婚約者
「 知り合いかね?ギルベルト殿 」
葉巻を加えていた男は、後ろにいる男にそう問いただす。
「 えぇ。以前港で会った事のある青年です。彼がいると言う事は・・・・・ 」
何か思う所があるのか、男はそう言いながら周りの船員達に視線を送る。そして、ある一点で視線を止めた。ジャスティだった。
ジャスティは未だに、その男を睨みつけていた。
男はジャスティに目をやったまま、葉巻を加えたままで立っている男に声をかけた。
「 大佐。あの男と少し話しがありますので。先に船に戻っていてもらえませんか?そして、この船の今後は私の手に・・・・ 」
最後まで言い終わる寸前、男はジャスティから視線を外し葉巻を加えてヒゲを弄ぶ男に視線を向け胸に右手を当て、一礼する。
「 ふむ・・・・良いでしょう。貴方にお任せしよう。お前たち!数名を残して後は船に戻るぞ! 」
ヒゲを弄びながら、少し考えた後すぐさま返事を返した後。二人の後ろに控える兵数名に、船の上に戻るようにと命令する。
「「「 はっ!!! 」」」
兵達は銃を構えるのをやめ、片手で立てて持つと右手でグーを作りそれを胸に当て返事をする。
そして、葉巻を加えた男が渡り板に向かって歩くと、数名の兵達は男の後ろに付いて行った。
海賊船の上には、ギルベルトと呼ばれていた男と数名の兵が残った。
「 お前達は橋を守ってろ。私は一人で平気だ 」
ギルベルトは前を見据えたまま、後ろに控える兵二人にそう命令する。
「「 はっ! 」」
兵は、返事を返すなり渡り板の海賊船に降り立つところに立つ。
ギルベルトは、兵達に視線を送る事なくジャスティに視線を送り歩き出す。
船員達は、歩くギルベルトの道を黙って開く。その先にいるのはジャスティだった。
ギルベルトはジャスティの目の前まで来るなり話しかけた。
「 久しぶりだ。ジャスティ。12年ぶりか・・・・? 」
話しかけられたジャスティは一瞬目を細める。
「 あぁ。ギルベルト・ウィリアム 」
ジャスティが呼んだその名を聞くなり、船員達にどよめきが生じた。
「 ギルベルト・ウィリアム・・・・?何か聞いた事ないか? 」
「 あぁ・・・・誰だっけ・・・・?元仲間とか・・・・? 」
「 何言ってんだよ。カルタリアの第二王子だろ 」
「 あぁ・・・え?って事は確か・・・ 」
船員達の中から小さな話し声が聞こえてくる。
その間、ウィリアムとジャスティはお互い睨み合ったままだった。
だが、すぐさまそんな船員達の状況を無視したまま会話が始められる。
「 単刀直入で聞かせてもらいたい事がある 」
その言葉にジャスティは、ポケットから葉巻を取り出し口に加え、火をつける。そして横を向き、葉巻を吹かす。
そんなジャスティの態度を物ともせず、ウィリアムは話しを続ける。
「 12年前。ルシーバ国が滅びた時。お前はどこにいた? 」
「 何でそんな事を聞く? 」
ジャスティは横を向いて、葉巻を吹かしたままで聞き返した。
「 12年前。ルシーバ国が焼けた時。私は別の国に出張に行っていた。帰るなりルシーバ国の城に足を踏み入れた所、子ども部屋に陛下と王妃様のご遺体と思われる焼け焦げた死体を見つけた。だが、部屋の持ち主であるセルティア姫がどこにも居なかった。城中探したがどこにも。もし、陛下が姫を託すとすれば、親友のお前だけだろぅ 」
「 さぁ。知らねぇな 」
「 先日。サーガ港で、そこにいる若い男と会った。その時他にも二人一緒に居る男がいた。一人はがたいの良い男だったが、もう一人男にしては華奢なのがいた。帽子を深めに被った青い瞳の 」
ウィリアムはファドに視線を送り、指差す。
「 何が言いたい 」
そこでジャスティは、ウィリアムを睨むように視線を向ける。
視線を無視してウィリアムは話しを続ける。
「 あの時の青年が姫だった・・・・・私はそう考えている 」
その言葉にジャスティの瞳は鋭くなる事もなく。淡々と口を開く。
「 おめでたい事だな。まずもって、何故俺が姫を守ってると思った?普通ならば誘拐されたと考えるほうが先じゃないのか 」
ジャスティのその言葉に、ウィリアムは少し歩き出し甲板へ行くための階段に座り込み、両膝に肘を置き両手の上に顔を乗せる体制になる。
ジャスティは、葉巻を口から放し右手に持ったままでウィリアムを視線だけで追う。
「 馬鹿にしてもらっては困るな。私だってそっちの線は考えているさ。この12年何もしてないとでも思ってるのか? 」
「 ・・・・ 」
「 12年。部下を使って世界を探させた結果。どこにも居なかった。犯人も捜したが、わからなかった。となると、考えられるのはここだけだ 」
