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アザトース  作者: kojiJR
第1章
6/7

6.抱えた秘密

外出禁止令が出されてから丸一日が経った頃、エイブリーはよそよそしく廊下を歩いていた。彼女には月のはじめに神に懺悔をする習慣がある。


「神父様、今月初めて告解をしたいと思います…」


ヒソヒソと懺悔室で囁かれる少女の声に長年神父を務めてきたブラウン神父は「またか」と嘆く。


この優秀なカトリック信者の少女が告解とはどんな内容か、神父は想像がついてしまう。


何せ問題を起こしたのは昨日のことだ。


些細なことでも彼女は決まって懺悔という報告をする。


「昨日のことは聞いている。決して君だけの責任ではなかったのだ」神父は宥めようとそう声を掛けた。しかし彼女の方はただ俯き神妙な空気を放していたと気が付いた。


「えぇ、確かに昨日のことは罪深い行為でした。でも今日話したいのはその事ではないのです」


「ふむ、では話したいこととは?」


「これは誰にも話したことはありません。私は大勢に嘘を吐いたことになります、私の力に関して」


その告解はどんなものよりも秘密が多すぎて神父は1人で抱える責任感に耐えきれなくなるとは誰にも想像が付かないだろう。




ー抱えた秘密ー



それから遡ること1時間前、エイブリーはトウマと2人きりで図書室に篭っていた。


勉学に励もうと試みるも与えられた罰に心苦しくなりペンが止まる。マルコムに嫌われてしまったらと不安が募りため息ばかりを吐いていた。


彼女の思考が手に取るように分かってしまうトウマには如何してそこまで落ち込むのか理解に苦しむ。


「もう3時間もその調子だ。今日は止めておく?」さすがにウンザリとしてきた彼は少し彼女と距離を置きたいと考え、そう提案するもエイブリーは健気に微笑み芯の通った態度を示す。


