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あなただけが「特別」なんて許されない

作者: ののめの
掲載日:2026/07/15

ざまぁというより自滅、自業自得系のお話です。

現実の特定の国ではなく、それに近い文化を持った異世界のとある国で起きたこととして読んでください。

描写の補助やアイデア出しにAIを使っています。

 一年のCクラスに、すごい編入生が来たらしい。

 近頃、そんな噂が学内を目まぐるしい速度で駆け巡っていた。

 一年Aクラスのシェラは噂の編入生と接点はないが、廊下でそれらしい生徒を見かけたことはあった。緩くウェーブしたきらきらの金髪に淡く澄んだ青い瞳の、まるでお人形みたいに綺麗な女の子だった。

 だから「すごい」という形容も容姿を指して褒めるものだと思っていたのだが、どうも実情は違うらしい。


「あの女に近寄らない方がいいよ。ヤバいから」


 シナモンシュガーをたっぷりまぶしたパンケーキをナイフで切り分けながら、学友のネリアが言う。ついさっきまでの話し声よりも二、三段低いトーンの、どこかピリついた声音だった。


「ヤバいって……?」

「ヤバいもんはヤバいの。モンスターだから。言葉の通用しないケダモノだと思った方がいい」

「そ、そんなに……?」


 およそ年頃の少女に用いられるものではないドギツい比喩に、シェラは思わず肝を冷やした。最近よく耳にするから——と軽い気持ちで話題に出したものの、もしかするとランチのお供には不適切な話題だったのかもしれない。心なしか重たくなった空気に、さっきまで余裕のあったはずの胃袋が急に圧迫感を訴え始めていた。


「まあ、ざっくり言うとね。常識がないの。横入りとか横取りとか平気でするし、注意されても何が悪いのって態度でいるわけ」

「それは……確かに問題ね。そういうのは親のしつけや学校で教わるものだと思うけど……」

「それがね、どうも泣けば全部解決するって思ってるみたいよ。アレ(・・)、顔だけはいいじゃない? だから都合が悪くなって泣き始めると男が飛んできて庇い始めて、結局アレの主張が通っちゃうの。たぶん昔からそうやってワガママを通してきたから非常識なんじゃない? 何様って感じよね」


 がきん、と音を立てるほど強くパンケーキに突き立てられたフォークは、ネリアの中でふつふつと燃える怒りの発露に違いない。からっとした性格で人の陰口をあまり言わないネリアがここまで嫌悪しているということは、実際にそういう場面を目にして悪印象を抱いたのだろう。

 シェラもあまり人の悪評を騒ぎ立てたり鵜呑みにしたりするのは好きではないが、同じ性質の友人がここまで憤る様を見るとそんなにひどいのか——と不信感を募らせずにはいられなかった。


「とにかくシェラも気をつけてよ。一度絡まれると厄介なんだから……先生も注意してるけど、全然効果ないみたいだし。近寄らないのが得策だけど、もし絡まれそうになったらすぐ逃げてね」


 ネリアの忠告に、シェラは黙って頷いた。気の強いネリアと違って、シェラは自己主張が苦手な自覚がある。もしネリアの言う通り件の編入生が男子を味方につけて責め立ててくるのなら、シェラでは到底太刀打ちできそうにない。ひとまず編入生の少女にはなるべく近寄らないようにしておこう、と自分なりに注意はしていたのだが——


「ねえ、あなたがシェラ?」


 あくる日の授業後の中休み。次の授業に向けて教科書類の準備をしていたシェラは、さっと顔から血の気を引かせて硬直した。あのCクラスの編入生が、三人の男子生徒を引き連れてシェラの席まで歩み寄ってきたからである。突然の事態に面食らって声も出せずにいるシェラをよそに、編入生は愛くるしい顔でにこりと微笑んでシェラの目の前に立った。


「みんなから聞いたの。シェラって歴史学の成績がいいんでしょ。だから、ノートを貸してくれない?」


 いいでしょ、と。あまりに無邪気に、そして無遠慮に切り出された頼みごとに、シェラは一瞬戸惑った。

 シェラは入学後最初の試験と夏季休暇前の試験の両方で高得点を取っていて、特に歴史学ではそれぞれ三位と二位の好成績を残している。故にクラスメイトにノートを見せて欲しいと頼まれて写させることは時折あったが、さすがにクラス外からは初めてだ。


(Cクラスにも、歴史学の成績がいい生徒はいると思うけど……)


 一瞬そんな疑問を抱いたが、変に疑って貸し渋ったりしたらネリアの言っていた「面倒な絡まれ方」をされかねない。速やかに距離を取りたい一心で、シェラは彼女達に歴史学のノートを差し出した。


「どうぞ。写したら返してね」

「わあ、ありがとう!」


 まるで小さな子供のようにぱっと顔を輝かせてノートを受け取る少女に、「よかったな、ミミ」と男子生徒達が破顔する。どうも彼女の名はミミというらしい。

 用が済めばもういい、とばかりにミミ御一行はそのまま速やかに教室を出て行ったので、何事もなく切り抜けられた……とシェラは安堵したのだけれど。その日の放課後になっても、翌日になっても、翌週になってもノートが返ってこなかったことで、ただのぬか喜びに過ぎなかったと痛感させられたのだった。


「絶対に取り返しに行くべきだよ!」

「そう、よね……」


 鼻息荒くして力説するネリアに、シェラは歯切れの悪い同意を返す。今は試験前の大事な時期だ。シェラも復習でノートを使いたいし、何よりノートがなければ板書ができない。ノートを貸した日以降の歴史学の授業は仕方なく別のノートを使ったが、さすがにいつまでもこのままでは不便だ。


 なるべくミミに近寄りたくはないが、ノートは返して欲しい。そんな相反する気持ちの間で揺れに揺れた結果、シェラは後者を優先した。一人では不安だから、とネリアに同行を頼み、ネリアが万が一のために男手をとクラスメイトのロブを引っ張ってきてくれたので、三人でミミの下へ向かったのだが。


「ごめんね、ノートは今持ってないの。ティムに貸しちゃったから」


 こてん、と可愛く小首を傾げながらそう言われて、シェラは開いた口が塞がらなかった。人から借りたものを、また人に貸す。シェラの認識ではそれは不誠実で無責任な行為だ。

 ミミには人に借りたものは大切に扱って返さなければならないという認識がないのだろうか。彼女は非常識だ、というネリアの批判が今になって実体を持ってシェラの心にのしかかってくるようだった。


「借りたものを勝手に貸したの⁉︎ 何考えてるのよ!」

「だって、みんなで勉強をするから……ひとりじめはよくないって思ったの」

「だったらシェラに返してから本人が借りに行けばいい話でしょ! 人のものを勝手にやり取りするなんてどうかしてる!」


 きっとまなじりを吊り上げて批難するネリアに、「でも」とミミが目を潤ませる。青い瞳に涙をいっぱいに溜め、愛くるしい顔を悲しそうに歪めて俯くミミの姿に、彼女と一緒にいた男子生徒が「ミミは悪くない」と慰めの言葉をかける。

 ミミは悪くない。本当にそう思っているのだろうか? たとえば自分が人に貸したものが見ず知らずの他人の手に渡ったとしても、不快や不信感を抱かずにいられるものなのだろうか?

