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「ば、馬っ鹿じゃないの」


ああ、またやってしまった。


肩まで伸びた髪と150センチにも満たない身長を皆は可愛いと言ってくれるけど、キツイつり目と性格が全てを台無しにする。

告白は両手じゃ足りない程されているのに一度も付き合った事がないのは、照れ隠しの為に相手に放った言葉がいつもマズかった。


今日も相手は「ごめん」と言って背を向けてしまう。

こうなると意地っ張りな私は誤解を解くことも出来ず、不機嫌そうな顔で相手が去るまで睨みつけるしかなかった。


*****


「田嶋の馬鹿ー!!」


「えーなんで俺」


ポカスカと田嶋の背中を叩きまくる。


「痛い痛い。暴力はやめよう暴力は。平和的に解決しよう」


田嶋に両手を取られ、そのまま上に上げられる。


「バンザーイ」


「ちょっと!!ふざけないでよ!」


私が大きな声を出したからだろう、大学近くのファーストフード店のカウンターに横並びで座った私達に視線が集まっていた。

誤魔化すように田嶋の頭をベシリと叩いてポテトを口にした。

どうして意味の分からんことをするのだ、この男は。


「田嶋のせいなんだからね。お守りだって全然効かなかったし」


周りを気にして小声になる。


「お守り?なんだっけ?」


「恋愛成就のお守りくれたじゃん」


その言葉にやっと思い出したのか「あーあれねー」と力無い声が返って来た。


「中開けたし効果ないかも」


「は?」


中開けた?お守りの?


「ばか!何でそんな事するのよ!」


私、あのお守りに願掛けてたのに!

なんとなくお守りの口が緩いと思っていたら中を開けてたのか!


「んーなんか中身気になったから?」


ズズーっとシェイクを飲む田嶋に悪びれた様子は一切ない。

お守りを開けるだなんて、罰当たりな奴だ。


「そんなものを人にあげないでよ!」


フンっとバーガーにかぶりつく。

デートでファーストフード店など来れたものではない。

バーガーにかぶりつく為に大きく開けられた口を、彼氏に見られたくないからだと聞いた事がある。

チラリと田嶋を横目で見るが、やる気なくシェイクのストローを噛んでいてそもそも私に興味がなさそうである。

まぁ田嶋は彼氏でも何でもないが、少しは私に興味を持ってもいいと思う。

コイツは私が下着だけでベッドに寝ていようが、私を退かして寝るんじゃなかろうか。

そもそも出会い方も最悪だった。


*****


大学のオリエンテーションの日。

最後に簡単な感想文を前に提出して席に戻ると、私の鞄と同じ鞄が横にあった。

同じく提出物を出した男子生徒がスッと鞄を持って行く。

同じ鞄だが、男子生徒が持って行った方には猫のキーホルダーが付いていた。


「あ、それ私の!」


私の声に気付かなかったのか、男子生徒はズンズンと出口へと向かって行く。


「待って!!」


慌てて引きとめようとした私も悪かった。

全く別の生徒とぶつかった私は、その生徒が手にしていた自販機のカップジュースを浴びる事となった。

しかも私の身長が低かったのと、その生徒が長身だったこともあり、それこそ頭からジュースを被ってしまった。


その時の田嶋の一言がこうだ。


「うわーベタベタしそー」


私が初対面の相手に喧嘩を売ったのはこの時が初めてかもしれない。


「ばか!あんたのせいでびしょ濡れじゃない!どうしてくれるのようっ」


最後はほぼ泣きながらだった。

だって大学から私の家まで1時間半以上電車に揺られなければならない。

その間このジュース塗れの姿でずっといれば注目されるに決まっている。

実家暮らしだから家にいる母なんてイジメだと勘違いするかもしれない。


私の涙に、ジュースを掛けてしまった生徒はもちろん田嶋も動揺していた。

あの田嶋が、だ。

この時は田嶋の性格なんて知らなかったので何も思わなかったが、常にやる気がなく怠そうな田嶋の動揺などレアである。


「えーっと、俺の家近いし来る?服、洗濯できるし」


田嶋の言葉にコクコクと頷くと、まるで小さな子を相手にするように手を引かれる。

今頃恥ずかしくなった私は俯きながら、ありがたく手を引かれる事にした。

後ろからジュースを掛けてしまった生徒が「ごめんな!」と言うのが聞こえたのでヒラヒラと手を振っておく。



田嶋の家は本人が言うように近かった。

一人暮らしの小さな部屋は、特に散らかっているわけでもなく物が少なかった。

洗濯機に服を入れて、シャワーと服を借りる。

その間はお互い無言。

後から田嶋に聞いた話だが、私のつり目を睨んでいると勘違いしていたらしい。

シャワーでさっぱりした後、借りた服を広げるとタグに几帳面な字で『田嶋』と書かれていた。

お母さんが書いたのだろうか。


「田嶋っていうの?」


髪の毛をタオルで乾かしながら(ドライヤーなんてなかった)声を掛ける。


「うん、そう。あんたは?」


ベッドで雑誌を眺めていた田嶋が視線だけをこちらに寄こした。


「三上です」


「じゃあ、みっちゃんね」


…こんな適当にアダ名を付けられたのは初めてだ。


「ちょっと!変なアダ名付けないで!」


「変じゃないよ。全国のみっちゃんに謝って」


「みっちゃんさんすみませんでした。ってそうじゃなくて!」


わーノリツッコミだーと無感情に呟く田嶋にイラっとしたが、話が長くなりそうなのでこの辺で留めておく。

とりあえず、田嶋がマイペース人間だということは分かっていただけたかと思う。

これが私と田嶋の出会いだった。


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