すぅちゃんの1日 そのにじゅうろく(番外編 しんでれら前編)
この話しは多少キャラ崩壊とパラレルワールドが起きています。ご注意下さい。
昔々、シンデレラ(スゥイ)という少女が一人おりました。その子は再婚した父の連れ子であり、継母と姉に日々虐められておりました。
「シンデレラ! 埃が残っているじゃないの! 何をしていたのかしら!」
金色の髪に見事なプロポーション、まさに完璧な美女である姉。継母と共に来たその姉は毎日のようにスゥイを扱き使い虐めていた。
「リリスお姉様ごめんなさい……、やり直しますので」
零れそうになる涙を堪える。そうだ私が悪いんだ、汚れを残してしまった私を、だからっ……! 証拠隠滅をしよう。
「スゥちゃん弓を構えながら言うのはどうかと思うよ……」
「ライラお姉様、私は今シンデレラ(スゥイ)です、間違えないで下さい」
後ろからなんとも言えぬ顔で肩を叩いてくるもう一人の姉、ライラお姉様。いつも疲れた顔をしてる姉だけれど中途半端な優しさが辛い。扱き使うなら扱き使ってくれれば良いのにっ!
スゥちゃんと相性で呼んでくれるけど、いつも虐めてくる姉と一緒になって私を虐める。ひど過ぎる時は止めに入るんだけどそれなら最初からやらなければ良いのに。
「いや、お前、ここ自分の部屋だからな? 自分の部屋を自分で掃除するのは当たり前だろう?」
はぁ、とため息を付きながら文句を言ってくる姉、こうやって私をいつも虐めるのだ。私は悪くないのにっ。
「いい、スオウにやってもらう」
「あんた、それこの国の王子(設定)だから! というかここでネタバレしちゃだめ! まだ冒頭!」
バン、と壁を叩きながら怒ってくるリリスお姉様。パチパチと雷光が光る。まぶしい、ランプいらずで便利だ。
でも私はそこは問題じゃ無いと思っている、そう大事なことは他にある。
「昨日……」
「なに……?」
神妙な顔で考え込み、ライラお姉様の体の一部をじっ……と、見つめて答える。
「ライラの胸大きくなったなぁ、って……言ってたから罰」
「それ胸じゃないから! 背の事だから!」
胸なんて一言も言って無かったよスオウ君! と必死に羽をパタパタさせて言ってくるライラお姉様。ああ、集めた埃が舞う、虐めだっ、私は今虐められている!
「ひどいっ、頑張って掃除しているのにっ! こんな仕打ちっ!」
さめざめと泣き崩れる私、ああ、なんて不幸なんだろう……。
「いや、まぁ、うん。とりあえず次ぎ行こう……、ラウナー、出番だ」
はぁ、とため息を付いたリリスお姉様が誰かを呼ぶ、誰だろう。そう思った途端目の前にキラキラと銀の光が舞い降りてきた。
「ふん、貴様らが退出後の出番ではなかったのか?」
シャリン、と一際高い音を鳴らし、銀の髪、赤い眼、リリスお姉様に勝るとも劣らない美女がそこに立っていた。
「いや、その予定だったんだが、すまんな……」
疲れた顔をしたリリスお姉様がラウナと呼ばれた美女と目を合わせた後、ライラお姉様を連れ立って部屋を出て行く。どうやら今晩行われる国のパーティーに出席する予定の様だ。
でも私はパーティーには出ることは出来ない。この国の王子の結婚相手を探すパーティーとの事だが私は着飾る服もなければアクセサリーも無い。素材では負けてるつもりは無いのだが。胸か? やはり胸なのだろうか。
「さて、私の役目はかぼちゃの馬車とドレスを用意する事だと聞いているが相違ないか?」
月の明かりが銀の髪を照らし幻想的な雰囲気を醸し出している。ドレスを用意してくれるのはありがたいのだがカボチャの馬車とは何を考えているのだろう。そんな馬車、臭くて脆くて使い物にならない。普通の馬車で良いと思う……。
ううん、と唸る私に目の前の銀髪の美女がめんどくさそうに服を渡してきた。