 そうだとしたら、シェラと彼らの価値観は決して相容れないものだ。


「ずるい」


 ぽろぽろとこぼれる大粒の涙を手で拭いながら、ミミが呟いた。事情を知らなければまるで彼女は理不尽に傷付けられた被害者で、シェラ達が加害者のような有様だ。ミミを囲んでいる男子生徒達もそんな認識をしているのか、怒りのこもった目でシェラを睨みつける。明確な敵意に晒され、シェラの身体が竦んだ。


「シェラは成績がいいんでしょ。少しくらい、ノートがなくたって困らないじゃない。なのにひとりじめしていじわるして、ひどい」


 ひとりじめ。自分のノートを自分で使うことの、何がひとりじめだというのか。そもそも、シェラは自分のノートを他人に見せることを拒んではいない。だからミミにもノートを貸したし、素直に返してくれればこんなトラブルには発展しなかった。ミミがそのノートを勝手に人に貸して、まだシェラの手元に返ってこないから問題になっているのだ。


「あのさ、君は少し勘違いしてるみたいだけど。シェラは『君達にノートを貸さない』とは言ってないよな?

 借りたノートを使い終わったなら返して欲しいし、他の人も使いたいなら一人ずつ順番に借りて欲しいってだけだ。又貸しをしたら今誰が借りているのかわからないし、なかなか返ってこなくなるだろ?

 それが心配だから、又貸ししないでちゃんと借りたい人が本人に直接借りに来て欲しいんだよ」


 一触即発の空気を見かねたのか、静観に回っていたロブが口を挟む。ネリアとは対照的にロブの口調は穏やかで、かつシェラとネリアの主張をわかりやすくまとめてくれていた。だけどミミはそれさえも聞きたくないのか、顔を覆って泣き始めてしまった。肩を震わせて俯くミミを庇うように男子生徒の一人がミミの肩を抱き、きつくシェラ達を睨む。


「ちょっと仲間内でノートを見るくらいいいだろ。心の狭い奴だな!」


 その一言に触発されて、男子生徒達が次々とシェラへの批難を口にする。少しばかり成績がいいからって調子に乗っている。自分がミミと比べて可愛くないからと嫉妬して意地悪を言っている。心の歪んだ醜い女。お前みたいな奴は誰にも相手されない。心ない言葉達が次々とシェラの胸に突き刺さり、深く抉っていく。


「いい加減にしなよ! いじめてるのはどっちよ、逆ギレして寄ってたかって暴言吐いて! そいつはかわいそうで、シェラはかわいそうじゃないっての⁉︎」


 あまりの仕打ちに耐えかねたネリアがシェラの前に立つが、彼らの暴言は止まない。それどころか今度はネリアをターゲットにして聞くに堪えない言葉をぶつけるばかりで、シェラの心は引き裂かれて悲鳴を上げていた。


「もう、いい」


 限界だ、と。ぽろりと口からこぼれた一言に、ネリアが振り向く。「でも」と呟く声とまっすぐにシェラを見つめる瞳が、本当にやられっぱなしでいいのかとシェラに問いかける。

 シェラだって、本当は悔しい。間違っているのはミミ達の方で、こんなのはおかしいと思っている。だけどもう耐えきれなかった。理不尽に責められるのだってつらいのに、自分を庇ったせいでネリアまでもがその対象にされるなんて。シェラはネリアのように強くはない。だからこんな時、つらい気持ちを押し殺して義憤で戦うことなんてできない。


「私が悪いの、ごめんなさい。もういいわ」


 どうにか絞り出したその一言は、思いの外よく響き渡った。「シェラ」と心配そうに呼びかけるネリアの声を、男子生徒達の罵声が掻き消していく。もはや何を言われているのか、シェラにはよく聞き取れなかった。


「行こう、シェラ。ネリアも」


 ロブが手を引いてくれなければ、シェラはきっとその場に立ち竦んだままでいただろう。少し休もう、とロブが中庭のベンチに座るよう勧めてくれたタイミングでようやく緊張が解けてわっと感情の波が押し寄せてきて、シェラは子供のように泣きじゃくってしまった。


「ごめんなさい、ごめんなさい……私のせいで」

「シェラのせいじゃないよ! 悪いのはあいつらだもん」

「そうだよ。俺こそごめんな、ろくに役に立てなくて……あんなに話の通じない奴らだとは思わなかった」


 ネリアやロブは優しく慰めてくれたが、二人の思いやりに触れれば触れるほど自分の不甲斐なさとミミ達の理不尽な仕打ちへのもやもやが強くなる一方で。胸のつかえが取れないまま日々を送っていたシェラにとどめを刺したのは、やはりミミ達であった。


「ほら、これでいいんだろ!」


 試験が終わって数日が経ったある日、廊下で男子生徒から乱暴に投げつけられたノートは見るも無惨な有様だった。ページの所々に油汚れや染みがあるのはなぜだろう。乱暴にページを引きちぎった形跡は悪意を込めたものだろうか。かつて何度も読み返して大切に使っていたはずのものなのに、今は手に取ることさえつらかった。


「本当信じられない、あいつら! 腹いせにこんなことするなんて!」


 その場に居合わせたネリアは、まるで自分のことのように怒ってくれた。あの一件以降何かと話しかけてくることが増えたロブも、親身になってシェラを慰めてくれた。


「君以外にも被害者がいるらしいぜ。成績上位の生徒からノートを借りて回って、ひどい状態で返してるって……中には貸したくないって言ったのに無理やり取られて、びしょ濡れのノートを渡された奴もいるとか」

「何それ、完全に犯罪じゃない! 窃盗に器物破損! 出るとこに出て訴えるべきよ!」

「ああ。だからみんな先生に訴えてるし、先生も重く見てるみたいだ。シェラも先生に話した方がいいぜ、俺やネリアも一緒に証言するからさ」


 ロブの提案に、シェラは頷いた。自分の中に未だ残るしこりを解消したい気持ちもあるが、それ以上に他にも被害者がいるという事実が強くシェラの背を押した。自分一人なら自分が我慢すればいいと飲み込めるけれど、同じように苦しんでいる人達を見過ごせはしない。彼らの訴えがより深刻なものとして聞き入れられるように、そしてこれ以上同じ苦痛を味わう人が出ないように、しっかりと被害を訴えるべきだ。


 その日のうちにシェラは教師の一人に被害を訴え、返ってきたノートの現物を見せた。同行したネリアとロブはミミ達がシェラの貸したノートを人に貸し、それを正当化してシェラを理不尽に責めたことを熱を込めて証言した。歴史学の教師のレングスはネリアの剣幕に少し苦笑いをしながらも、真摯にシェラ達の話に耳を傾けた。


「確かに。彼らの行為はあまりにも不誠実で、自己中心的なものだね」

「はい。だから法律に則って厳罰に処すべきだと思います!」

「ネリア」


 鼻息荒く主張するネリアにロブがたしなめるように名を呼び、レングスがまた苦笑いをする。この話し合いの場を設けてもらってから、幾度となく見た光景だった。


「彼らの行為は停学、あるいは退学に値するものだが。実行犯があくまで男子生徒達である以上、その中心にいる女子生徒についてはあまり罪を追及できない可能性が高い。教唆や幇助の罪に問うのも少し難しいだろう。

 彼女がやったと断言できるのはノートの又貸しとシェラ君への批難だけで、シェラ君を攻撃するよう明確に男子生徒達に指示したわけではない。

 たとえば「誰々を襲え」ではなく「あの人がいなくなればいいのに」という曖昧で遠回しな言動を受けて犯罪が行われた場合は、そこに本当に悪意があったと立証できない限りは教唆の要件を満たさないんだ」

