その1 「勇者召喚」
「え?」
白く塗り潰された視界が元に戻ると、そこはバスの中ではなく、ネット小説でよくある、異世界のお城のような場所だった。
「おい、シグレ。どうなってんだ?」
「いや、俺も何がなんだか━━ッ!?」
蒼一のほうを向いた俺は驚きに固まった。
「おまっ! いつの間に金髪にしたんだ!?」
「はぁ? 何言ってんだよ?」
「いやいや、目の色も変わってるぞ!」
そう。蒼一が、金髪に銀目になっていたのだ。くそっ! イケメン度が増してやがる! はっ! 待てよ。
「もしかして、俺の髪と目も変わってるんじゃ。」
「いや、普通の黒髪黒目だぞ。」
「うそん。」
差別じゃねぇか! 周りを見てみると、他のクラスの連中もいて、しかも髪と目の色が、ファンタジー感全快の色に変わっていた。黒髪黒目は俺一人ですか、そうですか。
「蒼一、シグレ~。」
「二人共いるな。」
「ツバサに西倉。お前らもファンタジーか!」
ツバサは、黄色い髪に黄色い瞳。西倉は、緑の髪に緑の瞳だ。俺も銀髪とかになりたかった!
とりあえず、四人で情報をまとめた結果。
ここが何処だか分からない。俺以外の全員が、髪と瞳の色が変わっている。以上だ。
「何故に俺だけ仲間外れ………」
「まぁまぁ。レアだぞ、一人だけなんて。」
「くっ! 金髪だってお前だけだろ!」
慰めはいらない。俺は仲間外れなんだ!
体育座りで落ち込んでいると
「我が国にようこそ、勇者様! わたくしは、リリネル・ロードル。この国の第一王女です。」
一つだけあった扉が開き、豪華なドレスを着た、空色の髪に空色の瞳をした、THE王女様みたいな人が出て来た。勇者様ってもしかして、俺達の事か? 周りの男子が「美少女!」とか、「異世界にありがちな美少女!」とか言っている。
「すいません。ここは何処ですか?」
眼鏡をかけた女子。というか、我が二年二組の学級委員長、笹木 柚が、質問を投げ掛ける。流石委員長!
「この世界はヴォルテといいます。そして、皆さんが今いるのは、シーディア大陸にあるロードル聖王国の城の中にある、“召喚の間”です。皆さんは我が国の秘術により、勇者として召喚されたのです。」
「成る程。では━━」
その後も、委員長が質問して、王女様とその従者っぽい人達がそれに答える、というのを繰り返し、得た情報がこちら。
この世界は、髪と瞳の色で【属性】と、ある程度の【能力値】が決まる。
俺達が召喚されたのは、復活した邪神を倒すため。
元の世界には、邪神を倒せば戻れる。
重要なのは、これぐらいかな? 後は、一組や、三組、四組も別の部屋で説明を受けているらしい。
「質問も終わったようなので、お一人づつこの【ステータス鑑定珠】に触れてください。」
王女様が示したのは、水晶玉のようなモノだ。言われた通りに一人づつ触れていく。
もうすぐ俺の番だな。というか最後だ、前にいるのは親友の蒼一。
「凄い! こんなの初めて見ました!」
なんか気になったので、蒼一の前に現れた半透明の板を覗きこむ。それが、こちら。
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【名前】川崎 蒼一 (ソウイチ・カワサキ)
【性別】男
【種族】人族
【年齢】17
『攻撃力:B』
『防御力:A』
『知力:C』
『精神力:B』
『俊敏性:B』
『器用:C』
≪スキル≫
【剣術:Lv4】【格闘術:Lv3】
【危機察知:Lv3】【空間把握:Lv3】
【火魔法:Lv3】【雷魔法:Lv3】
【光魔法:Lv3】【聖魔法:Lv3】
【聖剣召喚:Lv━】【勇者ノ聖魂:Lv━】
≪称号≫
『創造神の祝福』『聖神の寵愛』
『聖霊王の寵愛』『精霊王・火 の祝福』
『真の勇者』『世界を救う者』
『異世界人』
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すげぇ!? 能力値は低いほうから、G~AでS、SS、SSS、と上がっていく。スキルレベルは1~10だ。それに『真の勇者』だし。っと、次は俺か、さぁーて、レアの力を見せてやるぜ!
