すぅちゃんの1日 そのはちじゅうはち
どたどたと慌ただしく部屋の中を走り回る音が聞こえる。
両手には抱えきれるだけの書類が重ねられており、次々とその部屋の中央にある机の上へと置かれて行く。
同時に置いて行った書類の半分程度の量ではあるが、机の上から書類が除かれて行く。
持って行くより持って来る方が多いのだから当然……。
「スオウ……、スオウ……?」
もはや書類に埋もれて顔すら見えなくなりつつ有るスオウへ声をかけるスゥイだが、返事は返ってーー
「ええい! 喋っている暇があれば手を動かせ、というか動かしてくれ頼む! くそっ、ここも数字が違うっ! 事前に行った打ち合わせはなんだったんだ!」
返って来たがどうやらそれどころではない模様。
がしがしと頭を掻きながら苛立たしげにスオウは書類にペンを走らせる。
「元はと言えば無理に詰め込むのが原因ではないですか、前々から私は来年度に回した方が良いと言ったではないですか」
「今年に抱え込んでおけば出費が抑えられるとわかっていたんだから仕方が無いだろうっ、来年になったら他家も手を出してくるだろうし……」
「現実を見るというのは大事だと思うのですが?」
「頼む、スゥイ、頼む何でも聞くから手を動かしてくれ……!」
はぁ、とため息をついて書類に視線を落とすスゥイ。
その顔にはどこか諦めの色も見て取れる。今日中に床に入れるだろうかと思っていた所侍女が小さなメモをスゥイの机の上に置いて行く。その内容を見て目を細めたスゥイはスオウへと声をかける。
「スオウ……、ウェルチ商会の人が来ているのですが……」
「なっ、くそっ、もうそんな時間か! 無理だ会えん、というか間に合わん明日にしてくれ!」
「いえ、ですが先方も予定が……」
「無理だ! 頼む、あれだ! 菓子折り渡して濁してくれ!」
「……わかりました」
渋々、ではなくどこか黒い笑みを浮かべたスゥイは近くに着た侍女にウェルチ商会の使いの者に対する対応を伝える。
僅かに目を見開く侍女ではあったが、スゥイの底知れぬ笑みのお陰で何も言えず静々と頭を下げて部屋を出て行った。
その日の夜、スオウが仕事の疲れを癒すため、楽しみに取っておいた菓子類が根こそぎ消えていた事に気が付いたのは言うまでもない。