「そんなっ! 何とかならないんですか!」


 元凶のミミは重い処罰から逃れるかもしれない——と聞いてつい頭に血が上ってしまったのか、ネリアが声を荒げる。「ネリア」とロブだけでなくシェラも一緒になってたしなめれば即座に頭が冷えたのか彼女はばつが悪そうに短く無作法を詫びたが、その表情には不満の色が濃く滲んでいた。漂い始めた微妙な空気を払拭するように、レングスが軽く咳払いをする。


「もちろん、無罪放免にはしない。件の女子生徒が周囲に悪影響を及ぼしているのは明確だし、それが故意にせよ無自覚にせよ何らかの処置は必要だ。学園長も事態を重く受け止めているそうだから、少なくとも停学処分は下るだろう。今すぐにとはいかないが、必ず適切な処罰をするから安心しなさい」


 レングスの声は優しく、誠実な響きがあった。学園長もレングスも、ミミの行動を問題と捉えてしっかり対処をするつもりでいる。それをレングスの口からはっきり示してくれたのが、シェラには何よりの救いに思えた。


「ありがとうございます、レングス先生」


 シェラが深々と頭を下げると、ネリアやロブもそれにならって礼をする。レングスは穏やかに微笑んで、「お土産だよ」とシェラ達にひとつずつ包装紙にくるまれたキャンディを持たせてくれた。帰り道で封を開けて口に運んだそれはバターのように甘くクリーミーな味わいで、「どこの店のキャンディか聞かなきゃ!」とネリアが大はしゃぎしたのであった。


 それから数日は、何事もなく穏やかに過ぎた。レングスの言葉を聞いたことでシェラもだいぶ気持ちが晴れたし、ネリアも溜飲が下がったのかここの所は機嫌が良さそうで「アレのことなんかもう忘れちゃお」と連日シェラを遊びに誘ってくる。なぜだかそこにロブも同席するのが不思議ではあったが、三人で街へ繰り出して店先を眺めたり買い食いをしたりするのは楽しくって、財布の紐がついつい緩みっぱなしになった。

 そうしてもう散財は控えようと決心した頃、学園の掲示板に試験の成績が貼り出された。シェラはネリアとロブと連れ立って廊下の人混みを縫い、背伸びをして貼り紙を覗き込んだ。


「わ、シェラったらまた十位以内じゃない! おめでと!」


 目のいいネリアが真っ先にシェラの名前を見つけ、あそこあそこと指し示す。シェラも目を凝らしてみれば、確かに八位という順位の横にシェラの名前があった。前回より順位は少し落ちたが、十分な成績と言っていいだろう。


「ネリア達がノートを見せてくれたからよ。ありがとう」

「何言ってんの、普段からの努力の成果でしょ」

「むしろ俺が教えてもらった方だもんな。見てくれよ、三十六位だって。真ん中ちょっと下からずいぶん進歩したぜ」


 ネリアとロブの名前はシェラから少し離れた所にあった。どちらも合格点は満たしていて、中間層よりは上の位置だ。シェラのおかげだ、と二人に肩を叩かれて、シェラはくすぐったいような誇らしいような気持ちに頬を緩める。ありがとう、と口ごもりながらももう一度伝えようとした言葉は、しかし突然響いた怒声に掻き消された。


「どけよ! ミミが見えないだろ!」


 聞き覚えのある乱暴な声に、シェラはびくりと肩を跳ねさせる。ミミと一緒にいた男子生徒だ。恐る恐る振り返れば、数人の男子生徒が強引に人だかりを掻き分けながらずんずんと掲示板の方へ歩いてくるのが見えた。


「関わらないでおこうぜ」


 ロブがシェラの肩を抱いてすっと脇に逃げれば、ネリアも不承不承という顔でついてきた。もう関わりたくない、と思ってもつい視線がミミ達の方へ向いて、我が物顔で突き進む男子生徒達にお姫様のように囲われたミミが目に入る。

 ミミは男子生徒達が人を押し退けて空けた最前列に立ち、掲示板を見上げる。上から下へ、また上へ、と視線を滑らせるミミの動きがやがて止まった時、その顔はくしゃりと歪んでいた。


「どうして」


 か細いミミの声に、男子生徒達が集まる。一体何なのだろうとシェラが首を捻っていると、ネリアがこそっと耳打ちをしてきた。


「あの女、びりっけつだったの。成績のいい子から散々ノートを取り上げてきたのにね。まともに勉強してなかったんでしょ」


 いい気味だけど余計腹が立つ、とネリアがミミを睨み、ロブも呆れ顔でミミに視線を向ける。

 ミミがシェラからノートを借りたのは、やはり勉強に使うためではなく初めから友達に貸して回るためだったのだろうか。だから又貸しをしないで欲しい、というシェラ達の主張にあんな反応をしたのか。一度は晴れたはずの不満がまた胸の中で疑念の形を持ち始めて、シェラはきゅっと唇を噛んだ。


「ずるい」


 いつかも聞いた言葉の後に、ミミが顔を覆って泣き始める。大勢に見せつけるように俯いて肩を振るわせるミミを男子生徒達が取り囲み、口々に言葉をかける。初めは慰めだったそれはおかしい、不正だ、と次第に不穏な響きを含んだものになり、周囲にざわめきが広がっていく。


「何の騒ぎかな」


 その声は低く落ち着いていたが、しっかりとした重みを持って廊下へと響き渡った。きな臭い緊張感をはらんだ空気を裂いた声の主は、歴史学教師のレングスだった。堂々とした足取りで人垣を縫って掲示板前に歩み出たレングスは、海のように深く青い瞳でミミ達を見据える。


「君達の行動が問題になっていると、何度も伝えているはずだが。正式な処分が下るまでの間にまた問題を起こせば、反省の余地なしとして退学処分にするとも。

 私の伝え方が不十分だったかな。それとも、君達の中ではこれは『問題行動』ではないのかな?」


 レングスの声色は怒りも軽蔑もなく、ただ静かに「なぜ」と理由だけを問う言葉を投げかけていた。まだ泣き止まないミミを庇うように男子生徒が一人レングスの前に立って、声を張り上げる。


「先生、試験結果がおかしいんです。ティムとマイクの名前がないし、ミミの成績が一番下なんですよ。こんなのおかしい、不正です」


 その尻馬に乗って、他の男子生徒達も一斉に声を上げ始める。名前すらないのはなぜだ、ミミはあんなに頑張ったのに、上位陣がいつも似たような名前なのはおかしい。矢継ぎ早に飛ばされる陳情は次第にヒートアップしていき、しまいには「ミミがかわいそう」という内容さえ飛び出した。


「なーにがかわいそうよ。かわいそうなら成績順を繰り上げていいってわけ?」

「トップ層がだいたい同じだからって何なんだ? ちょっと勉強したらトップになれるとでも思ってたのかな」


 男子生徒達の言い分をネリアが鼻で笑い、ロブが呆れて首を振る。けれどもレングスは、彼らの言葉を黙って聞き続けていた。笑いもせず、呆れも見せず、穏やかな顔で頷いて耳を傾ける。そして彼らが同意と対処を求める言葉を吐いた時、ようやくレングスは口を開いた。


「まず、成績表に名前がない生徒だが。Bクラスのティム・マース、マイク・メイヤーは試験中の不正行為が確認されたため除外している」


 不正行為。その言葉に反応して、掲示板を取り巻く人集りがざわめき始める。Bクラスでカンニングがあったらしいと、そんな噂が試験直後から流れていたのはシェラも知っている。

