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『アッフルガルド』  作者: ikaru_sakae
12/21

part 12

12/21


 ロスゴロール神殿。

 通称・赤の神殿ってよばれてるフィールド。赤いでっかい岩山を削って、その神殿がドーンと目の前にそびえてる。時刻は真夜中。不吉な感じのでっかい赤の三日月が神殿の上の空に浮かんでる。


「ま、とりあえずは振りきったっぽいな――」


 ハアハア言いながらアルウルが言った。

 カトルレナはバテバテという感じで砂の上にへたってる。

 あたしはあたしで―― もうダメ。完全ダウン。体力全部使い果たした。

「みなさま、急ぎましょう。時間はあまり残されていません。」

 ひとり元気なネコリスが、あたしの背中の上で言った。

「えっと… たしか入り口に立ってる女性NPCに話しかけるんだったよね?」

 カトルレナがぐったりした声で言う。ゆっくりと顔をあげ、乱れた前髪を片手で整えた。

「ええ、その通りです。」ヨルドがカトルレナの肩にピョイと跳びうつった。「会話の途中で、スペシャルイベント参加を希望するかどうか、こちらにきいてきますから――」

「うわっ。でもこれ、やばいね。ここもだいぶバグがきてる。」

 門の脇に二体あるでっかい邪神像は、なんか顔の部分のグラフィックがバグってなんだか意味不明なモザイクみたいな図形に置き換わってしまってる。入り口の前のぶっとい柱の何本かは、途中が黒ブランクで途切れてたり、なにか変なインフォメーションウィンドウの一部が間にはさまったり―― 

「じゃ、とっととイベントスタートしようぜ。うかうかしてるとここもバグって消えちまいそうだ。 …で、実際どこなんだよ、そのNPC?」

「んん~、ここの正面に確か配置されているはずなんですけど―― とても見えやすい位置に――」ヨルドがキョロキョロ視線を動かす。「あ、でもひょっとしたら、あの柱のかげかもしれません。」

「もう見たぜそこは。いまさっき一周ぐるっとまわった。」

「では、そちらの柱は?」

「いま見に行く―― って、けど、おい、おまえこらヨルド。おまえいま、見えやすい位置って言ったろ? あそこってぜんぜん見えやすくないぞ?」

 ブツブツ言いながらアルウルが柱の裏をさがしに走って―― 


「いない――ね。」

「ああ。いない。」

「どこもいないっぽいよ。」

「いないですね、誰も。」

「…いないです――」


 四人と一匹が神殿正面の大扉の前に集まった。

「――おい、ひょっとしてそのNPC、一連のバグで消えちまったんじゃないのか?」

「まさか! そんなのって――」

 あたしは思いきり否定した。いや、否定したかった。全力でそんなのは否定したかった――

「あ、わかった。きっとあれじゃない? とりあえず神殿に入っちゃえば、自動的にイベントスタートとか、そういう仕様じゃないの? たぶん運営が、ごくごく最近仕様変更して――」

「アホか。お気楽すぎるぜカナカナは。」

 アルウルがちょっぴり怒った声を出す。

「おれさっきちょっと中をのぞいたけど、ただの普通の神殿ステージだぜここは。NPCに話しかけることで別次元の邪教神殿に移動できるっていうストーリーだったろ、このイベント?」

「そうそう。アルウルの言ってるのが正しい。」カトルレナが同意する。「スペシャルイベントの神殿は、中はトロッコ軌道があって、なにか鉱山とか採掘場っぽいグラフィックなはず。でも今のここの神殿は、軌道もないし壁のデザインもまったく違うよ。何もかもがイベントレポートにあった画像と違ってる。イベントキーになってるNPCに話しかけないかぎり、ほんとにただの、別のダンジョンに入るだけになってしまう。その目的の泉も、たぶんこの今の神殿ステージにはないだろう――と思うね。たぶんだけど。」


 ザシュッ!!


 何の予告もなくいきなり足もとに砂ぼこりが立つ。

 小型のロケットみたいに空から墜落してきたその小さなモノ――

「申し訳ありません。できる限り時間は稼いだつもりですが―― あちらのフィールドでの防御継続は非常に困難と判断――」

 ボロぞうきんみたいになった黒い鳥が、砂ぼこりの中から苦しそうに立ちあがる。

「この現在位置を拠点にひきつづき防御いたします。ここならばまだ、利用可能なエナジーリソースが多数残存し――」

 化けガラスのビジュアルのダグが、弱った声で報告。左側の翼ははっきり見てわかる感じでボキッと折れ曲がってる。片方の目もふさがってる。なにこれほんとにボロボロだ――

「しかし、敵二体の戦力は予想以上に強大。ここもどれだけの時間まもりつづけられるか――」

「わかりました。守備はおまえにまかせます。他のみなさまは、とにかく先に進んでください。」

「おまえな~、先にって言ったって、どうやって行けばいいんだよ? NPCは?」

 アルウルがヨルドの耳を思いきりひっぱった。

「いたいいたい、いたいです!! やめなさい! 許容しませんよ、そういう不作法は!!」

 バシュッ! いきなりヨルドが発光。

「いでででででで!!」

 電撃系の視覚エフェクトとともにアルウルが絶叫。HPゲージがグングン減っていっきにオレンジゾーンまで――

「てめ!! こらネコリス!! なにすんだ!! 死ぬだろそれ!!」

「あなたこそ何をするのですか!! わたくしは仮にも暗黒界デオルザルドの――」

「もーやめてよ二人とも!! そんなのやってる場合じゃないでしょ!!」


 ゴオオオッ!! 火炎魔法。出力最大。


「あちちち!!」「きゃあああああ!!!」

 二つの絶叫。アルウルとネコリスがバーベキューの炭みたいな黒焦げビジュアルにかわる。

「てめ!! なにすんだバカカナ!! おれ死んじまうだろ!!」「ぶ、無礼にもほどがあります!! しょせんは辺境小惑星の下等生物の分際で――」「なによ!! あんたらがしょうもないケンカやめないからでしょ!!」「もうちょっと、カナカナーナもよしなよ!! 内輪でモメてる場合じゃないでしょ!!」


