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転生してきた奴殺す。一人残らず殺す。  作者: 軒数
第1章 魔王を倒し、平和をもたらした勇者を殺す。
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第1話 不幸な少女

 ーー歓声が聞こえる。喜びの声が。


 窓から外を覗くと、祭りが開かれているのがわかる。

 道行く道に花々や、色とりどりの旗が飾り立てられており、通りにいる人々は皆、踊り、歌い、歓喜に満ちていた。

今日は仕事に精を出す商人も、走り回る行脚も、悪さを働かせる不逞者や、浮浪者すら一様に大通りに出て祝いの声を上げている。その祭りは道から道へと途切れる事なく、街の入り口からこの都市の中央に鎮座する城、その正門まで続いていた。この街全て、いやこの国全てが喜びに湧いていた。



 戦勝祭。

 勇者が魔王を討ち取り、故国に凱旋する。

 その為の祭りであった。



 長い間続いていた人間と魔族との戦。その長である魔王を討ち取りついに戦争を終わらせることができた。

 人々は夜に怯える事がなくなり、これから待つ明るい未来への希望で溢れている。


 私も嬉しい。

 普段、故郷の静かな水面の如く穏やかな私の心が、多少浮足立つのがわかる。気恥ずかしさと、それでも抑えられない情感の揺らめき。

 窓から見下ろす笑顔の人々、老若男女問わず彼らの行く先へ光あれと願う。階段を降り建物の外に出ると、上にいた時の清々しさからは感じられなかった熱が篭っていた。暑苦しく汗ばんでいて、なおかつ埃っぽい。でも、その熱の奔流こそが、今や人々の胸の中の気持ちを代弁したものであるのだと理解でき、不快な気持ちにはならない。



「あの!お花、如何ですか!?」



 ボロの衣服を纏った花売りであろう少女が近付いてきた。決して裕福とはいえない、日々の生活にも困っているのが伺えであろう出立ちの少女。反面、その表情は曇りがない満面の笑顔であった。


「……おいくら?」


 顔と態度は相変わらず平坦なまま、それでも不思議と自然に懐の身銭に手が伸びた。いつもなら、こんな少女と関わろうともしなかったであろう。なにより草花をこのように摘んで切り売りしている事自体にも、私事で内心思うところあったが。

 今日は、今日くらいはそんな気分だったのだ。


「いいえ、お代はいりません!」


 ふと、帰ってきた明るい返事に拍子抜ける。いくら街中祭りだからといって、これからの実生活があるわけであり、タダ払いの大盤振る舞いなどと、いくら喜ばしくはあっても考えなしというものだろう。こちらのそうした態度を察したのか少女は言葉を続ける。


「勇者様と約束したんです、帰ってきたらきっと今よりもっといい生活にしてくださるって!」


 ふと、これまで浮かべていた比較的穏やかな表情が少しだけ、少しだけ硬質なものに変わる。


「…勇者に会ったことがあるの?」

「はい!この国を旅立つ前に何度か…。こんな私によく構ってくださって…、働き口が無かったのを貴族のお屋敷にメイドとして雇っていただけるよう口利きして下さって!」

「……花売りは前の仕事だったんです。でも、勇者様が帰っできた時、もしかしたらまたお声を掛けていただけるかもって!花をまた、受け取ってもらえるかもって!私のありがとうって気持ち……いっぱい伝えたいんです!」


 頬を染め、照れた様子で少女は語る。それは英雄に対する憧れと共に、淡い恋慕の情が少女の中にあると伺えるものであった。


「えへへ…。これだけいっぱい人が勇者様を迎えている中で、私みたいなのがまた声を掛けるなんて無理だってわかってるんですけどね」


 照れながらも寂しそうに呟く少女。そっと手を掛け囁きかける。



『『貴女に光輝を。良き縁がありますように』』



 ポゥッと少女の周りに淡い光が集まる。この場所にたゆたう精霊と生気マナが幸福の運命を導く光を少女に与えていく。


「わぁっ…!こ…これって精霊魔法ですか?初めて見ました!!お姉さん、精霊使いだったんですか?凄い!!本当に御伽噺でいたんだ!!『森に愛されし人』!!」


 自分の周囲に流れている小さな光の粒子を追いかけながらクルクルと少女は嬉しそうに笑う。


「……そこまで大きな呪い(まじない)でもないけれど。群衆の中、担がれた籠の上からでも目にとまる位の幸運はきっと運んでくれるわ」

「あ…、ありがとうございます!!こんなこと、どうお礼していいか!」


 そっと一輪、少女の持つ籠の中から白い花を摘む。


「いいのよ。これをいただくし、それにーー」


 そこまで言って言い淀む。少女は不思議そうに次に続く言葉を待っている。その少女の手に白い花の茎で印を結び、再び呪い(まじない)をかける。


「……?」

「ん。これで完璧。きっと勇者に会えるわ。勇者によろしくね、お嬢さん」

「はい!ありがとうございます!!きっと会えるって、私信じます!本当にありがとう!お姉さん!!」


 少女が手を振りながら去っていく。それを見届けながら、貰った一輪の花を頭に挿し、私も歩き始める。



 さて、私も勇者に会いにいかないといけない。






 勇者を殺さないといけないから。








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