「いいの、この課題を仕上げちゃいましょう」


トウマの能力に付いて研究を続けようとする少女は再びペンを手に取ると、そこへ仏頂面したテアがやって来る。


銀色に光る爪を噛むその仕草に彼女の心理をも分かってしまい今度はトウマがため息を吐いた。


「その様子だとまた何かやらかしたの?」


青年の問いにテアは唇を噛み締め南へと指を差した。其処に立っていたのはアラン・ベルサーチだ。


黄金に輝く髪にグリーンの瞳、そして爽やかな笑顔と来れば怖いもの無しの青年だがテアは彼を途轍もなく嫌っていた。


「本当アランっていけ好かない」


腕を組み文句を漏らすテアはトウマの隣に腰を下ろしアランを睨み付ける様子がどうも気になる。


「何で?あいつ、いいヤツじゃん」不思議そうなトウマはアランを見つめると友人と楽しそうに話していた。


「トウマもすぐに分かるよ」


そう言ってテアはアランを呼びつける。するとアランはいつものように笑顔を振り撒けながらやって来た。


「やぁ、どうしたんだい?」


爽やかな笑みにエイブリーだけでなく他の女子生徒達も釘付けとなるだろう。だが此処にいた少女には黒めいた企みがあった。


「ねぇ私貴方に腹を立ててるの」テアはすかさずそう話しかけるとアランは目を閉ざし肩を竦めた。


「そうとは知らずに、ここは謝らせて欲しい。君を不快にさせてしまったことを」


丁寧に謝罪を述べる彼に対しテアは苛立っていたが咳払いをし冷静さを保ってみせる。


「別にいいの、でもそうやっていつも人を見下しているのはお見通しだよ」


「そんな事ないさ、僕はいつだって君を尊敬しているんだ。だけど君にそう思わせてしまった僕が悪い、ごめんな」


爽やかな笑顔にテアのイライラは募る一方で唸っていた。


「もう謝るの止めてって」


「分かったよ、ごめん」


「あぁ"!!」


2人の様子を見てトウマは微笑ましいと思えクスクスと笑い出す。そんな彼の様子にエイブリーも漸く落ち着いたようだった。


こうして自分が普通の学生らしく生活しているのは彼のお陰かもしれないと思えたのだ。彼が来る以前は楽しみなんてひとつもなかった。


ただイリヤを想う気持ちが大きすぎて周りを見ることに必要性を感じていなかったのだ。


だがこうして周りを見てみると大切な友人であり仲間が大勢いることに気が付いた。これはトウマが齎した影響だとエイブリーは思っていた。そんな彼に尊敬さえ覚える。


そして自分をしっかりと見てもらいたくなったのだ。



「ほら、腹が立つでしょう?」


するとアランを追い出したテアの怒りの声にエイブリーは我に帰る。


「でもテアっていつも彼をからかってるし、実は気になっているんじゃない?」少しちょっかいを出してみるとテアは顔を真っ赤にさせ何度も首を横に振っていた。


「ちょっと止めてよ!趣味悪すぎだって」


「案外お似合いかもしれないわ。ほらプロムナードに誘ってみたらいいじゃない」


からかうエイブリーの裏腹にはほんの僅かな嫉妬心をも入り混じっていた。きっと今年のプロムナードにテアはイリヤと参加をすると思っていたからだ。だが彼女から思わぬ答えにエイブリーは考えを覆されることとなる。