「あの~、」


 むこうでルルコルルが、のんきな声を出した。

「あの~、みなさん盛り上がっているところをすいません。」

「なによ! あんたは何が言いたいわけ??」

 アルウルのほっぺたをキリキリつねりあげながらあたしは言った。


「来ましたよ。」


「え?」「なに?」

「今なんて言いました?」「何が来る?」


「あの、ですから来ました。追っ手です。」


 くる!

 暗い空から急速に近づいてくる二つの青い光の軌跡。

 何あれは―― つまりあれがサクルタス? けど、なによあれ! ニンゲン型なのに飛翔アビリティとか、もうそれ自体がチートもいいとこでしょ! 

「では、やむを得ません。非常手段を使いましょう。」

 冷静な声でヨルドが言った。同時にヒゲと目と耳が光りはじめる。毛先がぜんぶ電気を帯びたみたいにチリチリパリパリ光って―― 

「あまり序盤で力を消費したくはなかったのですが―― しかし今はそうも言っていられません。いまここにその、イベントトリガーになる仮想存在を再構築します。」

 ヨルドの発光がピークに達し、緑っぽいその光が徐々にヨルドの体をはなれた。そしてそれは何もない空間の真ん中に、ほわっとまるく浮かんで静止する。

「さあ!! 話しかけてください!! 今すぐそれに!!」

 ビシッとシリアスなトーンでヨルドが言った。

「おい。。けどこれ、いったいなんなんだ?」

 アルウルがダガーの先でつんつんそれを叩いた。


 それ――


 サッカーボールくらいの大きさの、ぼやんとした光のカタマリ――


 ドオンンッッ!!  

 

 閃光、衝撃。足もとの地面がグラグラ揺れた。

 ホコリと石のかけらがバラバラ降ってくる。

 やばい! なんか魔法、撃ってきた撃ってきた!!


 バシュッ!!  バシュッ!!


 あたしのすぐうしろで、誰かがいきなり魔法発動。

 エナジー系の迎撃魔法をバシバシ撃つ撃つ撃つ――

「いそいでくださいヨルド様!!」

 撃ちまくってるのはダグ。反撃で撃ってるのはダグだ。

 折れ曲がったボロボロの翼を大きく広げて―― 

「いまのこの位置での防御は、あと三十カウントが限度です!! はやく!」

「わかりました。とにかく防ぎなさい」

「はい!!」


「あ、見て見てターゲット!! ターゲットできた!!」


 あっちでカトルレナが叫んだ。

「出てる出てる!! 『異端者イヴェルナ』!! これ、見た目はあれだけどちゃんと機能してるよ!!」

「え? なに? それがつまりNPCってこと? ほんとに??」

「おお! まじか!!」「ほう。とても興味深い。」

「さあ、はやく話しかけて!!」

 緊迫した声でヨルドが叫ぶ。

「長時間は持ちません!! さあ、すぐにイベント参加の承諾を!!」

「承諾ったって――」

 

 けめ、そらgd。が。

 しだに、gghじゃえいn? ▼


「でもこれ、読めないですよ!!」

「どんどん先に送って!! もう少し先に「はい・いいえ」分岐が出るはずです!!」

「送るって言っても―― これって完全に文字バグじゃ―― うわっ??」


 立ちこめる砂煙。着弾した!! 敵の魔法弾!! 

 ファサードの柱がバシバシ折れて倒れてくる!!

 やばいやばい!! 邪神像もこれ、崩れる崩れる!! やばいってこれもう!!


「さあはやく!!」「いそげカトルレナ!!」「やばいやばい!! もう死ぬ~!!」

「やってますやってます!! やってるけど――!!!!」


 qwqqlヴぉ dssふぁ;;

 ふぁdj だgはえk dらいでslぬs。

 かk? っだぢh>?  ▼


 だだkだfk  ひうjjggっげああえ!が

 あgd  がう


  ムあづ?  fだfg、、?


「そこです!! 迷わずYESを!!」

「どこにもYESなんて書いてないよ!!」


  ドオンッ  ドオンッ!! 

  ダアアアアアンンッッ!!!


 なんかいっぱい着弾した!! 爆風すごすぎ!!

 ギリギリ最後まで残ってた左側の邪神像が完全に倒壊。それがギリギリ支えていたファサードの屋根部分がどんどん崩落をはじめ―― なんかアタマにあたった!! 砂煙すごすぎでしょこれ!! なんかすごい瓦礫落ちてきた!! 足がはさまってやばいってばこれ!! 動けない!!

「ですからはやくYESを! はやく!!」「わかんないよこれ!! バグってるし!!」

「もうちょっとはやくしてよ!! 死ぬってば!!」「おい、、まだか!! もうそこに来たぞ敵!! やばいって!!」「とても危機的な状況ですね。」「あんたなに冷静に言ってんのよ!!」「うっせーぞカナカナ!! ちょっとはおまえも反撃しろ!!」「反撃たってあたし動けないし――」


「あー、もう! 選びます選びます!! たぶんこっちがYES!!!!」


 ……

 ……



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