 学園内の規則で、試験での不正行為が確認できた場合該当の生徒は不合格とし、一週間の停学と反省文の提出及び別室での追試を科されることになっている。入学前に配布された学生手帳の規則一覧にも明示されている事項だ。読んだ時にはあくまで具体例の列挙としか思わなかったそれが現実の事例になったことにシェラは大きく驚かされたのだが、彼らにとってはどうだったのだろうか。


「それはっ。何かの間違いです」

「間違いではない。試験監督の教師が机の陰に隠した紙片を盗み見ている現場を確認し、その紙片が試験範囲のノートの切れ端だったこともわかっている。

 試験中に他人の回答や持ち込みが許可されていない資料を盗み見るのは『カンニング』と呼ばれる不正行為だ。当校では、そのような不正行為は厳正に処分を下すことになっている」

「で、でも、そんなのって」

「学生手帳にも記載されていることだし、試験前にも説明があったはずだ。具体的な不正行為の例を挙げて、確認された場合は即時の退室と規則に則った処分を行う、とね」


 即座に反論する男子生徒に、レングスはあくまで落ち着き払った態度で対応する。理路整然と説かれる反証に男子生徒は威勢を削がれたのか、次第に声をしぼませていく。やがて男子生徒が何か言いたげにしながらも俯いて口をつぐむだけになると、「次に」とレングスは告げた。


「試験成績とその順位は教師陣による採点を元にしている。教師自身の正誤の解釈の匙加減で多少点数がぶれることはあるものの、用紙に記入された回答以外の要因で点数が変わることはない。

 仮に私的感情や便宜によって特定の生徒の点数を操作することがあれば、それを行った教師は厳重に処分される。

 不正が許されないのは君達生徒だけではなく、私達教師も同じなんだよ」


 特別張り上げてもいないのによく通る声で、レングスは粛々と試験の公正さを説く。あれほど噴き上がっていた男子生徒達は、すっかり毒気を抜かれたように黙り込んでただただ気まずそうに視線を伏せたり泳がせたりしていた。


 もしかすると、彼らも本当は自分達の主張に無理があると薄々気付いてはいたんじゃないか——と、不意にシェラは思った。だけど強気な態度でいればいつかは相手が折れることをどこかで覚えて、味をしめてしまった。やたらと攻撃的だったのも、きっと納得しない相手に無理を飲み込ませるためにどんどん声が大きく荒々しくなっていった結果かもしれない。

 だとすれば、レングスは彼らにとっての天敵だ。大声に怯まず惑わされず、冷静に理を説いて無理をたしなめる。もし彼らが目上の相手に萎縮せずいつもの恫喝で丸めこもうとしても、レングスは屈することはなかっただろう。いわばレングスは、彼らがこれまで踏みにじり見ないふりをしてきた道理の体現者であった。


「最後に。同じように努力をしても、身につく速度は必ずしも一定ではない。どうしても人には生まれつきの向き不向きという不平等がある。

 それを完全になくすことはできないが、私達は当校の理念の下生徒の学ぶことへの意欲を大切にし、その成長を支えたいと願っている。

 授業の理解が難しかったり体調不良で授業を受けられなかったりした生徒のために追加の講義が行われているし、個人的な相談なども受け付けているから、困った時は先生に話してごらん」


 柔らかく諭し、手を差し伸べるレングスの言葉に、ようやくミミが顔を上げる。涙に濡れたその顔は赤みが差しているけれど可憐なままで、不満を示すように小さく眉根に皺を寄せていた。


「そんなの、ずるい」


 またもや飛び出した言葉に、観衆がどよめく。困惑を含んだ声が響く中で、レングスは柔和に微笑みながらミミに問いかけた。


「何がずるいと思ったのかな?」

「だって。それじゃ、頭のいい人がずっといい成績を取ってばかりで、わたしは一番になれないから」

「そうだね。でも、頭のいい人だって何もせずに一番を取っているわけじゃない。頭のいい人だって、勉強をして初めて色んなことがわかるようになるんだ。たくさん勉強をしたから一番になって、偉いって褒められているんだよ」

「でも、わたしだって勉強してるのに。わたしが一番になれないのに、あの人達だけ一番になれてずるい」

「ミミ君。ずるい、とは『悪いことをして得をしている』という意味だよ。みんなは規則を守って、一生懸命頑張って結果を出しただけだ。

 同じことをして同じ結果が出ないのは不公平に感じるかもしれないけれど、それをずるいと言うのはとても失礼だし、ひどいことなんだよ」

「ずるいものはずるいの。わたしだって一番になりたいのに、頭のいい人ばっかりずるい」


 まるで幼い子供に言い聞かせるように優しい口調でこんこんと語りかけるレングスに対し、ミミの態度はどこまでも頑なだった。

 ただ、自分が一番になれないのはずるい、と。レングスの語る道理をはねつけて、それだけをひたすらに主張し続けていた。


「ミミ君。ずるい、というのはね。試験中に問題の答えを見てはいけません、と言われたのに一人だけ答えを見ながら試験を受けるようなことを言うんだ。誰もそうせずに試験を受けて、それで結果が違うのはずるじゃない。

 たとえばだ、君が試験問題の答えを書いた紙をこっそり持ち込んで、それを見て試験を受けてみんなよりいい点を取ったら、みんなにずるいと言われるだろう。でも君がたくさん勉強をして、それで一番になったら誰にもずるいとは言われない。

 君が頑張って一番になった時、ずるいと言われたら嫌だろう? だからね、そんな言葉を簡単に使ってはいけないよ」


 ずるいずるいと喚くばかりで一向に理解を示さないミミに、レングスはそれでも辛抱強く諭す姿勢を崩さない。決してみんなはずるくない、だからずるいと言うのはやめなさい、と。その言葉にミミが薄桃色の唇を尖らせて、恨めしそうにレングスを見る。


「でも、わたしばっかり勉強しないと一番になれないのはいやだし、ずるい。みんなずるいんだから、わたしは試験の答えを見てもいいでしょ? そうしたらわたしだって一番になれるんだもの」


 その瞬間、場の空気が一気に凍りついた。

 よりにもよって教師の前で試験での不正を容認する発言をしたことに、場に居合わせた生徒達の間に動揺が広まった。ミミ達を遠巻きにしている群衆だけでなく、ミミの側に固まる男子生徒達さえ慌てている。

 それだけ重大なことをミミはやらかしたのだ。それもおそらくは無自覚で。


「頭おかしいんじゃないの、あの女」


 ネリアの呟きを、シェラはたしなめることができなかった。シェラだって薄々そう感じ始めていたからだ。

 ミミの言葉はあまりに自己中心的だ。シェラにだって人並みに欲や心はあるから、自分も一番になりたいという気持ちも才能のある人を妬む気持ちも理解はできる。だけどあの言い方では、まるで自分が中心に世界は回るべきだと心底考えているようではないか。

 あまりに理解の枠から外れた思考回路に、シェラの胸中に言い表しようのない薄気味悪さが広がっていく。


「ミミ君。それは君が言った『ずるい』ことそのものだよ。みんながなるべく公平でいるために、それはやってはいけないことなんだ」


 レングスの声は今までよりも一、二段低く、そして重い響きをはらんでいた。浮かべた笑みこそ崩してはいないものの、纏う雰囲気は明らかに張り詰めたものになっていて。けれどミミは、そんなことはまるで意に介さない様子で小首を傾げてみせた。