「プロムナードは出るの止めようと思ってるんだ」


「え、なんで?」


意外な答えにトウマでさえ驚いていた。テアのような少女であればきっとイベント事が好きだろうと思うのが普通である。


「色々と問題を起こしすぎて、出る気にはなれなくて…」


レオンが昏睡状態に陥った今、テアにはそれどころではないのだろうと悟ると2人の友人も顔を曇らせた。


あんなに元気に見えたテアの本音を聞きエイブリーは何故かホッとした気分になった。しかし次の瞬間にはそれが罪深い誤ちだと自己嫌悪する。


こうした葛藤に苦しめられたのはもう3年も続いていたのだ。





ーそれからエイブリーは1人になろうと廊下を歩いていた。すると狙っていたようにワイラーが顔を出す。


「お前が1人とは珍しい」


いつもトウマと居ることを皮肉ったのだろう。だが彼の相手をするほど余裕がなかった。


自分の気を惹こうと腕の筋肉を見せつけるワイラーを押しのけ前へと進もうとしたが彼は決まって腕を掴んでくる。


「ちょっと離してよ!」


思わず口調が強くなるとワイラーの顔色も変わる。


「なんだ、今日は特別に機嫌がいいじゃねぇか」


「そんなんじゃ…。でも今は放って置いて欲しいの!」


「俺なら慰めてやるぜ?あんな犬っころと違ってな」


イリヤに対する屈辱にエイブリーは眉を顰めたがワイラーは面白がっていることに気がつき冷静さを取り戻した。


「貴方に私を癒せるはずがない」


キッパリと断ると彼の腕に力が込められエイブリーは痛みに顔を歪ませる。するといつもの様に彼が助け出してくれた。


「また絡まれているのか…」


イリヤの声にエイブリーの頰が熱くなった。思わず振り返る彼女の態度にワイラーは更に機嫌を損なわせる。


「また彼氏面かよ…いい加減此奴を放って置いてやれって」


エイブリーを放すワイラーはイリヤを睨み付けた。しかし彼は平然とした態度を示すとワイラーには対抗する術がないことに気が付かされる。


「ちぇ」と舌打ちをして姿を消すワイラーにイリヤは鼻を鳴らして蔑んだ瞳で見つめていたが、その光景にエイブリーの胸は高鳴っていた。


こうしていつも助けてくれるのは何故か、そう疑問を持つと希望を持ってしまうのだ。


「いつも…ありがとう」


礼を告げる時、胸のざわめきが聞こえてしまいそうだった。だから声は小さくなってしまう。


それでも彼の耳にしっかりと入っていたのは確かだった。そして彼に見つめられると囚われの身であるかのように体が硬直する。


「あまりにもしつこい様であれば相談しろ」


身を案じてくれるイリヤの想いに喜ばずには居られず、エイブリーは顔を熱くさせた。


「えぇ、分かった…」


そして去ろうとするイリヤを止めたくなると咄嗟に出た言葉が意外なものだと自分でも驚く。


「ねぇ聞いた?テアはプロムナードを辞退するらしいの」


案の定、イリヤの足は止まった。その事実にエイブリーは胸を締め付けられる。


「テアは出ないのか…?」


振り返り尋ねる青年の顔を見てエイブリーは思ってもいないことを口にしてしまう。


「でもまだ時間はあるし気が変わるかもしれないわ。その時はきっとアランを誘うと思うの、だって2人はお似合いだもの」


言葉が次から次へと出てくるのを拒めなかった。そして納得していないイリヤの表情に傷ついたのも明白だ。


「テアとアランが?」意外そうでありながら少し複雑な顔を浮かべるのは恐らく兄としての心境だったのだろうがエイブリーにはそう考えられなかったのだ。


「残念ね、てっきり貴方はテアと出ると思ってたのに…」


こう言ってから後悔したがもうエイブリーには諦めの方が勝っていた。そして彼に背を向け去る時には涙が込み上げていたのは彼女だけの秘密である。




ーーその頃トウマと一緒にアランをからかって居たテアの元にイリヤがやって来た。その顔はやっと納得がいったと言いたげなものだった。


「何、その顔は…」


不安がる彼女にイリヤは咳払いをしては何でもないと顔を逸らした。


「エイブリーから聞いた、今度のプロムナードは欠席をすると」


意外だと言わんばかりな彼にテアは決して考えを変えるつもりはないと表明する。その意気込みにイリヤは仕方がなさそうだったがひとつ警告をした。


「その話は直接母親にする覚悟はあるのか?」その言葉にテアの顔が青ざめたことにトウマは気が付いた。


「もしかしてママが来ているの…?」


恐る恐る尋ねる少女の体は震えていたがイリヤはトドメを刺すように1度だけ頷いた。


すると不安げに爪を噛んだテアは助けを求めるようにトウマを見つめたがその時は既に遅かった。


「テア!レオンは大丈夫なの!?」


セレブ臭のするマダムが大慌てでやって来るとトウマは彼女がテアの母親だと察しがついた。


豊かな栗色の髪は上品にカールされ陶器人形のように整った顔立ちはテアそのものだったからだ。


華奢な娘の体を抱きしめる母親はまるで大昔の映画スターのようにしなやかで丸びを帯びており、トウマはその女性らしい美しさに見惚れていた。


「もうマルコムからレオンの話を聞いて心臓が止まるかと思ったわ…。だから駆けつけちゃったの」


弾丸に話す母親のニナにお手上げの状態であるテアに代わってイリヤが答える。


「来週には目を覚ますと聞いている」


「まぁ良かった…。本当イリヤが居なかったら私きっと心臓発作を起こしていたわよ」


スレンダーでスタイルのいい体を見せつけるように動くニナは態とらしく胸をなで下ろしてみせた。すると静かに隣に立っているトウマとアランに目が留まる。


「あら、テアったら男前の友人ばかり集める趣味が有ったなんて。やっぱり親子ね」


流し目がミステリアスな雰囲気を醸し出すニナにトウマは初めて異性に緊張を覚えた。カチンコチンとなるトウマの顔を見てテアは首を傾げる。母親の趣味が理解できないと言わんばかりの表情だった。


「ちょっと噂で聞いたんだけど、貴女プロムナードを欠席するの?」


トウマの肩を摩りながら尋ねる母親の顔から読み取れる怒りにテアは顔面蒼白となる。


「ま…さか、そんなはずないって…」


あからさまに挙動不審となる娘を操る術を身に付けているニナは不敵に微笑んで見せてそっと唇を窄ませた。


「よかった、買ったドレスが無駄にならなくて。それで貴女は誰と行くの…?」眉をピクリと動かす母親に怖気付いたテアはそっと右手を伸ばし偶々触れた彼の手を取った。


「彼と行くの」


そして相手を見ようと顔を向けると其処にいたのは驚く顔を浮かべたアランだった。2人して驚く様子をニナは意地悪そうに笑って見守った。


「そう、なら良かった」


そう言い放ち去っていくニナと同行するイリヤの背中は清々しい雰囲気が漂っていた。


惨敗したテアは今にも唖然とした様子で立ち竦んでいるとトウマは面白そうに眺める。


「君にも怖いものがあったとは」からかうトウマを押し退けて去っていくテアは嫌気がさしていた。いつもイリヤは母親の味方に就くと思うと腹立たしいものだ。仕返しに何をしてやろうかと再び企む。





