すぅちゃんの1日 そのにじゅうなな(番外編 人殺し)
心地よいそよ風が頬を撫でていく。風で流れる黒髪が日の光で煌めき、その美しさをより際立てている。
白く、その細い指を自分の膝の上で横になっている黒髪に這わす。私と同じ黒髪、目を瞑りまるで死んでいるかのように静かだ。
だが足に伝わるその温もりと、一定の間隔で上下する胸がその生を表している。
ゆっくりと髪をすきながら顔を撫でる。目の上を撫でると少しだけ眉を潜めた後、またすぐに穏やかな顔に戻る。
血に塗れてしまった私の手、後悔はしていない、私が望んだことだから。
コンフェデルスに残してきた祖父と弟が原因不明の死病にかかり、病死したとの連絡が入る。不思議だった、あれだけ殺したいと憎んでいた祖父と弟だが、いざ死んだと聞かされると少しだけ心が痛む、私も彼らのことを家族だと思っていたのだろうか。
しかし、それよりも沈痛な顔で告げてきたスオウがより私の心を抉る。止めることが出来なかったと。人は万能ではない、そんなことは分かっている。
それよりも私は、死んでもスオウを苦しめる私の家族がまた憎く感じた。そこまで憎んでいたのだろうか、わからない。でもそんなことを考えてしまう私はどこか壊れてしまっているのかもしれない。
私は存在しているだけでスオウの負担になるのではないかと思ったことがある、でも彼は何も言わないで抱きしめてくれる。ずっと傍にいると言ってくれる。
だからもう少しだけ生きていようと愚かな夢を見てしまう。
最初に人を殺したのはスオウだった。どうしようもない男だった、救いようのない人間だった。怒りにまかせて焼き殺そうとしたリリスを遮りスオウが切り捨てた。
いずれ選ぶ時が来る、選択する時が来る、でもまだ、それでもまだ君らを血で汚すわけにはいかないと、最初に汚れるのは俺だとその目が語っていた。
その後一人で苦しんでいたのも知っている、私に触れないようにしていたのも。血で汚れたその手で私に触れたくなかったその思いも。
だから私は自分で選んだ、血で汚れる道を。貴方と共に歩く道を。私はもう貴方がいないと生きていけない、貴方は私のすべて。貴方が地獄に堕ちるというなら、私も共にそこへ行く。
貴方がそれを許さないとしても、私は無理矢理そこへ行く。
貴方を一人にはしない、私を一人にしなかった貴方に私に出来る一つの事。
「スヴェル、フォロース、アルフド、ドンダーラル、ガルス、ドットフォール、ゼルバス、ダーフィン、ナルノス、フェルフォロイノ、ヴィンセン……、すべて覚えているのでしょうスオウ、貴方が殺した相手を、その手に掛けた人を。私はそこまで出来ません、この世界は人の命が軽い、貴方が考えている以上に軽い。それを理解していながら貴方はそれを続けるのでしょうね」
髪を撫でる、さらさらと指の隙間を流れていく。暖かい、温もりを感じる。彼に触れているだけで私は幸せになれる。人を殺しておいて幸せに思うなど許されない事だと彼は考えるのだろう、だから私が幸せを与えてみせる、溢れるほどの愛情を、彼が罪に押しつぶされないように、彼が己を罰しないように。
「愛していますスオウ、たとえ貴方が貴方を愛せなくても私が貴方を愛します」
頬を撫でる、こぼれ出ている滴をすくう様に、隠すように、愛おしく、愛おしく。