すぅちゃんの1日 そのはちじゅうさん
油断するとあっという間に日々が経つな……。
「わらび餅が食べたい」
とある日の昼下がり、唐突にスオウがそう呟いた。
読んでいた本から目を離し、胡乱気な視線を向けるスゥイはコレから恐らく面倒事に巻き込まれるであろうことを予見しつつも先を促す。
「まずわらび粉を手に入れる必要が有るな……。この世界にわらびはあるのか? いや、気候自体は似通っているのだからあり得ないとは言えない。見た目の形状が変わっていないとは言えないがとりあえず外観から絞ってみるか」
ふむ、と顎に手を当てて一息ついたスオウは思い立ったが吉日とばかりに席を立ち図書館へと向かう。植物図鑑を探すのが目的であるためそれは妥当では有るのだが、一人でやるには少々無謀な気もしなくも無い。
数日後、商会の力を利用して数点のサンプルが届いた。無駄な権力の使い方である。
「本来の作り方で言えばわらびの根っこをすりつぶして出てくるデンプンの事を指すが、うーん、取り敢えず手当たり次第作ってみるか」
わらび餅の作り方はわらび粉と水を適量まぜ、中火にかけて粘りを出し、その後ゆっくりと弱火で半透明になるまで火にかけそして冷やして固めるだけだ。きな粉は砂糖と大豆があれば出来るし、黒蜜は黒砂糖が必要だが、まぁ今回は我慢して通常の砂糖を煮詰めるだけにするとする。
「だーめだ。どれもイマイチな食感だなぁ。こう、もちっとくにっと、食べれない事は無いんだが……」
首をひねりながら悩むスオウ、目の前には数種類のわらび餅もどきが出来上がっており、それぞれの評価が記載されている。
どれもがイマイチ、そもそも原型すら無いという物も有るが、とにかくスオウの基準に満たない、その日一日は部屋から明かりが消える事が無かった。
「まだやってるの?」
「えぇ、まぁ変な所に拘るのは今に始まった事では無いので良いのですが、取り敢えず今は近づかない方が良いですよ、試食係として強引に食べさせられます」
「……あぁ、それでアル君がそこに突っ伏してるのね」
げぷっ、と気持ち悪げに倒れているアルフが部屋の隅で横になっていた。