友人達が何やら楽しんでいる傍でエイブリーは悲しみに耽っていた。ここの所自分の暴走が止まらないと、自覚していたのだ。


地下のバーで慣れないお酒に口を付けるもあまりの苦さに顔を顰めた。逃げようにも現実はすぐ真後ろにいるのだ、逃しまいと。


虫が蠢くようにザワザワと胸騒ぎがする。


そして自分の中に何か変化が訪れているのだと悟った。


「はぁ…」


今日何度目かの溜息を吐いた時、ふと誰かの視線を感じた。またワイラーがからかいに来たのだろう、そう振り返るとそこに立っていたのは嫌味ったらしく笑みを浮かべるロキだった。


「貴方だったのね…」ホッと胸を撫でるエイブリーにロキは興味深そうに笑う。


「私を見て案ずるとは…それ程嫌な目に遭ったのか?」


「そうじゃないの、少し羽目を外したくて」


グラスを見せつけるエイブリーは微笑んでいたがロキは目を細め彼女の顔を見つめた。


「君は隠しきれない様子だ…。その隠し事は途轍もなく強大なものだから」


何かを知った口ぶりにエイブリーは心臓を鷲掴みされているような錯覚に陥る。


彼もマルコム同様に心を読めるテレパシーであれば自分を破滅に追い込めるだろう。しかしロキに何の得があるのかを冷静に考えた。


「安心しろ、私は興味ない」


すると冷めた口調で告げるロキにエイブリーは目を丸くさせた。それはマルコムでなくとも彼が本音を話しているだろうとも感じ取れる。


「何故興味を持たないのか聞いても?」


意外な態度にエイブリーは複雑な気分になる。何故か暴露る秘密を彼なら暴かれてもいいと思えたのだ。しかしロキはエイブリーからグラスを奪い取ると一気に呑み込んだ。


「弱い奴には端から興味を唆られない」


氷の彫刻のように残酷で美しい彼の顔に見惚れていたのは一瞬だ。


こうして人を揶揄い地獄へ突き落とすのは昔から知っていたが、実際に身に起こると何故か虚しくなった。ただそれが図星であったからだろう。


「だが、その美しさには感銘するよ。それもきっと君の能力だとは思うが」


エイブリーの顎を持ち上げるロキの瞳に吸い込まれるエイブリーは息を呑んだ。このまま彼に身を委ねてもいい、そう素直になれる気がしたのだ。


イリヤを思い続けても決して彼は振り向いてくれない。報われない愛は自分に何を齎すのか、それは無であることをエイブリーは知っていた。


するとロキは彼女を解放し満足そうに去っていく。何故か全てを見透かされた気分になり少女は地面にへばり付いた。


そして向かったのは小さく設置された教会だった。


神妙な面持ちで告解をするエイブリーにブラウン神父は耳を立てる。


「その力に関して、何故今になって告解を…?」


恐る恐る尋ねる神父はこれは一大事なことだと思った。


「隠し事をする事によって私は自分の身を滅ぼしかねないと感じたからです」


「では聞かせてくれるかね、その本当の力というものを」


「それは3年前、初めての彼と行為を行った時の事です」


15歳だったエイブリーはまだ穢れを知らない少女だった。しかし付き合ってもう半年が経った頃、彼は迫ったのだ。


その晩は満月の夜だったのを確かに覚えている。


初夜にしては完璧な日だった。


上流階級のルイス家に上がり込んだ青年は緊張を全身に感じていたが目の前にいる美しい彼女の唇に触れそっと口付けを交わした。


少しぎこちなさがあったが、それが純粋である証でもある。


そしてベッドに寝そべるエイブリーの上に乗った青年はすかさず中へと入っていった。


初めての痛みはしっかり覚えている。激痛ではあったがそれが愛であることもしっかり理解していた。事を終えた青年は優しく口付けを交わすまで、エイブリーには幸せが包み込んでいた。しかし彼女を襲うのは厳しい現実だった。