「でも、頭がいい人だけ一番になれるのは不公平じゃない。わたしはあんなに勉強したって一番じゃなかったのに。なら、それはずるいってことじゃない?」

「それじゃ、君と同じくらいの成績の生徒が答えを見ながら試験を解いて、君よりずっといい点を取ったとする。君はたくさん勉強をして頑張ったのに、その子はちっとも勉強をしていなくて、ただ答えを見ただけで一番になったんだ。そうしたら君はどう思うかな?」

「わたしは勉強したのに、ずるいって思う」

「そうだろう? みんなもそう思うんだよ。だから不正はしちゃいけないんだ。

 もし君が答えを見ながら試験を受けて一番になったら、そうしなかったみんなはどう思う? 自分はちゃんと頑張ったのに、そうしなかった人が一番になって褒められたらきっと嫌な思いをする。

 不正をしちゃいけません、と規則で決まっているのは、なるべくみんなが嫌な気持ちになったり損をしたりしないためなんだよ」

「でも、同じくらい勉強したって一番になれないなら、答えを見るしかないじゃない。規則があるから不正しちゃいけないなら、そんな規則なんかいらない」

「ミミッ!」


 ミミの言葉を遮るように、ミミを囲んでいた男子生徒の一人が悲鳴じみた声で彼女を呼ぶ。しかし、一度口から吐かれた言葉は決して戻るものではない。不穏な気配に群衆が騒ぎ、固唾を飲んで成り行きを見守る。


「君は、歴史学の授業は好きかな?」


 一見すると脈絡のないレングスの質問に、「難しくてよくわからないから嫌い」とミミが答える。傍らの男子生徒の顔色がみるみる悪くなっていく様は、ミミの目には入っていないようだった。


「この国に、どうして憲法と法律があるのかは知っているかな?」


 知らない、とミミが答えた。レングスはゆっくりと頷き、ミミの目を見ながら言葉の続きを紡ぐ。


「簡単に言えばね。みんなが損や嫌な思いをしないよう、そして安心して生きていられるように法律はあるんだよ。

 たとえば人から物を盗んではいけないという法律があるけれど、これがなかったらどうなると思う? 物を盗んでも罰を受けることがなかったら、きっと泥棒は何倍にも増えるだろう。そうしたらいつ自分の持ち物が奪われるかもわからなくて、とても安心して暮らせなくなってしまう。

 だから法律という決まりごとがあって、悪いことをすると罰がありますよ、と示すことで悪いことをしないよう防いでいるんだ。悪いことをしても一方的に得をせず、むしろ重い罰を受けるなら、悪いことをする人は減るからね。

 一方、憲法は偉い人が悪いことをするのを防ぐためにある。みんなを代表して国をまとめている偉い人が、突然自分に都合がいいように法律を書き換えたり、みんなからたくさんお金を取ったりしたら困るだろう? だからそういうことをしてはいけませんよ、そういうことをしたらたとえ偉い人でも罰を受けますよ、と決めているんだ。

 学園の規則もそれと同じだ。教師が自分の立場を使って特定の生徒をえこひいきしたり、生徒が他の生徒をいじめたりすることがないようにあるんだよ。

 規則はみんなが安全に学園に通って勉強をするためのものであり、みんなをなるべく公平にするためにもある。規則がなければ、ミミ君はもっと不公平になってしまうかもしれないんだ。だから、規則はとても大切なものなんだよ」


 とうとうと語るレングスの声に、シェラは入学後初めて受けた歴史学の授業を思い出していた。

「この国で生きる者として、どうか知っていて欲しい」と前置きをして語られたのは、この国の憲法が生まれるまでの歴史とその意義についての話だった。とても大事な内容だから入学して最初に受ける授業はこれになっているんだ、とレングスが告げたことを、今でもはっきりと覚えている。


「でも、規則があったって不公平なままじゃない。ティムやマイクも規則のせいで不合格になったんでしょ? なら、規則なんかない方がいい。規則のせいでわたし達は損をしてるんだもの」


 ぞわり、とシェラの背筋を悪寒が駆け抜けた。場を包む不気味なほどの沈黙に、ようやくミミも異変を察したのか「どうしたの?」と傍らの男子生徒達を見回す。男子生徒達はただ血の気の失せた顔でミミから目を逸らすばかりで、中にはがちがちと歯を鳴らして震える者もいた。


「つまり。自分の得にならない規則は守る必要はないし、そもそもない方がいいと君は考えているんだね」


 ただ淡々と事実だけを確認するための言葉に、ミミが頷く。自分が何を口にしたのか、周囲からどう見られているのか、まるで理解していない顔だった。


「もう一度説明するけれど。規則も法律も、みんなを守るためにあるものなんだ。ミミ君も、知らず知らずのうちにそれに守られている。それでも本当に、いらないと思うかな?」


 今度はミミは頷かず、ただ「いらないものはいらない」とだけ言った。それで本当に彼女は何もわかっていないのだと、心の底から確信できた。目の前の羽虫を払うのと同じ気安さで、彼女は決して口にしてはいけないことを言った。


 もはやシェラの中で、ミミは違う世界の人間だった。シェラだけでない、ネリアもロブも、黙って見守る何十人もの生徒達も、ミミの側にいる男子生徒でさえ、きっとそう感じていた。


「わかった」


 レングスの声に、ミミの目がきらりと光る。先程までの不満気な顔から一転して、頬を綻ばせ大きな目を潤ませた様子から自分の言い分が通ったとでも思っているのだろうか。

 絶対に、そんなことがあるはずはないのに。


「ミミ君、少し先生と話をしよう。一緒に相談室に来てくれるかな?」


 レングスの要請にミミが助けを求めるように男子生徒を見るが、誰一人としてミミを庇うことはなく。代わりに「よければ君達も」とレングスに促されて、力なく頷くだけだった。


「ミミ君、喉は渇いていないかな? よければ紅茶を出すよ。午後の授業は受けなくてもいいから、一緒に相談室に行こう」

「わあ、本当? お菓子はある?」

「それはミミ君次第だね」


 なら行く、とばかりに乗り気になったミミは弱々しくうなだれた男子生徒を引き連れ、レングスの後を追って歩き出した。男子生徒達が無理に掻き分けずとも自然に人波は割れ、レングス達の通る道が作られていく。


「あの女、終わったね」


 まだ痛いほど静まり返った廊下に、ネリアの呟きが響く。緊張から解き放たれたのか顔にどっと疲労を吹き出させて肩を落とすロブに、シェラはつい吹き出してしまった。


 ◇◆◇◆◇◆◇


「突然お呼び立てして申し訳ありません」


 相談室の扉を開けて現れた人物に、レングスと教頭は丁重に頭を下げた。対する相手はふんと鼻を鳴らしてつかつかと机に歩み寄り、乱暴に椅子を引いて娘と己を座らせる。


「いくらなんでも横暴ではありませんかな。ただ男友達が勝手に騒いだだけで、娘まで停学とは」


 憮然とした表情で腕を組み、仕立ての良いスーツに身を包んだ紳士——ミミの父親はじろりとレングス達を睥睨する。その隣で、ミミは能天気に紅茶をふうふうと吹いて冷ましていた。


「停学ではなく、一時的な自宅待機です。お宅のお嬢さんが少なからずその友人に悪影響を与えている様子だったので、事実関係の確認や審議の間登校を控えていただいただけです」

