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煌く海の聖乙女  作者: 優姫
10/11

12年ぶりの静かな夜


海軍の船が出向した後も、船員達はずっと手を振っていた。海軍の船が小さくなるまで・・・。

「 行っちまったなぁ・・・・ 」

「 船長は一体何を考えてるんだろぅなぁ・・・・ 」

「 お可愛そうな姫・・・ 」

振っていた手を下ろし、船員達はそうお互いに声をかけあい話しあいだした。

そんな船員達の中を割って歩き、船長室にまっすぐと向かう男がいた。ジョンだ。

その後ろにファド・パウルが付いて行く。

バン!!!

船長室の扉を勢いよく開け放つ。

ダン!!!

ジョンは船長室に入ると、ジャスティの座る椅子・机の前まで行き机に大きな音を立てるようにして両手を置いた。

ジャスティは、それを物ともせず地図に目を通している。

ファドとパウルもジョンの左右斜め後ろに控える。

船員達が船長室入り口の開いた扉から、ばれないようにコソコソと中を見ているが。正直バレバレだ。

「 ・・・・・・ 」

何も言わずに黙々と、地図になにやら印などを書いているジャスティをジョンは上から睨みつける。

「 ・・・・・はぁ・・・・ 」

バサッ、キィッ。

ジョン・ファド・パウル・船員達の視線に耐え切れなくなったジャスティは、地図から手を放すと椅子を後ろに少し下げ目の前にいる三人を見る。

ジャスティが動くと同時に、船員達は少し後ろに下がり見つからないようにとばっちりをくわないように、それでも中を見ようとする。

「 何故黙っている。俺に何か用事があって来たのではないのか? 」

ジャスティは、今なお自分を睨み続けているジョンに口角を少し上げ微笑みながら問う。だが、目は笑ってはいない。

「 ・・・・何故。何故、姫にあんな事を言った・・・・? 」

ジョンにそう言われると、ジャスティは口角を元の位置に戻し今度はさっきとうってかわって真面目な表情を作り、一度溜め息をつく。

「 あんな事とは何だ。俺は本当の事を言ったまでだ 」

その言葉にジョンはカッと瞳を見開き怒鳴りつける。

「 本当の事だと!?何が本当の事だ!!いつ姫が邪魔をしたってんだ!!俺達の使命を忘れたわけでもねぇだろ!! 」

「 そうですよ。ジャスティ。姫はもう幼い少女ではない、立派なレディとなられました。自分の行動には責任を持って行動できる方です。その姫が我々の邪魔など・・・・私もしたとは思えません 」

