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第7頁 近未来への転生

 そんなこんなで現在3歳。よちよち歩きから脱却し、今では1人で歩けるようになった。歩けるようになったことで、自由に家の中を散策できるようにもなり、この世界のこともだいぶ分かってきた。

 

 まず、目覚めたときに居たあの部屋は私の部屋で間違いなかった。1人部屋にしては随分広いけど、それもこの家が邸だということで説明がつく。

 

 そう、私の見立て通りこの家は所謂、名家だった。だからあんな元一般庶民にとっては豪華な天蓋付きベッドに寝かされていたわけである。


 そして、名家だということで私の両親――特にお母様が礼儀作法に関してはとてもじゃないけど厳しい人だった。食事1つ取っても、フォークとナイフの持ち方や姿勢であれこれ言われたりと、私が前々世の記憶持ちじゃなければ、泣き喚いていたところだ。

 怒らせると1番厄介だということもこの3年間で分かった。けど、裏を返せばきちんとした親だということが分かる。

 

 お母様がしっかりしている分、お父様は娘に対して甘いというか何というか……。良い人には変わりないのだけれど、私としては、もう少しピシッとしてほしいなと思う。


 そして、この世界についてだけど、どうにも私がいるのは異世界ではなく現実世界らしい。と言っても、私が元居た2020年代ではなく、その遥か遠い未来である2220年代の日本だった。かのド〇えもんの世界よりも未来の23世紀だ。


 普通だったら、異世界とか現実世界でも自分のいた時代よりも前とかに転生させるだろうに。どうして近未来の日本なんかに転生させたのか。考えてはみたけど、これはばっかりはあの駄目神にしか分からない。

 

 異世界じゃないから魔法は使えないけど、ここは近未来。ある時父様から訊いたけど、この世界には誰もが夢見たホログラムが実用化されているらしい。それに加えて、VR――仮想現実の技術も実用化されているのだとか。異世界も良いけど、こっちの世界っていうのもなかなか良さそうね。


 まだ3歳だからっていうので、外には出たことはないけど、これからが楽しみだわ。

 

 邸特有の長い廊下を1人で歩いていると、使用人たちが横を通り際に私の方を向いて軽く頭を下げた。名家の令嬢という立場上、そうされるのは当然。なのだけど、どうにも慣れない。前々世でも似たようなことは経験しているけど、やっぱり違和感を覚えるのだ。

 

 使用人たちが歩いていく様子を目で追う。この洋館の使用人たちは大半が人間ではなく機械人形だ。皆、機械人形とは思えないほど、高性能で人間に非常に近い容姿を持っており、この邸の家事全般をこなすことができる。


 どうやらこの機械人形たちは、人間の生活を支えることを得意としているらしい。どんな要望にも即座に対応できるので、まず不自由することがない。本当、近未来って凄いわね。

 

 前へ向き直ると、メイド服を着た女性がこちらを向いた。彼女は紫苑(しおん)。ふわっとした薄紫の短髪と銀眼が特徴的で、私の斜め後ろで控えている雲雀同様、私のお世話係である。


 雲雀と紫苑も例に漏れず機械人形なのだけど、この2人は特別仕様らしく、他の機械人形たちとは違い、感情を持っている。私が最初、機械人形だと気づかなかったのはそれが原因。


 感情は疎か顔の細かな表情や体温まで人間らしい。いや、もう身体の9割が人間と言っても良いぐらいね。これじゃあ人間と区別がつかないのも当然だろう。


「あら、お嬢様ではありませんか。おはようございます」

「あ、紫苑!」


 私は真っ先に紫苑へと駆け寄り、隠れるように彼女の背後へと回り込んでメイド服の裾を掴む。そして、雲雀の方をじっと睨みつけた。

 そう、私は雲雀が苦手なのだ。初めはそうでもなかったし、むしろ気が利いて好きな方だったのだけど、しばらく一緒に過ごすうちに見透かされているような、行動を操られているような気がしてならないのだ。要は気が利きすぎていて、それはもう怖いのである。

 

「初音様。紫苑はこれから奥様と会議がありますので――」

「いや! 絶対にいや!」

 

 私は断固として首を横に振って拒否する。雲雀は離れろと言いたいんでしょうけど嫌よ。だって、四六時中あのいけ好かない、顔面だけは良い奴と過ごさなきゃいけないだなんで無理! ずーっと付いて回ってくるから、監視されているようで怖いのよね。

 

 紫苑の方を上目遣いで見ると、彼女は何を思ったのか雲雀に向かってこう言った。


「んー、そうですね。それでしたら、雲雀が奥様についていって差し上げたらどう? 別に私と役目を交代してもそう支障はないでしょう」

「紫苑、それはあまりにも――」

「はい、というわけでよろしくお願いしますね!」

 

 紫苑は私の元を離れ、手に持っていたパット端末を雲雀に押し付ける形で渡した。受け取った雲雀は納得いかないという風に眉を寄せている。紫苑は私の方へ戻ってくると、転ばないようにか手を繋いでくれる。

 

「それでは行きましょうかお嬢様」

「え、えぇ……」


 あまりの強引さに引き攣った表情で返事をし、紫苑へついていく。今回ばかりは雲雀に悪いことしたかな……。にしても、あの雲雀に有無を言わさない紫苑も紫苑よね……。若干の後悔を覚えながら、私と紫苑は1階の書庫へと向かった。


 わくわくしながら書庫の扉を開け、中に入る。ぐるりと中を見て回るが、目に見えるのはホログラム用の機械ばかり。紙製の書籍など1冊もなかった。


 まさかとは思うけど、この時代の本ってほとんどが電子なの? もし、そうだとしたら私の人生終わったわ……。何の因果かは知らないけど、生憎と前々世から電子機器の扱いが絶望的に下手なのよね……。だとしたら、機械が主流のこの時代に生まれてきたこと自体が間違いだったわ。何がホログラムよ、何がVRよ。自分が使えなきゃ意味ないじゃない……!

 

「あぁ……紙の本……私の紙書籍……」

「紙の本でしたら、ここにはありませんよ」

 

 紫苑の発言で更にダメージを喰らってしまった。

 そう断言しなくても知ってるっての! 見れば分かるわよそんなこと。……あれ? そういえば、この世界に来てから紙資源を一度も見たことがない。つまりはだ、紙自体が世界から消えている可能性だってある。そうなったら終わりだ……。これからどうやって生きていけば……。


「お嬢様。ここにはありませんが、図書館にならありますよ」

「へ……? そ、それ本当!?」

「はい。ですが、精密機械が多い故、5歳以上からしか入ることはできません」

「そう……」


 けど、逆に言えば5歳になったら入れるということ。それなら後、2年辛抱強く待つしかない。こうなったら意地でもその時を待ってやる!

 

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