「 ・・・・なるほどな。だから海賊の敵である海軍に入り込み、この船を探させるように仕向けたわけか 」
ジャスティの言葉に、ウィリアムは返事をせず口角を上げて薄く微笑んで見せた。
そして、ジャスティはウィリアムに質問をする。
「 もし、姫がこの船に居たとして。お前はどうする 」
ジャスティの問いに。ウィリアムは立ち上がり、真剣な表情で返事を返す。
「 決まっている。我が国に連れ帰る。彼女と私は元々婚約をしていた。姫は今年で16歳だ。結婚が許される。16歳の誕生日を迎えた後、我が国で結婚をしその足で今はなきルシーバ国へ行き国を再建する 」
「 ・・・・ 」
二人は正面から睨みあう。周りの船員達は、口出しをせずに結果をただただ待つしか出来ない。
「 ジャスティ。確かにお前は若くして、ルシーバ国一、いや世界一の海賊の船長だ。その事に関してはルシーバ国王も認めていた。だからと言って、姫と一緒になれるかどうかは別だ。彼女は王族だ。王族は王族としか婚姻を認められない。わかっているな 」
ジャスティは瞳をゆっくり閉じる。
「 そんな事、言われなくてもわかってる 」
そう言うと、横を向きファドを見る。
ジャスティとウィリアムを緊張な面持ちで見つめていたファドは、ジャスティと目が合う。目が合うとジャスティは何も言わずにただ、首を下に動かし頷く素振りを見せる。
それがどういう意味を示しているのか、ファドにはわかった。
ファドは一瞬行くべきか悩んだが、船長であるジャスティの命令はこの船の上では絶対である事を思いだし、船長室に向かって歩き出す。
ファドが船長室に行っている間。ジャスティはウィリアムに話しがあった。
「 俺も犯人を調べていた。この12年間ずっと 」
ジャスティがそう言うと、ウィリアムは腕組をする。
「 で?何かわかったのか? 」
今度はジャスティが階段に座り込む。
「 船員の一人に、城に行かせて探らせた結果。あそこにあるはずのない物があった 」
「 あるはずのない物? 」
腕組をしていたウィリアムは、腕を解いてジャスティに詰め寄る。
「 あぁ。ピジョン・ブラッドで出来た指輪だ 」
「 なっ!?何!? 」
ジャスティの言葉にウィリアムは瞳を大きく開き、驚きの声をあげる。
ビジョン・ブラッドとは、カルタリアでも滅多に取れる事のない、深い紅色の怪しく光り輝くルビーだ。滅多に出ないことから、そのルビーを使って作ったアクセサリーはカルタリア国の王族しか着ける事を許されて居ない。
「 では何か!?犯人は我が王家にいると!?お前はそう言うのか!! 」
ウィリアムは怒り任せにジャスティの襟首を掴み立たせる。
船員達が鞘から剣を出し、襲いかかろうとする・・・が、ジャスティが手で制したため動きを止めた。
「 あの宝石を持っているのは、カルタリアの王家だけだ。そして、俺はお前かザガンでは・・・と睨んでいた 」
ウィリアムは、ジャスティから手を放した。それを見るなり船員は剣を終う。
何も言わないウィリアムを良い事に、ジャスティは話しを続けた。
「 だが、お前は違うことがわかった 」
ウィリアムは瞳を細め、ジャスティより少し身長が高いため少し上からジャスティを睨みつける。
「 ? 何故だ・・・・ 」
「 姫を、犯人を捜したんだろぅ?その話しをしていたお前の瞳は、嘘をついていなかった 」
ジャスティの言葉に、ウィリアムはまたもや瞳を大きく開け驚きの表情を見せる。
そしてすぐ、瞳を閉じて微笑む。
――――――――――この瞳、この考え、これあっての「海賊王」か・・・・・・。―――――――――――
「 船長。お連れしました 」
ウィリアムの背後から、若い青年の声が聞こえた。
ウィリアムが振り向くと・・・。そこにいたのは・・・赤茶色の長い髪を風に流した、青い瞳の10代くらいだろぅ少女が立っていた。
ウィリアムは一瞬でその姿の虜となった。
「 貴方は・・・サーガ港の・・・ 」
セルティアは瞳を大きく開け、驚きの表情でそう言う。
一瞬、我を忘れて固まっていたウィリアムだったが。すぐさま我に返り胸に片手を当て礼を取った。
「 お久しぶりにございます。やはり、貴方がセルティア姫でしたか 」
名を呼ばれたセルティアは、驚きの表情を見せる。
「 え・・・・・?私を、知っているの・・・? 」
「 覚えておられないのも無理はない。私と貴方が会ったのは、お互いの紹介の時のみ。私の名は・・・前に言いましたね。もう一度言いましょう。私の名はカルタリア国第二王子、ウィリアム。貴方の、婚約者ですよ 」
セルティアとウィリアムの会話を、セルティアの後ろから黙ってみていたジョンはチラリと、ジャスティに視線を送る。ジャスティは瞳を閉じ、階段に座り込み葉巻を吸っている。