~?」
「なんだ? やるのか?」
「あ、ちょっと。ここでケンカしないでください。じゃ、さっそく面接を始めたいと思います。みなさん、個人ページのスキルとアイテム一覧、ここ1か月くらいのアクテイビティ・レコードをオープンにしてください。それを見ながら、順番にいくつ質問させて頂きます。」
「じゃ、まず、ガントさん。」
「おう。」
「プレー歴はどれくらい?」
「このゲームに関しては二年だな。平行して他のダイブゲームもいくつかやってる。」
「スペシャルステージクリアまで、途切れなくダイブは可能ですか?」
「だいたいはな。たまにトイレとか、なにか用事で短時間買い物とか。それ以外は――」
「お住まいの地域はどちらですか? あ、これはつまり、リアル世界での話ですけど。」
「なんだ? そんなの言わないとダメなのか?」
「今ほら、大規模停電で、ダイブできないエリアがけっこうあるでしょう。避難エリアにかかっちゃう可能性があるとか。そのへんはどうなのかなと。」
「それは大丈夫だ。危険エリアからはかなり離れてる。まず大丈夫だろう。」
「どうもありがとうございます。つぎに戦闘に関してですが――」
…… …… ……
「じゃ、面接、続けていきたいと思います。次は、歌姫のヘスキアさん。」
「はいはーい。」
「――で、つぎに戦闘に関してですが――得意分野と弱い部分、両方をおしえてください。」
「んー、強い方で言えば、味方の攻撃強化系の歌がけっこう歌えるのと、あとは、敵を混乱させる系とか、眠らせる系とか、とりあえず戦闘用の歌はだいたいぜんぶ習得してまーす。」
「デスカントとか、歌えたりします?」
「それは無理でーす。というか、もともと種族的にアルヌープはデスカントはできない設定のはずで~」
「あ、そうなんですね。それは知りませんでした。すいません。」
「いえいえ~。」
「じゃ、あと、苦手な方は?」
「そうねー。あえて言うなら、氷系魔法で撃たれるとちょっぴり弱いかな~ ってくらい? まあでも、今回のスペシャルステージって氷属性のモンスターってあんまりいなそうよね~。」
「たぶん、いない感じはしますね。」
「あとあと、スキル平均のわりにHPがちょっぴり低めかな~ アルヌーブだし~ 歌姫だし~ 他の数値はあがってもHPはあんまり上がらないって感じで~。」
「まあ歌姫ですしね。基本、後衛タイプですよね。」
「そうそうー 前面にさえ立たなければだいたい大丈夫と思いまーす。あ、あとあと~、」
「なるほどなるほど――」
…… …… ……
「じゃ、さいご、ルルコルルさん。」
「まず最初、職業なんですが。」
「はい。」
「応募メールに『無職』って書かれてましたけど。」
「はい。」
「あれってどういうことなんですか? 実際は何の職業ですか?」
「あそこに書いた通りです。無職です。とくに職業という感じのものはありません。」
「といいますと?」
「ほら、ここを読んでください。」
その人が、パブリックオープンにしたステータスウィンドウをこっちに飛ばした。
あたしもちょっと興味が湧いたから横からのぞく。
「えっと。。これって何? バグ、なの?」
普通なら簡潔に職業名が書かれてるその欄は――
ブランク。
何もないブランク。まったくの空白――
「えっと。。こんなのあるんですか? だってほら、ゲーム開始のいちばん最初の時点でも、『旅人』っていう職業が誰でも表示されるじゃないですか。何もない、ということはこのゲームの仕様上、ぜったい起こりえないはずなんですが――」
「詳しいことはよく知りません。でも僕に関しては、最初からずっとこのままです。」
「運営に問い合わせたりはしてないんですか?」
「はい。とくにしていません。」
「……。わかりました。では次に――」
「ねえカトルレナ、やっぱこのヒト、ダメじゃない?」あたしはこっそりささやいた。「なんかすごい適当だし、職業無職とか、それ自体そもそも意味わかんない。」
「いま面接の途中だから。結論を出すのはもうちょっと待って。」
「待たなくても、もうこれ、ダメなパターンでしょ。」
「短気はよくないよ。ちょっと静かにしてて!!」
カトルレナがあたしの肩をパシバシッと叩いた。
「すいません。今のはこっちの話しでした。では、面接を続けたいと思います」
「はい。」
