ep.00 prologue
今回初投稿です。…めっちゃ緊張しております。
楽しんで頂けたらなと思います。
それではどうぞ。
日本国領 L-01島 エリア1…
†
筋肉がミシミシと嫌な音を上げ、肺は必死に酸素を求める。口と鼻でがむしゃらに空気を吸い込み、無理矢理手と足を動かす。
「待てこの野郎ッ!」
俺ー加藤猟牙ーは長年相棒として活躍してくれてきたHK45(ドイツのハンドガン)を片手に持ち、前を走るモヤシみたいな体型をした男を必死に追いかけていた。
銃撃戦では死の淵から救ってくれる防弾ベストも、こういう場面ではデッドウェイト(ただのおもり)にしかなり得ない。
この場でファスナーを下ろし、防弾ベストをほっぽりたい衝動に駆られるが、そんな事をすれば後々色々な意味で苦労する事は目に見えている。
ー全く…余計な仕事を増やしやがって!ー
前を走るこの男は、先程俺がスピード違反で止めてライセンスを見せろと言っただけなのに、勝手に車から降りて逃走しやがったのだ。
逃○中を見るのは好きだが体験するのは御免こうむりたい俺にとって、この一連の作業は苦行となる。
「いい加減諦めて止まりやがれ!!9時から始まる洋画劇場に間に合わねぇじゃねぇか!!」
「いや知らねぇよ!?それまるっきりアンタの家庭内事情だろ!?」
「だから止まれって言ってんだろうが!!」
「理屈がめちゃくちゃだ!?」
くっそう!マジで間に合わねぇ!!俺はしびれを切らし、HK45を構えて男のすぐ右を撃ち抜いた。
パァンッ!
チュインと音がしてステンレス製の扉に弾丸は当たり、跳弾してまた何処かへ飛んでいった。
「へぁ!?」
男は奇妙な奇声を上げ、両手を高々と上げ急停止する。
「やっと止まったか…」
「免許見せなかっただけで撃たれるのかよ…この島は。」
「いや、普通はしない。」
「え?」
「○曜洋画劇場が見れなくなるから。」
「俺と日○洋画劇場どっちが大事!?」
「日○曜洋画劇場。」
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
てな訳で、俺はここ「L-01島」で保安官やってます。
†
署に戻り、タイムカードを押した俺は色々入ってるボストンバッグを担ぎ、夜空を見上げた。
大都会の様に空がくすんでる、なんて事は無くしっかりと光り輝く星達が手に取るように見える。
「さぁて、家に帰る…前に。」
俺はポケットから車の鍵を取り出し、駐車場へと足を向けた。
「妹に会いに行かないとな。」
ーー
駐車場で俺を待っていてくれたのは、黒塗りの大型セダン。
ドイツ、アウディ社のフラッグシップモデル「A8」である。
ディーラーの人に色々と無理言って買ったのだが、最上級モデルであるが故パワーがもの凄い。
…なんだよ500馬力って、その辺のスポーツカーなんて置いてくんじゃなかろうか。
「っと、ボーッとしてる暇はないな。」
鍵を開け車に乗り込み、妹の待つ建物へアクセルを踏み込んだ。
ーー
アイル中央病院は島で1番大きく1番設備が整った病院である。
目を見張る程の大きさを誇る建物に、これでもかと言う程の救急車。つまり何が言いたいかと言うと…
俺の妹はここの病院で醒めない眠りについているのだ。
4年前のとある事件に巻き込まれて…
まぁ今更その話をぶり返しても何一つとして状況が変わる訳では無いのだが。
病院の駐車場へ着いた俺は、眠る患者を起こさぬようあまり吹かさず駐車し、途中で買ったフリージアの花束を持ち病院のドアを潜った。
「802…802と…」
ドアの横にかかっている「802」のプレートを確認しスライド式のドアを開けた。
妹専用の部屋となっているため、同居人が居ないのだ。
「さてと…」
萎びた花を花瓶から抜き取り、変わりに先程買ってきたフリージアの花束を突っ込み、部屋の外の手洗い場で水を注ぐ。
「一息付いたな。」
部屋の隅から折りたたみ椅子を持ち出してきて、妹の横たわるベッドの傍に置き腰を下ろした。
「今日も来たぞ?"未来"。」
†
俺の妹、加藤未来。4年間も切っていないせいで綺麗な茶色がかった黒髪は臀部辺りまで伸びきっており、いろんな方向へとはねている。
血色の良いとは言えない整った顔は少しやせ細り、見てて痛ましくなってくる。
「未来…いつか起きてくれよ。」
思わずそう言わずにはいられなかった。
†
病院を出た俺は家へ帰るべくアウディへと急いで舞い戻った。
「…日曜洋画○劇場が待ってるな。…あ、明日学校だ。」
更に気分が落ち込み、テンションガタ落ちのまま俺は家へ帰り着いた。
明日起こる事件をまだ知らずに。
ご感想、ご指摘待ってます!…辛口評価はご勘弁下さい…筆者のメンタルは飴細工なので…