「すまないが服は売ってたのを買ってきた。スオウ、じゃなかった王子が金欠なのにと嘆いていたが気にする事は無い」
フ、と私に任せておけ、と自信満々の顔で騙りかけてくる。確かにその手にあるのは見事なドレスだ、一点ものでコンフェデルス、ではなくて。この国一番の衣装屋から手に入れたことが分かる。
「馬車はカボチャで決定なのですか?」
「いや、カボチャは無いだろう常識で考えて。そんな変なものに乗ってきたら門兵に止められて終わるだろ」
「まぁ、そうですよね」
「そういうわけでワイバーンで行く。なに心配するな止められた所でたかが数百の兵士、数分で蹴散らしてくれる」
チン、と剣を叩きニヤリと笑うラウナさん、心強い人だ、この人に任せておけば全てうまくいく、きっと間違いない。
「あ、でしたら大丈夫ですね。宜しくお願いいたします」
同じようにニコリと笑い頭を下げる。浮気現場を潰しに、ではなくて結婚相手に選ばれなくては。
決意を決めて服を着替える、まるであつらえたかの様なドレスを着込んだ所でラウナさんから声がかかる。
「それとこれを履かなければならないらしい」
出してきたのはガラスの靴、キラキラと美しく、透明なそのガラスの靴を目の前に出してきた。
「そんな物履いたら足が痛くて耐えられないと思います。革製が常識でしょう」
「まぁ、私もそう思うのだが……」
ううん、と二人で目の前のガラスの靴を睨みつける。別にガラスの靴に罪は無いのだが、どこか申し訳なさそうな雰囲気を出しているガラスの靴。
「大体割れたらどうするんですかこれ?」
「ううん、強化ガラスらしいのだが。物語的に重要な点らしいので必須と聞いている」
指でソレ(ガラスの靴)を指しながら怪訝な表情でラウナに文句を言うが、ラウナも立場と言うものがある、申し訳なさそうな顔をしてはいるが何とか妥協してくれ、と目で訴える。
「では持って行きましょう、要するに使い所を間違えなければ良いのです」
「そうか、ならばそうしよう」
「ええ、それでは行きましょう。ワイバーンからの援護射撃は任せてください」
「フ、貴殿の弓の腕は聞き及んでいる。楽しみにしているぞ」
上空で待機していたワイバーンに声をかけ、二人で乗り込む。赤く煌く剣をスラリと引き抜くラウナ、折りたたみ式魔弓をガシャンと射出形状に変更させてマナを収束させるシンデレラ(スゥイ)。
舞い上がるように浮かび上がるワイバーン、淡い光が全身を覆い、ギュンと城に向かって飛び立った。
場所は変わって王国の城、そのパーティー会場。
「王様、私の結婚相手を探していただけるのはありがたいのですが、王子という立場にありながらこのような無作為に選ぶ結婚で宜しいのでしょうか? 外交問題にも関わりますし、自国内の貴族との繋がりを強めるのでしたらすでに私がリストアップした人で十分でしょう? そもそも先月の合同会議の対応はなんですか? あれだけ情報を集めたにも関わらず散々な結果、そういえば利益率も下がっています。その件でもお話がありました内務省の人間と話しましたが、早々に貴方を罷免したほうが国が潤滑に回る気がするのですが」
「いや、うん、すまんのぅ、ちょっとお腹が痛いのじゃが王様」
「ゼノ王? 聞いているのですか? 大体あなたは学院の方がなっていない、なぜあれだけナンナに手回しして貰っているのですか、我々としてはやり易かったことは間違いないですが、学院の長としてですね、その程度の事を予測して事前に資料を集めておくべきでは無いのですか?」
「いや、そうじゃの、たしかにそうなんじゃが……、今の状況で学院の話しをしちゃいかんとおもうのじゃが……」
「だいたいどの国もそうです、自国内で腐りきった貴族やら高官を野放しだ。下らぬ自己欲で俺達に喧嘩を売って来る奴等も大勢ときたものだ、まぁいい、上等だ。俺の友達を利用しようとするやつらがこの世から消滅するまで俺は暴れ続けてやる」
