サーガ港
キィ・・・バタン。
船長室の扉が開き閉じた音。
船員達と一緒に甲板で作業をしていたセルティアは音のした方に視線を向けた。
視線の先にはジャスティが腕を組んで仁王立ちしていた。その後ろには、夕刻少し前まで一緒にいたパウルが控えている。
ジャスティは船の上を見渡し、ある一点で視線を止めた。セルティアだ。
目があったことでセルティアの心で一瞬「ドキン」となったが。無視した。
「 やっぱりここに居たか。また、んな格好をして・・・反省しねぇな・・・ま、今夜だけ許してやるか 」
「 ? 」
ジャスティがその場で何事かを呟く。だが、少しばかり離れた場所に居るセルティアには微かにしか聞こえてこない。
何事か言い終えるとジャスティが此方に向かって歩いてくる。
また、服装の事を叱られるんだ・・・と思い。セルティアは言い返す言葉を考える。
考えている間にジャスティは、目の前までやってきた。
「 な、何だよ!良いでしょ!!この服動きやす・・・!? 」
途中まで行った所で。ジャスティの手が自分に向けられた。そこで船長室でされた事を思いだしたセルティアは頬を薄く染め強く目を閉じる。
だが、思った事は起きなかった。その代わり頭に帽子を被せられた。
「 ?何これ? 」
セルティアはジャスティに視線を向け聞いた。
「 何だ。帽子もしらねぇのか 」
「 馬鹿にするな!帽子くらい知ってるわよ!何で突然被せたのかって聞いてるの!! 」
鼻で笑われながら言われた言葉に苛立ちを覚え言い返す。
「 ・・・・・・・これからサーガ港に着く。どぅせ降りたいんだろ 」
そこまで言われてセルティアは瞳を輝かせて背伸びをして叫んだ。
「 降りて良いの!? 」
「 その代わり条件がある。服装はその格好で。髪は帽子の中に隠せ 」
「 ・・・・・え? 」
ジャスティから言われた言葉にセルティアは驚いた。それではまるっきし「男装をしろ」。と言われているのと同じだ。
「 それが出来ないなら・・・・・・・・・ 」
「 出来るに決まってる!!!すれば降りて良いんでしょ!? 」
今度はジャスティの言葉をセルティアが遮った。
「 あぁ。あとファドとジョンを護衛に付ける。どこに行くにも一緒に連れて歩け。良いな 」
「 えぇわかったわ!!!ありがとう、ジャスティ! 」
セルティアが満面の笑みで感謝の言葉を述べると、ジャスティはぷいっとそっぽを向いてしまった。だが、今のセルティアは陸に降りれる喜びが大きく、その事に気付かなかった。
二人の言葉をおろおろと聞いていた船員は、セルティアが大喜びをするのと同時に大きく叫んで一緒になって喜んでくれた。
ザザーン、ガヤガヤガヤガヤ。ワハハハハ。ガシャーン。
光にあふれる町。船着場には色々な船。旗はどの船も下ろしており、見張りの人間しか船に乗っていない。
「 着いたわね。サーガ港 」
帽子の中に束ねた長い髪を終いながら、セルティアは目を輝かせながらそう言う。
「 セルティア 」
後ろから声がして振り返ると、そこには煌びやかな船長服を着たジャスティがいた。
不思議そうに彼を見ているセルティアに、ジャスティは近づき呼んで本題を話す。
「 降りた時点からお前の名前はゼンだ。良いな?ゼン 」
―――――――そっか・・・・・・。男の子の格好をするんだから当然よね。――――――――――――
顎に手を当て考える素振りをしてから。またも目を輝かせながらジャスティの方を向き。
「 はい!船長! 」
と、元気良く返事をする。その返事に、ジャスティは薄く微笑み何も言わずに頷く。
「 碇を下ろせ!!ロープを投げろ!!足場を出せ!! 」
船に近づくとジャスティはそう。船員達に命令する。
セルティアは。他の船員にまじって命令どおりの作業をこなす。
ジャスティとその他の、セルティアに付く船員と留守番の船員以外が足場を渡ると、船着場にいる人間がどよめき始める。
ジャスティはルシーバ国一の海賊船長だ。彼以上に強く。頭の良い船長はいないと言うほど。
だが、それだけではここまでのどよめきは見せない。
彼は女性に人気だ。あの若さで世界一の海賊船長になり。見めも美しい。
海賊は、旗の絵などでどこの海賊なのかを確認するが。
町に着く時は大抵ばれないように旗はしまう。
だが、彼らの場合それになんら意味はない。こうやってばれてしまうのだから。
「 姫。あ、いや。坊ちゃま?行きましょう 」
そう呼ばれて横を見ると、そこにはファドがいた。ファドは、セルティアと同い年の男の子で、男とは思えないほどとても綺麗な子だ。
――――――――――そうか。もう船は陸に着いたんだから。私も男の子にならないといけないのね――――――――――
「 ゼンで構わない。では、ジョン、ファド俺達も行くぞ 」
「「 はっ!! 」」
セルティアそう言い。ジョンとファドを後ろに従えジャスティ達に付いて行く。
ざわざわざわざわ。ギャハハハハハ。ガハハハハハ。お待ち~!! ハーイ!
