芽生え
月下旬放課後、一目惚れをした。ただまっすぐ彼女の後ろ姿を見つめる姿は儚くて、でも彼女が愛おしいという気持ちで溢れていた。叶わない恋だなんて、初めから分かっていたんだ。
高校に入学して1ヶ月。慣れてきた学校生活にあくびをかきながら、ただ1人日誌を書いていた。外から聞こえてくる野球部の声は、静かな教室にとって丁度いいノイズであった。ただ1つ、いつもと違うのは教室から見える渡り廊下にカップルが1組。神妙な面持ちから、良い話では無いのは明白だった。やけに映画のワンシーンのように見えるのは、美男美女で有名な校内公認のカップルだからだろう。
「うわぁ…すごいとこ見ちゃった…あんなに仲良さそうだったのに」
あまりの衝撃についつぶやいたが、野球部の声にかき消された。女性の先輩が立ち去って行くのを見ると、彼女が別れを告げたのだろうか。ただ何気なく、残された先輩を見ると引き止める様子もなく、ただ呆然としていた。しかし、表情を見て伝わってくる悲しみや愛おしいと言う感情は痛いほど私に感染してきて目をそらそうにもそらせなかった。次の瞬間、ふとこちらを向いた彼と視界が重なり、慌てて目を逸らした。
(ヤバい…今の完全にバレたよね?何もなかったように逃げようか)
なんて考えながら日誌を書くふりをして再び渡り廊下に目を向けるとそこにはもう先輩の姿はなかった。ほっと息をつき、聞こえきたチャイムの音に急かされ、急いで日誌を終わらせた。