第43頁 空想生物の攻略法
「雲雀……!?」
「遅れて申し訳ありません、初音様」
雲雀の顔面がドアップで視界に入った。この距離と体勢から考えて、どうやら私は今お姫様抱っこされてるようだ。とてもじゃないけど、恥ずかしい……。早く降ろせ! このイケメンが!
羞恥心でいっぱいになっていると、私服姿の雲雀は私を抱えたままグラウンドの地面へ着地。数秒遅れて、薫、その後同じく4階から飛び降りた竜胆がやってきた。冬磨とカモさんは、いつの間に生成したのか、校舎からグラウンドの地面へ斜めに突き刺さった氷の柱を滑降して、こちらへ向かっていた。
「早く降ろしなさいよ」
ジト目で雲雀の方を見る。
「私としてはこのままでもよろしいのですがね……。承知しました」
薫と竜胆に見られているのにこのままとか頭おかしいんじゃないの? これだから無自覚イケメンは困る。私が地面に降り立ったところで、冬磨とカモさんが到着。安堵の表情の冬磨と苦笑したカモさんが見えるけど、無視だ。それよりも雲雀に訊かなければならないことがある。
「貴方、授業はどうしたのよ?」
「僭越ながら抜け出してきました。初音様がピンチだとネクサスに反応がありましたので」
「ピンチってね……雲雀が居なくても別にこっちは大丈夫よ。私よりも授業を優先しなさい」
「ガーディアンの役目は記録者を守ることにあります。授業など後で幾らでも取り返せますので」
これは何言っても聞かないやつね。本人が戻る気ないんだもの。トんだ従者だわ。もうこうなったら意地でもこき使ってやる。雲雀を睨みつけながら決心していたら、冬磨が咳払いをした。
「言い合っているところ悪いが、あのキメラどうする?」
「こういうときは大体、弱点とか狙ったらいけると思うんだけど……」
薫は空に滞空しているキメラを見ながらそうこぼす。
「鴛鴦、キメラの弱点なんて知ってたりとか……」
「生憎と知らねぇな。キメラなんて空想上の生き物なんだから、調べようにも調べられん」
「だよな……」
空想上の生き物の弱点を機械人形が知ってたらそれこそびっくりよ。私だっていくつかキメラの登場する神話だったり物語は読んできたけど弱点だなんてそんな大層なものはなかった。皆が頭を悩ませていると、雲雀が顎に指をやりながら口を開いた。
「弱点とまではいきませんが、キメラの体内にいるアムネシアを一斉に叩けば良いのではないでしょうか? 今までのビーストもそうやって対処してきたでしょう?」
「やっぱりそれしかないか。実質的にキメラを操ってるのはアムネシアだ。キメラの体内に潜伏してる5体のアムネシアを一気に叩けば何とかなるだろう」
「後、これをお忘れではないですか?」
「あ、そういや持ってくんの忘れてたな」
竜胆は雲雀が懐から取り出した5つの小瓶を見て、思い出したように呟いた。一方、私と薫はそれを使って何をするのか分からず、はてなを浮かべながら小瓶を凝視する。と、雲雀が私たちの反応を見て、付け加えるように喋り出した。
「アムネシアを捕獲する瓶にございます。現在、我々は治療薬の開発のために媒体となるアムネシアの採集を命じられておりまして」
「だから捕獲なんだね」
「えぇ」
けど、こんな小瓶で本当に捕獲できるのかしら。仮に捕獲できたとして、ウイルスサイズのアムネシアが逃げちゃわない? 雲雀に訊いてみたらその心配は不要のようで、小瓶の蓋にはアビルが付与されており、一度入れば最後。こちらから開けない限り、出られるようなことはないらしい。それなら安心だ。
「フィルターで見る限り、アムネシアは頭に2体と心臓部に1体、翼の右翼左翼部分にそれぞれ1体だ。俺と鴛鴦が足止めをするから他の4人で叩いてくれ」
「了解」
それぞれの担当は翼の右翼が竜胆、左翼が雲雀。心臓部が薫、頭に潜伏しているアムネシアを私が仕留めることになった。そして捕獲のタイミングはキメラを討伐し、アムネシアが外に出た瞬間。私と薫、竜胆はそれぞれ雲雀から瓶を受け取った。他のみんなは1つずつだが、私は2つ。小瓶1つにつき、1体までしか収容できないらしい。
小瓶をポケットに仕舞ったその時、滞空していたキメラが私たちに向かって猛スピードで突撃してきた。全員その場から離脱。キメラは再び空中へ上昇。雲雀は離脱後、ホログラムを解除。私服からガーディアン制服へ変わり、腰に彼の武器である長剣が出現した。私も武器をアサルトライフルから薙刀に戻し、来たる攻撃に備える。
すると、上空に居たキメラが炎を口から噴射しながらこちらへ向かってきた。私が跳躍して避ける隙に、カモさんは迫りくる炎を避け、キメラの前右足へ斬撃を加える。キメラが怯んで地上へ留まった。グラウンドの土には赤い血が広がっていく。その隙に冬磨が拳銃から氷弾を放つ。キメラが回避する間もなく、氷弾が足元に命中。氷はみるみるうちに増大し、キメラの四肢を封じた。
「足止め完了っと」
「後は頼んだぞ!」
冬磨が叫ぶと、竜胆と雲雀は地面を蹴って跳躍。ほぼ同時に左右の翼を削ぐ。削がれた翼は塵となって消滅。これで飛行不能になった。と、2人の攻撃を免れたアムネシアが外からふよふよと出てきた。逃すまいと竜胆と雲雀の両名はすかさず小瓶を取り出してアムネシアを捕獲。蓋を閉めた瞬間に封印の文字が蓋の上面に現れた。
その後、薫は胴体の側面から雷を纏わせた刀身で心臓を一突き。顔や服に大量の血がかかるが、気にせず出てきたアムネシアを捕獲。続けて私も真っ正面から薙刀でアムネシアのいる脳天を突く。寸前、キメラの口から炎が噴き出る。その高火力の炎から足元の氷がみるみる溶けていった。
このままじゃ仕留める前に動き始めてしまう。どうしたものかと、炎を避けるべく距離を取る。すると、炎の噴射が止んだ。前を見ると、雲雀が剣と鞘で狼の口を塞いでいる。これでは噴射は不可能。
「初音様、今です!」
「えぇ!」
祓力で足を強化。地面を蹴り、脳天に向かって薙刀で突く。と同時に花弁を纏わせ、脳天に潜伏していたアムネシアを蹂躙。狼の頭から大量の血が噴き出て、2体のアムネシアが外へ出た。
瞬間、キメラが大きな音を立てて倒れた。私は雲雀にも捕獲を手伝うよう命じつつ、キメラを踏み台にして跳躍。逃げるアムネシアを捕らえ蓋を閉めた。着地と同時にキメラは塵となって消滅。雲雀の方を見ると、あっちの方も上手くいったようで、私を捉えると目を細めて微笑んだ。
「第1アフィン内に敵性反応なし。ビーストが現れることはないだろう」
カモさんがウィンドウを見ながらそう言うと、冬磨が眼鏡の縁を人差し指で持ち上げた。
「みんなよくやった。疲れてるところ悪いが、早く此処から出るぞ。仙城へ報告に行かねばならんからな」
「了解」
戦闘終了を感知したのか、私の目の前にパネルが現れた。そこにはここから出るかどうか選択するように指示があった。私は迷いなく、OKボタンを押す。すると、目の前が光に覆われ、ホワイトアウト状態になった。
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