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第9頁 近未来の図書館は進歩しているらしい

「初音、ぽけーっとしてないで入るわよ」

「はーい」

 

 ぼーっと図書館の外観を見ていた私は少し先にいたお母様へ駆け寄り、館内へ入る。

 入口はガラス張りの自動式扉で、館内全体は木造のようだ。何だか思っていたより、近未来感はないわね。もっと無機質な白い壁をイメージしていたのだけど……。どちらかというと、昔ながらのレトロな感じね。


 周囲を観察しながらエントランスを抜け、受付の方へ進んでいく。と、ここでお母様と雲雀が左手首に着けている時計型ウェラブル端末を起動させ、専用の機械に翳した。ちなみに私はまだ持っていない。使用年齢が5歳以上で、小学校から使うらしいから、おおよそ今日購入するのだろう。

 

 と、お母様が受付にいた灰髪の初老の男性と何やら話をしている。えらく親しげだけど、お母様と仲が良いのかしら。何となく2人の様子を眺めていたら、何故か私の方に近づいてきた。


 男性の鋭い眼光に身構えていたら、私の目線に合わせるようにしゃがんで、1枚の白いカードを差し出してきた。何だこれはとカードを見つめる。すると、お母様が自分の時計型ウェラブル端末を指差してこう言った。

 

「普段はこれで入るんだけど、貴方はまだ持ってないから、ひとまず今日はこのパスで入ってちょうだい」

「どうぞ。これをお持ちいただければ当図書館へ入場可能です」

「あ、ありがとうございます」

 

 男性から受け取ったカードを見つめる。一見、薄っぺらい板にしか見えないけど、これがこの図書館のパスカードなのね。前世でも図書館に入る際には手続きが必要だったけど、それらを通り越してこの一枚で入場管理できるだなんて進んでるわね。

 カードを専用の機械に通して入場すると、お母様が私と後ろにいた雲雀の方を向いた。


「それじゃあ、雲雀。後はよろしく頼むわね」

「かしこまりました」

「お母様も一緒じゃないの?」

「私はこれから仕事。これでもこの図書館の館長なのよ」

「そ、そうなんだ……」


 何だか、自分の親の凄さに圧倒するわね。お母様、桜波家の当主でありながら、図書館の館長まで務めてるなんて……。もしかしたら私、とんでもない家に生まれてしまったのかもしれない。


 お母様は私の方に軽く手を振ってから初老の男性と共に、奥の方へ消えていった。と思ったら、受付カウンターの方から男性がやってきた。

 

「初音様。こちらの方は、本日図書館の案内を務めてくださる――」

「――浅井輝(あさいてる)です。今日はよろしく頼むよ」

「桜波初音です。よろしくお願いします」

「事前に館長から訊いてはいたけど、やっぱり似てるね」

「そう、ですか?」

「うん。礼儀作法は勿論だけど、髪色とか目の形とかそっくり」


 そりゃあ厳しくお母様から鍛えられてるもの。当然よ。……ん? 髪色はともかく、目の形もそっくり? ってことは、目つきの悪さはお母様譲りというわけか。確かに思い返してみれば、睨まれたときのあの目は怖いわね……。

 

「それじゃあ、1階から順に案内していくから、逸れないようにね」

「分かりました」


 輝さんはさっきの初老の男性とは違って温厚そう。まるで、近所によくいるおじさんみたいね。

 

 時々小話を挟みながら、輝さんに連れられて図書館を案内してもらう。どうやらこの図書館は本館・西館・東館に分かれており、それぞれ15階まであるらしい。

 

 1階の本館には受付の他にオープンスペース、事務室。2階から上にはジャンルごとに蔵書があって、西館にはカフェスペースや展示室、東館には学習室や視聴覚室などがあるようだ。前世の図書館よりも規模が桁違いすぎて、案内中は終始驚きっぱなしだった。

 