「それが横暴だと言うのです。娘はただその場にいただけでしょう、それなのに巻き込まれて処分とは。娘の評判にケチがついたらどう責任を取るつもりか」


 教頭の説明に、ミミの父親が苛立った様子で机に拳を叩きつける。衝撃で手付かずのティーカップがソーサーの上でかちゃりと音を立てて、ついでにミミの肩もびくんと跳ねる。


「お嬢さんから、話はお聞きになりましたか?」


 レングスの質問に、ミミの父親は眉間に深く皺を寄せながら「当然だ」と答える。父親が机を叩いた音に怯えたのかしくしくと泣き始めるミミには、誰も触れようとしなかった。


「お嬢さんは何と?」

「掲示板の前で成績を見て、友達と話していたと言っていました。その後歴史学の教師が来て、軽く話をした後しばらく学校に来るなと言われて帰されたと。たかだか一度掲示板の前で騒いだくらいで大袈裟な処分ではありませんか」


 まなじりを吊り上げてそう主張する父親に、教頭は黙って眉間を揉んだ。とても付き合いきれない、と物語るその仕草に、レングスが代わって口を開く。


「どうも話に抜けがあるようです。お嬢さんとそのご友人は、以前から問題行動を繰り返していました。お父様にもその件で何度かご足労願うよう通達をしていたはずですが、届いておりませんでしたか?」


 ひく、と父親のこめかみが動いた。父親が顔色を変えてミミの方を見ると、ミミは口をすぼめてそっぽを向く。何かやましいことがあるらしい。


「そのような話は、聞いておりません」

「そうですか。合わせて三通ほど手紙でご連絡を差し上げたはずなのですが、何か手違いがあってお手元に届かなかったのかもしれませんね」


 ふぅ、と教頭の口から小さな吐息が漏れた。仮にも客人の前という遠慮がなければ特大の溜息になっていただろう。個人に宛てた三通の手紙が三通とも届かないなど、普通ならあるはずはない。配達中か、あるいは届いた後に破棄か隠匿されなければそうはなるまい。明らかに何者かの意図を感じる事態だ。


「まず、順序立てて説明いたしますが。編入直後からお嬢さんが学園の規律や社会規範を無視した行動を取る、という訴えが生徒から多く上がっておりました」


 たとえば、学内食堂や購買の列に横入りをする。人の持ち物を貸して欲しいとしつこくねだり、借りたらそのまま返さないか破損させて返す。成績優秀な生徒に勉強を教えて欲しいと頼んだにも関わらず、その生徒が親身になって教えようとすると「わからない」「意地悪をする」と一方的に責め、最終的に勉強を放棄して友人と無駄話を始める名ばかりの勉強会を幾度も図書室で開く。

 それらを咎めても泣くばかりで話にならず、友人の男子生徒が庇い立てして相手を恫喝し、時には胸ぐらを掴む、突き飛ばすなどの暴力を振るってミミの主張や要求を押し通してしまう。


「彼女の振る舞いはまるで女王です。大切な持ち物を壊されたり、ひどい言葉をぶつけられてノイローゼになった生徒もいます。幸い怪我をした生徒はまだいませんが、いつ傷害沙汰になるかわからないと皆危ぶんでいたのですよ」


 淡々としたレングスの報告に、父親の顔から次第に怒気が抜けて困惑と焦燥に塗り替えられていく。父親がまたミミを見れば、ミミはくすんくすんと鼻を鳴らして目を潤ませた。


「そのような話は、聞いておりません……」

「そうですか。きっとお嬢さんもうまく説明できなかったのでしょうね」


 レングスが眉を下げて苦笑いをし、教頭がじろりとミミを一瞥する。父親は慌てたようにミミの肩を掴み「なぜ言わなかった」と聞くが、ミミは泣くばかりで話にならない。教頭が溜息の代わりに深呼吸を始めたのを横目で見て、レングスは話を続けた。


「もうひとつ、重要なお話ですが。お嬢さんは規律を守る必要性も、存在する意義も感じられないと発言されました」


 その一言に、父親がミミの肩を揺する手を止めた。冷や汗を滲ませた顔が驚愕の色を浮かべたかと思えば、次の瞬間には媚びへつらうように歪む。


「そんな、まさか。何かの間違いでしょう」


 どこか掠れた声色には、「そうであって欲しい」ではなく「そういうことにして欲しい」と言わんばかりの響きがあった。教頭が今一度深く息を吐き出し、レングスが膝の上で組んでいた指に自然と力がこもる。教頭は銀縁の眼鏡のブリッジを指先で押し上げ、重々しく口を開く。


「間違いではありません。こちらのレングスも、そして現場に居合わせた大勢の生徒も、お嬢さんの発言をしっかりと聞いています。

 その発言を聞いて、レングスはお嬢さんに規則の意義と重要性を説いたそうです。規則は憲法や法律と同じく我々を守る盾であり、尊ぶべきものだと。編入の手続きの際にお渡しした入学前の課題に同様の内容の書き取りと読解問題が含まれておりますから知らないはずはないのですが、ついうっかり失念したということも考えられますから。

 その上で、改めてお嬢さんは自分達が損をする規則はいらないと発言したそうです。レングスが今一度確認をしても、いらないものはいらないと不貞腐れた態度で答えたと。

 これは非常に重大で、看過できない発言です」


 父親の顔からすっと血の気が引いて、両の眼が逃げ場を求めるように左右に揺れる。ミミと違って、父親はその発言がこの国でどんな意味を持つのかを正しく認識できていた。認識できたからこそ、それがおよそ許されないものであることも同時に理解した。


 俗に、この国の法は人の血で書かれていると言われている。それは現行の憲法と法律の制定までにおびただしい量の血が流れてきた歴史があるからだ。

 昔、この国には身分制度があった。王を絶対不可侵の頂点とし、その他を聖職者、貴族、平民の三つの身分に分けた社会はひどく歪で残酷なものだった。国民の過半数以上を占める平民の訴えは無視され、特権階級である聖職者と貴族の具申のみが国政に反映される体制が長年にわたって続いていたのである。

 それだけでなく、貴族以上と平民には明確な権利の差があり、平民が貴族相手に罪を犯せば極刑は免れないが、貴族が平民相手に罪を犯せばお咎めなしというような不平等がまかり通っていた。


 初めは平民達も耐えていた。貴族達と自分は違う生き物なのだから、不均衡があるのも仕方ないと。けれどある時期から平民の富裕層の間で「博愛」と「平等」の思想が広がり始め、富裕層による貧民層への慈善活動が流行したことで貧民層の生活環境や識字率が大いに改善された。

 そうした中で、次第に平民達——とりわけこれまで抑圧されてきた貧民層はひとつの疑問を持つようになった。なぜ自分達は貴族に比べて権利が弱いのか。なぜ一握りの人間だけが国を動かし、自分達はそれに振り回されるだけでいなければならないのか。自分達は本当に、特権階級とは違う生き物なのか。

 これまでその日の暮らしだけで手一杯だった貧民層に余裕が生まれたことで、彼らにも富裕層の掲げる「博愛」と「平等」の精神が広まり、長くくすぶっていた疑念に火がついた。


 特権階級への疑念はやがて専制政治への不満に変わり、最後には革命の炎として燃え上がった。その要因のひとつが増税の告知だと言われている。当時は干ばつによる飢饉と他国との戦争や王族の散財で国の財政は悪化の一途を辿っており、どうにか火の車の国庫を補うべく出された増税案は平民に大きく負担が偏っていた。聖職者や貴族からの反感を恐れたが故の措置が、平民達が感じていた不平等をより色濃くし怒りに薪をくべたのである。


