その5 「奈落の底の扉」
奈落の底は光が届かないため、もの凄く暗い。時折、淡く光る石があるので、歩くのに苦労はしない。まぁ、なくても大丈夫なんだけど。
多分、スキル【超感覚】のおかげなのか、周囲に何があるのかなんとなく分かる。この状況では、とてもありがたいスキルだ。
「にしても、SPがどんどん貯まるな。」
『ここの魔物は、強いほうみたいですね。』
そう、この奈落の底に出てくる魔物は強いほうなのか、SPがかなり手に入る。強いほうといっても、一撃で倒せるんだけど。
『あ、また出てきましたよ。』
「今度は、なんだ?」
暗がりから出てきたのは、三つの首を持った蛇だった。
「多頭蛇かな?」
『ですね、倒すには三つの頭をさっさと切り落とすのが、正攻法ですよ。』
「んじゃ、縦に両断しよう。」
『私が言った事聞いてました!?』
力強く地面を踏み込んで、多頭蛇の目の前に行き、そのまま剣を振り下ろし、両断する。そして、動かなくなる多頭蛇。
「普通に倒せたな。」
『見事なオーバーキルです。』
多頭蛇の死骸をアイテムボックスに収納し、先に進む。
『そういえば、ずっと気になってたんですけど。』
「何をだ?」
『マスターは魔物の死骸見て、平気なんですか? 普通気分が悪くなると思うんですが。』
「あぁ、その事か。」
俺も前々から、ネット小説で異世界召喚モノや、異世界転移モノで、主人公なんかがグロいの見ても平気そうにしていて、不思議に思ってたんだよな。普通の日本人なら気分が悪くなって、吐いたりすると思うんだけど。それで、何故俺が平気なのかというと
「称号『異世界人』のおかげらしい。」
『え? その称号って、翻訳とかだけなんじゃ?』
「それもだけど、精神強化もあるらしい。」
『成る程。』
雑談をしながら先に進む。これ、他の人から見たら剣と話すヤツか、一人で話してる痛いヤツだな。
◇
「ふっ!」
『ほいっ!』
「しっ!」
『はいっ!』
気がつくと、魔物に囲まれてました。多頭蛇やら、ミノタウロスやらたくさん集まってきた。
「【飛燕斬】!」
『いっけー!』
まぁ、一撃でどいつもこいつも沈むので、苦にはならない。ただ、数が多い。正直に言おう、面倒くさい。
「シアは全体技覚えてないからなぁ。」
『マスターが、“技”を使えばいいんじゃないですか?』
「はっ! 言われてみれば。というか、使えるかな?」
“技”というのは、俺がやっていたゲームで主人公が使えるもので、各武器ごとにいくつもある。総“技”数はなんと、1000を越えるのだ。
「んじゃ、いくぞ【サークル・スラッシュ】!」
『一気に倒しますよ!』
【サークル・スラッシュ】は、刀剣系の周囲を攻撃できる、最初の“技”だ。もっと上位の“技”もあるが、これで十分だろう。
剣の刀身が輝く。どうやら、問題なく使えるようだ。
「しっ!」
そのまま、身体を回転させる。さらに
『合わせ手、【飛燕斬・輪】!』
剣が自ら、能力を使う。使い手と武器、それぞれが別の技を使う事で、威力や攻撃範囲が広がる。それが“合わせ手”。ゲームではたまにしか発動しないけど、現実になった事で、関係無しに発動出来るようだ。
俺を中心として、光輝く輪状の斬撃が飛んでいき、周囲にいた魔物達が全滅する。
「“合わせ手”がこんなに簡単に出来るとはな。」
『コレ、出たら勝ち確定のあの“合わせ手”も、できるんじゃないですか?』
「かもな。」
“合わせ手”の中には、これが出たら勝ちみたいな、超広範囲全滅技も存在する。まぁ、現実でやったら敵味方関係なく全滅しちゃいそうだけど。
「にしても、魔物が多いな。」
『でも、もうすぐたどり着きますよ。あれ?』
「ん?」
俺は、目の前のモノを見て、足を止めてしまう。
『この先って、大きな空洞がある場所ですよね。』
「あぁ、その先に脱出出来そうな場所があるから、進まないとなんだけど。」
『扉ですよね、コレ。』
「あぁ、扉だな。」
何故か、奈落の底に扉があった。だが、もの凄く嫌な感じがする。何か不味いモノがいそうな……
「まぁ、進むしかないよな。」
『ですね! まぁ、私とマスターがいれば、何がいても余裕ですよ!』
「油断大敵だぞ。」
『分かってますよ!』
覚悟を決めた俺達は、扉を開けた。そして、その先にいたのは━━━
扉の先にはいったいナニが!?