先ほどまで元気に見えた青年は急に苦しみ出し過呼吸を起こす。苦しさにもがき倒れこむと青年の呼吸が止まり只管に痙攣を起こした。


泣き叫ぶエイブリーの元に両親が駆けつけるとショッキングな光景に口を覆った。


息をしていない青年に駆けつける父親はすぐに脈を図るも顔を俯かせ、妻を見る瞳に悟った。彼は逝ってしまったのだと。


何故こんな事が起きてしまったのか、当時のエイブリーには理解不能であった。常に神を信じ聖書は頭に叩き込んでいる正統なカトリック信者だ。神に愛されるべき人間だというのに何故こうなってしまったのか。


エイブリーは泣け叫ぶ一方で母のヴァイオレットは家系の秘密を話す時期が来たのだと悟る。


「母はこう言ったんです。私達の家系には秘密があると。そして呪われているとも言っていた」


「それで君の能力とは…?」


思わず書き留めようと考えた神父はそっとペンを手のひらに向けるとスラスラと書き込んだ。


「恐らく皆は私の力を勘違いしているの。傷を癒す力だって。でもそれは表上の力であり裏の力は満月の夜に性交を行い人の生命を奪ってから発揮される力なの…」


その言葉に神父は固まった。そして十字を切るよう神に祈った。聞いてはならないものが現実にはあるのだと見出すも、彼女の言葉には続きがあった。


「あれからまだ性行為は行っていない、でも私には行う義務があるの。でないと死んでしまうから…」


「人を殺めて生命を維持するという話だね…」


察した神父にエイブリーは涙を流した。彼女の優しさはよく知っているからこそ神父もまた付け込まれるようだった。


「私は人を殺したくはないの…。でも神は私にこの力を授けた。そのワケは如何してなのか、私はどこまで罪を償えば許して貰えるのでしょう…」


泣きじゃくるエイブリーは解決策を求めていたが神父にも答えなど分かるはずがなかった。況してこの信者にどんな助言をすればいいのかわからなくなる。それでも彼女が言葉を待っていることに気が付き神父は最良に努めようとした。


「私は能力に関しては無知である。だが君がどんな人間よりも愛を熟知していることは知っている。そんな君を神が見放すわけがない」


「ブラウン神父、貴方のお言葉はとても感銘を受けました。でも解決策がなければ私…こんごどうしたら」


「それに関して熟知している人を知っている。勿論、君も知っているはずだ」恐らくマルコムの事だろうとエイブリーには分かっていたが、どうも腑に落ちなかった。そんな彼女の心情を悟り神父は続けた。


「此処は君にとって特別な場所だとは思わないかい?君の為に全力を尽くす施設だ。だからこそ君に必要なのは秘密よりも信頼する心ではないのかね?」






ー久々に訪れた研究室に訪れたニナはマルコムの部屋で書類をかき回す。


「へぇ、いつも整理整頓されているのね」


流し目で誘うニナの様子は相変わらずだとマルコムは頭を掻いた。こうして会うのは20年ぶりでるが彼女の美しさは増していると思える。


「貴方がレオンの心を覗いたって話、ここ最近で1番に驚いたわ…」


「君の夫が部下を50人殺したって話よりもか?」


「あぁ、あれは裏切りがあったからよ」


当たり前と言わんばかりの態度にマルコムは恐ろしいと呟いた。


「娘がプロムナードを欠席するって話も最悪だった」


そしてタバコを咥え話す彼女は指を鳴らすと親指から炎が上がり、タバコに程よく火がつく。


ゆっくりと煙を吐くニナの顔を見てマルコムは微笑んだ。


「だけど君がここに来た本当の理由は別にあるんだろうね、当ててあげようか?」


「止めて、心を覗き見しないって約束よ」キリッと睨まれるニナの瞳にマルコムはお手上げと両手を挙げた。そして笑い出す2人には20年ぶりの秘密を持つこととなる。


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