ジョンの言葉に斜め後ろに控えるパウルも参戦する。

「 お前ら、俺らの仕事が何かわかってんのか。俺達は海賊だ。宝を集めるのが仕事だ。文句があるならこの船から降りたってかまわねぇんだぞ 」

その言葉にジョン・ファド・パウルは一歩後ろに下がった。

「 ジャスティ・・・・。姫は泣いていたぞ 」

――――――――別れ際。一生懸命笑って入るようだったが・・・・12年一緒に居たからわかる。心が泣いていた―――――――――

「 ・・・・何・・・? 」

ジョンのその言葉に、ジャスティは驚きの表情を作る。

「 あの涙がどういう意味の涙なのか・・・・お前にはわからないのか・・・? 」

そう言われるとジャスティは何も言えなくなり、俯いた。

言い終えるとジョンは早々に部屋を出て行く。ファドとパウルもそれに続く。

ジャスティはさっきまでジョンた立って居た方を向いたまま固まっていた。


「 姫 」

先ほどまで海賊船が浮いていた方向を見つめていたセルティアに、ウィリアムが声をかけた。

「 そろそろ中に入りましょう。風邪を引きますよ 」

返事を待たずにウィリアムはそう言う。言われたセルティアは振り返り声の主を見る。

「 呼び捨てで構わないわ。貴女も王子何だから 」

そう言いながら歩き出す。そんなセルティアにウィリアムは付いて行く。

「 ご要望どおりに。では、私の事はウィルとお呼び下さい 」

と微笑みながら歩く。

扉を開けてもらい船の中に入ると。通路を歩き一つの素晴らしい作りの部屋へと招かれた。

「 陸に着くまでは、この部屋を使ってください。私は大佐と話しをしてまいります。少々お待ち下さい 」

そう言うとウィリアムはセルティアを部屋に置いて出て行った。

「 ふぅ・・・・ 」

セルティアは大きな溜め息を一つ付き、ソファに腰かけた。頭の中ではジャスティに言われた言葉がまだ息づいている。

「 これで良かったのよ・・・・。いつまでもあの船にいてはいけないわ。私はルシーバ国唯一の生き残りの王女。いつかは陸に戻り結婚をして国を再建・・・・ 」

そこまで小さな声で言うと、手の甲に何やら雫が落ちた。

「 あれ・・・・? 」

そう言い瞳の少し下。頬に触れる。雫はそこから落ちたものだった。

それに気付いたのと同時に、目前にハンケチは差し出された。

顔を上げ見上げると。実は先ほどからずっと一緒に居たルーアがハンケチを差し出してくれていた。

「 ありがとう 」

それを受け取るとすかさず自らの涙をハンケチで拭い取る。

その様子をソファの横に立っているルーアはずっと見つめていた。

「 大丈夫ですかぁ? 」

ルーアは心配そうに少しオドオドした様子でセルティアに声をかけた。

ハンケチで涙を拭き終わったセルティアは、それを膝の上に置きルーアを見上げ安心させるため微笑んだ。

「 えぇ。大丈夫よ。目にゴミが入ってしまったの 」

「 どうして。悲しいのですかぁ? 」

突如ルーアにされた質問の返事にセルティアは途惑う。

「 悲しんでなんか・・・・ 」

「 貴女の心はとても傷ついている。微笑みに力もありませんね。船を降りた事が悲しいのですか? 」

「 そりゃ、12年間一緒に居た家族と離れたから・・・・・ 」

セルティアが言葉に悩み、俯きながらそう言う。

「 ・・・・人間とは良く分からない生き物ですねぇ。今も昔も 」

その言葉に疑問を抱き、セルティアは聞こうとしたが聞く事は出来なかった。

コンコン

ノックの音が聞こえた後。すぐさま扉が開いた。そこにいたのはウィリアムだった。

「 城へは明日にでも着くでしょう。城への知らせは、城鳩便を送りますのでご安心を。きっと国の者全てが喜ぶでしょう 」

そう言うと、ウィリアムはジャスティの言葉を思いだした。

―――――――――「俺はカルタリア国第一王子。ザガンこそ、ルシーバ国を滅ぼした男だと目をつけている」――――――――――

ジャスティの言葉が真実ならば、理由はわからないがザガンはもしかしたら生きていたセルティアを再び殺そうとするかもしれない。

「 ・・・・・セルティア 」

ウィリアムはセルティアの座るソファの机を挟んだ向かい側に立つと名を呼んだ。

「 はい? 」

セルティアが首を少し傾げて返事をする。その行動にウィリアムは頬を少し染めるが、ばれぬように「コホン」と小さく咳をする。

「 国へ帰りましたら、すぐ貴女様に数名のボディガードと筆頭侍女を着けます。侍女は貴女が行く所全てについて行き、貴方の世話をしてくれるでしょう 」

その言葉を聞くなり、セルティアの瞳が一瞬見開かれたが、すぐに元に戻った。

「 ・・・・ありがとうございます。ですが、ガードは一人で充分です。ルーアが私をちゃんと守ってくれます。ね? 」

急に話しを振られたにもかかわらず、ルーアはセルティアに視線を送り微笑んだ。

「 はい~ 」

「 ・・・・では、侍女だけ付けさせて頂きます。信用にたる者で、セルティアと年の近い娘が一人いるのでその娘を付けましょう 」

ウィリアムの何気ない配慮だった。

そこまでの心配をしてくれるウィリアムに、「侍女などいなくても身の回りの事くらいできる」とも言えず。

「 はい。よろしくお願い致します 」


空は暗くなり。夜がきた。

いつも騒がしい食堂内は、静まり返っていた。

「 ・・・・・何か・・・・美味くないな・・・・ 」

一人の船員が呟いた。それにつられる様に、他の船員も口を開く。

「 あぁ・・・・。俺もそう思う 」

「 ・・・・・姫、今頃どうしてっかなぁ・・・・・ 」

最後の言葉を聞くなり、船員全員の視線がその言葉を口にした船員の方に向けられた後。ジャスティとジョンが食事をしている席の方に一気に視線が動いた。

カチャ、カチャ、カチャ

視線に気付かないはずもなく。それでもジャスティとジョンは黙々と食事に集中している。そんな二人に船員達は盛大な溜め息を送ると、また食事に戻った。


食事の後。ジャスティは真っ暗な船長室へ戻る。扉を締め、しばらくその場で固まる。だが、すぐに歩を進めた。

外に出る扉とは別の、セルティアの部屋へと続く階段のある方の扉を開き階段を降りて行く。

降りている最中、壁に飾ってある絵を見る。絵を外すとセルティアがよく抜け出すのに使っていた穴がある。ジャスティはこの穴を塞ごうなど一度も思った事などなかった。

この船の上にいる間だけでも「自由」に過ごして欲しかったからだ。口うるさい事を沢山言ってきたが、本当はセルティアの行動を遠くで優しく見ていたのだ。

絵を元の場所に戻し、続けて階段を降りて行く。

階段を降りるとまた、扉がある。それを開けるとセルティアの部屋だ。

真っ暗な部屋に入る。ソファの背もたれに触れ、ベッドを支える柱に触れ、窓に触れ窓際から部屋の中を見渡した。

「 ・・・・・ 」

――――――――暗いな。そして静かだ。―――――――――

そう思うと、そのままベッドまで足を進める。ベッドに座りこむと、真ん中で横になりベッドの天上を見つめる。

「 ・・・・・ 」

ジャスティはゆっくりと目を閉じ眠りに付いた。



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