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第3頁 遠足の前日は眠れない

 優等生気質な私だけど、生まれついてのオタクなのである。けど、前世からこういう趣味があったわけではない。いや、もっと厳密に言うと高校生になるまでは。私がこうなるきっかけは、とある遠縁の友達の影響を受けてしまったからだ。誘い文句はこうだった。

 

 「普段読んでる小説のキャラが実際に動いてるところ見てみたくない?」

 

 その言葉に誘われたが最後、ズルズル沼へと引きずり込まれて、今では立派なオタク。家族は私がこういうものを好きだというのは知っているが、学校のみんなにはそういう趣味があるとは言っていないし、バレてもいない。


 だって恥ずかしいじゃない。ずーっと優等生で通してきたこの私がそういうのに片足ならず頭まで沼に突っ込んでいるとか知られたらもう終わり。今まで私の築き上げてきた人柄から何から何まで総崩れだ。

 

 というわけで、自らがオタクだということを隠しながら生きている。当然、家に帰ったらアニメやゲームに没頭――したいけど、今は受験期。受験自体はもう終わっているけど合格するまでアニメやゲーム、漫画と言ったものは封印している。


 あぁ、文庫本はセーフよセーフ。だってあれがないと私、学校で生きていけないもの。言うなれば、二次元コンテンツを封印している理由としては誘惑に駆られてしまうからというのが大きい。

 

 一度見出したら最後、平気で深夜帯まで突入して寝るのが午前3時とか4時とかになってしまう。そのおかげで、平常時は朝からエナジードリンクを飲んで学校に行っているのだ。そんな状況の中、我慢できている私って偉い!

 明日の合格発表で見事受かっていたら、二次元コンテンツを解禁するのよ。とても明日が待ち遠しい。


 

 

 夕食やお風呂といった諸々を終わらせて現在時刻は午前2時。布団にはかれこれ4時間前から入っている。そう明日の合格発表が待ち遠しすぎて緊張と焦りで眠れないのだ。


「眠れない……」


 遠足とか修学旅行の前日に眠れなくて、体調悪くなるパターンよこれ。まぁ、幸い明日は学校休むし。合格発表は朝の10時だからまだ余裕はある。5時間寝られたら良い方だ。とは言いつつ、全く寝られる気がしない。多分羊を数えても無理。


 となればやることは1つ。スマホで推し絵師のイラストを漁るしかない! ブルーライトの光で余計目が覚めるだろうって? 大丈夫よ。寝落ちという手段がまだ残ってるもの。



 

 そうして迎えた朝。結局、日が昇る頃に寝落ちに成功して、3時間の睡眠はとれた。これなら後は志望大学に行くまでの電車内で居眠りしたら、睡眠時間は4時間に増える。そう思いながら、準備を整え、家を出る。出るときに若干ふらついて両親に心配されたが、このぐらいなら大丈夫だ。

 私はそのまま最寄り駅へと向かった。


 電車内で予定通り居眠りをかまして、今は志望大学へ続く道を歩いている。1時間ほど寝たおかげか、家を出るときのようなふらつきはなくなった。

 

 後は合格発表を待つのみ。まぁでも、そこまでの心配はしていない。何故なら学校の定期試験では常に1位をキープ。全国模試では7位で余裕のA判定だ。これならいける。と、大学の門を潜って合格発表の紙が張り出される地点へ向かう。


 腕時計を見てみると今は午前9時57分。後3分もすれば紙が張り出されるだろう。ここで、大学の先生方が大きな紙を持ってやってきた。貼り付け作業を終え、時刻は59分。会場全体でカウントダウンの声が聞こえてきた。

 私は恥ずかしいので、心の中で数えておく。5・4・3・2・1――


「――今年の合格者はこちらになります!」


 その声と共に、半分に折られていた紙が開かれ、合格者の名前が表れる。皆が自分の受験番号と名前がないか探すために、あっという間に人だかりができる。私もその中に混じって、自分の受験番号と名前を探す。

 

「よっしゃ!」

 

 自分の名前を見つけることができた私は、ガッツポーズを決める。分かっていたことだけど、実際に合格したことを知ると嬉しくなるものだ。


 私は人混みの中をさっさと抜け出して、校門を出る。これから順風満帆な大学生活が待っているとなると自然と頬が緩む。

 これで司書過程は私のもの! 大学を無事に卒業すると司書資格が貰えるのだ。司書になるのが私の夢。これは勝ったも同然ね。


 そして、何より二次元コンテンツの解禁! やっとだ……。ここ半年ずーっと我慢し続けてたから本当に合格できて良かったわ。まずは何を見ようかしらね……。半年も経ってたらだいぶアニメとかゲームとか溜まってるだろうし、これは帰ったら情報収集して、優先順位をつけるところから始めないと。

 

 目の前の横断歩道で待機していたら、茂みから出てきた黒猫が横断歩道に飛び出した。多分、首輪がついてないのを見るに野良猫。いくら野良でも目の前で小さな命が失われるのは耐えられない。後、普通に猫とか小動物が好きだし。


 というわけで、信号を見てみるとまだ赤のまま。幸いなことに周囲に車の影は見られない。優等生たる私が赤信号を渡るのもどうかと思うが、そんなこと言っている場合ではない。


 歩道から道路に駆け出すと、横断歩道の真ん中あたりにいる黒猫を抱え、一気に横断歩道を渡り切るために踏み込みを入れようとする。が、ここで両側からトラックと車がとんでもないスピードで私の方に向かって突っ込んできた。

 

 何でそうなるのよ!? しかも二台同時!? 頭おかしいんじゃないの……!?

 

 普通に生きていたら絶対に遭遇しない状況でしょ。と、そんなこと思ってる場合じゃない。この状況を切り抜けないと。何かちょうどいい高さの塀とか障害物とかないのかしら。視界に入っているものを瞬時に見極めていく。


 すると、ちょうどいい高さの木の幹を発見する。これなら前世で習ったパルクールでなんとかなる……!

 決死の覚悟で地面についた左足へ力を入れて踏み込む。が、足元にあった石ころに躓いて、そのままずっこけてしまう。

 

 何でこうなるのよ!? もしかして、合格発表の時に全ての運を使っちゃったっての!? 流石にないわ……。おっと悲観的になってる場合じゃない。せめてこの子だけでも……!

 

 腕に精一杯の力を込めて歩道の方へ黒猫を投げる。

 

 扱い雑だけど、今回だけ許してちょうだい……!

 

 そう思った瞬間、全身に凡人なら感じたこともない衝撃が走る。と、視界が暗転。車のスリップ音が昼間の横断歩道に響き渡った。私が引かれた光景を見たのだろう甲高い悲鳴が聞こえてきた。


 視界は真っ暗で何も見えない。腹部が熱い。多分、出血してるわね。腕の感覚……というかもうこれ千切れてるだろってぐらいに痛い。明らか吹き飛んでるか。絶対今の自分グロイわよね……。これは死亡確定ものでしょ……。治癒能力持った人がここに現れない限り。まぁでも……最……後に黒猫……助けられたようで……良かったわ……。


 後、私の今の状況見てるんでしょ、神。あんただけは絶対に許さない……!! ついでに、ごく稀に発動する……不幸体質もね……。

 

 恨み言を最後に私の意識は途切れた。

 

 

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