第3話:「お姫様と決闘⁈」
主人公「天城旅立」は、ゲームの世界に転移してしまう。
そして自分がこれまでプレイしてきた”ゲームのアバター”となり、「強くてニューゲーム」な状態での異世界生活を送ることになる。
そんな主人公は「スタートエール村」に立ち寄り、友人(NPC)と思わぬ再会を果たし、その場の流れで「お姫様のパーティー」へ参加することになる。
「元の世界に戻れるのか」「転移した原因」など、まだまだ解決していない課題は山積みだ。
ただ彼は「この世界に慣れてから考えるのもよいか」と思い始めていたことに、気づいていない。
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以下、文中の「>」部分は、登場人物の「戦闘における動作」を示す部分です。
完全に勢いで承諾してしまったが、まさか“お姫様のパーティー”に加入することになるなんて。今更、不安になってきた。ただフォックスもお姫様も満足気だ。ここからのちゃぶ台返しは無理だろうなぁ…。
「タットさん。では早速、私と手合わせ願えないかしら」
「えぇ…なんで⁈」
「それは勿論、これから仲間になってくれる方の実力を拝見したいからですわ。そして何より、Sランク冒険者の実力をこの身で実感したいの!」
マズイ。このケイト・ネイベリーというお姫様は、多分、いや絶対に“戦闘狂”だ。
ケイトは期待に満ち溢れた眼差しを向けている。
だが冷静に考えれば、僕にとって損ばかりでは無いと考えた。僕が負けて“お姫様のパーティー”の話は無かったことになるかも知れないし、僕が勝てば“このパーティーでのポジション”も確立できそうだ。
別に“強キャラでマウント取りたい”とかでは無い。ただもしこのメンバーでパーティーとしてやっていくことを考えたときに、“雑用”とか“下っ端”の扱いは避けたい。ぶっちゃけ、“頼られキャラ”位にはなりたい。
「わかった。手合わせ、引き受けるよ。」
僕とケイトは、ギルド・ロッジ裏の訓練場で試合をすることになった。
「ルールは先に武器を当てた方の勝ちだ。」
審判を任されたフォックスは、気だるそうに試合のルールを発表する。
訓練場は学校の体育館の様な施設で、戦闘訓練に必要なものが揃っている。ただし、地面は実際の戦闘を想定し、砂利やら小石が散らばっている。
この訓練場では、練習用に多様な武器のレプリカが完備されている。新米の冒険者はここで様々な武器に触れ、自分と相性の良い武器を見出すのだ。
実は僕がチュートリアルで最初に選んだ武器も、トマホークとブーメランだった。僕は勿論、使い慣れた武器を選択する。ケイトの方を見ると、既に 右手にマチェット / 左手にシールド を装備しており、お互い使い慣れた装備を即決したことがわかった。
「試合開始!」
フォックスの掛け声で試合が始まった。
>僕は試合開始と同時に、ブーメランを放ってしまった。
>ブーメランはケイトの左側面をめがけ飛んで行くが、彼女のシールドで弾き飛ばされる。
これは完全に僕のミスだった。というのも、普段は切断力に優れた“ブレードブーメラン”を使用している。そのため大抵の敵との戦闘は「エンカウント→ブーメランを投げる→首を斬り飛ばして決着」という流れなのだ。僕は普段の癖により、貴重な武器を1つ失ってしまったのだ。
「おふざけに!」
僕の無策な攻撃に対し、ケイトは怒りを覚えたようだ。
「煽っている」と思われてしまったようだ。
バシュゥゥゥ!
>ケイトは一瞬集中した様子を見せると、一気に地面を蹴る。
>そして弾丸並みのスピードでこちらへ“飛んで”来た。
>彼女は、僕との間合いを一瞬で詰め、マチェットで攻撃をしかける。
>僕は反射的にトマホークで防御した。
僕は先ほどブーメランを投げてしまったのと同じくらい、反射的に防御していた。アイテム収集の際、敵と戦う機会もあった為、パリィに関しては“体が覚える”レベルまで練習していたのが役に立った。
ただし今回はパリィが成立しなかった。なぜなら彼女の攻撃が予想以上の威力だったからだ。僕のトマホークと、彼女のマチェット、両者の武器にヒビが入るほどの威力だった。この時、僕は確信した。「正面切っての戦闘では、僕はケイト・ネイベリーには勝てない」と。
ただ同時にケイトの能力を、ある程度把握できた。彼女は僕を上回るほどの、優れた身体能力を持っている。恐らく魔法による“身体強化”も併用している為、彼女の攻撃は破壊的な威力を持つ。逆に言えば“当たらなければどうということはない”のだが、弾丸並みの “移動力”で相手の回避を封じ、その欠点をカバーしている。
要するに、“攻撃は当たれば確殺”で、避けようにも“間合いは一瞬で詰められる”という訳だ。鍔迫り合いや、距離をとった牽制もできない。
「Sランクと言っても、この程度の実力ですの!」
ケイトは間髪を入れず何度も攻撃を仕掛けてくるが、僕は何とか回避することができた。
なぜなら彼女の意外な弱点に気づいたからだ。
その弱点とは“癖”だ。正確に言うと“攻撃の癖“だ。彼女は攻撃の際、“地に足をつけてから、腕の力で剣を振るう癖”がある。つまり、相手との間合いを一瞬で詰めることができる程の移動力を、攻撃に乗せるのではなく自ら相殺し、そこから改めて腕の力でマチェットを振るっているのだ。
彼女の優れた身体能力と、魔法による身体強化により、これらの動作は“ほんの一瞬の間“に行われている。そのため、これまでの戦いでは問題にならず、指摘を受けたことも無いのだろう。
体が覚えていたとはいえ、間合いを一瞬で縮めるケイトからの攻撃を、僕が防御できた理由がわからなかった。そこで彼女の動きを観察したところ、彼女の“癖”に気づけたのだ。
ケイトの癖に気づいてからは、僕はひたすら彼女の攻撃をかわし続けた。彼女は疲労を見せ始め、息を切らし、攻撃の間隔も長くなってきた。
「い、いい加減、避けるだけの戦いは、お、お辞めになっては、いかがですの…」
「奇遇です。僕としても、ケイトさんが攻撃を辞めてくれれば、避けなくて済むと思っていた
ところです」
「あら、ジョークもお得意ですの…ねっ!」
ドゴォォン!!!