「いや、すまんのぅ、スゥイ君とのその後を考えると腹が立つのもわかるんじゃがの……?」
「わかってない、わかってない! ちょっと知らない女性と仲良くしただけでいろいろと大変なんだよ! 24時間くっ付かれるんだよ! ああ、そうさ嬉しいさ! 嬉しいさ文句有るかよ! でもさすがに限度ってもんがあるんだよぉぉぉぉおおお」
対談の時には水ぶっかけるし、声をかけてきた女性に水魔術使うし、というかスゥイに声をかけてきた男も攻撃対象ってどうなの、ねぇどうなの! と王様の襟首を締め上げながら騒ぎ出す王子愛って愛って何なの! と叫んでいる。
王様の顔が真っ青になってきたので流石にまずいと思い、近くに居た兵士たちが止めに入る。
「スオウ……」
そこに壊れだした親友を哀れんだか、配置を無視して近づき声をかける男。彼はアルフ、今は国指定の鎧を纏い、後ろにはトレードマークの赤い大剣を背負っている。
「アルフかっ! いや、警備隊長か! 名前の無い役ですまん本当にすまん!」
王様を開放というより放り投げ、アルフに向き直る。遂に訳の判らないところで謝り出したスオウ。心配だ、彼の将来が心配だ。
「それは別にいいんだが……、大丈夫か……?」
「はぁ……、だめかもしんない……」
段々そんなスゥイもまたかわいいと思ってる俺が一番駄目かもしれないとぶつぶつ呟いている。本当に大丈夫だろうか彼は……。
「頑張れ……」
在り来たりの事しか言えない自分の無力を悔やむ。ライラの気持ちが少しだけ分かるような気がした。
アルフが同情的な視線をスオウに送っている所、部下の兵士が慌てて会場に駆け込んで叫びだす。
「た、隊長、敵襲! 敵襲ですっ!」
一心不乱に脇目も振らずアルフ目掛けて走りながら叫ぶ部下、こちらに付いてから話せば良いのに余計な混乱を生むだろう。
「はぁ? なんでしんでれらで敵襲なんだよ……」
不審顔で部下を睨む警備隊長、シンデレラで敵襲が起こるシーンなんて物は無かったはずだ。何を言っているんだこいつは、と思っていると、通じないことに腹を立てたのかその場で地団駄を踏みながら必死で訴えてきた。
「ふざけてる場合ではありません、すでに城門が崩壊、守備隊も大半が負傷してっ」
言い終わる前に轟音が鳴り響き、パーティー会場の一部が崩壊、会場は混乱の渦と化す。
右往左往する招待された貴族達、演技ではない、必死だ。
「フ、パーティーはここか? ダンスの相手を務めてくれる者を探しているのだが」
その右往左往する中に一際輝く女性が威風堂々とこちらへ歩いてくる。抜き身の剣が会場の照明に反射し妖艶に輝いており、血に濡れていないのが不思議なほどに死に満ちている。
「て、てめぇなにやってやがるってえぇっ!」
慌てて背に背負っていた大剣を構え、此方に歩いてくる女性を怒鳴りつけようとした瞬間、ギャイン、と剣と剣がぶつかり火花を散らす。赤い大剣と赤い細剣、銀の髪がくるりと舞い、アルフへ目にも止まらぬ連撃を与える。
「ふふ、スオウを希望したい所だが今日はお前で我慢してやろう」
そんな我慢はいらねぇ、と叫ぶアルフに切りかかるラウナ、後ろのスオウが頭を抱えているのは最早仕様だろう。
「さて、スオウ。結婚している身でありながら、その上妻の前で婚約者探しなど随分ふざけた真似をしてくれますね」
崩壊した壁、乗って来たであろうワイバーンから会場に飛び降りてくる黒髪の美女。左手には漆黒の弓、右手にはガラスの靴を持っている。
横では変わらず警備隊長と魔法使い役が火花を散らしながら舞踏会をしている。
「いや、ちょっと。話し崩壊してるからねぇ、ちょっと……」
これはもう頭痛が痛いとかいう表現で済む話しじゃねぇよ、なんでこうなった。目の前で弓を構えるシンデレラ(スゥイ)を見ながら思わず呟いた。
後編に続くっ!