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第2頁 優等生はつらい

「やっぱりこんなところ選ぶんじゃなかった……」

 

 ブレザーのポケットに入っているカイロをちょくちょく握りしめながら、お弁当を食べていく。こんなことなら室内を選ぶべきだったわね。そう後悔しながら食べ終えると、お弁当を包みでくるんで手鏡をポケットから取り出す。


 手鏡には蒼眼に色白で、白のリボンを長い茶髪の横に着けた自分が映っていた。何もついてない……わね。


 手鏡を仕舞い、お弁当の包みを持ってさっさと屋上を撤収する。普段から屋上が私の居場所みたいなものだからって、そのまま来ちゃったけど流石に冬場は来るべきじゃないわね。明日からは校舎内の良さげな場所で食べよっと。

 

 再び階段を降りて、手に持っているものを片づけるために教室の方へ歩き出す。昼休みは友達のいる人にとっては、楽しい時間なんだろうけど、ぼっちにとっては苦痛の時間でもある。


 だって、授業ごとの休みが10分なのに対して、昼休みは50分もあるのよ!? バグとしか考えられない。小学校はまだ給食の時間があったから意図的に食べるのを遅くして凌いでたけど……。まぁでも、この生活ももう1カ月もすれば終わりなのよね……。

 

 と言っても、全く人と喋れないというわけではない。普通にクラスメイトの人とは授業や行事で話せるし。私の場合、コミュ障というより、遠慮のないもの言いと生まれながらの優等生気質が人を寄せ付けないのだろうけど。

 後、挙げるとするなら目つきの悪さかしらね……。自分ではそんなことないと思っているけど、どうやら周りからはそう見えるらしい。何故なのかしら……。

 

 ちなみに、前世の時はぼっちになることもなく、何人か友達と呼べる人はいた。特に前世で同じ寮室だった龍月薫(りゅうげつかおる)って子とは親友と言っても良いぐらいの仲だった。比べるのもどうなのかと思うけどね。


 でも、あの人たちはほとんど優しかったり、私よりも個性が強かったり変わってる人が多かったから、私の遠慮のなさと目つきの悪さはそこまで目立たなかったのでしょうね。

 加えて、グループや周りに合わせて動くことが多かったからというのも友達ができた要因かしら。そういう意味では協調性は欠けてないとは思うのよね……。

 

 前世の面々の顔を思い浮かべていると教室に着いた。クラスメイト達は昼食を食べ終わったようで、和気あいあいと談笑している。正直、煩いのは苦手だから早く手に持っているものを片づけてしまおう。


「あ、桜葉さーん」


 自分の机のフックに弁当の包みと水筒を引っ掛けていると、後ろからクラスメイトの川崎さんに声を掛けられた。彼女はクラスの中でも所謂一軍に属している。嫌な予感しかしないわ。けど、無視するわけにもいかないので、振り向きざまに笑みを浮かべる。

 

「……何かしら?」

「あー、えーっと……その……。先生が卒業式のことで相談したいから昼休み空いてたら職員室に来てってさ」

「そう。わざわざありがとう」

「うん!」


 ……面倒なことになった。優等生気質の悪いところその1。卒業式の答辞を全校生徒の前で読まなければいけないということ。これは優等生ならば一度は経験するだろう。そうこの私も前世を含めて計5回は答辞を読んでいる。まぁまだ読むだけならいい。


 けど、全校生徒の視線がこちらに集中するものだから変に緊張するのだ。それで失敗すれば最後。せっかくの感動ムードが台無しになる。それだけは避けなければならない。

 

 はぁ……これから図書館に行こうと思ってたのに……。よし、こうなったらさっさと済ませてしまおう。後、聞こえてるわよ川崎さん。私の笑みが怖いって言ってるの。

 

 憂鬱な気持ちで教室から出て本日3回目の職員室への道を歩く。職員室につけば、先生が待っていた。先生の話によると、どうやら卒業式の答辞の文章を考えてほしいのだそう。こういう役目も回ってくるのが優等生。


 本当、この生まれながらの気質、来世辺りでどっかに行ってくれないかしら……。


 と、表面上では笑みを浮かべながら先生の言うことに頷いておく。おっと、どうやら先生も私の笑みに顔を引き攣らせているようだ。そんなに怖いかしらね……。そうして、職員室から出ていくとちょうどチャイムが鳴った。こうなったら図書館は放課後に回すしかないか。


 

 ◇◆◇◆

 


 5・6時間目の授業を終え、放課後。私は帰る用意を整え、制カバンを肩にかけて一目散に図書館へと向かう。扉を開けた瞬間、図書館独特の匂いが鼻を掠める。

 

 この匂い、やっぱり病みつきになるわ。ただいま私の第2の実家……!

 

 図書館内を進んで、文庫本のエリアへと足を運ぶ。私にとって図書館は聖地とも言える場所で、読書量は年間200冊は超えている。それぐらい私は本が好きで、毎日のように読みふけっている。

 目当ての本を探し、本棚から1冊抜き取る。今日はもう遅いし、明日の合格発表に備えて早く帰った方が良いだろう。手に取った本を司書の先生がいるカウンターへ持っていく。


「あら、今日も来たのね」

「はい。あ、でも明日は合格発表の日なので学校休むことになりそうです」

「それは残念ね……。またいつでもいらっしゃい。後、図書委員の仕事頑張ってくれてありがとうね」

「いえいえ。それでは」


 貸し出し手続きを終えた本を受け取ると、そのまま図書館を出る。名残惜しいけど仕方ないわよね。明日に備えて早く家に帰らないとだもの。


 

 学校の校門を出て徒歩15分。家についた私は玄関の扉を開けて、今世の両親にただいまと挨拶をする。

「おかえりなさい」

「おかえり初音(はつね)

 

 今世の両親は優しい人で全体的にほわほわしている。前世の両親もそんな感じだったが、まだ芯があった。まぁ、言うなれば親馬鹿というやつだ。とことん私に甘い。


 そのせいでどれだけ苦労したことか……。高校も自分で決められるというのに、あそこはどうだとかこっちのお嬢様学校とか良いんじゃないか? と言われて困ったものだった。結局は両親をなんとか説得して、私立の共学へ進学したのだけどね。それでも、私の決めたことに反対はしなかった。とことん良い両親だ。


 そう思えば、今世の自分は本当に恵まれている。と言っても、前世が恵まれてなかったとは思わないし、あれはあれで愉快な楽しい日々を送れていたと思う。

 

 と、手洗いなどの諸々を済ませて、自室のある2階へと向かう。扉を開けると、そこには整理された部屋に大量の漫画やアニメのDVD、ゲームのカセットがあり、推しキャラのポスターが飾ってあった。


 そう、私は自他共に認めるかなりの変人(オタク)なのだ。

 

 

 

 


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