「スキルについて、ですが。」
「はい。」
「平均122と書かれてますけど?」
「はい。書きました。」
「でもあれ、無理ですよね?」
「ムリ?」
「ゲームの仕様で、最大でも110が限度でしょう。」
「そうなんですか?」
「…はい。たぶん間違いなくそうだったはずです。。」
「すいません。それは知りませんでした。」
「ではその122っていうのは、いったい何なんですか?」
「そのままです。」
「そのまま?」
「見て頂ければわかると思います。スキル平均は122。ほら、ここに書いてある。」
あたしとカトルレナ―― 面接を終えたヘスキアとガントも一緒になって、ルルコルルがこっちに流したウィンドウの前に集まった。
「なにこれ? え? ほんとに122??」「っていうか、ぜんぶがぜんぶ、122?」「バカバカしい。完全にチートだろこんなもん」「あ、でもこれ、すごーい! HP8万? マナ6万? えー、ウソ~、信じらんな~い!! チートでもいいから、こっそりこっちにわけてほしーい!!」
「あの~、ルルコルルさん??」
「はい?」
「…これってたぶん、チートですよね?」
「チートとは?」
「…えっと、たとえば、不正にサーバーにアクセスしてキャラデータの数値を書き変えるとか、なにか特別な電子ツールでプログラムエラーを誘発して利用するとか――」
「おっしゃること、よくわかりません。」
「あの―― ちなみにルルコルルさんは、どちらにお住いの方ですか?」
「どこかな? あまり考えたこともなかったけど――」
「おい、こいつ完全にふざけてるだろっ!!」
アサシンのガントがいらいらした声で割りこんだ。
「こんなの失格だ、最初から。もういいからこんなくだらない面接はさっさと止めろ。」
「あ、ちょっと待ってくださいガントさん。短気はいけません。」
「えーと、面接をつづけます。あの、もういちどお尋ねしますが、お住まいはどちらですか?」
「遠い場所です。」
「遠いっていっても、いちおう日本は日本、ですよね?」
「にほん? よくわかりません。たぶん違うと思います。」
「というと、外国でダイブされている?」
「たぶんそうだと思います。」
「アメリカとかですか?」
「そうかもしれません。」
「じゃ、日本人じゃなかったりします?」
「たぶん、ちがうと思います。」
「…えっと。そのわりに日本語、お上手ですね?」
「言葉はだいたい全部話せます。それがどこの言葉であっても。」
「おい、いい加減にしてくれ。時間のムダだ。」
ガントが本気でイライラした声で言った。
「こいつ完全にいかれてる。しかも悪質なチートだ。こんなのは完全にアウトだろう。もう完全に決まりだ。こいつ以外の、おれとこっちの歌姫で。」
「わたしも同意見でーす。チートはよくないでーす。」
「でもじっさい、ぶっちゃけて言っちゃうと、このさいチートでもいいんです。」
「カトルレナ??」
あたしは驚いてふりかえる。
チートでもいい? 何言ってるのカトルレナ??
「細かい理由は省きますが、今日これからわたしたちは、とにかく何が何でもそのスペシャルステージを攻略しないとダメなんです。それを手伝ってくれるなら、べつにチートでも何でもいい。実際の戦力にさえなれば――」
「戦力? こいつが戦力?」ガントが地面に唾を吐いた。「冗談じゃない。こいつを見ろ。装備だってろくにない。ゲームスタート時点のそのままだ。チートで数字だけ書き換えたものの、たぶんろくにゲームシステムもわかってないだろ。こんなバカと一緒にやるくらいなら、そっちのろくでもない歌姫と組む方が100倍ましだ。」
「ちょっと何よそれ~ ろくでもないってどういうことよ~?」
「見たまんまだ。おれはそういうチャラい非戦闘向きのコスチュームが嫌いなんだよ。」
「あんたの好みなんて誰も聞いてませんし~。」
「ちょっとそこ、もめないでください。それに、選ぶのはわたしと、ここにいるカナカナーナですから――」
「おーっす!! おそくなっちまったな! って、なんかすげぇモメてんなそこ?」
キラキラの爆発となんだか薄っぺらい効果音。
その演出にのっかって、空気読まない気軽な声がふってきた。
「悪ぃ悪ぃ。すっかりおそくなっちまったな。けど、なにこれ? どういう状況?」
ふりかえるとそこに、見なれたあいつが――