 そうして平民達による革命が起こり、多くの犠牲を払った末に王朝は打倒された。新たに樹立された国民議会では共和制の実現にあたって様々な議論が繰り返され、その末に制定されたのが憲法と従来の法律を改正した新法である。

 革命が終わってもまだ流れる血は止まず、暴走した議員達による独裁体制や指導者の正当性を訴えて新たな王になろうとする者さえ現れた。その度に議論は加熱し、憲法には新たな条項が書き加えられた。法律もまた同じで、何か諍いや問題点が見つかる度に条文にペン先が走り、少しずつより良い形へと近付けられていった。


 そんな歴史があるからこそ、この国では法の下の平等が叫ばれ、法が重んじられている。現行の法律及び憲法は先人達が血を流して勝ち取った自由の証であり、最も偉大な贈り物とされているのだ。

 故に、私欲によって法を踏みにじり不要とまで叫んだミミの発言は歴史の冒涜にも等しいものだった。さらに特権を振りかざして他者を害する彼女の姿勢がまるで革命前の悪しき特権階級のようであったこともまずさに拍車をかけている。

 そして何より、この国の法に対する特別な意識や歴史の重みを抜きにしても、ミミの言動は社会性を大きく欠いていた。学園による処分はミミ自身の生徒としての権利を害していると父親が叫んだところで、そのミミが他の大多数の生徒の権利を侵害しているのだから話にならない。

 他人の権利を侵害しておきながら、自分の権利だけは守れという矛盾は通用しない。思想的にも危うく、周囲に実害を撒き散らす存在でしかないミミはもはや学園から排斥されても致し方ない危険物だった。


「なぜそんなことを言ったんだっ」


 父親は必死の形相でミミを揺さぶるが、ミミは相変わらず泣くだけでろくに返答もしない。

 ミミは、本当に何も知らなかったのだ。下町で一番の美人と評判の酌婦の娘として育ったミミは母親に似てとびきりの美人だった。だからいつも男の子にちやほやされて、困ったことがあればちょっと泣くだけでみんなが味方してくれて思い通りになった。

 ミミの父親だという人がやってきて、自分を引き取ってくれた後だって何も困ることなんかなかった。大きな家にはたくさん召使いがいて、ミミは何にもしなくてよかった。きれいな服を着せてもらえたし、おいしいご飯も食べさせてもらったし、お風呂にだって入れてもらえた。

 将来お金持ちの人のお嫁さんになるために学校に行きなさいと言われた時だって、父親や召使いや周りの人がみんな解決してくれた。やりなさいと言われた課題は召使いがやってくれたし、ノートは友達が取ってくれたし、ミミが困った時は友達が助けてくれた。今まで通り、いやそれ以上に順風満帆で幸せな毎日だった。


 だから、それがいけないことだと言われてもミミには納得できない。今までそうやって生きてきて、全部がうまくいったのだ。それをわざわざやめるなんて考えられない。

 母親には「人の気持ちも考えなさい」と何度も怒られたけど、ミミにはよくわからない。人の気持ちを考えたところでミミは何にも得をしない。友達だってみんなミミの味方をしてくれるのだから、別にいいではないか。

 ミミの価値観では、ミミは世界の中心で全部が全部ミミに都合良く働いてくれるのが当たり前だ。ミミの言うことを聞いてくれない人間はみんないじわるな悪人で、都合の悪いことはみんな悪だ。だから注意してくる教師はいじわるで苦手だったし、「学校から手紙が来ると面倒だ」と友達が教えてくれたからこっそり家に届いた手紙を捨てた。都合の悪いものなんてない方がいいからだ。


 そんなミミの歪さを、父親は何にも知らなかった。ただ昔一時期遊んだ女に美しい娘がいると聞いて、自分の娘ということにして引き取って取引先と縁を作る道具にしようと考えただけだ。

 だからろくに関心も持たず世話は家の者に任せきりにしていたし、学校に入れたのだって箔をつけるためだけだからそこで学べるだけの地力があるか確かめていなかった。

 もっとよくミミを見定めていれば掘り出し物ではなく特大の不発弾だと気付けたはずなのだが、そうなれなかったのは父親の自業自得と言えよう。


「こうした発言があった以上、こちらとしてはお嬢さんには退学していただくか、どうしても学び続けたいのならば一度休学という形を取った上で社会生活に馴染むための勉強や訓練をしていただきたいと考えています。

 何ら対応をせずお嬢さんを学園に戻すだけではお嬢さん自身も周囲の生徒も不幸になるだけでしょう。保護者として、どうか我が子を思いやった選択をなさってください」


 教頭の言葉は半ば最後通牒に近しかった。生徒の学ぶ権利と意思を尊重するという学園の理念に則って退学以外の選択肢も提示はしたものの、いずれにせよ今のままのミミを学園に通わせることは許容できないという主張は変わらない。

 父親はミミの肩口を掴んだままはくはくと唇を動かし、縋るように教頭とレングスを見たが、二人の顔色が変わらないのを確かめると力なくうなだれる。


「話は終わったの? ねえ、もう帰りましょ。わたし、お腹が空いた。先生ったらお茶菓子のひとつも出してくれないんだもの」


 しばらく言葉が途切れて重い静寂が流れたことで、もう面倒なことが終わったのだと解釈したミミが反対に父親の肩を揺すり始める。もはやミミを叱ったりなだめたりする気力もないのか黙ってぐらぐらと頭を揺らす父親にレングスは苦笑いを浮かべ、教頭はいよいよ溜息を吐いた。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 ミミとその男友達が一斉に停学になった、という噂は瞬く間に学園を駆け巡った。

 それに伴って、ミミも取り巻きも退学になるとか、ミミは昔からあんな感じの厄介者だったとか、ミミは今父親に怒られて自宅に閉じ込められているとか、真偽の怪しい噂が次々と出回った。

 生徒達は元々ミミ一行の横暴に鬱憤が溜まっていたけれど、本人達に聞きつけられると厄介だから声をひそめていたのだ。その抑圧がなくなった今は反動で大っぴらにミミの話題が扱われるようになり、尾ひれも背びれもついた噂がいくつも生まれては人の口の間で泳ぎ回っていた。


「気持ちはわかるけど、ちょっと言い過ぎじゃないかしら……」

「あんなのに同情することないって。好き勝手暴れた分嫌われてるだけよ、自業自得よね」

「まあ、俺も過熱しすぎてるとは思うけどさ。今はこれまで我慢してた分が噴き上がってるだけで、そのうち自然と収まるんじゃないかな。人の噂なんて良くも悪くもすぐ廃れるんだから」


 食堂のそこかしこで飛び交う棘を含んだ噂話にシェラは眉をひそめるが、ネリアとロブはたいして気に留めていない様子だった。気もそぞろなシェラをよそにあの席空いてる、とネリアが指した方へロブがさっと走り出して、即座にテーブルを確保する。


「俺が取ってるから頼んできていいよ。俺はシュリンプサンドとスープとソーセージで」

「はいはい。行こ、シェラ」

「うん」


 ひらひらと手を振るロブに手を振り返し、ネリアと連れ立って注文の列に並ぶ。ネリアの注文はパンケーキとスープ、シェラはベーコンサンドとサラダだ。

 出来上がった料理を受け取って席へ戻ると、待ちかねたとばかりにロブが目を輝かせた。ネリアがロブの向かいの席に自分のトレイを置いて、シェラはその隣の席を取る。気付けばカウンターの席でもテーブルの席でも、こうしてネリアとロブがシェラを挟む席順が定番になっていた。


