その6 「奈落の底の神」
「おっ邪魔しまーす!」
『なんですかソレ?』
「お約束みたいなもんだ。」
『そうですか。』
扉を開けて中に入ると、暗闇が広がっていた。何も見えないが、【超感覚】のおかげで、ナニかがいるのが分かる。
「我が眠りを妨げるとは、身の程知らずめ!」
重低音の声が、部屋の中に響きわたる。そして、その声に呼応するように、周囲の壁や、床、天井が部分的に光だす。
光に照らされ、声の主の姿が現れる。
黒や紫に禍々しく光る鱗。蝙蝠のような巨大な翼。蜥蜴のような顔に、鋭い牙が生え揃っている。
ドラゴン。そう形容出来る存在が、そこにはいた。
「我が名は、邪竜神 ゴルドマ。矮小な人間風情とはいえ、ここまで来れた事を誉めてやろう。だが、ここで終わりだ。」
「(シア、いけそうか?)」
『はい。派手に決めてやりましょう!』
集中━━━
ただ、それだけ。ヤツは強い。だが、普通に戦えば二十分で倒せる。しかし、ヤツと戦うのはこれが、最初で最後。何があるか分からないので、全力で戦う。
「ほう。矮小な人間と言ったのは訂正しよう。貴様は━━いや、貴様らは、我と戦いうる資格を持っている………ゆくぞ!」
その言葉を合図に、踏み込む。
一瞬で距離をつめ、横凪ぎに剣を振るう。
「『【飛燕斬】』!」
「ふんっ!」
飛ばした斬撃を、爪の一撃でかき消される。予想通りだ。
次は、ゴルドマのほうへ飛び上がる。そこを狙って、噛みつこうとしてくるゴルドマ。タイミングを合わせて、牙を踏みつけさらに飛び上がる。
「【流星斬り】!」
ゴルドマの頭へ、唐竹割りを叩き込む。
『バキッ!』
そんな音とともに、ゴルドマが倒れる。切れなかった。
『魔法か何かで、威力を殺されましたね。しかも、受ける寸前に頭を下げられました。』
シアの言葉を聞きつつ、地面に着地する。
集中━━━
雑念を振り払い。目の前の相手の事だけ考える。
━━━始めに消えるのは嗅覚━━━
埃っぽい匂いも、獣のような匂いも感じなくなり、さらに集中出来る。
「やるな! 【邪怨竜巻】!」
禍々しい竜巻が迫る。目には目を、竜巻には竜巻だ!
「【竜巻起こし】!」
『【属性変換】聖、天!』
二つの竜巻がぶつかり、互いを飲み込もうとする。どちらも威力は同じだ、だけど
こちらの放った竜巻が、ゴルドマの放った竜巻を消し飛ばす。
聖属性と天属性を合わせ持つ、こちらの竜巻のほうが、属性力は上だ!
「やるな!」
ゴルドマが何かを言っているが、聞こえない。
━━━次に消えるのは聴覚━━━
世界から音が消えさり、さらに集中力が増す。
「【飛燕斬】! 【グランドクロス】! 【ペンタクルスラッシュ】!」
「ナニッ!? ぐっ! がっ!」
連続で技を叩き込む。
━━━最後に消えるのは色━━━
白と黒だけの世界で、俺は舞う。
「ぐっ! 終わらせてやる!」
ゴルドマが口を開き、ブレスを放つ。
ゆっくりとこちらに飛んでくるブレスを睨み付け、此方も大技の準備をする。
『私は剣。総てを切り裂き、切り開く。』
「必要なのは、たった二つ。我が魂と。」
『私の魂。』
「今、二つを一つに!」
『二つの魂は、共鳴し、共有し、重なり合う。』
「今ここに、総てを断つ!」
俺とシアの魂を、手と柄を通して、シンクロさせる。
『「奥義!」』
剣を縦に振るう。
『「【聖ナル星ハ絶望ヲ断ツ】!」』
剣から放たれた光の刃は、ブレスをかき消し、そのままゴルドマを縦に両断した。
一瞬の静寂の後、消えていたモノが戻ってくる。残ったのは、俺と剣、そして、ゴルドマの死骸だけだった。
次回、新たな武器乙女くる!