水晶玉に手を置くと、半透明の板が目の前に出てくる。さてさて、俺のステータスは……え?
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【名前】上本 時雨 (シグレ・ウエモト)
【性別】男
【種族】人族
【年齢】17
『攻撃力:G』
『防御力:F』
『知力:G』
『精神力:F』
『俊敏性:E』
『器用:E』
≪スキル≫
【全域干渉:Lv━】
≪称号≫
『運命神の寵愛』『異世界人』
『無限域の干渉者』
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弱い。びっくりするぐらい弱い。あれ? おかしいな、俺も勇者なハズだけど。
これは後で聞いた話だが、この世界で黒髪黒目は、無能と呼ばれているらしい。
◇
場所は変わって、大きな部屋。長い机にたくさんの料理がのっている。今日はここで食事をして、後は、各部屋で就寝という感じらしい。
「はぁ。」
「まぁ、元気出せよシグレ。」
「……ケイ。そうは言われてもな。」
この世界では、名字呼びはあまりしないらしく、名字呼びしあっていた俺と西倉は、名前呼びに変えた。まだ、少し慣れないけど。
「そうそう。これから強くなるって。」
「黙れ、真の勇者! このチート野郎。」
「努力が大事だぜ!」
「慰めはいらん! チートその2。」
くそっ! どいつもこいつも、チート持ちやがって、なんで俺だけ。
「お前の【全域干渉】? だっけ、もしかしたら強いかもしれなじゃん。」
「そうそう。料理も美味いしな。」
むむ。確かに、もしかしたら強いかもな。とりあえず今は置いといて、料理を堪能しよう。異世界特有の見たことない食材や、料理もあったが、普通に地球にある料理もあった。勿論、異世界の料理も美味しい。
「でさ! 明日どうする? さっそく、近くの森とか行っちゃう?」
ツバサが、ワクワクしながら言うが、いきなり実戦なんて止めといた方がいいと思う。
「いや、武器の使い方とか、魔法の使い方とか教えてもらうぞ。いきなり実戦なんて止めといた方がいい。」
「なんでだ?」
「お前らなぁ、本物の剣とか使った事あるの?」
俺の質問に三人が黙りこむ。
「まずは、情報収集と戦い方を学ぶのが大事だ。いくら能力が強くても、使いこなせなきゃ意味がないぞ。」
「言われてみれば。」
「ゲームじゃないもんな。一度死んだら即終了だって事、忘れてた。」
「だな。明日から頑張ろう。」
その後、料理を食べ終えた俺達は、もう寝ることにして、各自お城の人に案内されて、自分の部屋に向かった。
「ふう。」
部屋にあったベッドに倒れこむ。今日は色々な事があって疲れた。自分がかなり弱い事を知ったが、まぁ、これから頑張ればいいだろう。それより、スマホが使えない。これじゃ、ゲームが出来ないじゃないか、トホホ。
色々考えていると、眠気が襲ってきてそれに身を任せるように、瞼を閉じた。
《………起動。》
《【全域干渉】の定着が終わりました。》
《謎の物体を確認。》
《解析完了。名称『異界の箱』》
《これより、『異界の箱』内の情報の復元を開始します。》
《……………》
《………復元完了。一部データの復元に失敗。》
《スキル【叡智の異界箱】を獲得しました。このスキルの存在がバレた場合、所有者に不利益になると判断。隠蔽します。》
《【叡智の異界箱】内に最重要データ『武器変化! 乙女戦記』を確認。ゲーム内の主人公と、所有者の能力値の共有を開始します。》
《………共有率1%》