 食事を始めれば、すぐに周囲の話し声は気にならなくなった。シュリンプサンドがうまい、とロブが騒ぎ始めたからだ。シェラはあまり冒険をしない方なので最近になってメニューに載ったそれを頼む気はなかったが、ロブは男友達から美味いと聞いて興味を持っていたらしい。うまいうまいとかぶりつくロブを見ていればなんだか好奇心をそそられて、明日はそれにしてみようかな、とシェラは心変わりをし始めていた。


「そういえばさ。シェラ、再来週の週末は空いてるか?」


 シュリンプサンドを平らげたロブが口の端にソースを付けたままそう聞くので、シェラは正直に「まだ予定はない」と答えた。ついでにソースが付いてる、と指差して教えてやれば、ロブは見当違いの場所を指で拭う。


「そこじゃなくて。ちょっと待って」


 シェラが制服のポケットからハンカチを出した時には、ロブは闇雲に口の周りを擦っていた。何やってんのよ、と呆れた目をネリアに向けられて、ロブがソース汚れが取れた頬を掻く。


「あのー。えっとさ。よかったら、一緒に出かけないか。ほら、その、収穫祭があるし」


 少しドジをした気恥ずかしさが抜けないのか、歯切れ悪く誘うロブにシェラはもちろんと頷いた。ここ最近は財布の紐を締めているとはいえ、ネリアとロブと遊ぶのはやはり楽しい。

 何気ない帰り道だって、二人がいるだけでずいぶんと心が弾むのだ。収穫祭なんて聞くだけで気持ちが上向くイベントに、二人が加わったらどんなに楽しくなることだろう。


「楽しみにしてるわ。どんな服を着ていくか決めなきゃ」


 ネリアはどんな服にするの、と話を振ってみれば、ネリアはなぜか豆鉄砲を食らった鳩のようにぱちくりと目を瞬く。何かそんなにおかしなことを聞いただろうか——とシェラが首を捻ると、はあぁぁとロブの口から溜息に似た声が漏れた。


「どうしたの」

「いや……」

「あんた、全然意識されてないじゃん」

「ああ……」


 シェラとネリアの言葉に、ロブはぐったりと頭を垂れる。一体どうしたんだろう、とまたもや首を捻るシェラに、ネリアは「気にしなくていいよ」と軽く言い放ってパンケーキの最後の一口を頬張ったのであった。

身分社会でない、かつ権力を使わないざまぁを書こうと思ったのですがなんだか弱くなってしまいました。

身分社会は不公平だからよくない!人間はみんな平等に権利があるの!って革命が起きて以降平等な権利を大事にしてる国で「自分は特別だからなんでも許されるの」って言ってる人間がいたらなんだコイツってなるよね、という思いつきが元になった話でした。基本的人権って素晴らしい。

世界史で習ったあれやこれが元ネタですが、異世界なので文化はヨーロッパごちゃ混ぜということでひとつ。



◆シェラ


実はけっこういいとこのお嬢さん。なので所作も言葉遣いも綺麗。上品系の美人かつ優等生ということでそこそこ人気はある。

好きな授業は歴史学。子供の頃から物語を追うのが好きなので、その感覚で歴史上の出来事や人物に思いを馳せている。

良く言えばお淑やか、悪く言えば気弱な性格。そのため気丈なネリアに憧れている。

ロブに片想いされているが、気付いていない。



◆ネリア


シェラのようなお嬢様ではないが、経済的に余裕のあるお家の生まれ。気が強いのは母親譲り、よく食べるのは父親譲り。

入学当日に隣のシェラと打ち解けて友達になった陽の者。押しに弱いシェラを心配し世話を焼く一方で、あたしと違ってお上品で綺麗でいいなーと憧れてもいる。

昔馴染みのよしみでロブの恋路を応援しており、骨は拾うつもりでいる。



◆ロブ


ネリアのご近所さん。お家の裕福さも似たような感じ。

入学当初から美人のシェラを意識しており、友達のネリアの幼馴染という接点を利用し隙あらば話しかけていた…が、強くアプローチする勇気がなく「たまにネリアと一緒にいる人」以上の認知は得られなかった。

ミミとの一件で落ち込んだシェラを心配し、かつネリアに「根性出せよオラ」と尻を叩かれたことで勇気を出して積極的にシェラに話しかけるようになり、いつメンの立場を勝ち取る。

しかしまだ「貴重な男の子の友達」という認識でしかないため、先は長い。相性はいいので、あとは本人の頑張りときっかけ次第。



◆レングス


30代後半くらいの男の先生。甘いものが好き。

歴史学の授業ではしばしば当時の食文化についての小話を挟むため、食欲を刺激される生徒も多い。

ちなみにレングスは姓。フルネームはルーク・レングスという。



◆ミミ


やべー女。

母親は苦労して育ったのでまともだが、ミミはちやほやされまくって育ったので歪んでしまった。母親がいくら叱っても周囲がヨシヨシしてしまうのでクソガキのまま成長しなかったと言える。

学園を退学になった後は適当な男に嫁がされた。都合が悪くなると泣く癖は治っていないので、その度に叱られてはわたしってかわいそう、○○が悪いんだ、と他責して、またやらかして泣いて叱られるループに入ると思われる。いつ大人になれるのかはわからない。



◆学園


かなり歴史と権威のある学校。高等教育を施す場という位置付けで、裕福だったり何か高い志があったりする若者が通う場所。格式に反して門戸は広く入学金さえ用意すれば入れるがきっちり単位を取って卒論を書かないと卒業できないので、ナメた気持ちで入って中退や留年する生徒も多い。

学食はバゲットサンドや具だくさんスープなどサッと出せてお腹に溜まるメニューが中心。なお作中のパンケーキはプファンクーヘンというドイツ式のパンケーキのイメージ。薄く焼いた生地にシナモンシュガーやジャムを塗って、円筒状にくるくると巻いたものをナイフとフォークで食べるそう。AIくんが教えてくれたんですが、世の中にはおいしそうな食べ物がいっぱいありますね。



◆シェラ達の国


「自由と平等と博愛の国」という通り名を持つ歴史の深い国。大陸のやや端っこの方にあって海にも面している。飯がうまいことで有名。

かつては厳しい身分制度があったが、革命により絶対王制から共和制へ変わって身分による不平等を撤廃した。

現在は特権階級による横暴や支配はないものの貧富による格差が目立ち始め、社会福祉関連の法律や制度の整備と改善が主な課題となっている。

かつて貧困層に学ぶ機会と余裕が生まれたことが革命のきっかけの一つになったために「教育を受ける権利」が重んじられており、貧困層でも無料の青空学校で初等教育が受けられる。が、高等教育にはお金がかかるので初等教育が最終学歴の人もそう珍しくはない。高等教育はあくまでエリートとお金持ちのためにある感じ。

作中の革命と憲法現行法の歴史は初等教育でやる範囲なので国民の常識だが、ミミはサボり常習犯でたまに授業に出てもろくに聞いていなかったので知らなかった。

「自由と平等と博愛」がモットーなので男女格差の解消についても盛んに叫ばれており、共和制の樹立から少し遅れる形で女性の社会進出も進められてきた。シェラもネリアも将来働くために学園に通っており、シェラの夢は歴史や文化的遺産を保護する職に就くこと。なおネリアの夢は弁護士、ロブは教師。

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