すぅちゃんの1日 そのろくじゅうよん ちょっとした裏話
「リリちゃんって好きな人とか居ないの?」
スオウ作、というよりフォールス家作のコタツでぬくぬくと温まりながら蜜柑(の様な果実)の皮を剥きながら対面で本を読んでいる金髪の女性に声をかける。
声をかけたのは、青い髪をいつものサイドポニーではなく自然に垂らしたままのライラ=ノートランド。正面に座るのは言わずもがな、リリス=アルナス=カナディルである。学院の休日、先ほどまで3人で話していたのだが黒髪の一人がスオウに呼ばれて今は二人っきりだ。
「特には居ないな、そもそも私の立場ではその様な者が居ても考慮されるとは思えん」
「そーかなぁ、スオウ君なら上手くやってくれると思うけど」
剥き終わった蜜柑を口に運びながら話す。視線は此方を向いていない、次の標的に向いている。なぜこの子はこんなに色々食べるのに太らないのか謎で仕方が無い。
「そうかもしれん、が。まぁ、その時は相談するとしよう」
内心でため息を付きながら返事を返す。少しだけ感情が揺らぐのが分かる、愚かなのか、くだらない。私は私、この立場に、この居心地に不満などあるはずもない。
「でもきっと相談しないよね」
シン、と静まり返る部屋。ライラの顔が急に真剣になる、何を言っているのか分からない、いや分かりたくないのか。
愚かだな私が逃げるような態度をとるなんて。
「どういう意味だ?」
「ううん、ごめんなさい。私も酷いね」
本から少しだけ視線を彼女にずらし、問いかける。どこか気まずそうな顔をして視線を逸らしてくる。まずいことを言ったと、苦虫を噛み潰したような顔をしている。いろいろ気を使わせてしまっているのかもしれないが、私としてはライラとアルフの間に挟まれる方が疲れる、何とかして欲しい。
「何に対して酷いのか分からないのだが」
「そうだね、そうだよね……」
本に視線を戻して答えを返す。少しだけ、少しだけ聞こえそうで聞こえない声が聞こえてくる。
壁にかけられた時計の細いその針がおよそ一周ほどした後、ぽそりと呟く。聞こえるような聞こえないような声で。
「私は……」
皇女として産まれて同年代に怒られた事も、そして私個人を見てくれたことも褒めてくれた事も、無かった、それは無かった。此処は居心地が良い、本気で戦える馬鹿が居て、目の前のお節介焼きが居て、毒舌のスオウ至上主義がいて……。
「え?」
きょとんとした顔で
「なんでもないさ」
スゥイも、大好きだから良いんだよ、とは言わなかった。