>ケイトは僕の皮肉にイラっと来たようで、マチェットを思いきり振り下ろす。
今回も僕は、彼女の攻撃をかわした。ただ彼女のマチェットは地面に直撃し、爆発が起きたかのように地面が吹き飛んだ。マチェットが叩きつけられた地面には、さながら“小さなクレーター”のような穴ができた。
ただ、僕は彼女が疲れを見せ始めている、今こそが好機だと踏んだ。そして、こちらから攻め上げることにした。
僕はトマホークを、右手で強く握りしめた。
>まず僕は、ケイトの左肩を狙い、トマホークを左下へ振り下ろす。
>しかし彼女が左腕に装備したシールドで防がれる。
>次に、右脇腹を狙い、右向きへトマホークを振り切る。
>だが今度も、マチェットで受け止められてしまう。
>最後に、左脇腹を狙い、力を込めてトマホークを左向きへ振るう。
>しかしこれも、再びシールドで防がれた。
>彼女は、僕のトマホークを防いだシールドから、強烈なアッパーカットを繰り出す。
>そしてトドメとばかりに、シールドバッシュを繰り出し、僕は後ろへ吹き飛んだ。
「Sランク言っても大したこと無いのですわね」
ケイトは勝利を確信したようで、自信に溢れている。
僕は思い返した。自分と相手との間に戦力差がある場合、どうすべきか。
・隙をつく
・弱らせる
・自分優位のフィールドで戦う
僕は「自分優位のフィールドで戦う」ことにした。
僕は腰のユーティリティーベルトに備え付けたポーチから、スーパーボール大の玉を取り出した。これはスモークペレットというアイテムで、煙幕魔法7回分が圧縮されている。
>僕はスモークペレットを地面に叩きた。
大量の煙幕が一瞬で解放され、辺りは煙に包まれた。
「一体…どこにいるの…」
ケイトは完全に僕を見失ったようで、周囲を見回している。
一方、僕は、この煙幕の中でも普段通り動くことができる。仕掛けは簡単で、”魔力探知”でケイトの位置を把握しているのだ。この世界では、生物は例外なく魔力を持っているため、この技を使うことで、視覚を使わずに相手の位置を把握することができる。
足元にあった小石をあらぬ方向へ投げてみる。
「そこ!」
ケイトは「見つけた!」と言わんばかりに、音のする方向へマチェットを振るう。だがそこに僕はいない。視覚を封じられたケイトは聴覚だけが頼りだったが、それすらも、僕が制御していた。
僕は彼女の周りを円形に移動し、次々と小石をあらぬ方向へ投げ続ける。すると試合序盤でケイトに弾き飛ばされたブーメランを見つけた。
僕はブーメランを取り、訓練場の天井や地面にあたるように調整し、放り投げた。
カンッ カカンッ カカカカンッ
ブーメランは、色々な場所にぶつかり音を立てる。その音はケイトの聴覚を刺激し、どの音を信じるべきかという彼女の判断力を奪う。
コンッ!
あらゆる場所から跳ね返ってきたブーメランは、最終的に狙い通り、ケイトの後頭部に直撃した。ブーメランの威力は既に落ちており、後頭部に当たった時には、軽く叩かれた程度になっていた。
「え…?」
「僕の勝ちだ」
ケイトはショックを受けたようで、うなだれている。こんなことを自分で言うのはなんだが、僕が強敵相手に押し負けることは良くある。ただ今回のように、相手を自分が優位なフィールドへ引きずり込んで勝利した経験も数えきれない。
僕は魔法で、周囲の煙幕を解除した。
「あり得ない...戦闘力では私の方が圧倒的に優れているのに...」
「ケイトさん。あなたの分析は正しい。僕が君と正面からやり合えば確実に君の勝ちだ。」
ケイトは”わからない”という顔をしながら、僕の話に耳を傾ける。
「格上の相手を退けるために必要なのは、”相手を自分が優位なフィールドへ引きずり込むこと”だ。」
「私はこれまで戦闘の腕だけを磨いてきましたわ。ただ今回の戦いで、それ以外にも必要なことがあることを学びました。」
「それは良かった。それじゃあ今回は終わりに…」
「私に、あなたの技術を教えていただきたいの。タット…、いえ、あなたのことは”先生”と呼ばせて貰うわ!」
かくして、僕はケイト・ネイベリーというお姫様の先生になった。
(作者から読者の皆様へ)
閲覧いただき、ありがとうございました。
そして随分長くなってしまい、申し訳ございません。
ただ今後は、ここまで長い戦闘シーンは出てきませんので、ご安心ください。
ただ、こういう「ちょっと硬派な なろう小説」があっても、良いのかなと思った次第です。
ケイトって火力特化の戦闘狂なんだ とか、
この主人公ってテクニックで切り抜けるタイプなんだ とか、
そのくらいの粒度で捉えてもらえると幸いです。