「 ここは・・・・・・? 」
ジャスティ達は1つの店に入ったので、セルティアも中に入るなり口をあんぐりを開け閉じれなくなった。
セルティアは、今回が12年ぶりの陸であり。ルシーバ国にはこのような店はなかったので、この店がどういう店なのかがわからない。
セクシーな装いをした女が色んな男達に接待のような事をして。食事を運んでいる男や女がいる。
うちの船員じゃない男達が、酒を片手に立ち上がって大笑いをしたり。殴り合いの喧嘩を始めているやつまでいた。
「 あー・・・ここは。酒屋だ。ゼンとファドは無理だろう。他行こう 」
そう。話しを切り出したのはジョンだった。
ジャスティに視線を向けると。ソファの真ん中に座り、両腕を開いて二人の女性の腰に手を回して葉巻を吹かしていた。
セルティアは、そんなジャスティを見ると何故かどこかがムカムカしてくるのがわかったが。何なのかを考える前に店を後にした。
「 ゼン。別に店に入らなくてもぶらぶらしてようぜ。船長から金なら預かってるから、商店をぶらぶらするだけでも楽しいだろ 」
店を出て、店の前で立ち尽くすセルティアにジョンが一生懸命な態度でそう声をかける。
どうやらこの町にある店は、皆こんな感じのようだ。
仕方がないので。商店を練り歩くことにした。
歩き出そうとしたその時。
うわ~~ん!!!
子どもの泣き声が聞こえてきたので、セルティアは其方に視線をやった。
「 そのお金返してよ!!それは大事なお金何だ!! 」
「 あぁ??うるせーなぁ。んな事知った事かっつの。チッしけてんな、たったのこれだけかよ 」
ジョンと体格の似た男が小さい男の子から茶色の小さい包みを奪った直後の所のようだ。セルティアは何かを考える前に走り出していた。
「「 ゼン!? 」」
突然走り出したセルティアに。ジョンとファドが声をかけるが、セルティアはそれも聞こえていないようで一直線に子どもに向かって走った。
「 やめろ!!! 」
そう言いながら男と子どもの間に立って、男を睨み付ける。
「 あぁ!?何だてめぇは!かんけーねぇやつはすっこんでろ! 」
男が腕を振り上げ、殴ろうとしてくる。セルティアは衝撃に備え目を強く瞑る・・・が、いつまでたっても痛みはこなかった。
ジョンが助けてくれたのかな?と思い。そっと目を開けると状況に驚き目を見開いた。
金髪の軍服に似た綺麗な装いをした若い男が、セルティアと男の間に立っていたからだ。
横を見るとジョンが「ゼン大丈夫か!?」と心配そうに声をかけてくれていた。ファドはセルティアの後ろにいる子どもを抱え上げる所だった。
「 何だてめぇは!! 」
金髪の男に自慢の拳を受け止められて、男は一歩後ろに下がりながらもまだそのように声を張り上げてくる。
男はポケットからハンカチを取り出すと。拳を受け止めた方の手を拭き出した。拭き終わると、ハンカチをポケットに終う。
「 君こそ何をしているのかな??このようないたいけな少年にあんな乱暴な事をして。恥かしくはないのか 」
「 あぁ!?何かっこつけてやがるんだ!気持ちわりぃんだよ!!! 」
男がもう一度腕を振り上げる。が。若い男の方はその拳さえもまるで踊るかのように、軽やかにヒラリを避ける。そしていつ抜いたのか剣を男の顎先に宛がう。
「 この子にお金を返してあげたまぇ。それとも、ここで死ぬか・・・・・・? 」
睨みつけるような瞳でそう言われた男は「ヒッ!か、返すよ!かえしゃいんだろ!こんなしけた金!! 」そう言い放ち袋を地面に投げつけ、走り去っていった。