 本館は15階全て円形になっており、中央に8台のエレベーターが設置されている。そのエレベーターを中心に渡り廊下が同じく8本形成され、吹き抜け構造になっているので、空気が通りやすく本にも優しい造りになっている。きちんと考えて設計されているようだ。本棚は円に沿うような形でズラリと並べられ、本1冊1冊は特殊な透明ケースに入れられて本棚に管理されている。

 

 これぞ、本好きは夢見る円形図書館! しかも木造っていうのがポイント高いのよね~。まさか転生してこんなところに来られるなんて思っても見なかったわ。

 

 テンション爆上がりの状態で案内されること1時間。エレベーターで1階まで降りている最中、疑問が湧いたので前にいた輝さんへ訊いてみる。

 

「あの、紙の本ってこの図書館にしかないんですか?」

「いや、そうでもないよ。この図書館の他に後、6つ日ノ咲市内には図書館があるんだ。そこになら紙の本が置いてあるよ」

「そうなんですね」


 それなら、残り6つの図書館も機会があれば行ってみたいわね。ここの本の蔵書もかなりのものだけど、他の図書館にしか置いてない本とかもありそうだし。

 

「初音ちゃんは電子書籍じゃなくて、紙の本が好きなのかい?」

「あー、はい。元々興味があったんですけど、家の書庫には置いてなくて……。だから今日、此処に来るのが楽しみだったんです」

「へぇ~、君変わってるね。今どき、もう電子書籍ばかりで紙の本なんて滅多に売れないし、この図書館に来る人も変わってる人たちばっかりだから。でも、そう言ってもらえて嬉しいよ。おじさんも電子より紙派だからね」

「そうなんですね!」

 

 紙の本だと目も疲れにくいし、活字だと頭に残りやすい。何より綺麗にラミネートされた表紙がついてくるのがまた良いのよね~。と、語りたい欲を何とか抑えていると、1階に到着した。エレベーターを出て、受付まで戻ってきたら、1時間に及ぶ案内も終わりを迎え、輝さんとはここでお別れとなった。


「ここを出るまでまだ時間がありますが、どうなさいますか?」

「そうね……。せっかくだし、ここにある本を読んでみたいわ」

「でしたら、またエレベーターで上まで上がりましょうか」

「えぇ」


 さて、ここからが本題なのよね……。精神年齢は100歳以上のババアでも、見た目的にはまだ5歳。雲雀の目があるとなると、難しい本を選んだら絶対に怪しまれる。けど、この世界について知るには何としてでもここで情報を手に入れないと……。


 機械音痴な私にとっては、機械で情報を得るのには限度があるもの。取り敢えず、児童書で暇を潰しておいて、雲雀の目が離れた隙に情報収集といこう。


「初音様、どういう本をお読みになりたいですか?」

「んー……児童書がいいわ」

「児童書コーナーは確か14階ですね。参りましょうか」


 エレベーターに乗り込むと、雲雀が14階へのボタンを押してくれた。本当に気が利くわねコイツ。やっぱり何年経っても苦手だわ……。それは置いておいて、14階には確か児童書の他に文庫本とかもあったわよね。流石に動き回れる範囲は14階に限られてしまうけど、案外何とかなるかもしれない。14階にある蔵書は児童書の他に文庫本と言った文学作品。


 けど、まるっきり世界の成立にかかわる作品が無いわけではない。ほら、聖書の1番初めに載っている創世記だって、子供に分かりやすいように絵本になってたり児童書になってたりするんだから、きっとそういうのがここにもあるはず。


 エレベーターを降りて、さっそく本棚に置かれている本を見て回りつつ、雲雀の後をついていく。

 

「児童書コーナーはここになります。私は端の方に控えておりますので、何かありましたらいつでもお申し付けください」

「分かったわ」


 さてとまずは適当に本を取るところからね。本棚にある本のタイトルを見ながら、どれにしようか頭の中で考える。私みたいな年頃の子が読みそうな本と言ったら童話とかそっち系よね……。だったら……。と、ここで1冊の本が目に留まった。

 

「『子供でも分かる21世紀以降の歴史』……?」

 

 それを見た瞬間、目を細める。

 これならわざわざ雲雀の目を欺いて探し回らなくても済みそうね。



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