すぅちゃんの1日 そのろくじゅうさん
「夏といえば花火、ようやく出来たか」
虫の鳴き声が聞こえる夜の時間、街灯がないこの世界では数えきれないほどの星が見え、自然が多いのでうるさいぐらいの虫の声が聞こえてくる。
コンフェデルスから届いた包みを開き笑みを浮かべる。苦節1年ようやく見せれるほどの物が出来たという事だ。
「花火ですか? 聞いたことがないですね、どのようなものでしょうか?」
「火薬という燃焼材と鉱物等を混ぜ込んで独特の色の火を出す物だな。かなり高等な技術が必要なんでそう簡単には作れないが、昨年からコンフェデルスの職人何人かにお願いしておいてな、試作品が届いたんだ」
そういって箱の中身をスゥイに見せる。その中には小さな玉が数個と棒状の筒が数個入っていた。
「ただの……、ゴミではないのでしょうけども……」
「そう言うな、まぁ見た目はアレだが、かなりの技術が使われているんだ。折角だし数個打ち上げてみようか」
打ち上げる? と首を傾げているスゥイをつれて外へでる。目指すは開けた場所、手には小玉を数個と台となる筒を持っている。
数分後、暗闇の中を魔術の光を灯し、台を設置したスオウがそこにいた。
「さて、ちょっと離れていてくれ。添えられていた手紙には半径5mほどでそれほど大きくはないが怪我したら馬鹿みたいだからな」
「危険な物なのですか?」
「ああ、火の魔術を使うようなものだからな。楽しみにしておいてくれ」
「ふふ、貴方のする事はいつも常識外れですからね。楽しみにしておきます」
「失礼な、これでも常識人のつもりだったんだがな。まぁ、良い点火するぞ」
略式言語で火を灯し、導火線に着火する。ジジジ、という音とともに導火線が短くなっていくのを視界に納め、スゥイの方に戻る。
「上空を、あの辺だな。見ててくれ」
「はい」
ポシュッという抜けた音とシュルルルという玉が空へ飛び上がる音が聞こえる。そして数秒後、ドンという乾いた音とともに空に火の花が咲き誇る。
「これは……、なるほど。花火、火の花ですか、言い得て妙ですね」
「ほぉ、コンフェの職人もやるねぇ。正直あまり期待していなかったけど、これならなかなか」
「祝典等で需要がありそうですね、簡単な火魔術による歓迎宴目はありましたが、これはこれで良いかもしれません」
「しかし材料費がなぁ、ルートの確立からしないとならないか」
花火の火が落ち、暗闇がまた舞い降りる。美しい火の花は一瞬でその命を枯らし、そして鮮明に焼き付かせる。人の心に、人の記憶に。
「ちょっと、アル君おさないで!」
こそこそと後を付けていた二人が木陰から顔を出す。前のめりにそこでキスよ! とかライラが騒いでいたのは気のせいだろう。ちなみにリリスは覗き見は好かんと自室にいる。今頃部屋の窓から先ほどの花火を見ていたはずだ。
「ああ、すまん。というか何であの二人はこの雰囲気で商売の話なんだ?」
「それをアル君に言われたくないと思うよ」
アル君の言葉にため息をつく、スゥちゃんと相談した事がある程、この男には言われたくない。スオウ君はわかっててやってるからある意味質が悪いけど……。
スオウ君はどちらかというと女性に興味が無いというか、あの視線は父が子を見る時の……、いや気のせいにしておこう。
しかし後ろのこいつはもう自然体で質が悪い。
加護持ちは恐れられる存在じゃなかったの!?
気さくで、強くて、騎士副長の息子で、さらに力に驕るような人じゃないとかっ。
私のせいなの!? いや、絶対スオウ君が悪い! もっとこう普通は性格に歪みが出る物なんだよ! リリちゃんだって最初はそうだったじゃない! 私は絶対悪くないっー!
「なんでだよ?」
自覚のない唐変木が返事を返す。
「しらないっ!」
ゴスッとアルフのわき腹に肘打ちが入れられたのは仕方がないことだろう。